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158 騎士、そして姫【突然の光で】

突然の光で帰還を果たしたジュリアンを見送った形になった夏輝たち一同は、目の前から彼が消えたという事実を把握するのに時間を有した。見ていたのに、見えていたのに、脳がその事を認識することを拒否したのだ。


「は…え?」


驚きで静寂があたりを見たした中、最初に声を発したのはジュリアンの腕をつかんでいたファンパブロだった。強い光を腕輪から放ち、そのまま姿を消してしまった彼の腕をつかんでいたままの形で硬直し、目を見開いている。


「な、な、何をしておるか貴様ぁ!??」


ファンパブロの声にハッとした顔をしたペニキラがズンズンと近寄ってきてスパンッと小気味いい音を響かせて彼の頭をぶっ叩いた。思わずよろけたファンパブロは、そのまま呆然としていたのが悪かったのか、足の踏ん張りがきかずにへにゃっとその場に座り込む。


「せっかくの精霊様の気分を害してしまうとは!どうするのだ、精霊界に戻ってしまわれたぞ!?」


本当はジュリアンも良く分かっていない転移なのだが、もっと分からないペニキラたちは勝手に彼が精霊だと信じ込み勝手に妄想を膨らませていた。


「まさか本当に精霊様だとは思わなくて…」

「それほど擬態の力に優れているという事でしょう。精霊様であったなら、何とか助力をお願いできたかもしれませんのに」


執事っぽい服装の男性、ガラもようやく驚きから立ち直ったようで軽い咳払いを零す。そのまま腕を組んで考え込みながら、ホウとため息を一つ吐き出した。呆れた顔で何か言いたそうな顔を向けられて、ファンパブロは思わず視線を逸らす。


「…だって、ここは人間たちの国に近いんだ。偽装している可能性だってあったんだぞ」

「だから説明すると言っていただろうが!」


憤慨するペニキラは腰に手を当てて人差し指をファンパブロに突き付けてダンダンと地面を踏み鳴らしている。そんな様子を見ていた夏輝もようやく自分を取り戻したようにパチパチと瞬きをして、顔を3人に向けた。


「あの、すいません。今の状況を説明してもらっても良いですか?よく話が分からないのですが…」

「お前は人間だよな!?」

「は、はい。俺は人間ですよ」


今度は間違えないぞ!というかのように指をさして確認するファンパブロにペニキラがきゅっと眉を寄せて釘をさした。


「だが精霊様が同行なさっていた。害することは許さんぞ!」

「まじかよ。…分かった、これ以上精霊様の気分を害するわけにはいか無いからな」

「精霊様…彼、ジュリアンが精霊様だという事は分かりましたが、どうしてそれを見抜けたのですか?俺には…であったのが人間の国というのもあるのかもしれないですけど…人間だと思い込んでいました」


ペニキラは腕を組んで「ふむ」と考え込む姿勢に入る。その間に立ち上がったファンパブロはパンパンと軽く服をはたいて土を落とした。


「術を使って思い込ませたか、それとも違和感を感じないほどに溶け込む技術が高かったのだろう。精霊という存在は人間であってもその存在を感知するのは難しくないからの」

「それは…どうしてですか?」

「その前に、おぬしナツキと申したな?」

「はい」

「こちらに招待するという事は、人間と敵対するという事になる。同族を殺すようなことにもなり兼ねんし、我らの土地では人間であるだけで不遇される可能性もある。それでも我が招待に応じるか?」


それは当然の問いかけであったと言えよう。自分たちは魔族だと称していて、人間であると宣言した夏輝を招いた場合どこかで必ず問題が起きるだろう。しかし、召喚された場所についても詳しく知らず、この世界についてもよくわからない今の状況は動くにしても動けない。危険を承知でまずは情報を集めるべきだと判断し、夏輝は深く頭を下げた。


「連れて行ってください。俺、この世界の事何も分からないんです」

「この世界…とな?」


ピクリと肩眉をあげて反応したペニキラは、驚いた顔を僅かにしかめて目をつむる。何を考えているのかは分からないが、彼女に従って害はないと何となく夏輝は感じていた。


「おぬしも何やら事情がありそうじゃ。良かろう、本当は精霊様こそ招きたかったが、おぬしがいれば再び顕現されるやもしれぬ。ついてくるがよい」

「ありがとうございます」

「ただし、屋敷についたらおぬしの事情も話してもらうぞ」

「わかりました」

「では、改めて自己紹介じゃ。私は既に知っているだろうが、名をペニキラという。そしてこれが御者であり執事のガラ」


ペニキラの説明に白髪のおじいさんが頭を下げて挨拶をする。右手を胸に当てて腰から折る丁寧なお辞儀だ。思わず夏輝も姿勢を正して頭を下げた。


「ガラ・レベリアーノと申します。以後お見知りおきを」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「うむ。仲良きことは美しきかな。ガラは高齢層という事もあり、人間に差別意識はそれほど強くはないじゃろう。まぁ、この地域の人はそれほど人間とぶつかっておらぬから、嫌悪感は感じても直接害を及ぼすような奴はいないだろうがの。…そして、赤毛の能無しはファンパブロじゃ」


次に名前を紹介された赤毛の青年ファンパブロは、ペニキラの紹介の仕方にムッとした顔をしたが、さっきの失態は自分のせいだと自覚しているのかぐっと渋い顔をしてこらえた。そのまま軽くぺこりと頭を揺らすだけの会釈をする。


「ファンパブロだ。一応姫…ペニキラの護衛で騎士でもある。何かおかしな行動をしたら許さんからな!」

「わ、わかった…」

「だからお前は!そう突っかかる出ないと言っておるじゃろうが!」


ファンパブロが余計なことを言ってペニキラが怒るという先ほどと同じパターンに入ってしまい、思わず苦笑いを浮かべた夏輝はとりあえずこの先どうにか生きていけそうだと安堵のため息を吐き出した。

そんな彼らの前にジュリアンが帰ってくるのは、数日後と意外と早かったりする。

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