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121 アナザーワールド、そしてすなわち異世界【アナザーワールド、か】

「アナザーワールド、か。それが賢者としてのジュンの力って事だよね」

「たぶんそうだろうね。戦闘にはまったく活用できない倉庫系のスキルみたいだけれど」

「でも、ステータスでもさ、俺が物理特化でジュンが魔力特化みたいだったじゃないか」

「取得できるスキルは真逆だったけれどね」

「うーん…」


昼食の後の皿洗いをスキルで終えたジュリアンは、鞄の中に食器を戻そうとして手を止めた。この中にあれば指先一つで取り出したり、収納したりが可能なのだ。結論から言えばどこにあっても同じで、此処に放置していても問題ないのだ。あとで食器棚とか用意しておこう。

手元でガサガサと荷物を仕分けているジュリアンの後ろで冬威は腕を組みながら唸った。


「はぁ。いいなぁ。アイテムボックス、俺もスキルとしてほしかったなぁ」

「でもその代わりに鞄を貰えたじゃないか。それの容量も大きいみたいだったし、十分だと思うんだけど」

「そうなんだけどさぁ…」


とりあえず食器を重ねて布をかけるだけにとどめ、カトラリーも同じく緩く布でくるんでお皿の上に置いた。冬威はそんなジュリアンを見ながら自分のステータスを開く。当然そこにアナザーワールドのスキルは出ていないし、アイテムボックスに変わるようなものも無かった。


「…やっぱないよなぁ。せっかく異世界来たのに、魔法の1つも使えないなんて!残念で仕方がないんだけど」

「その気持ちは良く分かる。あ、じゃあさ、空きスロットに居れるの生活魔法にしたら?そうすれば、些細なことだけど火種作ったり水飲んだりって、活用できるんじゃないの?」

「そう思うだろ!?俺もそう思ってすでにセットしてみたんだよ」

「…で、その反応だとやっぱり…」

「うん。何にも反応しなかった。やっぱり魔力適正の値のせいっぽい。超絶悔しい!」

「え、でもほら、トーイは魔法のない世界からやってきたからじゃないの?」

「ん?どういう事?」

「魔力の動かし方が自己流だとおかしいんじゃないかな?って思ったんだ。まずどうやって体の中の魔力を動かすか、そういう単純に操作するところから誰かに教わってみたほうが理解も早い気がするんだけど」

「でもあれだろ?よく本では『血液の流れのように全身に』って言われてるじゃん?そんな感じだと思ってたんだけど」

「…まぁ、間違いじゃないかな。でも魔法を使っていない人は流れ出すまでが難しいって聞くし…ちょっと試してみようか?」

「何を?」

「トーイが生活魔法をスロットに居れて、魔力を動かす練習だよ。スキルとして発動させなければ、この世界の人は魔力を体内で循環させるのは難しくないんだよ」

「へぇ…じゃあ、ちょっとやってみる。スキル借りるな?」

「うん、大丈夫だよ」


ステータス画面を操作しているのか、空を指がなぞる。そして準備が出来たらしい冬威は軽く両手を広げて見せた。


「よし。これで今、トーイに魔力適正の有無関わらず、生活魔法が使える状態になったわけだ。そのことに関して、何か聞きたい事とかある?」

「いや、特にないよ。良く分かっていないし」

「じゃあ、まずは魔力の流れを感じてもらおうと思う。背中いいかな?」

「おう」


冬威の背後に回ったジュリアンは彼の背中、首筋に当たる場所に掌を当てた。そのまま軽く目を伏せて魔力操作を始める。操作と言っても大した事をするわけでは無く、彼の体内にある魔力に流れを生み出すだけだ。もしも魔力自体が無いのだとしたら、自分が持つ力を少しばかり分け与えようとも思っていたが。


「じゃあ、今から力を…あれ?」

「…何?」


魔力を動かそうと意識を向けた時、冬威の中に何かがあるのを感じた。それは純粋な魔力ではない気もするが、モノ事態は魔力発動時に消費するエネルギーに似ている。思わず首を傾げたジュリアンを振り返ってみた冬威は怪訝そうに眉を寄せた。


「何かあるね」

「何かって?」

「魔力の元、みたいなやつ。魔法を使うために消費する、いわばMPかな」

「マジで?でもそれがないから、俺には魔力適正の値が無かったんだよね?」

「うーん、とりあえず今の時点で何かしてみてごらん?もしかしたら発動するかも」

「一応火魔法とか覚えてるけど…」

「最初だから、生活魔法でいいと思う。制御が分からないと大惨事になりかねないし」

「だな」


そのまま右手を伸ばした冬威は、数回深呼吸をしてから口を開いた。


「…生活魔法って、使うときに何か言ってる?」

「え?」

「呪文みたいな。火魔法だったら『ファイヤー』って言ってたじゃん?」

「あ、魔法はイメージみたいなところがあるから、僕は特に何も言っていないね。でもイメージしやすいように言ってる人も居るみたいだよ」

「無詠唱?」

「詠唱が必要なのかどうかも知らないけれど、僕は水を出したいって思えばその通りに出来るよ」

「そうなのか」

「あ、でもそれがこの世界の常識だと思われると困るかも。僕は何処かの機関で勉強をした訳じゃないから」

「え?魔法ってそんな誰でも使えるようになるの?」

「うーん、どうだろう。話には聞いていたって感じかな。生活魔法自体は珍しくなかったし。それに前に話しただろう?僕の家は貧しかった。学校に習いに行くお金もなかったんだ」

「成程ね…。よし、じゃあやってみるな」


そう言って先ほどの様に右手を伸ばすと、一度目を閉じて意識を集中させてから今度こそ口を開いた。


「ファイヤー!」

2017/01/02

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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