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127 ザバートン、そして偵察【一応宿の位置は確認した】

一応宿の位置は確認した。

部屋数もまだまだ余裕があるらしかったので、直ぐに満室になることはなさそうだと確認してから予約はせずに一度出ることにする。2人ならば1部屋で足りるが、この後仲間を連れてくるとなると絶対に1部屋で足りない。しかし、アナザーワールドを利用するならその問題も解決するので、とりあえずみんなの意見を聞いてから決めようという流れになったのだ。


挨拶をして迎え入れてくれた門番は、「あれ?もう出かけるの?」と言いたそうな顔をしていたが「お気をつけて」と言って送り出してくれた。でもまたすぐに引き返してくるんだよな…なんて考えると苦笑いがこぼれる。

そのまま道なりにテクテクと歩いていくと、少しだけ道を外れた場所にクロとシロが仲良く並んで坐っているのが見えた。此処までやっぱり分かれ道はない。いったいどういう仕組みなのだろうか?と考えながらも近づいていくと、最初に気付いたのはシロだった。だいぶ前から気づいていたようで、駆けだそうとうずうずしているのをクロが押さえつけていた様子。お互いに姿を確認したのを見てから拘束を外せば、猛ダッシュで突っ込んできた。


「おかえりぃ~!トーイ!ジュリアン!」

「うわぁ!!」

「ちょっと、止まって!」

「わきゃぁ~!」


あっという間に距離を縮めたシロの突撃に危険を感じて慌てて避ける2人。本当は抱きとめてあげられれば恰好良かったのだけれど、受け止めたらいろいろとヤバそうな気がするスピードだった。サッと横に避けるだけの回避だったが、急に止まれなかったシロはそのまま変な叫び声をあげつつすっ飛んでいく。すれ違う瞬間に発生した“ビュウ”と激しい音を立てて押し倒されるような風圧に思わず眉を寄せて顔をしかめれば、いつの間にやら傍に来ていたクロがため息を吐き出した。


「いったいなぜこんなにも人間になついてしまったのか」

「うぉ!クロか、びっくりした」

「なにか心当たりはないのか?契約をしているわけでもない人間の側にいることをフェンリルが望むなど、考えられない事だ」

「うーん…僕は特に…」

「ちょっとまてよジュン。ジュンは最初に餌付けしてたらしいじゃんか」

「あぁ、そういえば。でも1度だけパンの欠片を少しばかりあげただけだよ?」

「うむ、餌付け…可能性の1つではあるだろうが、それでは弱いな」

「それ以外は分からない。ちゃんと接触した時にはすでにトーイも居たし」

「でも俺、最初はなんだか警戒されてたんだよなぁ。今はそんな気配ないけどさ。やっぱ飯の効果なんじゃないの?」

「何々?なんのお話??」


3人で話し合っているところに戻ってきたシロが割り込んできた。3人が顔を合わせていたその中心点に立つように飛び込んでくると、クルリと回ってみんなの顔を見ていく。無邪気な行動に見えるのに、その瞳には理性の色が強く出ている気がしてジュリアンは一瞬息をのんだ。


「何故おぬしはこれほどまでに人間になついているのか、と疑問をぶつけておったのよ。普通であれば契約した相手以外の者とこれほどまでに親密になるなど珍しい事。何がお前をそうさせるのだ?シロ」


人型では一番背の小さいクロが腕を組んでシロを見上げそう質問をぶつけるが、分かっているのかいないのか、「うーん」とうなって首を傾げるだけだった。これは長期戦になりそうな予感。とりあえず行動をしてそのあとでまた予定を考えなくては。


「ところでクロ」

「なんだ?ジュリアン」

「シェルキャッシュとあの獣人の子はどうしたの?」

「エルフの小娘はそこら辺を徘徊しておる」

「徘徊って…」

「そして獣の子はその木の裏側だ」

「…逃げなかったんだ」

「行く当てもないと言うのでな。好きにせよと言ってやった」

「で、なんで木の裏?まだ寝てるの?それとも俺らが怖いとか?」


クロの言葉に様子を見に行こうとした冬威だったが、人間を恐れている可能性に自分で気づいて足を止めた。クルリと振り返ってこちらを見るその目は不安そうだが、ジュリアンは軽く肩をすくめて首を横に振ってやる。


「怖いのだとしたら、ここに残っていないとおもうよ。行く当てがないとしても、怖い対象が居る場所に居続けるなんて普通だったらありえない」

「だよな!嫌われてないよな?望みあるよな!…じゃあ、見に行っても良いかな?大丈夫かな?警戒するかな?」

「警戒はすると思うけど…ってか、なんでそんなに気になってるの?」

「だって、なんの獣人か知りたいじゃん!耳は三角で尻尾は細長くて、見た目猫っぽいけどもしかしたら違うかもしれないし!」

「…ん?」

「髪の毛の色は灰色だったから、灰色の猫なのかな?それとも汚れがついててくすんでるからそう見えるのかな?」

「えぇっと?」

「あ、もちろん体調も気にしてるよ。パッと見た感じでは傷が無かったから、とりあえず薬草をすりつぶした回復薬…ポーションっていうの?…いや、スタミナ増強液かな?…を摂取させただけだろう?食事はジュンがお粥みたいなやつ作ってくれたけど、それだけじゃきっと足りないだろうし…」

「オーケー。とても心配して気にかけているのは分かった。とりあえず落ち着こうか」

「うぃ」


初めての獣人で、心配もあるが好奇心も振り切れてしまって居るらしい冬威を止める。

その間にどこに行ってきたのかシェルキャッシュが戻ってきたためザバートンの町の不思議を尋ねてみたら、高飛車な態度で『知りたければ跪いて足をお舐め!』なんて言うからジュリアンの絶対零度の鋭い視線が突き刺さった。普段温厚な奴がキレると怖い。そしてだんだん遠慮がなくなって来てる気がする。

リアルに体感温度が下がった気がする。離れていた獣人の子も飛び跳ねて起きたようで、こっそりとこちらを伺う顔が見えた。…もう普通に起きられるのか。ほんと回復速いな。


ジュリアンの無言圧力が数十秒。最初に折れたのはシェルキャッシュで、涙ながらに謝罪を口にした。


「この町はエルフの里に一番ちかいエルフたち以外の居場所。ですから、ここに来るまでにも関門が存在するのですわ」

「関門?あのエルフの里の1本道みたいな?」

「えぇ。どこまでも続く1本道。そこに神樹様が魔力を使って迷いの効果をもたらし、害あるものを排除するのです。エルフの里に行くにはこの町へ訪れ門をくぐることで、里に入る資格を得ることが出来ますわ」


物理的なゲートなのだろう。ザバートンの門をくぐることで、この町まで来れたという証になり、エルフの里への切符を手にすることが出来る、と。しかし、道の途中で獣人の子を拾ったのだ。必ずしもいいやつばかりではないのでは?と冬威が首を傾げる。


「でも獣人の子…」

「魔法の効果は里や町の周囲だけですから。当然間の道には野党が出たりも致しますわ」

「それは…いいの?良い奴が利用されたりとか」

「パーティー内に1人でもそういう輩が居れば町への道は閉ざされます。問題ありませんわ」

「なるほど」


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