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150 再び、そして出会い【するりするりと】

するりするりと隙間をぬって、駆けていく。人工の森ではないのだから当然だけれど木々の生え方はランダムだし、根が地表に出ていたりして足元も安定していない。それでも必死に前へと進む。…いや、向いている方に進んでいるだけで、このままいけばこの森を抜けられるのか、あの場所からちゃんと離れているのか、それを確認する術はないためどれほど距離を稼いだのか分からないのだが。

少しでも遠くへ、少しでも先へ。

今の自分に出来ることは、これしかないのだ。

フードを目深にかぶったその顔はまっすぐ前を見てぶれない。何が何でも前に進む、という意志が強いのかもしれない。



******



植物の探知を使ってそんな存在に追いついたジュリアンは、少し後ろをついて行きながら声をかけかねていた。必死に走るその姿は、本当に何かから逃げているように見える。このまま声をかけた場合、追手と勘違いされて攻撃をされかねない。必死に前へ進んでいるその足は、実は緩やかにカーブしていることにきっと気づいていないだろう。立ち並ぶ木を避け、根に足を取られかけて視線がぶれた瞬間、目指す位置が少しずつずれて行っているのだ。


「前に回り込むべきか?それとも…もし何か悪事を働いて逃げている人だとしたら、接触するのはマズイだろうか」


この存在のほかにあの砦のような集落の外に出ている人型の熱源はいない。これはダメ元で門をたたいた方が良かっただろうか。

やっぱりこいつはスルーして門の方に戻ろうか、と思った時。一生懸命走っていた存在が敵モンスターの存在にぶち当たった。プレタが数体わらわらと集まっている。こいつは正直言って雑魚敵だけれど、そのプレタを狙っているような位置にグリーンボアがいた。今は少しばかり距離が空いているが、このままグリーンボアがプレタに接触してプレタを追い立て走り出せばお互いの通り道が交差して、接触するだろう。

その熱源を確認したジュリアンは静かに足を止めた。


「外に単独でている存在に接触したほうが良いと思ったけれど、それが悪事に手を染めていたなら話は別だよね」


まぁ、それはジュリアンの想像で実際はどういう理由で森を走っているのか分からないのだけれど、疑わしい者にこちらから接触していく必要も無い。もう少し待てば、門から別の存在が出てくるかもしれないし。

足を止めたジュリアンはそのまま走っていく後ろ姿を見送って、踵を返した。

大まかな地理が脳内に入っているから、門の方に帰るのは簡単だろう。

進んできた道を、そのまま帰ればいいだけだ。帰りは走っているわけでは無いから、少しだけ多く時間がかかるかもしれないが。


「…と、思ったんだけどね…」


迷子になったわけでは無い。道が分からなくなったわけでもない。

普通に歩いた道を戻っていただけなのだけれど、その道の途中で先ほど別れたはずのフードの存在がぶっ倒れていた。

見放して別れてからどれだけの時間が経っているだろうか?思わず自分の背後を振り帰って、歩いてきた道のりを確認してしまった。そんなことをしたところで、木々が密集し下草も生い茂っているこの森で1度歩いたばかりの道が出来ているわけでは無いのだけれど。


「なんでこんなところに?…植物の探知を発動させていなかったから、この人の動向を把握していなかったけど、まさか帰り道に倒れているなんて」


遭遇したらしい魔物たちを引き連れている様子はない。うつ伏せに倒れて所々切り裂かれた外套を血で赤く染めている姿は、荒く呼吸を繰り返していなければ息絶えていると勘違いしても仕方がない有様だ。戦闘は無事に終えたのだろうか?生きてここに居るという事は、そういう事なのだろう。

どうやってこの位置に回り込んだのかは分からないが、あの短時間で敵を散らしたその力は称賛するに値するだろう。だってほんの数分前に目を離したばかりなのだ。

門まで帰ろうと思っていたけれど偶然にもこうやって遭遇出来たのだ、この出会いを無駄にするわけにはいくまい。

ジュリアンは警戒をしたまま倒れている人影に近づいた。


「あの…」


無言で近づいていきなり襲われたら困る。かといって、声を出しながら近づいたところで安全とは限らないけれど、気づかなかった、あるいは魔物と勘違いした、という間違いは回避できる。そのまま一度手がギリギリ届かない位置で立ち止まると、少しだけ腰を折って覗き込むように人影を観察した。その動作に気づいたのか、フードを目深にかぶった倒れている人影が顔をこちらに向ける。そして息をのむ動作をした。


「…もう、バレたのか」

「?」

「今度は何だ?何をさせるつもりだ」

「あの、何か勘違いしてます?」

「勘違いだ?散々意味不明な事を言って俺を振り回したのはそちらじゃないか!」


息切れをして倒れるように地面にはいつくばっていなければ、胸倉をつかみ詰め寄っている勢いでそう言われた。だが初対面の相手にそこまで言われる理由は無いとおもう。もしや誰かと勘違いしているのか、まずはその誤解を解かないと。はて、なんと言ったものか…と考えるのだけれど、なんだかだんだん面倒になってきた。教えてくれないなら教えてくれないで困らないのだ。早々に諦めて今度こそ次を探そう。


「…良くわからないのですが、貴方の事情はどうでもいいです。それより、ここは何処なのか教えていただけませんか?僕、道に迷ってしまって。道があるならそこでもいいですけど、一番近い人が集まる場所の名前とかでも構いません」

「は?」

「…ん?」


あれ?言葉が通じていないわけじゃないよね。なんでそんなにきょとんとした雰囲気を醸し出しているのだろうか。もう一度同じセリフを繰り返そうかと口を開きかけたとき、まるでバネのような全身の筋肉を利用して立ち上がった人影がガバッと距離を縮めて両肩に手を置いた。これには冗談抜きで驚いて、思わずびくっと肩が震える。


「え!?な、何?」

「お前、俺の事分からないのか?」

「えぇ?知りませんけど?」


初対面なのに何言ってるのか。もしかして出会った事あったか?顔を隠しているから分からないだけだろうか?そんなジュリアンの視線に気づいたらしい目の前の人は、焦ったような乱暴な手つきで自分のフードを外した。短い髪は少し日に焼けていても艶を残す黒。瞳の色は灰色で少し切れ長で凛々しい。身長は立ってはっきりわかったが、180cmはあるだろう男性だ。


「お願いだ!助けてくれ!」


そんな彼に助けを求められてしまったわけだけれど、まったく意味が分からない。どうしてこうなった?こんなことなら声をかけずに、素通りするべきだっただろうか。思わずため息を吐いて落ちかけた視線は、彼の外套の下の服装に引き付けられた。赤いタイはネクタイのように縛っていて、白いシャツの上にジャケットだろうか?茶色い厚めの記事が見える。そういえば、チェックのズボンに履物は…ローファーか?


「…」


思わず考え込んでしまった。

此方の世界での正装は、ネクタイよりもスカーフのようなフワッとした布を男性もつける。逆にネクタイというものはあまり見かけず、年配になると紐タイが主流だ。この格好はどちらかというと、現代の…いや、まさか。そんなはずはないと思いながらも、問いかけずにはいられなかった。


「君は、いったい…」

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