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138 レベルアップ、そしてcheatの片鱗【光源がないのに】

光源がないのに明るい夜空、窓を開ければ吹き込んでくる穏やかな風。

隣の部屋でワイワイ騒いでいる男どもの声を聴きながら、シェルキャッシュはため息を一つ零した。


「何でこんなことに、なってしまったのかしら…」


何度も自分に問いかけるが、答えらしい解答を見つけることは出来ない。いや、原因ははっきりしているし、自分が悪いという点も分かっている。ジュリアンや冬威たちとの会話の中で一応はかたがついた話だった。それなのに同じ質問を繰り返し自分にしてしまうのは、心の奥底では現状に納得できていないからなのだろう。

これからうまくやっていけるか不安になって、でもそれを口に出来る相手も居なくて。グチグチと同じことを掘り返しているだけだと分かっている。揺れる心を誤魔化す様に頭を振ってから室内に視線を移せば、うつ伏せですでに爆睡中のシロ、その隣にこちらをジッと見ているクロが居た。見られていると気づかなかったシェルキャッシュは、思わず驚いて肩が跳ねる。


「な、なんですの?用があるなら声をかけてくれても良かったのではなくて?」

「別に用事などない」

「そう…なんですの?なら、別に構いませんけども」


クロは此方の部屋に入ってシロが寝入った後はずっとシェルキャッシュを見ていた。竜である彼女に『遠慮』なんてものは無い。そのため隠すことなく彼女を凝視していたわけだが、ぐだぐだといつも同じことで悩んでいる彼女にいい加減うっとうしさを感じていた。

森を追い出されて旅に強制的に出されたことは理解しているし、このチームから出ていけとまで言うつもりはない。戦闘でも役に立っているし、いないよりは居たほうが良いかな?と思えるくらいには感じている。

だからこそ、こういう時に後ろ向きになる彼女にイライラを感じていたのだ。


「面倒な生き物よな、人、という生物は…」


心底自分は竜で良かった。そんな思いからぽつりと呟けば、顔を伏せていたシェルキャッシュが再びクロの方を向いたので視線が合った。パチパチと瞬きを繰り返したあと、少しだけ距離を縮めてクロの前に移動してくる。その様子をクロは声を上げることなく見守った。


「ねぇ、クロ。少しお話をしませんこと?」

「構わんが」

「…もう。女の子ですのにそんな言葉遣いじゃいけませんわよ」

「なぜ?」

「なぜって、もっとおしとやかでないと男の方には…」


向かい合ったクロの目がスッと細められるのを見たシェルキャッシュは、とっさに口を閉ざす。

いつものノリでやってしまった、と後悔を感じる前にクロが口を開いた。


「我は人ではない。人の物差しで測るのはやめてもらおう」

「…そう、でしたわね。つい、私よりも小さい子に感じてしまって」

「なんなら抑えている竜種の気配を開放してもよいのだぞ?」

「やめてくださいまし」


竜種の波動、それはすなわち強者のオーラ。感じた瞬間に死を意識するとまで言われる威圧感、姿を見るまでもなく恐怖によって体の自由が奪われるらしい。話にしか聞いたことは無いが、たとえおおげさに表現されていたとしても体験したくはない。


「こほん。…話を戻しますわ。わたくし、貴方に聞きたいことがありましたの」

「なんだ」

「どうしてこの旅についてきているのです?」

「何をいまさら…」


と言いかけて、クロはふと考える。自分が竜種であるという事は一応クラックにも伝えている。戦闘時にブレスを吐いてしまったのがきっかけだったが、危機迫る重要な場面でカミングアウトするよりは良いだろう。だが、それとは別にシロがフェンリルであるとこのメンツに話しただろうか?自分は伝えていないが、他の誰かが教えていただろうか?

確か誰もシロについては言及しなかった。普通にちょっと頭がおかしいだけの女の子だと思っていると思う。シェルキャッシュは、エルフの里で話を聞いていればその限りではないが、人の姿を取った時一緒に居たのはトズラカルネ達で、彼女は居なかった。

どうしようかな?と考えている沈黙を、先を促されていると勘違いしたのか、シェルキャッシュは、なおも言葉を続ける。


「竜種と言えば最強の一角として有名な種族ですわ。それがこんな人間ばかりのチームにメンバーとして入るなんて、少し驚いてしまいまして」


対となる風の子、フェンリルの存在を知っていればこんな質問はしてこないだろう。クロ自身は襲われても自分で撃退するだけの力がある為正体をばらしてしまっても問題は無かったが、シロはちょっと不安だ。知らないならもうしばらくこのままで良いだろう。そう判断してクロはスッと立ち上がる。


「それは我の気まぐれ、ただの気分。もし理由があったとしても貴様には関係のない事だ」


眉を寄せた不安そうなシェルキャッシュをそのままに、そう言い放ってその部屋を出た。

リビングに当たる場所では男性陣が話をしている。ワイワイ騒いでいたのは気づいていたが、今はどうやらジュリアンが冬威に弓の持ち方を指導しているようだった。


「俺も、俺も教えてほしい!」

「ちょっと待って、順番に…」

「職人スキルで弓ならすぐ作れるんじゃね?」

「あぁ、そうだったね。ちょっと待て…はい、じゃあラックもコレを持って」

「分かった!」


何となく楽しそうである。クロがすすすっと近づいていくと最初に気づいたクラックがピンと尻尾を立てて振り返った。その動作でほかの二人もクロが出てきたことに気づいて顔を向ける。


「クロどうしたの?眠れない?…あ、うるさかったかな?」

「いや、そうではない。それよりも何をしておるのだ?」


クロの質問に冬威が持っていた弓を掲げる。室内という事もあり、矢は用意されていないことから、本当に基礎の構えから指導しているのだろう。


「弓だよ!ジュンのスキルに「弓」ってのは出なかったけど躁武術があるから発動しなかったんだって気づいてさ、スキルは出なくても俺もやってみたいってなったんだよ」

「やっぱりスキル発動してたんだね。ずっと敵にヘッドショット連発してたから、妖しいと思ったんだよね」


ジュリアンの活躍を思い出しながら、クラックが矢のない弓をはじくと、ビィンと独特な音が響いた。冬威もジュリアンも、物理適性無いけど関係なかったのかな?なんて考えていると、クロがコテンと首を傾げる。


「いや、スキルは発動されていなかったと思うぞ」

「え?」

「でも、命中率やばかったぞ?ジュンのやつ」

「だが、スキルが発動していたら、もっと見てわかる威力が矢に乗っていたはずだ。それこそ竜の鱗を打ち抜くほどのな」

「…という事は」

「うぉおおぉおぉお!」

「うわぁああぁああぁぁ」


やはり、物理のスキルは発動していなかった。スキルを所有しているのに発動できないという謎。しかしそれよりも、はやり高い確率で矢を敵の弱点に命中させていたジュリアンの腕に、クラックと冬威は戦慄して意味もなく叫んだ。


「それよりも、我にもそれを教えてくれ」

「え?弓?」

「うむ。楽しそうであるし、やってみたい」


ハイテンションで騒ぐ2人を放置して、クロはジュリアンにキラキラした瞳を向けた。この姿だけを見るなら、小さな女の子が弓に憧れている姿なのだけれど、とジュリアンは苦笑いを浮かべつつ一度頷いて了承の意を示した。

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