126 ザバートン、そして偵察【とりあえずぐるりと】
とりあえずぐるりと1周した。町というくらいだから、それなりの大きさがあると思っていたが、意外と早く歩ききることが出来た。再び門番さんのところまで戻ってくると、ジュリアンと冬威は足を止める。
エルフの姿は確認できなかったけれど、それなりに人間の中に獣人が居る様だ。しかもギスギスした関係ではないように見える。
「とりあえず1周してきたけど、このまま皆を連れてきても大丈夫そうではあるね」
「そうだな。獣人さんも結構居るし。…あのさ、素朴な疑問なんだけど、俺たちみたいな人間フォルムに獣のパーツがついてる人と、獣フォルムで2本脚で立ってる人と2種類いたじゃん?あれって両方獣人って括りで良いのかな?」
「うーん、たぶん…」
「たぶん?ペニキラでは?」
「あの国では人間以外はみんな魔物って感じだったから良く分からないんだよ。だいいち、僕今まで獣人って会った事どころか見たことすらなかったからね」
「そうなの?でもその割にはあまり驚いていないね」
「まぁ、獣人よりも前世持ちっていう自分の方が吃驚な存在だからね。その知識もあったし」
「あぁ、なるほど」
そうやって2人して笑いあった後で、改めて周囲を見渡した。規模は小さいとは思うけれど、中心部の方は石畳が敷かれている場所もあるようだ。歩いては居ないが、顔を向ければ見ることが出来る。それほどまでに、広くはないという事でもあるが。門番も『町』と言っていたが、感覚としては村でもいける。そんなことを考えていた冬威だったが、門を見てから視線をその反対側に向け、再びじっと門の方を見るジュリアンに何か見つけたのだろうか?と首を傾げた。
「何?どうかした?」
「そういえば、少し…」
「ん?」
「門、あそこ1つしかなかったよね」
「…そうだな」
例えばエルフの里がこの街から北にあるとして。
人間たちがわざわざエルフの里に近い場所にこの町という拠点を作ったのだとしたら、南から北上する1本の道が出来ていてもおかしくない。
「あそこと反対側にもう1つ門があってもおかしくはなかった」
「あまり広い町じゃなかったから、とか?防犯っていうか、魔物の襲撃の際にも入り口は少ない方が良いじゃん?」
「魔物を警戒してだとしたら、門に扉をつけていないのはおかしい。それに、町のすぐ前に1本の道が無かったと思う。ここまで里から1本道だったのだろう?」
「確かに分かれ道は無かったわ。…もしかして見落とした?」
「その可能性はなくもないけれど…僕はずっとアナザーワールドに居たからね。分からないよ」
「そうだった。…じゃあ、この先は何処に向かえばいいの?中にワープできる施設があるとか?」
「だとしたら、門番が「ようこそ、旅人さん。ここはエルフの里に近い町。ザバートンだよ」と言うのはおかしいよ」
「…なんで?」
「だって、トーイの推測が正しければ、人間が多く暮らす地域からくる場合はその転移を使うって事でしょう?此処までエルフの里から1本道だったのだから。つまりあの門を使うのはエルフの里に行く人か、里から帰ってきた人が多く利用する事になるはずだ。そういった人は当然、この町の事を知っている。いちいち町の名前と位置関係を口にしたりせずに、聞いたとしてもせいぜい「旅人ですか?」って程度だろう」
「じゃあ…どうしたらいいんだ?」
こういう時に、こちらの事情を知っていて、この世界の事を知っている存在が居ないというのはとても不便だと再び実感した。今この町の人に「エルフの里から来て、学園都市ドルァルエクスに行きたいのですが」と聞いても大丈夫だろうか?自分たちの見た目が完全に人間だから、どうしてエルフの里は知っていて、人間の町の事は知らないんだ?と不審がられないだろうか。
腕を組んだジュリアンは軽く目を伏せて考え込んでしまうが、冬威はそんな彼の肩を軽くたたいてニコリと笑った。
「悪かった、そんな考え込むなって。もしかしたら門番が新人で、挨拶の練習してたかもしれないだろ?それに、ここは魔法が発展している国、デンタティタルだ。特別な移動方法があるって可能性も完全に否定はできない。エルフの里はここ以外は隠されているみたいだし、複雑な移動方法にして防犯を高めている可能性だってあるだろ?」
「…そうだね。何もわからないまま考えていたって、最悪の事態を想像することしかできないか。…じゃあ、どうする?すぐに皆を迎えに行く?それとも宿はとっておいた方が良いかな?」
「あぁ、宿は必要かも。ジュンのアナザーワールドあるから、1部屋とれれば何とかなりそうだけど」
冬威のおかげで、気を張り詰めすぎていたことに気づいたジュリアンは、ゆっくりと数回深呼吸をしてから頬を軽く叩いた。とりあえず外周にそってグルリと回った。今度は中心を目指して、宿屋、ついでにギルドがあるか確認をしたい。
「そういえば、シェルキャッシュは故郷を追われてこちらに来た、と里で神樹様が言っていたね」
「そうだったね。外から来たから、此処までの道を知っているってことで道案内に強制的に放り出されたわけだし」
「ならば、このことも彼女に聞けば解決するかもしれないね」
「あ!そうだったな。まぁ、道案内もドルァルエクスまで行って一緒に勉強してくれば?みたいな事を言われたみたいだし、もしかしたらこういうギミックが多いのかもしれないな」
「地図上では隣同士でも、行き方にコツが必要ってことか。最初は面倒事を押し付けられた感が半端なかったけれど、やっぱり意味があったんだね」