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025 スニーク?、そしてステータス【「…」】

「…」

「…」


冬威は笑顔のまま固まったジュリアンを凝視していた。よくよく考えれば、ゲームなんて物もこの世界にあるかどうか怪しい。カードゲームやボードゲームはあるかもしれないが、彼が言ったようなRPGが出来る媒体は珍しいと思うし。その時点でこの目の前の青年が普通の人…いや、この世界の人とはどこかが違うと判断できたはず。

それ以前にまず彼は日本語を理解して喋り、そして自分を助けてくれた。そこで可能性として考えてもおかしくはなかったのだ。


“彼ももしかしたら、日本人かもしれない”


と。


「転生とは…どちらから?」


いや、日本だろうと思っていたけど。とりあえずなんて聞き返したものかと考えながら、無難な質問をぶつけてみる。ジュリアンは少しだけ顔をそらして天井を仰ぎ、目をつむった後で苦笑いを浮かべ視線を冬威に戻した。


「…はぁ。…うん、ごめん。隠さずに話すよ。僕のこと」


そして語られる彼の生きた道。


「…というわけで、トーイがここに来ることになったきっかけでもある『悪意の種』が発生した時にその場にいた僕は重症を負い、それがカギとなって前世の記憶を取り戻したんだ。…と思うよ」


日本にいた事、そして転生をしてこの世界に来た事。ただ、すでに何度も生き死にを繰り返しているという部分は省き、不必要と判断された説明は省略されたけど、それを知ることは冬威にはできない。


「死にかけた事で前世を思い出したって事?」

「たぶんね。確認しようにもできないけれど、そういう事だと思ってるよ」

「確かに。…じゃあ、総理大臣の名前は?」

「え?僕がいたときは●●さんだったよ」

「そうだよな。で、一つ前は○○さんだよな?」

「う、うん。その時に××協定が成立して…」

「あ、そこらへんはわかんない。確かニュースでそんな事言ってた気がするけど…ってちょっと待て。それって最近じゃね?ジュリアンもう16なんだろ?」

「ジュンでいいよ。愛称なんだ」


ジュリアンという名を呼ぶたびに微妙な顔をしているのを冬威は気づいていない。おそらく「女みたい」とか思って無駄に恥ずかしがっているのだろうけど、それを察したジュリアンがそう口をはさんだ。しかし、冬威の返事を聞く前に再び話をもとに戻す。


「…で、そうだね。この世界で16年生きてる」

「でも死んだ…じゃなくて、転生したときの記憶がそれだろ?…なんか、ずれてる?」

「時間軸がずれてるのかも。でも、悪い事じゃないと思うよ」

「なんで?」

「君たちの世界で1年経っていない間に、僕はこの世界で16年生きた。という事は、君がこの世界で16年生きたとしても、地球では1年程度の時間の経過で済む、という事になる」

「そうか!失踪していたとしても、早く帰れれば数日の家出で済むわけか!」

「うん。…そういえば、日本では学生の家出とか行方不明者が増加、とかニュースになっていなかった?」

「え?行方不明者?」

「そう。だって、召喚されてる勇者様を見た感じ…あ、像の話ね…アジア系の顔の人が多かったから皆地球から来たのかな?って」

「あぁ!でも全部が地球から来たとは限らないし…いや、…でも、家出とかで女子高生が帰ってこない、みたいなニュースは結構あったかもしれない」

「そう…」

「…あれ、ちょっとまて。なんで行方不明のままなんだ?」

「…」


冬威の疑問にジュリアンは口を閉ざして視線を落とした。

希望と不安を抱きながら問いかけた言葉。勇者を召還して、そのつど帰っているのなら、行方不明者が居るなんておかしい。この行方不明が偶然の発生でないならば考えられることは2つ。

1つは、ジュリアンの転生…いや、アコンの寄生が、この世界で生きた16年をカウントしていないという場合。

16年生きたのはジュリアンであり、アコンではないのだ。だからジュリアンが死ぬまでの16年間の間、別世界である地球で八月一日アコンとして生きていたとしても不思議ではない。

それに、この世界が勇者召喚を行い始めたのは何年も前からなのだから、何年も前から行方不明者が続出していないとおかしいのだけど。

そしてもう1つの考えが…


「戻ってないのか?」

「…」

「あの像の勇者、戻ってないってことなのか?」


そう。冬威が思いついたことが2つ目の考え。

行方不明という事は、帰っていないという事。勇者として召喚されたあの像の人々は、この地を離れていないのかもしれない。

考えがまとまらずに無言だったジュリアン。しかし冬威はフラフラと足をドアの方に向けた。


「トーイ!?」

「春香…春香が森に居るんだ。戻ってないなら、助けないと…」


歩き出そうとする冬威をジュリアンは止めた。衝動的に動いただけの用で、腕を前に出すだけで簡単に止めることはできたけれどその顔色は悪い。無理もない、安全に帰還したと思っていた友達の安否が、一気に不安へと変わったのだ。でも、だからこそ。


「今は、休むべきだよ」

「んな悠長な事してられるか!」

「君は働き過ぎている。少し落ち着いたほうが、いい考えも浮かぶはずだ」

「でも春香が!」

「彼女はきっと大丈夫だ」

「っんでそんな事、言い切れるんだよ!!」

「既に像になってるからだよ!」

「…は?」


聞き分けのない冬威に思わず声を荒げてしまったジュリアンだったが、冬威はその態度よりもその内容に対して疑問を感じた。像になっているから、とはどういうことか。その様子が顔に出たのだろう。ジュリアンは一度ドアの向こう、誰かに聞かれていないかを確認してから息を一つ吐き出した。


「ごめん、これは僕の予想であり、確かな真実とは言い切れない。それを念頭に置いて、聞いてくれる?」

「…うん」


ジュリアンの話はこうだ。

勇者を召還するのは、確かにその人の力を使うため。だが、神の力というのは…この際どうなのか置いておいて、必要なのは存在である、と思っているらしい。


「存在?」

「そうだよ。言い方を変えると、人柱だ。魔物をその身に封印してもらうためのね」

「なっ!だったら余計に、危ないじゃんか!」

「助け出すのに時間がかかれば、危ないと思う。でも…死んでないんだよ。おそらく、魔物も、勇者も」

「死んでない?」

「そう。あの時…蜘蛛の魔物を退けて、彼女の像が出来た時。あの神官様が使った魔法は、破魔の攻撃呪文ではなく、封印の呪文だった」

「封印の呪文?」

「呪文の一文を抜き出すけど、彼はこう言っていた。『この身を贄に、この身を檻に、宿る悪意に安らかなる、永遠の眠りを。封印』ってね」

「安らかなる…」

「眠っているんだとおもう。魔物と一緒に、彼女の魂も」

「どうすれば、助けられる!?」


真剣な顔で問いかける冬威。それを見てジュリアンは腕を組み、僅かに目を伏せた。


「…見たことがある?勇者の像が、壊れる瞬間」

「あ、あるけど。それがいったい…まさか、アレが死…」

「たぶんね。僕の考えでは、封印を解除する呪文は神官様たちが知っていると思う」

「だったら今すぐに…」

「待って待って。解除したら、またあの魔物が出てくるはずだ。彼女を助けたとたんに襲われたら、今の僕たちじゃ太刀打ちできない」

「…あ」


振出しに戻る、ではないけれど。がっかりした様子の冬威の肩に、ジュリアンはそっと手を置いた。励ますように、ギュッと少し力を入れて掴むと、まっすぐ視線を合わせる。


「だから…。力をつけないと。復活した魔物を、倒せるだけの力。勇者である君なら、僕らと違って出来ることも多いはずだ。像が壊れるのは、最短でも3年の月日を必要としている。だからおそらく、それくらいの猶予はあるはずなんだ」


確かな事は何一つ分からない事だけれど、直感が大丈夫だと告げている。

像は広場に安置され、そして時が来れば壊れてしまう。でもそれまでに時間があるのだから、今を焦る必要はない。


ただ1つ心配なのは、今回の勇者、冬威がどこまでお人よしなのかという事。

他の勇者も救いたいなんて考えていたとしたら…見限る用意もしておいた方が良いかもしれない。


自分の時間は有限なんだ。

その事実は告げないままで、決意を固めているらしい冬威を、ジュリアンは見つめた。

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