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119 アナザーワールド、そしてすなわち異世界【眠った子供を】

眠った子供を確認してから視線を扉の窓に向けた。

シェルキャッシュが外に出てから1時間くらい経過しただろうか?となると、この子供を保護して2時間ほどか。まだ日は高く、昼休憩するにも早いと思われる。


「彼女の記憶と証言が正しければ、昼過ぎくらいには近くの村につくらしいけれど、そこでも獣人やエルフに対して風当たりが強いのかな?」


だとすると、このままの状態で行くのは良くないだろう。少なくともシェルキャッシュはこのアナザーワールドに引っ込むか、村に入らないという対策が必要となる。おそらくもうそろそろお昼の休憩をとるだろうから、その時に相談をしてみるとしよう。シェルキャッシュの事だ、人間と関わりたくないと思えば村に入る事を拒否する可能性だってある。その場合…ジュリアンも宿替わりに外に留め置かれたりするのだろうか。…いや、彼女はエルフだ。自然の中でどうとでもできるだろう。


「まぁ、詳しくは皆に聞いてから決めるとして。まずはこの水たまりを排除しておこう。ついうっかり誰かが踏んで、衣服が濡れるとも限らないし…ん?」


ステータスを開いて『アナザーワールド』の部分を選択し、中にあるだろう水たまりを探そうとした時不思議な項目を見つけた。


-名無し-


アナザーワールド欄の中にある『名無し』。それと同列に『水たまり』も存在していることから、確かにこの空間内にあるものだという事が分かる。昨晩火の番をしていた時には気づかなかった場所だ。もっとも、あの時はステータスウィンドウを表示せずに行っていたので、気づきようが無かったとも行けるけれど。


「名無し?…名無しなんてアイテム持って無い…え?もしかして…」


そしてジュリアンは視線を子供に向けた。名無し。この中でその名称で呼ばれそうなものはこの子しかいない。不思議に思いながらもその項目をタップ。するとさらに詳細な持ち物が出てきた。


▼△▼△▼△▼△▼△▼△

-名無し-

 ボロボロの肌着(上)

 ボロボロの肌着(下)

 ボロボロのマント

 奴隷の首輪(革)

 錆びた小さなナイフ

○つぎはぎの袋(小)  

  毒薬×3

  木製の指輪

▼△▼△▼△▼△▼△▼△


「これって…この子の装備と所持品?…ちょと待て。毒薬持ってんの!?」


慌てて近づいて持ち物検査よろしく、ポンポンと軽くたたいて所持品を探ると、錆びたナイフは背中の腰部分に隠されていて、首から下げる形で小さな袋を身に着けていた。口を開く前に触って確認してみると、丸い個体が数粒、そしてリング状の物を1つ確認することが出来た。その上で袋を開いて掌に中身を出してみると、黒い丸薬が3粒、そしてシンプルな木製の指輪が1つ出てきた。


「これって…所持品が分かるって事?…でも、毒薬である、という事はわかるけど、どんな効能なのかは分からないな。鑑定じゃないからかな?って、あれ?」


そのまま『アナザーワールド』を再び調べてみると、先ほどと記載が変わっているのに気づいた。


▼△▼△▼△▼△▼△▼△

水たまり

つぎはぎの袋(小)  

毒薬×3

木製の指輪

-名無し-

 ボロボロの肌着(上)

 ボロボロの肌着(下)

 ボロボロのマント

 奴隷の首輪(革)

 錆びた小さなナイフ

▼△▼△▼△▼△▼△▼△


先ほどまでは『名無し』の項目の下にあった袋と、その中身が上に来ている。


「この子の所持品だったものが、その身から離れたからか?…いや、そうか。さっきまではこの子の下についていた「つぎはぎの袋」が上に来て、中身もそれと同列に移動した。という事は「名無し」というフォルダから、「アナザーワールド」という上位フォルダに場所が移ったんだ。…なるほどね。だったら、もしかして…」


物は試し、と「名無し」の下についている「奴隷の首輪(革)」に指先を向ける。そのままドラッグ・アンド・ドロップの要領で名無しの上に移動させてみると、


-コトン-


乾いた音が足元で響いた。視線を落とせば、すぐそばに落ちている革製の首輪。今まであの子についていたものだ。そして当然、視線を眠っている子供に移せば、その首に重たそうな印象を与えていた首輪は消えている。


「なるほど。この場所は大きなメモリー媒体みたいなものなのかもしれないな。僕たち、アナザーワールドに入った物がデータとして記載されて、僕はその位置を変えることが出来る、と。…正確な事は分からないけど、今はこの認識で間違いじゃないだろう。それよりも、これでこの子の奴隷化は解除されたのだろうか?」


良くある話だと身体に奴隷の紋を刻む、みたいなことがされているならば、たとえ首輪を外しても解放されたとは限らない。小さく息を吐き出しながら身をかがめ、子供の首筋に指先を接触させる。とりあえず、強引に首輪を外したことで死亡、なんて事にはなっていないようだが、正規な手順じゃないことは確かだ。後で何か問題が起こらないとも限らない。



**********



「というわけで、この子の首輪が外れました」


お昼の休憩をとるために再び木に扉を立てかけて、中に入ってきた冬威たちにジュリアンは先ほどの事を報告した。冬威は首輪に気づいていなかったのか「そんなものがついていたのか」という顔をするが、シェルキャッシュは驚きに思わず手に持っていたフォークを取り落としてしまった。


「ちょっと、何やってますのよ!奴隷の首輪は従属の証、主でなければその所有権をどうこうするなんて出来るはずがない…はずなのに…」


勢いよく噛み付いてくる彼女の言葉を聞きながら、外してしまった首輪を右手で持って軽く持ち上げて振ってみると、彼女の視線がそれにつられるようにして動いた。言った事が嘘ではないと分かってくれたようだが、慌てて子供の側に駆け寄り生存を確かめる。


「生きてる?嘘、なんで?…まさか、そんな…どうして?」

「理由は聞かないでもらえると嬉しいかな。実は、この力は僕自身良く分かっていないんだ」

「どういう事ですの?」

「スキルを取得したばかり、っていうか。どう使えばいいのかもいまいち分かっていない。当然、ほかに何ができるかっていうのも分からない」

「それでも…」


何やら考えているらしいシェルキャッシュの表情は、険しくはあるが暗くはない。何を考えているのかは分からないが、無茶ぶりをされる前に釘をさすことにした。


「僕はこの力を使って、奴隷解放運動なんてしないからね」

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