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011 旅立ち、そして違和感【昨日と同じく】

昨日と同じくツフェリアーナに案内されてやってきた白い建物。

一番高い屋根の上に立つ十字の飾りから教会のようなものじゃないだろうかと考えてつつ、中に入っていく。電気という明かりが無いせいか少し薄暗く感じるが、太陽の光を通すステンドグラスが色とりどりの光を落とし、建物の中は幻想的な雰囲気に包まれていた。


「うわぁ~。すごいきれい。ここは教会ですか?」


思わず感嘆の声を漏らした春香、そして彼女の言葉に肯定するために足を止め、こちらを振り向いたツフェリアーナは一度ゆっくりとうなづいて微笑んだ。


「はい。そうです。初めて勇者様がこの世界に来られた際に、勇者様の知識を借りて作られた建物なのですよ」

「なるほど。どおりで見たことあるような形だと思った。教会とかって世界変わってもおんなじようか形してるのかとちょっと不思議に思ったのよね」

「初見で教会であると分からない方も稀ですがいらっしゃいますので、最初の勇者様はハルカ様方の世界の方だったのかもしれませんね。ここでは勇者様へ神の力を下ろす儀式を主に行います。そしてここでどちらの勇者様をお呼びするか、魂の選択もするのですよ」

「魂の選択?でも俺ら来たときは城の中だったよね?教会で誰を呼ぶか選んで、お城で召喚するっていうの?」


地下のような部屋を上がて、すぐに城の中だったことを記憶していた冬威がそう言うと、ツフェリアーナは首を振って否定した。そしてスッと指をさして、この建物の奥の方を指さす。


「お二人をおよびしたのは教会の地下の儀式の間ですよ。ですが、今通った道を振り返ってもらえばわかると思いますが、城と教会は少し距離がありますでしょう?」

「うん。まぁ、ちょっと遠かったね」

「運動部の私たちには苦じゃない距離だったけれどね」

「そうでしたか?ならばよかったです。…それで、地下の部屋から上がる階段が2つありまして、その1つがお城につながっているのです」

「つながってるって…でも、普通に上に上がっただけだよね?」

「はい。空間魔法を用いて歪みを作り、城の一部とつなげているのです。ただ、これは簡単な術式ですので一方通行、地下から城に上ることはできても、城側から地下に降りることはできない作りとなっています」

「へぇ~」


魔法か。なるほど分からんとはこのことか。この世界に来たならば、自分たちも魔法なんてファンタジーが使えるようになるのではと考えたりしたこともあったが、誰かに教えてもらった訳でもないそんな不思議な力をいきなりポンと使えるわけもなく。寝る前に2人して散々言い合った時間をふと思い返しながら2人は苦笑いを浮かべた。


「その他にもこの世界の神々から信託を受ける際にも使用します。勇者召喚にはある程度時間がかかりますので、事前にお告げで魔物の出現を予知するのです。お話ししたのは戦闘神グージシエヌルのみでしたが、この世界の神様は沢山いらっしゃるのですよ」

「あ、それならこっちも同じだと思うよ。海の神様とか、太陽の神様とかね」

「太陽…あ、そうなのですね。ただ、こちらの世界で太陽神というと王族、私たちの血族を指す言葉になります」

「そうなの?太陽神は神様じゃなくて、人がなるんだ」

「はい、そうなりますね。皆さまは他の世界からいらっしゃったということでご存じなかったと思われますが、もし外に行かれた際には気を付けてくださいね。あまり軽々しく口にすると、王族に異を唱えるものと勘違いされることがあります」

「うわぁ。そうなんだ。確かに宗教って人が簡単に争う原因になるからね、冬威、気をつけなさいよ?」

「大丈夫だよ。俺無宗教で神様は都合のいい時にしか信じないから話題にも出ないと思うよ」


宗教の問題は地球でも深刻だ。あまり変な事言って他の人を刺激しないようにしないと。


「姫様。呼んできました」

「あら、ありがとうファギル」


そんなことを考えていると、いつの間にそばを離れたのかファギルが横の通路から出てきた。後ろから白いローブを着た男性を連れている。年齢は20台だろう黒髪の男性で、オールバックで前髪を上げている。こちらを見る瞳は緑で、優しそうに微笑んでいた。


「ハルカ様、トーイ様、紹介しますね。彼が今回一緒に魔物退治へ行ってもらう神官で、ゴールズジーザといいます。すでに何度も魔物退治を経験しているベテランです、安心してください」

「神官…じゃあ、あの人が戦うって事?」

「はい。そうなります。…ゴールズジーザ、こちらが今回の勇者様の…」


ツフェリアーナが春香と冬威を紹介する間、2人はマジマジとゴールズジーザを観察してしまった。戦うといっていたから筋肉もりもりの戦士を想像していたのだが、目の前の彼はどちらかというと文系に見える。


「ベテランって言っていたけど、大丈夫かしら?」

「人は見かけによらないのかも。だって戦うときは神の力使うんだろ?案外こういう人のほうがうまく操れるのかもしれないよ?」

「なるほどね。確かに自分の力じゃなくて、私たちに降ろした力をまた貸しする感じなんだものね、ずるがしこいくらいでちょうど良いのかも」

「…あぁ、俺もそういう不思議な力、使いたかったな」


ぼそぼそと話しているうちに紹介が終わったようだ。何やらやり取りをしていたのだが、まったく聞いていなかった。ここでちゃんと耳を傾けていれば、違和感を感じるのは早かったかもしれない。



そのあと誘導されるままに教会の中央部にまで歩いていくと、地面に召喚されたときのような魔法陣がひかれているのに気づいた。真ん中にたって足元を見ていた2人だったが、その円陣の外で自分の身長ほどもある長い杖を片手に両手を広げたゴールズジーザに気づいて視線を彼に向ける。


「*********!」


何やら呪文のようなものを唱えたかと思うと、次第に光を強めていく魔法陣。上からはステンドグラスの淡い光、下からは魔法陣による強い光。

2つの光に挟まれて、思わず2人は目をつむった。その時に小さな風を切る音がしたかと思うと首元に違和感を覚える。さっと手を当ててみるが、特に何もない様子。


目を閉じていてもわかる光が落ち着いたころ、おそるおそると目を開くと同じように目をつむっていた相手が見えた。まだ完全に光は消えていないようだが、そんな事より春香は冬威を。冬威は春香を見て、お互いに何も変わったところがないことを目で確認。


「姫様、これで終わり?」


冬威が振り返ってツフェリアーナを見るが、彼女は首を振るだけだった。まだ何かあるのか?と思っていたところにカツンカツンと足音が聞こえ、ツフェリアーナに向けていた顔を前に戻す。するとゴールズジーザが魔法陣に入って両手を伸ばして2人の額に手をかざした。


「*********」


再びよくわからない言葉を紡ぎだしたゴールズジーザをきょとんとしながらも、黙って見上げていた2人。すると短い言葉を言い終えた後、“パチン”と何かがはまる音がしてもう一度首元に違和感を感じた。


「…なんだ?」

「…!冬威!それ…」

「ん?それ?どれ?…って春香、お前首に…」


近すぎて見えなかった変化。

2人の首には茨のような模様が浮かび上がり、それがぐるりとチョーカーのように首を回って模様を描いていた。

驚いている2人。ツフェリアーナからこれが神の力が降りた証と言われたが、冬威は「首輪みたいだ」と思った言葉をなぜか発せず「そうなんだ」と返答した。

そして今までまったく感じなかった不信感を覚え、初めて根拠のない不安を感じた。

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