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117 客、そしてテンプレ?【ゆっくりと目を開ける】

ゆっくりと目を開けると、視界に入るのはどこまでも続く暗い闇。

いや、もしかしたら自分は目を開けてはいないのかもしれない。

何も見えない。分からない。

空気が漏れるような音がうるさくて顔をしかめたけれど、次の瞬間にこれは自分の呼吸が発生させている音なんだと気づいた。

“此処はどこだろう?”

そう思いながらも重い体は自由に寝返りを打つことすら難しい。 

もしかしたら、ここが地獄という奴なのかもしれない。

そんなことを思いながら、意識はもう一度深い闇に溶けて行った。



**********



拾った獣人の子をどうするか。

看病することは決定らしいが、ずっとこの場所に居るのはよろしくない。

もしかしたら連れが戻ってくるかもしれないし、食べ物だって長期保存がきくモノばかりで、弱っている人に振舞える食べ物は無いに等しい。そして何より皆治療魔法は使えない素人ばかりだ。どのような容体なのかもわからないままでは、適切な看病も難しい。ゆえに医者に見せたほうがいい。

ジュリアンが持っている力のおかげで身体の不具合箇所は知ることが出来る。だが病気ではイマイチはっきりとはわからないのだ。腫瘍等の異物が有るとかなら別なのだけど。


ではどうやって病人を運ぶか。背負う事も考えたが、衰弱が激しそうに見える子供にそれは少し酷な気もした。幸いなことに、休める場所は確保できるのだ。活用していかなくては。

ジュリアンが出したアナザーワールドの扉は、青い猫型ロボットが出すピンクの扉とは違い、自立しなかった。何処かに立てかけたり、地面に直接置いたりして活用するしかないのだが、一度立てかけの角度が悪かったのか、うっかり扉が倒れて開く方の面が地面に接触してしまったこともあった。

しかし、その瞬間に裏と表が入れ替わり、扉が開かなくなる、という問題はそう簡単に発生しないという事が分かった。

そしてそのおかげで、アナザーワールドの扉はスキル発動中であっても動かせるという事が分かったのだ。


「あとは、デザインかな…。もう少し小さくなれば、持ち運びにも便利なんだけれど」


今現在、アナザーワールドの内側に獣人の子と看病としてジュリアン、シェルキャッシュが居て、冬威は扉をサーフボードの様に小脇に抱えて旅を進めている。

最初はシロも中に居たのだけれど、看病しかしていないこの空間で『騒ぐな』『おとなしくしていろ』などと注意を受けて早々に飽きて出ていってしまった。

シェルキャッシュは道案内しなくていいのか?とも思ったけれど、一応道らしきものが伸びていて、記憶が正しければ道なりに行けばよかったはずだと言われて、それならば大丈夫だろうと判断した。分かれ道があったらその都度声をかけるという事で、外に冬威、シロ、クロが出て歩いている。

本当はジュリアンが扉を抱えて歩こうと思ったのだが、彼が中に居ないとアナザーワールドの中は真っ暗だ。火を起こしても大丈夫だと説明したけれど、自分の好きなタイミングで扉を開けることが出来ないという閉塞感に、不安に駆られると真顔でクロに言われ、内側メンバーとなった。


「…これでよしっと。本来ならば薬を飲む前に、食事もとって欲しかったのですけど」

「意識もないし、今固形物を与えるのは危ないよ」

「分かっていますわ。それにしても、いったいなぜあのような場所に…確か、大人と居たと言ってましたわよね?」

「影だけしか見てないけど、3人はいたと思う」

「なぜ、迎えに来ないのかしら?仲間が居なくなったわけですわよね?」

「仲間じゃ、無かったんじゃない?」

「…」


思わず口を噤んでしまうのも分かる。この子にはとても目につく革製の首輪をしていた。ペニキラでは痣のような模様が浮かんだだけだったが、これもきっと同じ用途として使われているに違いない。


「奴隷…ってこと。では、一緒に居たのは人間かもしれないわね」

「そういえば、シェルキャッシュさんはどうしてこっちに?…看病、嫌がるかと思ったけれど」

「わたくしの故郷の話をしているのかしら?」

「そう。…あ、純粋な疑問だったんだ。気に障ったなら謝るし、答える必要はないよ」

「別に構いませんわよ」


彼女の里は、人間と獣人の戦争に巻き込まれて滅んだと聞いた。そのせいで人間を毛嫌いし、獣人とのハーフであるシルチェにつらく当たっていたのだから、たとえ子供でも嫌がるかと思ったのだ。

そんな疑問を抱えながらも、なんと声に出そうかと考え込んでいると、シェルキャッシュは膝を立てて抱え込み、体育座りをしてから深く息を吐き出した。


「わたくしだって、分かっているんですのよ。あの戦争は多くを失った。それは私だけではない。それなのに、後ろを向いてグダグダと腐っているのは私だけ。…いい加減、前を向かないと…って」


いきなり素直になったシェルキャッシュに少し驚きながらも、軽く目を伏せることで相槌として先を促した。


「でも、頭では分かっていても気持ちが追い付かないのですわ。どうしてもカッとなってしまって、素直になる事が出来なくて…。もう病気なんじゃないかとも思っていましたわ。人間や獣人を見ると、頭に血が上ってしまう病気」

「それは…」

「でも、この子を見た時は違った」


そう言って、シェルキャッシュは視線を横になっている小さな身体に向けた。やせ細った四肢、尻尾や耳の毛はくすんでいて、ボサボサで長めの髪にすら艶は無い。一応生活魔法の浄化で綺麗にしてあげたが、汚れだけでは無い質の悪さが見て取れた。


「小さな命。たとえ嫌いだった獣人でも、懸命に生きている。…もしかしたら、死にたいと思っているのかもしれないけれど、それでも今は、生きている」


もしも倒れていたのが獣人でも子供じゃなかったら。きっと「放っておけばいい」と言っただろう。差別だと言われても仕方ない。それほどまでに、子供が弱っている姿にショックを受けたのだ。エルフの里という安全地帯で過ごすうち、平和になれていたのかもしれない。まだ、戦の爪痕はそこかしこに残っているというのに。

そんな胸の内をうまく言葉に出来なくて、思わず涙ぐみそうになった顔を上げた。


「少し、頭を冷やしたいわ。外に出してくださらない?」

「…分かったよ。無理は、しないでね」

「ふん」


ツンと顔をそむけるシェルキャッシュに苦笑いを浮かべてから立ち上がり、ジュリアンはドアに触れた。


「トーイ、ドアを開けたい。何処かに立ててくれないかな?」

「お?分かった。…容体はどう?」

「なんとも言えないね。薬剤も限られたものしかないし、それが効くとは限らない」

「なるべく早く、医者に見せないとな…っと」


トン。と軽い音で地面に下をつけて、冬威がその手で倒れないように支えたのを確認してからジュリアンは扉を開けた。そしてシェルキャッシュを振り返ると『開けてもらって当然』という態度で出ていく。

思わずポカンと見送った冬威だったが、軽く頭を振って意識を切り替えるとジュリアンに顔を向けた。


「横向きにして抱えてたけど、中の様子はどう?」

「あぁ、こっちはまったく変わらなかったよ。扉が旋回しても、中に被害はないだろう。ただ、こちらから外を見てると、クルクル動くから、寄ってしまうかもしれないね」

「はぁ~。何か、便利だな。…そうだ、次の場所でテントとか買わない?」

「テント?このスキル使えば雨風はしのげるけど?」

「そうだけどさ、壁が無いと落ち着かないんだよ。どこまでも続く闇っていうのも怖くてさ。それに、俺が日本人だからかな?狭い場所じゃないと落ち着かなくて」

「それにしてはぐっすり夜寝ていたみたいだけど…」

「それは疲れてたから!!!寝入るときは扉の方向いて、ちゃんと壁があることを意識してたんだって!」


冬威の言葉も分からんでもない。確かにジュリアンも狭い所は安心する。かといって広いからどうだとも思わないけれど、このメンバーには女性が居るんだ。目隠しのためにもそういった仕切りを用意してもいいかもしれない。

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