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148 理事長、そして入学【「本日よりこの学園で】

「本日よりこの学園で学ぶ君たちを私は歓迎している。短い者で数か月、長い者で数年間の付き合いとなるだろう。この授業で何を学び、何を得て巣だっていくかは、全て君たちの努力次第である」


新入生と思われる人々の前の少し高くなっている舞台に立ち、そこに居る全ての人に声が届くようマイクのようなものを握って立つのは理事長だ。長い緑の髪を風に緩やかになびかせながら、そう演説する様子を見ていたシェルキャッシュは、神樹様を思い出しながらも真剣に言葉を聞いていた。


「…確か今日はほかの学校も入学式だったよね」


シェルキャッシュの隣に立っていたジュリアンがそうつぶやく。少しだけ視線を下げて耳を傾けている様子から、彼女と同じく真剣に内容を記憶していると思ったのだが、彼は別の事を考えていたらしい。顔は前に立つ理事長を向いたままで視線だけ動かして彼の方を注視した。


「いきなりなんですの?今理事長様のお話の途中なのですよ?」

「あぁ、ごめん。入学式の挨拶の定番だったから…じゃなくて。少し疑問に思っただけなんだ。トーイ達も確か今日が初日だろう?それなのに理事長がこちらであいさつをしているから、他の学校ではどうなのかなって思って」

「確かここは学園都市、その中でも魔術を中心に勉強するほど、魔術が発展している国なのでしょう?ならば、ここ魔術学校ドルチェスを優遇しても良いのではなくて?」

「確かにね…。ほかは理事長代理とかが挨拶しているのかも」


まぁ、些細な疑問だ。それほど真剣に悩むわけでもなく自己完結をしてしまえば、それ以降それで悩むこともない。下げていた視線を上げて壇上に立つ理事長を再びまっすぐに見れば、理事長もこちらをまっすぐ見ている気がした。


**********


「では、私はこちらの部屋なのでここでお別れですわね」


入学式を終えた一同は張り出された名簿に従って教室分けをされていた。ランクは1から3まで存在し、ランク1が初級、2が中級、3が上級という分け方のようだ。1ランク6クラスほどあり、生徒数は20人前後。ジュリアンはランク1のクラス3で「1-3」。シェルキャッシュはランク1でクラスも1の「1-1」という表記だった。

今シェルキャッシュの外観は耳が普通の人間と同じで丸耳になっている。これは理事長が貸してくれた変化の指輪の効果で、種族を人間と偽っているのだ。エルフでありながら魔術が苦手という事で、魔術師組合でシャロンに絡まれたようなことがこの学校でも起きるかもしれないと心配していた彼女のための処置だ。耳の形が違うだけなので、容姿はそのままのため特に違和感は感じない。

身分を隠せるということで、少しウキウキしているらしいシェルキャッシュは別のクラスになってしまったという事に特に不安は感じていない様だ。それよりも君は人間が嫌いだったのではないのだろうか?嬉々として様子だけ見るともうそんな事を思っていたとは思わないぞ。


「…はぁ。僕としては何かあった時の為に対応できるように、君と同じクラスが良かったんだけれどね」

「こればかりは私のせいではありませんわ。あなたもあなたのクラスでお友達をお探しなさいな」


それはこちらのセリフだよ、なんてツッコミは入れない。空気を読んで苦笑いだけに済ませたジュリアンは、颯爽と歩き去っていくシェルキャッシュの後姿を暫くの間眺めていた。


「…大分かわるものだなぁ。彼女の場合は、純粋な憎しみを抱いているというより、きっかけが無くて浮上できなかった、って感じなのかな?」


まぁ、別にどうでもいいのだけれど。さて、自分もクラスに行ってみよう。年齢的には学校に行っている年代なのだけれど、死んで転生を繰り返して何十年という月日を過ごしてきた。正確に数えていないけれど、それこそ何百年単位で経過していたかもしれない。学生気分なんて久しぶり過ぎて、自然と頬が緩みかけるのを必死にこらえているほどだ。


「いつ終わるか分からないんだ。今を精一杯に楽しまなくちゃ…」


1歩、2歩、3歩。

目的地へ向かって歩き出したその時、パッとフラッシュをたかれたかのような明るさに一瞬目がくらみ、右腕をかざして目を保護する。暫くその場で立ち尽くしてしまったが、なんのアクションも起きないことに不審に思い、うっすらと目を開いた。


「…あれ?」


もしアレが写真のフラッシュだったとしたら、新入生を特集する学級新聞などの可能性があげられたのだけれど、眼を開いてみたその先にそれらしい人影は無かった。人どころじゃない。学校の入学式でにぎわっていた廊下に立っていたはずなのに、今ジュリアンが居る場所は深い森の奥と言われても過言ではない木がうっそうと生い茂る場所だった。


「え?…何が?ここはいったい…?」


理解が追い付かない。もしかして幻覚でも見ているのだろうか?と考えて自身の頬を叩いてみるが、確かな痛みを感じるだけだ。現実だとすると、先ほどの光が気になるところ。少しでも情報を集めようと視線を落とせば、地面に焼けた線の様なものがひかれていた。


「これは…」


長い草をカットしようと腰に手を当てて、学校へ行くために武器を置いてきたことに気付いたジュリアンは線が良く見えるように草を倒したり、踏みつぶしたりしながら見える範囲を広げていく。

すると、そこにあった線はジュリアンを中心に円を描き、その中に複雑な模様の様な文字の様なものが書かれていた。


「見覚えは無いけど…これは…」


魔方陣に見える。という事は、何らかの魔法を使われたのだろうか。引き寄せたのか、はじき出したのか、場所を移動させるための魔法だとすると、転移の陣なのかもしれない。しっかり見て脳内に記録しながら、この後どうするべきかを考えた。

諦めることはいつでもできる。後で言い訳できるように、少しはあがいて生きてみなくては。

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