123 アナザーワールド、そしてすなわち異世界【やっぱ自力だけだと】
やっぱ自力だけだと限界あるよな。
まったく何もわからない。教えてくれる人が居ない。システムもない。
再びサーフボードの様に扉を脇に抱えて歩を進めながら冬威は先ほどの事について考え込んでいた。セットした生活魔法は今は解除している。こちらに入れていていざという時にジュリアンが使えなかったら困るからだ。
先ほどの火が生活魔法ではないという事は言葉では理解した。確かに見てきたジュリアンの火種よりは大きかった自覚はあるし、威力の強い何かであるという事も分かる。だが、自分のスキルを使用したとジュリアンは言っていた。セットしていなかったスキルが勝手に使えるようになるのだろうか?とボヤーっと考え込んでいると、横からシロがタックルをかましてきた。
「うわぁ!」
慌てて落っことしそうになった扉を抱きかかえた。そんな慌てた様子にシロはケラケラと笑って腹を抱える。思わずむっとして唇を尖らせれば、シロも真似をするように唇を突き出した。
「むむむ~」
「ちょっと、いったい何なんだよ。今大きな荷物抱えてるんだから気を付けてよね」
「えぇ~?荷物って、そのドアだけじゃん。シロ知ってるよ?そのかばんの中、タオルと小銭しか入っていないの」
「ちょっ…」
「重いやつは全部ジュリアンの…世界?…の中なんでしょ?だったら、もっとシロと遊んでくれてもいいと思うの!」
「…は?ジュンの世界っておま…」
まったく何を言い出すやら。と軽く肩をすくめかけて、ふと止まった。
そういえば、アナザーワールドって、直訳すると、別の世界的な意味になった気がするぞ?
「ジュリアンの世界…か」
地球からこの世界に飛んできたわけだけど、それと同じような感覚でジュリアンのアナザーワールド内も別次元に飛んだりしてたのだろうか?…うーむ。やっぱり、今の現状を教えてくれる存在が居ないのはつらいなぁ。よくラノべとかだと色々教えてくれる幼馴染だったりスキルだったりがあったんだけどなぁ。
「ま、それを勉強するために今旅をしているわけなんだけど…」
「え?何?なんの話してるの?トーイ、シロにも教えてよ!」
「俺たちの力の事だよ。わからない事多すぎだろ?それについて考えてたんだ」
「トーイの力?勇者の力!」
「まぁ、肩書はね。でも実際、どんなものなのかまったく分かんないからさ」
ふーんと頷いて見せているが、分かってないらしく首を傾げるシロの様子に思わず吹き出して笑ってしまった。それに気づいたシロはむっと頬を膨らませて冬威に背を向けて猛ダッシュ。そして少しばかり先を歩いていたシェルキャッシュに、先ほど冬威にしたようにタックルをかました。
「アナザーワールド。その力の事を名前すら、聞いた事がない」
代わりに隣に来たクロが考え込むように腕を組んでそう呟けば、シロに文句を言おうかと息を吸い込んでいた冬威は思わずむせつつも顔をクロに向ける。
「けほっ…それって、どういう?」
「我ら竜種が長命であるという話は覚えているか?」
「…うん。そんな話、してたね」
「長命であり、力も最上位を誇っていた竜種は、なんでも身体が馬鹿でかいから怪力があるという単純な理由で頂点に君臨していたわけでは無い」
「それって、使える魔法の種類が豊富って事?」
「なんだ、知っていたか。まぁ、人間どもが覚える術と若干違う点があるらしいがな。もしかすれば、聞き覚えのある個体もいるやもしれぬが、我がこの世に生を受け早1500と少し、その間でそのスキルを聞き及んだことは無い」
「それは、珍しいって事?」
「パワーでも、魔力でも上位を誇る我らが知らぬのだ。突然変異で現れたか、過去に現れたものは隠されたか…」
「それって堂々と使うのはまずいって事?」
「まだ何とも言えぬ。だが、1つだけ分かったことがある」
「え、何?」
ずっと腕を組んで前を向いていたクロは、一呼吸分間を開けると視線を冬威に向けてから、彼の手に持っている扉へと落とした。おそらくその扉の向こうのジュリアンを見ようとしているのかもしれないまっすぐな視線は、まるで肌に突き刺さるかのように鋭く感じる。
「この扉の中で、我は自分の力を阻害される動きを感じた」
「…え?何かしようとしてたの?」
「害意はないぞ?ただ、この格好は本来の姿ではないことはとうに知っているだろう?」
「うん、竜だもんね」
「広く何もない空間だったから、久々に羽でも伸ばせるかと思って戻ろうとしたのだ。が、その動きを阻害されてかなわなかった」
「阻害?…それがなんだって?」
人型から本来の竜の姿になろうかと思ったら、なれなかった。それは確かに大変だな、とは思うが、正直言ってそれがどうした?という感情しか持てない。
その胸の内が顔に出ていたらしく、大きなため息を吐き出してクロは腰に手を当てた。
「先ほども言っただろう?竜種は強者として上位を常に誇ってきた。つまり、物理的な力でも、魔力的な力でも、我らを凌ぐものは珍しかったし、早々現れなかったのだ」
「つまり…こうしたい、って思った時に出来ないというのはオカシイ、って事?」
「そうだ。まぁ、これも確定事項ではないが、あそこは我をしのぐ力が満ちている事に間違いは無かろう」
「竜を超える、力?」
「もちろん、外に出た今はそれを感じてはおらぬ。ついでに言うと、嫌な感覚では無かったのが救いだな」「え?」
「あれに強制力を感じたら、中で眠るなどできなかっただろうさ」
大きな力が働いているこの扉の内側の世界。いったいこれは何なのか、調べる術はあるのだろうか、不安を感じて思わず視線が泳ぐ。
「あ、見えてきたわよ!一番近い村。確か…何て名前だったかしらね?」
前でシロとじゃれあっていたシェルキャッシュの声にはじかれるように顔を上げた冬威は、扉をしっかりと抱え直してから、とりあえず今は旅を無事に終えることを第一に考えようと1人小さく頷いた。
「竜をしのぐ、力?」
外の会話は、扉に背をつけていたジュリアンにも当然届いていた。意図してそうしたわけでは無いが、結果としてクロと冬威2人の会話はジュリアンにも届いていたのだ。
「別の…世界…」
膝の上に頭を乗せている獣人の子を撫でながら、どうやったら詳細を調べることが出来るか、と小さく首を傾げた。
「鑑定、してもらったら早い?」