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141 学園、そしてドルァルエクス【短いやり取りの】

短いやり取りの間で奥の部屋から出入り口に…つまり冬威たちに近づてきたシャロンに顔をそらして緊張を高める。しかしそんな2人に気づく前にシャロンはふと足を止めた。


「え」


小さくこぼれたのは驚きの声。その瞳はみひらかれて、いつも気だるげな雰囲気を知る人から見れば吃驚するほどの表情の変化だったかもしれない。足を止めた様子に気づいたジュリアンは最悪の事態を想定しながらもソロリソロリと顔を上げる。そしてシャロンが居る方へ再び視線を向けるが、ジュリアンの視線がシャロンのそれとぶつかることは無かった。


「もしかして…エルフ?」


そのつぶやきは小さすぎて、だれの耳にも届かなかっただろう。彼女が見ていたのは自分がレアな存在だという事を知っていながら隠そうとしないシェルキャッシュだったが、そのシェルキャッシュはターゲットにした冒険者から宿屋の情報を聞き出しているためシャロンの視線には気づいていない。その代わりに傍に居たクロがいち早く察知して警戒の色を濃くし、視線だけで冬威とジュリアンを探した。

足を止めたシャロンは、そのまま体をシェルキャッシュはの方へと向けて再び移動を開始する。発見されたわけでは無いと気づいた冬威も顔を上げて、クロに『気づかれるな』という意味を込めて軽く首を横に振り、事の成り行きを見守った。


「…もう一度おっしゃって?裏道の…なんてお店でしたかしら?」

「あのですね、ここから3ブロック程北に行って、そこの通りを右に曲がって…」

「あ、あの」


小さな声でシェルキャッシュを呼ぶシャロン。しかし会話をしているシェルキャッシュは気づかない。その後も何度か頑張って声をかけるが、その声はことごとくシェルキャッシュたちの会話にまぎれて聞こえなくなってしまった。しかし、シェルキャッシュが聞いていた宿の事を把握したらしいシャロンは、先ほどよりも頑張って声を上げている。シェルキャッシュ程堂々としているわけでは無かったけれど、自分の意見をまっすぐに言えるようなタイプだったはずだと感じたジュリアンと冬威は一瞬だけ顔を見合わせて首を傾げた。彼女はここまでコミュ障だったか?


「成程、分かりましたわ。宿の名前は---ですのね?」

「ちょっと待ってください!」

「…あら?…あなたは?」


やっとシェルキャッシュがシャロンに気づいた。声にそちらへ視線を向けて、身体を動かして向かい合う。かたや見た目清楚系お姉さん中身ツンデレこじらせてツンツンすぎるエルフ、かたはロリっ子に見えなくもないが魔法の腕は自信ありの少女。ただでさえ冒険者という危険な仕事のために不足する女性メンバーは、謀らずもその視線を集めてしまって居た。


「突然すいません。私、ファルザカルラ国から来ました、人間の冒険者シャロンです」


向き直ってお互いに顔を見て、一瞬パニックになったように手をパタパタとさせたシャロンは数度深呼吸をする動作をしてから自己紹介をした。紹介文で『人間の』という部分を少しだけ強調したようだ。それを受けてシェルキャッシュも軽く会釈を返す。


「これはご丁寧に。私はエルフ、シェルキャッシュよ。で、何か御用かしら?」


おぉ、ちゃんと挨拶を返しているぞ。あの、人間嫌いだったシェルキャッシュが!もしかして冬威たちと接するうちに慣れただろうか。それともシャロンの見た目が幼いからだろうか。


「えっと、質問もあったのですがその前に。そこの冒険者の人がおすすめした宿は駄目です。確かに宿ですけど、行っちゃダメです」

「え?どういう事かしら」

「別に犯罪が絡むというわけではありません。ただ…その…女性に対して、あまり易しくないというか…」

「はっきりしませんわね。男性なら泊まれるという事ですの?」

「いえ、だから…花街に近いんです!」

「花街…」

「確かにちゃんとした宿やですけど、立地環境からその…壁も薄くて音が…」


しどろもどろになるセリフに大体の事を察したシェルキャッシュは視線を冒険者に向ける。それは先ほどにこやかに聞いていた穏やかな微笑ではなく、突き刺すような鋭い視線だった。


「ひぃ!いや、だって!おすすめの宿は何処ですか?って聞いたじゃねぇか!自分で止まるんだったらそういう条件出せよな!」


美女に睨まれた冒険者はそう捨て台詞を吐いて逃げ出した。腕っぷしでは強そうだったが、美人の冷たい視線には耐えられなかったらしい。その態度をみていたシャロンも『やっぱ男はオオカミよ』とつぶやいた。


「とりあえず感謝しますわ。変な場所に連れ込まれるところでした」

「いえ、いいんです。それより宿をさがしてるのですか?」

「えぇ。こちらには到着したばかりで、土地勘が無いのです。ある程度治安のいい場所で宿が取れれば、と考えているのですが」


今まで「お勧め教えて」としか聞いてこなかったシェルキャッシュは早速条件を付けたした。


「では『パープルベア』なんてどうですか?値段もお手ごろだし、優しい感じのご夫婦が経営している宿屋です」

「それはここから近いのかしら?」

「少し中心部からは離れますが、学校が近いです。1階が大きい定食屋になっていて、よく学生が利用しています」


学生が多い場所なら治安も悪く無いだろう。子供は宝だ。兵士の見回りや防犯対策も期待できる。条件としてはかなりいいが、そこまで好条件だと部屋が空いていないのではないかと不安にもなる。離れた場所で会話を聞いていたジュリアンに、クロが久しぶりに念話を飛ばしてきた。


『どうするのだ。この女はあの時一緒に居た奴だろう?』


どうするって言われても!念話は受信できるけど送信できないんだよ!

何とか「穏便に済ませて離れたい」と念じるけど、100%通じていない。チラチラとクロの瞳がこちらを見るが、その表情は相変わらず険しいままだ。そんなことをしているうちにシェルキャッシュがシャロンが提案した宿に興味を持ってしまった。


「冒険者の居酒屋と違って暴動はおきなそうですわね。気になりますわ、何処にあるのかしら」

「でしたらご案内します。私もそこに宿泊してるので」

「あら、それはとても助かりますわね」


やばい!一緒に行動無理!もうここでこのチームからシェルキャッシュを外すべきか…と頭を抱える。


「それで、その、お願いがあるんですけど」

「あら?交換条件ですの?…いいわ、私に出来る事なら考えて差し上げましてよ」


なに友情はぐくんじゃってるの!?人間を見下さない対応はかなり成長したと褒められるけど。シャロンと友好関係築くならおいてくしかないよ!?

もう混乱をきわめて何を考えているのかすらわからなくなりかけた時。


「あの、エルフの魔法を見せてほしいんです」

「…」


空気が凍った。


「エルフは魔法特化の種族と伺いました。それは強く、強力な力を秘めていると。だからそれを見せてほしいのです」

「…」


シェルキャッシュから表情が抜ける。


「あ、1度見せていただければ、後は自分で考えます。再現できるかはわかりませんが、魔力量には自信があるので」

「…」


エルフでありながら、魔法が発動できないシェルキャッシュにこの話題はタブーだったようだ。穏やかな笑みはすとんと抜け落ちて、やっと表情の変化に気づいたらしいシャロンはコテンと首を傾げる。


「どうしました?」

「案内は結構ですわ。では」


そう言って身を翻そうとするシェルキャッシュ。しかしシャロンは慌ててその腕をつかんだ。


「待ってください。1度で良いんです。それで十分ですから!」


魔法に自信があるシャロンは、1度見れば再現可能か、完全に再現できなくても研究して高みに近づけると本気で思っているのだろう。その思いを感じ取れてしまったからこそ、シェルキャッシュは自分が見下された気分を感じ、イラッとした様子で眉を寄せた。


“パンッ!”


乾いた音が突然響く。軽く手を打ち鳴らした程度の、大きくない音だったが、シャロンは驚きで動きを止めた。

シャロンとシェルキャッシュの間に割り込むようにシロが身体を入れて、腕をつかんでいたシャロンの手をはたいて落としたのだ。いつもフワフワしているシロが、険しい顔をしてシャロンを睨む。その視線を気圧されたか、シャロンは1歩だけ下がった。


「また、いじめるの?」

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