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161 気づく、そして選ぶ【そうと決まれば】

そうと決まればまずは情報共有だ。夏輝が今後どういう風に動く予定なのかは分からないが、ジュリアンは冬威と出会ったことがあること、日本という国を知っている事、春香の事…はとりあえず誤魔化して、敵対する意思はないという事を伝えておいたほうが良いだろうと考えた。既に夏輝の方にはこちらを敵視するようなそぶりは見えないが、今後様々な問題が起こりそうなのに彼がどういう行動をとろうとするか全くわからない。人となりを知る、という意味でも直接2人での対話は必要だろう。

そうと決まれば即行動だ。後回しにしたら忘れてしまう。そんな軽い気持ちで立ち上がれば、ざわざわとしていた室内が一瞬にして静まり返った。

思わずピタリと動きを止めてしまい周囲を視線だけで見渡せば、突然動いたように見えたジュリアンの挙動に皆が注視しているらしい。室内に居る人、ほぼすべての視線を受け止めて、自分が「精霊様」と勘違いされていることを思い出した。


「あぁ…っと。ちょっと外の空気を吸ってくる」

「お疲れですか?お飲み物の用意が出来ますが、持ってこさせますか?」

「いりません。…ナツキ、付き合ってくれる?」

「あ、おう。良いよ」


傍に居た男性がすり寄るような動作で飲み物を進めてきたが、話をするために場所を移したかっただけなので間髪入れずに断った。そのまま夏輝の名前を呼びながら歩きだせばその背中を追うようにして夏輝もついてくる。ドアの傍まで歩いたとき、ペニキラがススッとよって来た。


「やはり、精霊様には室内より屋外の方が過ごしやすいのだろうか?」

「…いえ、そういうわけじゃないですけど…でも確かに、今の室内の空気は良くないですよね」


居心地が悪い、という表現をしたつもりだったのだが、ペニキラは真剣な顔で1度頷くとすぐさま身を翻し室内に居る全員に聞こえるように少し声を張り上げた。


「聞こえたじゃろう。精霊様に淀んだ空気は毒の様じゃ。窓を開けて換気をせよ!少しでも過ごしやすい環境を整えるのじゃ!」


その声にガタガタと一斉に動き出して窓を開けていく。吹き込んでくる風に書類が飛ばされる参事を横目に見ながら「そういう意味じゃないんだけど」と内心でため息を吐きつつジュリアンはその部屋を退室した。


夏輝がついてきているのを確認してから、しばらくは無言で歩を進めていく。夏輝も何か聞きたそうな、しゃべりたそうな顔でモゴモゴと口を動かしていたが、場所を決めるまでは黙っていようと決めたのか、結局何も言葉を発することなく静かに後に従っていた。

大きな屋敷の廊下を通り、エントランスを通って外に出る。まるで夢の国のお城の様な石積みの城に、中央部に噴水の置かれそこからシンメトリーに設計された綺麗な庭。人工的に作られた美しい自然の中央に敷かれた石畳の道を歩いていく。道が途切れたところで横にそれれば、そこから先は森のように木々が鬱蒼と生い茂る自然が自然のままで残っている場所にたどり着いた。立地でいえば山の上に立つ此処の屋敷は周りを山という自然に囲まれている代わりに普通は築かれる城壁が無い。それでも奇襲を受けたりしたことが無いのはここが平和な年月を重ねてきたことを物語っている。だからこそ、今回の人間の侵入に過敏に反応しているのだろう。


サクサクと下草を踏む音だけが響く中、自然の中に来たことでジュリアンは2人の後を一定の間を開けてついてきている2つの熱源を感知していた。2足歩行の生命体が2体。おそらく屋敷からついてきた護衛か、監視か。どちらにせよこれから話す内容は迂闊に関係ない存在に聞かせることは出来ない。

生い茂る木々が太陽の光を遮り、少しだけ薄暗く感じるほど奥に来たジュリアンはやっと足を止めて振り返った。それに合わせて夏輝も足を止めて、まっすぐにジュリアンを見つめ返す。


『まずは君に、確認したいことがある』


口を開いたジュリアンは日本語で話しかけた。そのことにやはりなんの疑問も感じていない顔で小さく頷いた夏輝が返事を返す。


『なんだろ?俺に話せることは限りなく少ないよ。最初に居た国の事もそうだけど、この世界の事がまだよくわかっていないんだから』

「…いや、十分だ」

「俺に答えられる事なら喋るけど、何が知りたいのかな?」


夏輝の返事には、今度は此方の言葉で返事を返した。そしてそれにも普通に対応する夏輝は、言語が切り替えられているという事に気付いている様子が無い。冬威もそうだった。これは間違いないだろう。


『まず、今僕が何語を喋っているか理解しているかい?』


此処から先はずっと日本語だ。ついてきている奴にはこの言葉を理解することは出来ないだろうから、たとえ聞かれても大丈夫だろうという思いもある。そんなジュリアンの言葉に夏輝は首をかしげて見せた。


『何語って…こちらの言葉の呼び方をなんと言うのか分からないから何とも言えないけど』

『こちらの言葉を、君は普通に話せていたね』

『最初は全く分からなかったんだ。でも、数日軟禁生活を送っていて、毎朝必ず付き人が言う言葉があった。それがおそらく「おはようございます」何だろうな、って考えた時に頭痛に襲われて、丸1日寝込んだことがあって。それから言葉は普通にわかるようになった』


なんと。冬威の場合はジュリアンが言葉をつなげたが、夏輝は自分で学習してたどり着いたというわけか。少し関心しながら、ジュリアンは本題に入ることにした。


冬威との出会いから、今に至るまでたどってきた道。

どのようにして出会い、どうやって言語を取得し、今何をしているのか。

彼の名前が出た時は少しかわいそうなほどうろたえた夏輝だったが、最後まで途中で遮ることなく、静かに耳を傾けていた。

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