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160 気づく、そして選ぶ【「人の国から】

「人の国から何の説明も来ていないのか!?」

「まだ知らせを出して時間が経っていません。魔法による情報伝達の無い人間の国の王族にこのことが届くまでもうしばらくかかるはずです」

「王都の方からは何か来ているか?」

「今返信を受け取っている最中です。受信が完了次第すぐにこちらに持ってくるように指示を出してあります」

「これは宣戦布告と取っていいのではないのか?勝手に国境を越えて砦を築いていたのだぞ!?」

「そうです。こちらを害する気しかないではないか」

「捕獲した人間は今尋問中です。その真意はすぐにわかるかと」


国境より内側の熱源発見を手助けした後、アルバリエスト辺境伯の屋敷はハチの巣をつついたような騒ぎになった。この行為を「攻めてきた」ととらえて人間を排除しようという過激な意見と「国際問題に発展している、上の支持を仰ぐべきだ」という慎重派だ。そしてそんな室内で、なぜか上座に位置する一番奥に座らされているジュリアンは、まわりの喧騒を意識の外に締め出して考えにふけることにする。

付き添いとしてペニキラに一緒に連れてこられた夏輝は、過激派からの鋭い視線に居心地が悪そうだが、今は直接害を与えられているわけでもないので放置しておく。



腕輪の光でドルァルエクスの学園に戻った後、チャイムの音に茫然としていたジュリアンを再起動させたのは探してくれていたらしい理事長だった。廊下でばったり鉢合わせた時、彼は走り回っていたのか息を切らせて荒い呼吸を繰り返し、その中でもジュリアンを見つけられてホッとしたような顔をしたのだ。


「はぁ…はぁ…良かった。そろそろだとは、思ってたのですが…まさか、こうも突然消えるとは…」

「そろそろって、もしかして理事長はこうなることを知っていたのですか?」


仕掛け人はこいつなのか?…いや、きっかけになったように思われる腕輪は神樹様がくれたから、こいつらグルで何か企んでいたのだろうか。思わず怪訝そうに眉を寄せてしまうと、今までの飄々とした態度はどこへやら、慌てた様子で弁解をしだした。


「知らなかった…わけでは無いです。えぇ、近いうちに腕輪に導かれて時を超えるだろうという事は分かっていました」

「とき?」


ネタをばらすかと思いきや、さらに気になるワードが飛び出してきてしまった。茫然としたような表情のままのジュリアンがオウム返しをするように言葉を繰り返すと、ワタワタと手を振ったり何かないかとあたりをキョロキョロ見渡したりと、理事長が挙動不審に陥って思わず笑いがこぼれてしまう。この場の空気を崩さないためにも、ジュリアンは口に手を当てて何とかこらえた。


「あぁ!説明をする時間が圧倒的に足りない。腕輪はまだ模様も薄く、力を取り戻していないと思っていたのに。どうしていきなり蘇ったりしたのです!?」

「…蘇る?腕輪のデザインは今のこれが本来の姿なのか?」


口に手を当てたことで視界に入ったらしい腕輪に反応した理事長は眉をハの字にして困った顔で腕輪を指さした。それに気づいて軽く掲げて見せれば、先ほど夏輝達のところで見た時より緑色が鮮やかになっているような気がする。


「えぇい!知りたいこともたくさんあるでしょうが、またいつ引っ張られるか分からないので重要な点をいくつかお話ししておきます」

「…分かった」


頭をワシャワシャとかきむしる理事長のキャラ崩れが激しい。思わず引いてしまって突っ込めず、話の流れを遮らないように頷くだけにとどめた。


「先ほど言った通り、腕輪の光が繋ぐのは、おそらくこの世界の過去です」

「過去…」

「そして先ほど「引っ張られる」とも言いましたが、この腕輪が引き寄せられるものは実は私も把握しておりません」


こけた。

思わず身体が動いてしまった。そこは把握していてほしかったが、とりあえず「どうしました?」という顔をした理事長に「ずっこける」というギャグは通用しなかったようだ。気にしないで、と手を振って話の先を促す。


「実際に見たことが無いのです。ただ、それとその腕輪はとても強いつながりがあるらしく、拒絶するのは不可能だったと聞いています」

「そうか…。ん?聞いている?誰かが実際に体験した事なのか?」

「賢者様が、教えて下さいました。サポートのために知っておきたいと言ったのですが、私は対象を把握できませんでした。ですが、賢者様は「世界を渡る船。その一室がつながる時の引力に、反応している」とおっしゃっておりましたよ」

「船!?」


言い回しは少し気になるが、世界を渡る船、と言えば思い出すのは部室の仲間だ。日本の、同じ部活の仲間が人災に巻き込まれて異世界を放流することになってしまった事件。その後、帰還のための移動手段として使っているのが一緒に異世界に運ばれてしまった部室、通称「世界を渡る船」だった。もしかして、過去の世界に船である「部室」がつながるのだろうか。だとしたら、その力に引き寄せられることも納得だ。

そこら辺についてもっと詳しく聞き出そうとしたときに、腕輪の突然の発光、そして再び夏輝たちの居る時代に来てしまったというわけだ。戻っていた時間は本の数分と言ったところだろう。戻ってすぐ理事長が見つけてくれて、廊下に突っ立ったまま移動すらせずに話していたのだ。長くても10分そこらだろう。それなのに夏輝達とは7日間のズレが生じていた。


「タイムトラベルか…。日本で過去に戻ってしまう、とかなら歴史を知ってるからどう動くとまずいか分かるけど、こっちじゃ異世界に飛んできたのと変わらないよなぁ…」


思わずこぼれた呟きは、周囲の喧騒によって誰の耳にも入らなかったようだ。信じがたい事ではあるが、同じ国名が存在したりしていれば現実味が強くなる。それなのに住んでいる人種が違ったりとか、この後どうなるのか想像も何となくできなくもない。

戦いになるにせよ、逃げに回るにせよ、この時代では夏輝をサポートしていこう。勝手に自己完結したジュリアンは、隣で居心地悪そうにモゾモゾしている夏輝をチラリと一瞥した。

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