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147 理事長、そして入学【ジュリアンと】

ジュリアンとシェルキャッシュは魔法学校のドルチェス。冬威はかなり迷ったけれど、今少しだけものになってきている剣術を磨くために、クラックと一緒にブラトーアースへ入学する事にした。騎士を育てる学校なのでメインは剣術ではあるが、こちらでも基礎的な魔法を学べると言われて決めたようだ。スキルを持っていないので集中して魔法を学ぶのは考えてしまうけれど、せっかくだから少し知りたいと考えていたらしい。クラックは読み書きもできるし、引きこもっていたおかげで勉学については初等部以上の力を持っていたので、今後成長するだろう彼自身の肉体を鍛えるために冬威と一緒。お知らせなどを冬威に読み上げてあげたり、読み書きを教えるという役割もある。シロとクロは「人間の都合など関係ない」と言わんばかりに話を聞いているだけだったが、理事長の勧めでハルトブリーチに行ってみることになった。

小中学校に当たる学校だが、地球の日本のように「〇歳になったら必ず入学」という規則があるわけでは無いので初等部でもそれなりの年齢の子が居たりするらしい。そのため、見た目10代半ばのシロが居ても大丈夫だろうという話になった。

それよりも、シロにこの世界の常識を学んで欲しい。シロがメインで、クロがお目付け役兼今知っている常識が今後も一般常識として通用するかの確認のために一緒に勉強することに決めた。


「…ばらけちゃっていいの?」


お願いします、と理事長に話をしたところでクラックが不安そうにそうつぶやいた。身長は自分たちより少し小さいだけの彼だが、この中では一番幼い子だ。…良く分からないシロを除いて。

2本の尻尾は彼自身の足に絡みついて、不安だと全身で訴えているようにも見える。シャロンやザウアローレの話をしたせいもあるだろう彼の不安を、適当に流してはダメだとジュリアンは安心させるように笑って見せた。


「大丈夫だよ、クラック。彼女たちがこの町にとどまるとも限らないんだ」

「でも…」

「おや?何の話です?」


目の前で始めたジュリアンたちの会話を聞いていた理事長が割り込んできた。この場所で権力を持つ彼の力も助けになるだろうと、魔術師組合で起こった事を簡単に説明すれば、彼は立ち上がって棚から分厚いファイルを取り出しその場で開いて中を確認し始める。


「とりあえず、シャロン、ザウアローレという名前は在籍者名簿には載っていませんよ」

「ほら、あまり心配しすぎるのも良くないよ。大丈夫だから、学校を楽しんでおいでよ」

「ジュリアン…でも…」

「それよかさ!」


オロオロした様子がなかなか治らないクラックの言葉を、今度は冬威が割り込んで止めた。バンとテーブルを叩いて音を立てながら、その視線はジュリアンとシェルキャッシュに向けられる。


「俺、ジュンとシェルキャッシュのほうが心配なんだけど」

「それはどういう事ですの?」

「だって、俺とクラック、シロとクロは同性どうしじゃん?」

「なんですか。男女だから間違いが起こるとでも思っているわけですの?これだから男は…」

「違うって!…まぁ、ちょっとそういう心配もしたけどさ、問題児のシェルキャッシュが何かしたときにフォローにまわるのがジュンだけだと大変だろうなって…」

「あぁ、それは…。どういうクラス分けをするのか分からないけれど、傍に居られない場合も異性だと多いだろうし、ちょっと心配かもしれない」

「何てこと!!わたくしが問題を起こすなんて、そんな事あるわけないじゃないですの!ジュリアンもトーイも、変なことを言わないでくださいな」

「「「・・・」」」


何と言い返すべきか。思わず皆、ピタリと口を噤んでしまった。



**********



「あぁ~、大丈夫かなぁ…」


あれから数日後。冬威とクラックは並んで道を歩いてブラトーアースを目指していた。色々と話し合いをした結果、みんなで同じ場所を借りると通学中に学校の敷地の外を歩く羽目になり、もしシャロン達が滞在していたら遭遇する危険も高くなる。そのため皆それぞれ学校に完備されている寮生活にすることにした。今日は入学予定日で、最短の3か月のコースを選んだ。これは全員が選択した期間だ。ずっと頼りっぱなしだったジュリアンと初めて離れた冬威も不安を少し抱いているが、在学中まったく会えないというわけでは無い。ジュリアンから自分の名前と、簡単単語の読み書きを教わったし、スキルも借りている。これでテクニックが上がればジュリアンをもう少し楽させてあげられるし、自分自身も戦闘が楽になるはず。そう意気込み、新たに気合を入れて頬を軽くたたけば少し速度が落ちて後ろをついてくる形になったクラックを振り返った。


「大丈夫だって。それよりも自分の心配をしろよ」

「自分の?」

「友達できるかな、とか。いじめられないかな、とか」

「友達は別にいいよ。トーイ達がいるし、3か月しかいないし」

「そうだけど、俺の国の言葉でさ、一期一会っていうのがあるんだよ」

「いちご?」

「一期一会…って漢字で書いても分からないか。確か『その瞬間が訪れることは2度とない。一生に一度の出会いであるということを心得て、互いに誠意を尽くすべし』てきな意味だったはず」

「…なんだか難しい言葉だね。でも今この時間も、もう2度と訪れることは無いってこと?トーイと一緒に学校に行ってるだけだよね。明日もトーイと一緒だよね?」

「そうだけど…ほら。今日は入学式だ。学校がどういうものか、俺たちは知らない。わくわくドキドキのままで登校するのは、きっと今日だけだろう?」

「…そっか…そう、なのかな」


理解できたような、できなかったような。片耳がへにゃんと寝てしまって居るクラックは、一生懸命に考え込んでいるようだ。今は分からなくても、後できっと「あの時はこういう意味だったのか」と唐突に理解できる瞬間が来るだろう。ちょっとだけだけど先輩の冬威が、今は頑張ってリードしてあげれば問題はない。たたっと数歩前に出て、クルリと身体を反転させてクラックと向かい合う。そのまま冬威はバックで進みながら、ニコリと笑った。


「だからさ、たとえ短期間でも、一緒にバカ騒ぎできる仲間を作ろうぜって話なわけよ」

「…うん!」

「時間制限もあるけど、沢山楽しもうぜ」

「そうだね!」


旅の目的を忘れたわけじゃない。期間限定の学園生活だという事も分かっている。その間でどれだけ成長できるか、短期間だからこそ頑張らなくては!とわくわくを胸に笑いあった。


しかし。

その間に1度もほかのメンバーたちに出会う事が出来なくなるなんて、この時は考えても居なかったのだ。

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