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142 学園、そしてドルァルエクス【「また…?」】

「また…?」


シロはシャロンを知っていても、シャロンは人型のシロを知らない。初対面で何をいきなりと訝しむが、シロがシェルキャッシュと一緒に居ることから彼女の仲間であると推測した。そして「いじめるの?」という単語。シェルキャッシュはエルフだ。存在は知られているが、隠れて住むほどその数は少なく希少、そしてとても強い力を持つことで有名。

もしかしたら既に人間から何か害されるようなことがあったのかもしれないと勘違いをして慌てて払われたまま伸ばしていた手を下ろした。


「ご、ごめんなさい。あなたの事情も聞かずに突っ走りすぎました」


シャロンの勘違いは声に出されたわけでは無いため誰もその違いに気づかず指摘が出来ない。しかし引き下がったなら好都合だ、とクロはシロとシェルキャッシュの服を引っ張った。


「出よう。なすべきことは終わった。ここにもう用は無い」


そう言いながら周囲にバレないようにちらりと視線だけで冬威たちを確認すれば、彼らはすでに出入り口付近にいどうしていた。クロ達を見ながら一度軽く頷いて先にこの場を出ていく。


「そうですわね。…わたくし少し、浮かれすぎていたようですわ」

「シロ、あの時何もできなかった。だから今度こそ守るから」

「…シロ?」


あの時とは、ファルザカルラ国で起きた旅の始まりにザウアローレに仕掛けられた妨害行為だろう。それを察したクロは首を緩く横に振る。


「何をいくか。シロのおかげで我は自由を取り戻した。気に病む必要は無いのだぞ」

「でも、シロが居たのに2人は落っこちちゃったし。シロがいなくてもクロは逃げ出せたかもしれないよ?」

「そうかもしれぬが、シロが居なければ逃げ出すのにもう少し時間がかかっただろう。結果最善となったので、それでいいではないか」

「…むぅ」

「シロ?クロ?…どうしたんですの?」

「こちらの話よ。気にすることは無い。…さて、それよりも時間を取りすぎたぞ」


ぐいぐいとシロとシェルキャッシュの服を引っ張るクロの力に従うように出口へと歩を進める。その横をタッと黒い猫型獣人が通り過ぎて、一足先に外に出た。声をかけたいがなんと言って良いのか…という顔をしているシャロンの考えがまとまる前に外に出たシェルキャッシュ達を呼ぶように、少し離れた場所に立っていた先ほどの獣人、クラックが小さく手招きをしている。周囲を見渡すと冬威とジュリアンの姿は見えない。シャロンを、そしてもしかしたら同行しているかもしれないザウアローレを警戒して身を隠したようだ。不自然にならないようにゆっくりとクラックに近づきながら、突進していこうとするシロの服をさらに強くつかんだ。


「人間は恐ろしい。私、いつの間にか忘れてしまっていたようですわ」


歩きながら口にしたシェルキャッシュは、どことなく沈んでいるようだ。しかし、人間だけが悪い存在というわけでは無い。経験が彼女を成長させるだろうと、クロは軽く鼻で笑い飛ばした。


「接していた存在が良い奴だったからであろう。確かに人間は浅ましく、恐ろしい。しかし、そういう存在だけではないと知っているはずだ」

「…そうでしたわね」


一定の間隔をあけて先を歩くクラックを追いかけるようにしてついていくと、少しばかり裏に入った道にジュリアンと冬威が立っていた。案内をしてきたクラックは一足先に2人の元に居て、ありがとうと言いながら彼の頭を撫でるジュリアンの手ににっこりと笑っている。


「ちょっと!女性を残して先に逃げるなんてどういうことですの!?」


強気に出ても大丈夫な相手とわかっているからか、いつも通りの態度でそう文句を言えば、当然「なんだよ!」と反論するはずのない冬威が顔の前で両手を合わせて想像した通りに謝りだした。


「ごめんな!あの子、実は知り合いでさ」

「え、そうでしたの?ではどうして出てきてくれなかったのです!?わたくし、魔力が上手く扱えないとあなたには正直に打ち明けていたはずですわよね?庇ってくれても良かったのではなくて?」

「知り合いは知り合いなんだけど、気安く絡むことが出来ないっていうか…」


本当の事を言うべきか迷った冬威は困った顔でジュリアンを見る。ジュリアンはその視線を受けて一度頷いた。無理に隠す必要も無い。もしシャロンもザウアローレ側の人間だとしたら、彼女の危険を知らせておかなくてはいけないのだ。


「…実は、襲われたことがあるんだよ」

「襲われた?…それって、命をって事ですの?」

「正確には殺されそうになったのはジュンなんだけど。そして襲ったのもギルドに居たシャロンちゃんじゃなくて、シャロンちゃんが居た場所で一緒に行動していた騎士の女性でさ。…でもあの時は俺らが部外者だったから、何処まで手が回っているのか分からなくて、彼女が敵なのか判断できないんだよ」

「何てこと…同じ種族であってもその命を簡単に消そうとするなんて…」


ギュッと拳を握るシェルキャッシュを見ながら、シロも視線を落とした。どことなくションボリとしているように見える。


「シロ、一緒に居たのに何もできなかった。襲われているのに、何もできなかった」


まるで泣き出しそうな声色に気づいたジュリアンが、そっと近づく。そして犬の姿…いや、オオカミか…だったときと同じように、そのフワフワとした髪をすくように頭を撫でた。


「何もできなかったなんて、そんなこと無いでしょう?」

「だって、結局おっこっちゃったじゃん!」

「攻撃を、逸らそうと努力してくれたじゃないか。シロが居なかったら、きっとあの時に死んでいた。死ななかったとしても、動けなくなるほどの重症を負っていたかもしれないよ」


涙でウルウルしている瞳を上げたシロは、目の前に立つジュリアンを見つめた。怒られるのを心配しているような顔に思わず笑みがこぼれると、ジュリアンの言葉に同意するようにクロが頷いた。


「うむ。あの時は突然の出来事で我もうまく動けなかった。シロのサポートには感謝しておるぞ」

「ほんと?…シロ、役に立ってたの?」

「うん。ありがとうシロ。そういえば、きちんとお礼を言っていなかったかな?シロが居てくれたから、僕たちは今こうして生きていられるよ」

「うぅううぅ~!」


泣かないようにと慰めていたはずなのに、ジュリアンの言葉にダバーと涙を流し始めたシロは目の前のジュリアンにがばりと抱き着いた。抱きつきの衝撃で少しよろけたジュリアンは驚いた顔を一瞬したが、すぐに「仕方ないな」という苦笑いに変わる。


「優しい人も、そうでない人も居る…」

「クラック?」

「…俺は、優しい人しか見てないから」

「え、優しい人しかって。お前を奴隷にしてたやつらはカウントされないの?」

「あ。そうか。すっかり忘れてた」

「え!?奴隷にされたこと忘れちゃってたの?」

「あまり長い期間じゃなかったし、トーイ達に出会ってからの方が印象的だったから」

「まぁ、変に心に傷をおってないならいいんじゃないかと思うけどさ…」

「でも、だから突然薬草の売却を俺に頼んだんだね。いきなり「代わりに売ってきて。時間短縮を第一に、言われた通りの値段で良いから」って言われたときはとうとう冒険者デビューかと思ったのに」

「冒険者デビューって、ギルドカード作った時点でデビューは終わってるだろ?」

「でも、それ以降は戦うことしかしていないでしょ?素材をはぎ取るくらいはしてるけど、それを持ち込んで売ってくれるのはいつもジュリアンだった。だから、仕組みを覚えるっていうか、やり方を教えてくれているのかと思ったんだ」

「あぁ、そうか。なんだか悪かったな…」

「いや、別に良いんだ。そういう事情があったなら仕方ないとも思うし」


裏路地で状況を説明し終わった一同は「さてこの後はどうしよう?」と軽く円陣を組んで話し合いを続ける。


「一応素材を売れたからある程度お金は手に入れることが出来た。でも、シャロンちゃんにシェルキャッシュが冒険者ギルドに出入りしているところを見られたから、で待ちされる可能性もあるかも」

「あきらめないという事ですの?」

「それは分からないけれど…仕方ない。宿屋より先に学校の方へ行って荷物を渡して身軽になろう。学校で魔法の事について学ぶべきだと言われたけれど、明確な敵が潜んでいるかもしれない場所に長期滞在するのは危険でしかない」

「それが一番、なのかな…」


宿屋を取ってからゆっくりしたかったが、シャロンを見つけたことでザウアローレが居るかもしれないという危険も浮上した。冬威たちが居なくなったことで旅は無くなるかと思ったが、シャロンが此処にいるという事は調査だけでもしておこうと予定通り出発している可能性もある。シロとクロを狙って失敗したザウアローレがその旅に同行していないとは言い難く、長く滞在すれば接触する可能性もあるのだ。

ただ、本当に旅目的ならシャロン達が長くこの場所に滞在するとは思わないので少し辛抱すればいいだけかもしれないのだが。


「さて、とりあえず手紙を届けに行こうか…」


魔法学校のドルチェスに行って、目的の人物が居なかったら別の学校の門を叩こう。対象人物の名前くらいは把握しているべきだったと、ジュリアンは少しだけ後悔のため息を吐いた。

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