141 学園、そしてドルァルエクス【此処で驚いたこと】
此処で驚いたことというか、困ったことが発生した。
自分たちは冒険者ギルドに登録した「冒険者」だ。しかし、この町では「冒険者ギルド」というものが存在しないらしい。
それを聞いて驚いた一同は、思わずその情報をくれた人に詰め寄ってしまった。
冒険者ギルドは何処にでもある全国区の組織だと思っていただけにショックも計り知れない威力がある。
ただ、完全に「存在しない」というには語弊があった。
この場所では「魔術師組合」という名前で活動をしていたのだ。活動内容としては冒険者ギルドとまったく同じなのだが、この国のこの場所は魔法が盛んという事もあり一般に出回っているギルドカードのほかに魔術師組合証明書なるものがあるらしい。これがあるとこの地域ではかなり強いようだ。
…と言われたが、特別必要性も感じなかったジュリアンは「へぇ」と流した。冬威がその様子を見て「男の子なのに夢がない!」とか騒いでいたがどうでも良い事である。
大まかな場所を聞いてそちらに向かってみると、成程と皆が納得した。
今までは冒険者で沸くイメージとして剣と盾をイメージした外装だったり看板だったりが主だったのだが、ここではスクロールと杖といういかにも『魔法使いです』というデザインだ。これはこれで格好いいので特に気にはならないが、そこに入っていく素敵マッチョのおっさんとかが少しばかり気まずそうに見える。
「さすが、魔法をメインに勉強できる場所、学園都市といったところかな」
「外装だけでこうも「魔法使いだぜ」って主張してるなんてね。まぁ、これはこれで良いと思うけど」
「でも冒険者って何となく荒々しいイメージがあるから、別物でもよかった気もするな。良くラノベだと冒険者ギルドと魔法使いのギルドって別じゃん?」
一応声量は抑えるが堂々と発言する冬威に注意をしようとして、逆にコソコソしていないほうが怪しまれないかと思い直したジュリアンは軽く肩をすくめる。たとえギルドを2つに分けたとしても、活動内容が同じ、もしくは似通っているなら二分する必要はないのだ。
「剣を使うか、魔法を使うか。違いがそれだけで組織を分けていたら大きな対立を生むかもしれないじゃないか」
「まぁ、確かに」
「それに、この町には魔法を使う騎士を育てる機関もあるんだよ?剣を使うから、魔法を使うから、と言う理由だけでは分けられないんじゃないかな」
「なるほどね」
一応納得しながらもその扉を開く。外装と同じく何処か落ち着きのある内装だが、クエストの受注カウンターがあったり張り出すボードがあったりと、大まかなデザイン自体は冒険者ギルドで見てきた物と変わらない。とりあえず使い方が分からずに混乱するという事態にはならなそうだ。
「では、まずは宿屋の情報でしたわね。私が聞いてきて差し上げますわ」
小さく胸を張ってからそう宣言したシェルキャッシュを呆然と見送るが、その後ろ姿を見ながらシロがケラケラと笑った。
「なんかね、気分良いんだって!」
「は?」
「ねっとりとした視線を送ってくる奴もいるけど、大体が私の美貌にやられているわね、って言ってたよ」
「…それは自意識過剰なの?それとも本当にそうなのだろうか?」
「我もその場を見ていた。大方、エルフの存在が珍しく目を奪われていたのだろう」
「なるほど。…そういえば、やっぱりエルフは居ないのかな?獣人は多いみたいだけど…」
注目を集めるシェルキャッシュはターゲットを決めたようだ。冬威たちから少しばかり離れたところに立っている冒険者に近づいていく。そのあとを追いかけようと足を踏み出したジュリアンは、ふと『キン』と金属が軽く打ち合うような音を聞いた気がして顔を上げた。普段なら聞き流していてもおかしくない雑音だったにも関わらずなぜか異様に気になって、意識して周囲の音を拾えば彼の超聴力が明確な音をとらえ、慌てて歩き出していた冬威の腕をつかんで止めた。
「え?何どうし…うわっと!?」
理由を話す前にジュリアンは冬威の腕をつかんで壁際に避ける。幸いにもこの時間帯ギルド(魔術師組合)内には人が多く、しかも高身長の人がほとんどで自然とできた人垣に2人の姿は紛れてしまうだろう。とりあえず抵抗をせずに引っ張られるまま壁際に移動した冬威は、いったい何?という顔をして彼を見つめ、いざ問いただそうと口を開いた時何処かでドアの開く音が聞こえ、口を開いた冬威を止めるようにジュリアンが彼の口を手で塞いだ。
「では、これで証明書発行になりますね」
「はい。完成まで時間をいただきます。また明日、お越しください」
「わかりました。…あ、これがあると入学や就職に有利だと聞いたのですが本当ですか?」
「記載されているランクにもよりますが、本当です。証明書発行は戦闘能力があり、魔法を発動できれば下位のものを出すのは簡単ですからね」
「では、私の証明書もランクを上げて行かないといけないのですね」
「そうなりますが、すでに冒険者ギルドとして他国で活動されていた様子。それを考慮して一気にランクが上がる場合もあります」
「あ、そうでした」
片方はこの組合の職員だろう。チラリと視線を送れば制服のようなものを身に着けているので分かりやすい。問題はもう一つのほうだ。服装は黒いローブ。これ自体はこの国のこの場所としては珍しくもない魔法使いルックだが、小柄で赤紫の瞳に、茶色いボブの髪の毛の少女。
まさかという思いでジュリアンと冬威は顔を見合わせた。きっとそっくりさんだ。見間違いだ。心の中でそう思い込もうとつぶやくが、職員が発した言葉に一気に緊張を高めた。
「説明も致しましたが、貴方は魔術師組合のランクも3からですよ、シャロンさん」