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018 出会い、そして別れ【命令されたわけでは】

あけましておめでとうございます!

命令されたわけではなかったと思うけれど、恐怖からか音のする方へ視線を向けることが出来ずにじわじわと限界を迎える恐怖心を押し隠しながら耐えていた。そんな時に大きな音とともに目の前に落ちてきたのは細長い筒上のもの、しかしよくよく目を凝らしてみれば細い毛がびっしりと生えていて、先端は鉤爪状になっており、上に行くにしたがって少しずつ細くなるそれは何かの足であった。


春香と冬威は草の上に膝をつき、ぼうぜんと音のした方を見上げる。

するとそれを受けて見返すようにこちらを向く6つの目。


目の前にやってきたのは巨大な蜘蛛だった。


目があった気がした。瞳が無い赤い光はこちらを直視しているのかわからなかったが、視界にクモの目をとらえた瞬間に恐怖が振りきれ、訳も分からず笑みがこぼれる。


「…っ。」


しかしその声すらゴールズジーザの命令によって口から音として出すことが出来ず、わずかに息をのむにとどまった。



**********



ジュリアンはすでに視界にはとらえられないほど遠くに行った馬車を追いかけていた。

暗い夜の森の中、しかし生前のジュリアンだったらすぐに足がすくむだろう濃い森の中の闇を進めるのは、アコンという強い精神が入ったからに他ならないだろう。

馬車と徒歩では移動速度が違うため目標物が目でとらえられない事はわかっていた。だからこそ、直線で最短距離を突っ走っているわけで、特別焦っているわけではない。自分が八月一日アコンとして持っている能力で、森などの木々が生い茂った場所であれば植物の力を使って周囲が見渡せるのも安心を生む要因となっている。ただ、魂に埋め込まれた種でないために正確な音、遠い所を映像として把握するといった詳細はわからないが、どこに生命体がいるようだ、という情報が分かるだけでもだいぶ違う。

そして追いかけている馬車は森の中を蛇行する道に沿って相変わらず前進を続けていた。

ただ、暗闇の中魔物に鉢合わせないよう必死に足を動かしている中で、必要な情報が不足していることを感じていた。


「はぁ…はぁ…彼らは勇者…なんだよな。勇者は、強い…んだよな。負けたなんて、一回も…聞いた事ないし…。けど…」


思わず呟きとしてこぼれてしまうほどには、混乱していたようだ。走っている事で息も絶え絶えになりながら、勇者像の広場にある像を思い返していた。

兵士として志願した際に1度だけ訪れたことがある場所、勇者のようになれずともせめて近づけるようにと願掛けもかねて訪れた場所だ。そこにあった像は年齢が志願した当時の自分とあまり変わらないような子供のものもあった気がする。


「…なんか…おかしい?」


今までは感じたことがなかった疑問。ほかの世界を知らなかった事で、違和感すら感じなかった常識だったが、一度死んで別人が入ったことでこの世界の常識が歪であると感じ始めた。

正解が分からないままに考えを詰めると余計に混乱することになりかねないと、とりあえず真実がどうであるのか、という問題はおいておくとして。一度足を止めて上がった息を整えつつ近くの木に手を当てて目を閉じる。そして馬車の位置を把握するべく意識を集中させた。周りを見れるといってもこうやって定期的に足を止めて植物とパスをつなげる必要があるのはちょっと面倒だ。これもまた、魂に埋め込まれた種を使えば解決するのだけれど、回数が限られているうえに種が成長するまではかなり狭い範囲でしか使えないので、部室である帰るべき場所と元の世界の仲間の存在が確認できていない状況で使おうとは思っていない。


「はぁ…はぁ…あれ?馬車止まってるの?」


何年訓練してきたんだよ自分!とすぐにガタが来るこの体にイライラしながらも走っていたはずの馬車が止まっていて思った以上に距離が近づいていたことに少しばかり驚いた。いまだ肩で息をしている状態であるが、馬車から降りたのだろう3つの熱源がさらに森の奥へと向かっていくのを感じる。

魔物が発生したアンドラの町の奥、発生源と思われる場所を目指しているのか、次第に多くなる敵襲…らしき行動…が増えながらも、その前進が止まることはない様だ。


「…なんで副隊長たちを斥候にはなったんだ…あぁ、そうか。被害の確認は残党処理って事か。それで神官様と勇者様は元を断つために危険を承知で…?…」


でも日本語を喋っていた。それは何故か…。

現状を見て、こうだったらベストであるという情報を口にしてから心の中で否定する。歪んだ常識を正しいと信じていた今までだったら感じ無かったことだろう。

とりあえず今は先行している勇者様たちに追いつこう。でも邪魔をしてはいけないから、一定の距離を保って様子を窺おう。馬から降りたおかげで


このまま観察を続ければ、自分の予想が間違っていて、何事もなく問題が解決して、そしていつも通りの平和が戻ってくるはずだ。


……

………


木の陰に隠れてやっと追いついた勇者様と神官様の様子を窺っていた。いったい何をしているんだろう。

森の中の開けた地点、おそらく『悪意の種』と呼ばれる魔物の発生地点…のはず。

その草の上に膝をついている勇者様…と思われるこの世界のものとは違う衣類を着た男女が見える。声を聴いたときに感じた通り、若そうだ。

距離は発見されることを恐れて(戦闘中に魔物に見つかると勇者様たちの迷惑になるし)かなりあけているので会話を聞くことはできない。…そもそもしゃべっては居ない様子。


問題があると勇者様と神官様がやってきて問題解決してくれる、というのはこの国の常識だった。神官のくせに勇者様に追従して魔物を倒すなんて、兵士より強いのかよ!…なんてよく笑いあったものだ。

…その笑いあった仲間も、先日全滅してしまったけれど。

あ。エンリケ副隊長はまだ生存していた。全滅ではないや。


“ズシン”

「!?」


様子を観察するの為に木に手をつけていたが、足音がする直前まで大きな熱源は感じなかった。巨体が動くときに踏みつぶすだろう植物もなかったはずだ。という事は


「これが『悪意の種』…うん。殺られたときの記憶と、一致するね」


ジュリアンが死んだ、ジュリアンを殺した魔物の姿。以外にも冷静にそれを観察することが出来ていた。


更新は去年通り週2回、物語の進行はノロノロと進んでいきますぞ。

よろしくお願いします。

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