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143 学園、そしてドルァルエクス【がやがやとした】

がやがやとした喧騒の中、パタンとドアが閉じる音がやけに大きく聞こえた気がした。

それだけ目の前の出来事に集中していたのだと今になって気づく。


「エルフ…謎多き、森の民…」


シャロンは見えなくなった背中をいまだ見つめるように扉を見ていた。話には聞いていた魔力特化の種族に思わずテンションが上がって突進してしまったが、さすがに配慮が足りなかったと反省をしてる。


「かわいらしい方だったし、苦労も多そうだった。パーティーの仲間…付き人かな?…も女性ばかりだったし、もしかして男どもに…」


そして始まる勘違いの妄想。ここで、いつまでもこの場所に立っていたらさすがに邪魔だと思い至り、シャロンもギルドを出ることにした。

外に出て右、左。周囲を確認するがさすがにもうエルフの姿は見えない。


「それにしても堂々としていたわ。人間を憎んでいるとか、そういう感情は感じられなかった。でも…」


耳をすませば「超かわいい子が」とか「エルフなんて初めて見た!」とか。通行人が話しているのが聞こえる。もしかしたら尾行するのも簡単かもしれないなと、何処へ向かうのか声の聞こえていたほうに歩いてみた。


「別に、尾行してるとかじゃないのよ。ストーカーじゃないの。あまりこの場所に詳しそうじゃなかったから、心配になって見に来ただけで…いえ、そもそも別に追いかけてるわけじゃないの。こっちに用事があるから歩いているだけなのよ」


ブツブツと言い訳を口にしながらも路地を曲がった。



**********



少しばかり裏に入った路地。確かに感じた人の気配は、今はまったく感じられない。


「おかしいわ。確かにこちらに来たと思ったのに。町の人の噂をあてにしてきたけれど、「かわいい子」がエルフを指しているとは限らなかったわね。エルフと断定している話を探すべきだった」


行違ったか、それとも完全にまかれてしまったか。心配して後を追いかけたのに、姿が見えないことで余計に心配になってしまった。キョロキョロとあたりを見渡して手掛かりがないかを懸命に探しかけてハッとする。


「…何してるのよ、私。エルフに話を聞くことが出来たら、それはそれでいい経験になるけれど、それは私の本来の目的ではないでしょう?」


いやだわ。独り言が増えてる。別に一人旅じゃないのになぁ。そう思いながらもう一度周囲を確認してシャロンはその場を離れて行った。



**********



「行った?」

「スンスン…匂いは遠ざかってるよ」

「シロが確認してこようか!?」

「ダメだって!お前バッチリ顔見られてんじゃん!」


シャロンがその場を去った後、スッと路地の奥に現れたドアが少しだけ開く。開かれた隙間から鼻先だけを出して確認するのはクラックだ。そしてその後ろから外へ突撃していく勢いでシロが飛びつくが、冬威が慌てて首根っこを掴んだ。


「それにしても困った。これでこのメンバーの中でシャロンさんに見られていない人がクラックだけになってしまったよ」


普通に人間の冒険者として対面した冬威とジュリアン。その時は獣の姿だったクロとシロだが、シェルキャッシュと一緒に人型になった姿を確認されてしまった。だが、冬威たちと一緒に居た獣と同一人物だと把握はされないだろうが、見つかったら少しばかりやりにくい。シャロンはエルフであるシェルキャッシュに興味を持っていたし、シロやクロを見つけた時に接触を図る可能性もある。


「…何か問題なの?」


唯一の安全枠であるクラックはコテンと首を傾げた。シャロンが何の目的でこの場所に来たのか分からないうちは冬威たちはコソコソと行動しなくてはいけないことを伝えておくべきだろう。簡単にジュリアンはシャロンと出会ったいきさつをクラックとシェルキャッシュに向けて話した。

ザウアローレという女性騎士に襲われたという事実も包み隠さず伝えたが、その時はシャロンが一緒に居たわけでは無いために内通しているかはわからない。所属していた場所も冒険者と騎士で違うので、まったく関係が無い可能性もあるが真実は分からない、と必要だと思われる部分は詳細に語る。説明不足で危機に陥るのは自分たちだけではないのだ。こういう場合はプライバシーなんて全く気にしないのはジュリアンの良い所である。


「依頼を受けるにも周囲を注意しなくちゃいけなくなったし、さっきみたいに素材を換金する時にも、クラックに頼ることになってしまうかもしれない」

「いいよ!俺頑張るよ!?」


申し訳なさそうなジュリアンの言葉にはぴょこんと耳を立てて尻尾を振るクラック。その目はやる気に満ちているようで、キラキラしている。どうして犬型じゃなかったのだろうか。見た目は猫なのに、その性格は忠犬のようだ。


「さて、とりあえず今は冒険者ギルド…いや、魔術師組合か。あそこに行くのはやめておこう。日を改めてって事で…」

「宿はどうするのです?一応いろいろとお話だけは聞きましたが…」

「女性はアナザーワールドに入ってもらってから僕たちだけで宿をとるって方法も考えたけど、なんだかもうそこらへんにドア立てかけてても良いような気がしてきた」

「でも宿屋、泊まってみたい気もするよな」


裏道でコソコソと話をしながらジュリアンはアナザーワールドの扉を消す。しゅるんと煙になるかのように消える様はいつ見ても面白いらしく、シロが無駄にテンションを上げている。するとふと路地の入口付近に人が立ち止まる気配がした。


「…おやおや。なかなかまっすぐやって来ないと思ったら、何か面倒ごとにでも巻き込まれたかい?」


パッと声のした方を警戒したクロとジュリアンとシェルキャッシュ。戦い慣れしてきた冬威はワンテンポ遅れて身構えて、クラックはその行動を見てハッと武器に手をかける。シロは警戒はまったくしていないようにみえる、いつも通りな感じだが…一応突然現れた存在を意識はしてるのかな?

暗い路地に居ることもあり、入り口に立つ人は逆行でその姿を把握できない。しかし、少し見上げるくらいな身長があるだろうその体躯はスラリとしていて、シルエットだけでは性別を判断できない。その服装は燕尾服のような少しだけ特殊にも見えるスーツ姿。そして長い髪を1つにくくり、背面から前に流していた。


「あんた、だれ?」


皆を代表するように冬威が問いかければ、ふわりと笑ったように空気がうごく。そしてそのまま返事をせずに、1歩2歩と足を進めてきた。縮まる距離に警戒をあらわにするが、同じ暗さに入ってきた相手の姿を確認するやシェルキャッシュが驚いたように口元に手を当てた。


「え!?ま、まさかそんな…」


そこに居たのは緑に明るい青が入ったような緑色の髪、優しそうなたれ目は新芽のような鮮やかな緑色の瞳。エルフの里でもお世話になった、神樹様その人だった。

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