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168 つながる、そして隠れる【ガラが言った「違和感」】

ガラが言った「違和感」とはいったいどんなものなのか。まったく想像できなかったペニキラだが、その人物に対面してみて納得した。身体的特徴に獣の部分がある酔うような獣人とは違い、見た目は完全に人だ。それなのに、その人物が纏う雰囲気というか、オーラがなんだかおかしい。挨拶前に失礼を承知で少しだけよく見てみるが、精霊様のように物理適性がないとか、異界から来た夏輝のようい魔力適正がないとか、そういった相違点は無いようだ。ガラが言いよどんだのもうなずけるが、だからと言って自分に何が分かるというわけでもない。現時点では敵対する様子は見せていないことから、まずは言葉を交わしてみようという判断に落ち着く。

こじんまりとした応接室には案内してきたガラと、護衛としてついてきたファンパブロが居るのみ。対する相手は長身の男性と、ペニキラより少し背が高いくらいの女性の2人組みだった。女性というか、小柄な体躯は女の子、といった年代かもしれない。彼女が人間であったならば。

扉を開けて入ってきたペニキラを迎えるように立ち上がった男性をチラリとみて、女の子も立ち上がる。そんな2人を手の動きだけで座らせてからペニキラ自身もその対面に腰をおろした。


「今この屋敷の主である父、アルバリエスト辺境伯は王都へ出ておる。代わりに代理として、娘である私が話を聞こう」


その言葉にがばりと立ち上がり床に膝をつくような行動をとったものだからペニキラは慌てた。一同がポカンとしている間に男女は土下座するような恰好で床に両手をつけて頭を下げる。


「領主様!何と恐れ多い。そのような高貴な方とお顔を合わせられるなんて…」

「うん?それを目的としてこの屋敷にやってきたのではなかったのか?」

「いえ、私たちと同種の気配を感じて引き寄せられたのでございます。ご立派なお屋敷だとは思いましたが何分土地勘が無く、突然の訪問申し訳なく思っております」


ひたすらにヘコヘコと頭を下げる2人に「とりあえず椅子に座れ」と何度も言って最初に対面した時と同じく顔を合わせる恰好に戻す。しかし男性はペニキラの肩書に委縮しているのかまっすぐ視線を向けることはせずに少し目を伏せたままだ。それを見習って女の子も下を向いたままじっとしている。地域によっては平服させる貴族も居るのは知っているため、それで気が済むならばとペニキラもそのことについて突っ込むことはしなかった。


「して、同種というのは誰の事か、それを聞くにあたって何をもってここに来たのか。まずは貴方たちの事を詳しく教えてもらいたのじゃが」

「失礼しました。まずは自己紹介を。俺の名前はバルシューンと言います。こっちの子はジャナーフ、年齢は12歳の子供なので、不敬を働くかもしれませんが…」

「構わぬ。子供にまで鞭打つほど冷酷ではないわ」

「ありがとうございます」


そう言って軽く頭を下げた2人をペニキラは改めて観察した。男性のほう、バルシューンは暗い茶色の髪にオレンジに近い茶色の瞳。髪を緩くまとめていて、後頭部でひと房作っているがそれをほどいたら肩甲骨を隠すくらいの長さがありそうだ。服装は完全に和服で、黒い着流しに赤い布を首に巻いている。腰に狐面を下げていてそれと一緒に帯に長い獲物(刀)を1本さしていた。それが武器だと分かっていたため入室時に取り上げてあるが、抵抗らしい抗議も無かったと聞いている。着物の袖から除く手首は男性にしては細いかもしれないが、華奢というわけでは無くもしかしたら体術に心得があるかもしれないが、そこまで警戒する必要はないだろうと思われる。

対する少女、ジャナーフと紹介された子は名を言われたときにペコリと頭を下げただけで1回も口を開かない。

肩口に付かない長さに切りそろえられた髪は白色で、目は赤い。どうやらアルビノのようだ。綺麗に髪の切り口がそろっているがおかっぱ頭に見えないのは前髪も長く無造作に流されているからだろう。服装はバルシューンと同じく和服で、彼が黒い着物なのに対し白い着物に赤い帯だ。女性らしさよりも前に、子供らしい愛らしさを感じる。そんな彼女はソワソワと視線をペニキラとバルシューンに動かして落ち着かない様子だが、じっと黙っている感じを見ると今何をしているのか理解しているのかもしれない。


「俺たちは数人のメンバーで世界を旅していました。そしてこの度ここの国にたどり着いたわけなのですが、チームのリーダーが何やら気配を察知したようで、俺たちに捜索を命じたのです」

「気配を察知…いや、それよりもこのご時世に国をまたぐ旅をしているのか?命知らずな奴らじゃのぉ」


ペニキラは考え込むタイミングに合わせてパチリと扇子を開いて口元を隠す。戦争らしい争いは起きてはいないが、人間が魔族といがみ合っているこのご時世、人間の姿でこちらの国に来るのはとても勇気が必要だったのではないだろうか。そんな思いから命知らずと口にしたが、バルシューンは首を横に振った。


「いえ。俺たちが渡るのは世界です」

「…ん?」

「数多の星を、渡ってきました」

「…何を…」

「こちらに異界からの客人が居るでしょう?」

「…」


まさか人間の勇者と同じ存在なのか?だとしたら、この世界では分からない未知なる力を持っていてもおかしくない。瞬時にピリリと空気が張り詰め、警戒のまなざしを鋭くしたペニキラを見て、ずっと黙っていたジャナーフが静かに立ち上がった。


「外から来た者。差し出して。じゃないと私たち、殺されてしまう」


鈴がなるようなかわいらしい声が紡いだのは、易しくない言葉だった。呆気に取られてしまったペニキラは、思わず質問を返してしまう。


「殺される…って、誰にじゃ…」

「ディウブ。…私たちのリーダー」


ペニキラのとっさに口から出た言葉に答えたジャナーフは、悲しそう瞼を震わせて目を伏せた。

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