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125 ザバートン、そして偵察【「ようこそ、旅人さん。】

「ようこそ、旅人さん。ここはエルフの里に近い町。ザバートンだよ」

「え?」

「ん?ようこそ、旅人さん。ここはエルフの里に近い町。ザバートンだよ?」

「は?」

「え?」

「ちょっ、何やってんのトーイ!?す、すいません!」

「いや、良いんだよ。良い一日を。…俺、滑舌悪いかな…」


町につながる道を歩いていた2人は、特に魔物に襲われるとか、強盗やら山賊やらに襲撃されるなんてイレギュラーも発生せずに門についた。外から見てみる町は、ぐるりと周囲を壁に覆われているが、その高さは2mほどであろうか?魔物を町中に居れないための防壁なのだろうと簡単に想像ができる。

外から様子がうかがえればそれが一番良かったのだけれど、平坦な道に加えて視線ちょい上程の高さの壁のおかげで中の様子は分かりにくい。どうしよう?と思っている間に近づきすぎて門番に発見されてしまった為に、とりあえず一度入ってみようという事になったのだった。

この町の門には扉がついておらず、両脇に兵士っぽい恰好をした人が2人立っていた。門番で、おそらくこの町の兵士だろう。人通りもそれなりにあるが、予想していたような持ち物チェックだったりギルドカードを使った身分証明などはせずに中に入れるようだった。

変な態度で同じセリフを繰り返させた冬威の腕をつかんでジュリアンが控えめに怒ると、ごめんと言いながら後頭部を掻く。そのまま謝罪とともに門番に会釈して、町の中に足を進めた。


「いきなり他人で遊びはじめないでよ」

「だってさ、同じセリフしか言わなかったから」

「普通に門番が挨拶してくれただけでしょう?」

「いや、なんかNPCみたいだなって思っちゃってさ」

「NPC…もしかして、ゲームみたいとか思ってるの?この世界の事」

「いや、一瞬『え?』って思ちゃったから、2回目も同じセリフいうかな?って単純な考え。ごめんごめん」

「まったく。いったい何を始めたのかと思えば…」


でも、とりあえずこの町がザバートンだという事は分かった。2回も言ってくれたし、それほど難しい名前でもない。呆れた様に息を吐き出すジュリアンに苦笑いを浮かべながら、冬威は町の中を見渡した。

砂利の道、木の建物。中世の建物のような雰囲気で、当然ながら電線などは引かれていない。その代わりに植物の水やりだったり、ごみでも集めてるのか、火を起こしている人だったりが見えるが、その人たち全員が魔法を使っているようだった。


「おぉ~!ファルザカルラ国のギルドがあったあの町では、これほど自由に魔法使ってる人居なくなかった?」

「たしか、この国デンタティタルは魔法が盛んな国だったよね」

「そうか。魔法学校があるくらいだし、使える人も多いのかも」

「それに、国が推奨していれば、市民も扱える自由度が高くなる」

「どういう事?」

「国が積極的に支援してくれれば、魔法を学ぶ機会も増えるし、技術を高めることもできるだろう?だけど逆に、特に言及していない、もしくは推奨していない場合、魔法使いは異質とみられて迫害される可能性だってある」

「え、それはちょっと行き過ぎじゃない?だって地球みたいにまったく魔法がない世界って訳じゃないんだし」

「分からないよ?地球でもあるだろう。情報を規制して、その国のトップが一番偉いのだと意図的に思わせている催眠じみた政治をする国が」

「あぁ…」

「人は情報を吸収して成長していく。知らないものは分からない。知っているモノがその者のすべて。だから分からない存在を人間は恐れる。同じでないものを排除しようとする。それが人の生存本能というか、自然界に置いてさして強くもない人間の特性だよ」

「なるほどなぁ…」

「それよりも」


脱線しかけた話を、軽く手をパチンと叩いて戻すことにしたジュリアンは、先ほどよりも少しだけ声量を落として視線だけで周囲を見渡した。


「結構、獣人いらっしゃるようだね」

「え?」

「あからさまに探さないで!怪しいから」

「ご、ごめん…」


前進はし続けながらも道の端に移動して、ゆっくりと周囲へ首を巡らせてごく自然な動作で観察する。そんなジュリアンを見ていた冬威も、彼の視線の先を追うように目を動かした。


「ほら、あの人。帽子を被っているけれど、上が変な形になってる」

「え?そういうデザインじゃないの?」

「いや、あの布はそれほど形がしっかりしているわけじゃないから、たぶん下に何かあるんだろう。頭部に2つ、山のような形」

「耳?」

「おそらく」

「でもやっぱ、隠してんのかな?」

「うーん、可能性はなくもないけど、そうでもないんじゃないかな。帽子って現代だとおしゃれ感覚だったり、山登りの時に使うとか、普通の人が積極的にかぶるイメージないだろうけど、こういう時代の帽子って頭部保護の意味合いもあるからね」

「マジで?」

「うん。といっても、日差し避けとか防寒とか目に上からごみが入らないようにとか、用途は結構限られるみたいだけど」

「へぇ、ってか、耳隠してて平気なのかな?あれ、俺たちだと耳当てしてる状態だろ?声とか聞き取りにくい気がする」

「あ、じゃあ、聞こえすぎる音をシャットアウトしてるのかも。何でも限度を超えると辛いじゃない?耳が良いから、あえて蓋をしているとか」

「あ!なーる程!」


てくてくと町を歩きながらそれ以降も周囲を探すと、簡単に獣人は見つかった。エルフの里に近いだけあって、人と獣人が差別をしているようには見えない。これなら子供を連れて入ってきても大丈夫だろうとは思うが、あの子の状態が少し問題だった。獣人は情に厚いときくし、自分たちが虐待をしたと思われたらこまるなぁ。

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