135 レベルアップ、そしてcheatの片鱗【アナザーワールドのレベルアップ】
アナザーワールドのレベルアップの切っ掛けはいったい何だったのだろう?
普通のスキルは使用すれば経験値が上がり、一定の数値を取得した時にレベルが上がる。だから多分アナザーワールドも使用した分だけ経験値をためた、という事なのだろうか。確かに宿として、ずっと中に入っていたわけだが、スキルというよりは特別な力、いわゆるユニークスキルというイメージが強く、何となく、本当に何となく、レベルアップはしないと思っていた。
それに気づいて再度詳しく自分のスキルについて調べてみることにする。
ジュリアン自身は鑑定スキルを持っていないので、1つ1つ使用してみるという確認方法だ。冬威に診てもらっても良いのだが、彼は彼で自分の戦闘スタイルを物にしている途中だし、そちらに集中してほしい。
まずはきっかけとなったスキル『アナザーワールド』。
これには『タブ』という表示が増えていた。良く分からず調べてみると、なんとこの良く分からない倉庫空間をもう1つ作れる…らしい。イメージがエクセルのタブ、新しいタブだ。
つまり良く分からない謎空間を並列して作成できる、という事らしい。今の時点では1つしか増やせない様だが、今後増えていくのかもしれない。しかも、こちらの2つ目の倉庫には『環境設定』という項目があった。スーパーフラットで暗闇だった最初のアナザーワールドだが、2つ目からはどんな内装にするかある程度指定できる様だ。ここで「旅がしやすいように、室内に似た作りの者はあるだろうか」と思っていたわけだが、この時点で選べるのは「草原」「森」「海」「空」だった。
空ってなんだ?カラって読むのか?それともソラ?だとしたら空中という事か?
良く分からない。ここは無難に草原を選択してタブを増やしてみた結果、現実世界の時間とリンクして昼と夜が発生する草原世界が生まれた。風に揺れる草は、何処までもどこまでも続いている。ただ最初のアナザーワールドの世界と違って、なだらかな起伏があるらしい。だが、背の高い木や川なんてものは無い様だ。
それは『この中にある物』で確認ができる。どこまでも続く草原。
…とりあえず見なかったことにしてほかの検証を始める。
『操武術』と『インファイター』については何の変動も無かった。プラス表記が付いていない、すなわちレベルが上がっていない。そういえば弓スキルが付くか試したけれど、すでに操武術を得ていたな。
そのせいでノーカンだったのかもしれない。このスキルはほぼすべての武器操作を補正するものだ。成長が遅いのも頷けるし、ぶっちゃけると今の時点で特に不便は感じていない。
そして冬威の『リンク』に関係する『献身』は+3以上に成長はしていない。今も戦いにおいて冬威はリンクを使用していたと思うが、ただリンクがつながっているだけではレベルが上がっていかないのだろうか。それともある程度成長しているから、必要経験値が多くなっているという可能性もある。
そしてもともと持っていた『超聴力+4』『職人+2』『生活魔法+2』『軽業』。
これは職人以外には変化は見られなかった。その職人も、木の剣を作ったり、石のナイフを作ったりしているときにレベルが一つ上がって3になっり、それに伴い職人の欄に1つ追加されたものがある。
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職人
武器職人
装備職人
道具職人
建築職人
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建築職人。それを見たジュリアンは顎に手を当てて考える。
「建築、という事はその名の通り建物を作る事だ。アナザーワールドの生産技術によって、材料さえあればそれを作るのは簡単。ならば…」
ちょっと思うところがあって草原に1人でやってきた。アナザーワールドの中の草原なので、偽草原とでもしておこうか。ここで無限に生えている草を見る。ちぎる。捨てる。
そしてステータスからアナザーワールドを調べると、草原の中のアイテムとして、ちぎって捨てた草が追加されていた。なるほどなるほど。
ではいったん退室。そして先ほど作った草原のタブを選択し、環境変更を選択。『環境を変えると、この中にあるものがすべて消失しますが構いませんか?』という問いかけに『YES』を選択。
そして再度新しいタブを作成。そして次に選んだ環境は『森』
「よし」
当然作ったばかりのこのタブには中身は何もない。そこで中に入って森の木の枝を折る。
そしてそこに放置する。そして自分のステータスからアナザーワールドを確認。
そこには
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アイテム
木の枝×1
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が追加されていた。
…ニヤリ…
ジュリアンは再びアナザーワールドから出て、顎に手を当てて考え込みながらきょろきょろとあたりを見渡した。そしてシロの御守りで少しばかり疲れた顔をしているクロを見つけて近づく。
「クロ、なんだか疲れた顔してるね」
「はん?…我はずっと、こんな顔だ」
「いやいや、今は人型になってるんだよ?竜の姿の時ならいざ知らず、今ならちょっと顔色悪いなって分かるよ。…そういえばずっと人型になっててストレスとかたまったりしないの?」
「ストレス?」
「体格に合わせて、力を制御されてるような圧力を感じたり…とか」
「…変化に関しては特になんとも。ただ…フェンリルとはこうも頭が緩い生物だったのだろうか…?」
「生まれたばかり…なのかはわからないけど、天真爛漫な性格って事では?」
「それでもふつうは、1度教えたことを3秒で忘れるなどおかしいぞ!?」
「…お疲れですね」
「まさか風の子がこれほどアホだったとは…」
もう言葉をオブラートに包むことすらしなくなった。そんなお疲れの様子のクロに、ジュリアンは提案を持ち掛ける。
「あの、クロ。ストレス解消するために、全力で暴れまわったりしたくない?」
「すとれす…確かに全力でドラゴンブレスを吐き出したい気持ちはあるが、そんな事したらこの土地が吹き飛ぶ。強い力を持つがゆえに満足に自分の限界まで力を放出することなどできないのだ」
「そこで1つ、提案があります」
「なんだ?」
「アナザーワールド、使ってみない?」
パチパチと瞬きをしたクロは、次の瞬間ににやりと不敵な笑みを作った。
「…ほぅ」
結果。
森のタブに木材が大量生産された。
森の世界が更地になったが、暫くすると徐々に木々が復活してきている事に気づく。これが実のなる木であれば最高なのだが、そこまで都合は良くなかった。
そして森の中に職人スキルで木材を使って家を作ってみた。
家、というよりは小屋だ。部屋数のない、ただの木の箱。いわゆる豆腐ハウスってやつ。
すると、建築技能がアップしたのか、1階建ての家、2階建ての家、部屋数、部屋の種類、など詳細に選択が出来、作れるようになった。とりあえず仲間の意見を聞いてから…と時間をかけていたら、豆腐ハウスを貫くように木が復活。
森のタブは森の木々をなぎ倒しても、すぐに元に戻るらしい。
ちゃんとした家を建てる前に気づけて良かった。
そして旅を始めたばかりのこのチームであったが、夜を過ごすテントの代わりにアナザーワールド内にツリーハウスが出来た。