113 手紙、そしてお使い【皆で呆然と】
皆で呆然とその場に立ち尽くしポカーンとしてしまっていたが、シロがキャッキャと笑い声をあげたのをきっかけに『何だったんだ今のは』と考える余裕が出た。
「あはは!楽しかったな!ジュリアンもトーイも変な顔!」
「驚いたよ。さっきのは魔法…なのかな」
「うむ。おそらく風を使った魔法だろう」
「え、転移とか、移動とか、サイコキネシスとか、そういったモノじゃないの?」
「そう思うのは分からなくもないぞ、トーイ。だが、神樹様とやらは森の主。おそらく大地を操ることに長けている」
「へぇ。でもあの魔法は風なんだろ?地じゃ起こせないぞ?」
「相性ってやつじゃないかな?覚えるのに相反するものよりは覚えやすいってやつ」
「そっか、なるほど!」
「あははは!シロもやる!もう一回やってみる!」
「落ち着け、シロ。今のおぬしでは、落ち葉が舞い上がるだけで移動までは行かぬ」
「えぇ!?どして?シロだって風使えるのに」
「魔力が足りないわけでは無い。制御が甘いのが問題だ」
「むー」
「だから我と修行をしようと言ったではないか」
「だってぇ~疲れるんだもん~」
「修行とはそういうものだといっているのに」
見た目は身長のあるシロが年上なのに、会話をしてみると小柄なクロがお姉さんだ。微笑ましいなんて思っていたが、ふと気づくとこの場にシルチェとトズラカルネが居ないことに気づいた冬威は、グルリと首をまわして周囲を見た。
「あれ?トズさんたちいないぞ?」
「え?あ。本当だ…」
「ちょっと!いったいなんですの!?さっきのお力…まさか神樹様が?」
どうしたんだろうね、という話題に発展する前に、やっとショックから立ち直ったらしいシェルキャッシュが立ち直って森の入り口に近づいた。しかし何かそこにあるのか、若干不自然に足を止める。ワサワサと手を動かして何かを確かめている彼女の動きは、パントマイムで見えない壁を表現している芸人に見えた。
“シェルキャッシュ。私は君にお願いをしたね”
姿を見せないまま、あたりに神樹様の声が響いた。ハッとした顔をしたシェルキャッシュは数歩後退って初めて狼狽えたような顔をした。
「まさか、本当に…」
“『ドルァルエクス』までの道案内、そして『ドルチェス』での勉学。君はそれを了承した”
「でも、わたくしは人間が…一度しっかりお断りしたではありませんか!戯れにお声をかけてくださったのではなかったのですか?」
旅立つ人間たちの道案内として話をふられたが、当然1回目は拒絶をした。しかし2回目に声をかけられたときは周りに取り巻きたちがいて、神樹様に頼られる、どことなく優越感を感じる気分だったのだ。「そこまで頼まれては仕方がない」とか「わたくし以外に出来る者はいない」なんて気分よく口にしてしまった。
今更それを撤回なんてできないと今になって気づいて、顔色を悪くする。勝手に震えだす身体を抑えるように肩をだいてから、その場に膝をついて頭を下げた。いわゆる土下座だ。
「い、嫌です!この森を離れたくありません。神樹様、どうかお許しください!」
“では、私のお使いは拒否するという事ですね”
「拒否…いえ、ですが…わたくしは…」
神樹様は森の神。このお願いを断れば、神樹様からの信頼は地に落ちる気がする。何せこの人間たちは神樹様が長年待ち続けた待ち人であり、予言に会った客人…らしいのだ。
思わず返事を言いよどめば、呆れた様に神樹様のため息が聞こえて、肩がビクンと跳ねた。
“そこまで怯えることはありませんよ。同行する彼らには迷惑になるかもしれませんが、失敗してもいいのです。どうしても無理であれば、帰って来てもいいのですよ”
「え!!?」
捨てられるような強い物言いにビクビクしていたが、帰って来ても良いという言葉に希望を見つけて顔を上げた。相変わらず姿は見えず声だけの神樹様を探す様に視線を動かしながら、表情は明るく変わる。
失敗してもいいのか。とりあえず依頼を受けて、森を出た。後は適当に時間をつぶして、ダメだったと帰ればいい。そんなことを考えているのが分かったのか、くぎを刺すように神樹様が先を続けた。
“無理をしてまで、行って来てほしいわけではありませんからね。シェルキャッシュ、貴方が失敗した後は、シルチェに後任を頼みましょう。彼ならきっと、やり遂げてくれる。心強い森の民、我らの仲間なのですから”
「え」
思わず表情が抜け落ちた。
失敗しても良いと言われた。それは嬉しい。だが、その失敗をカバーするのが半端モノとしてつまはじきにしてきたシルチェだと言われると納得できない。しかし、いつものように『何故彼を頼るのですか!』とは言えなかった。誰かが任務を失敗すると、その人より強いと言われる人物に割り振りが変わる。シェルキャッシュは自分でいうのもなんだけれど、上から数えたほうが早いと自負している。そして自分を取り巻く者たちは、自分より下だと思っている。
シェルキャッシュが失敗した任務、それだけでやりたいと手を上げるメンバーはいないと言っても良い。
羞恥と、怒りと、悔しさと。そんな気分がないまぜになって、シェルキャッシュは拳を握り、フルフルと小さく震えた。
そんな彼女たちをとりあえず黙ってみていた冬威は、首をジュリアンに向けて頭をガシガシと掻く。
「とりあえず彼女、同行する感じになるのかな?」
「話の流れ的に、そんな感じだね。…僕らにとってもあまり望ましい事ではないけれど…」
冬威の言葉に軽く肩をすくめてからジュリアンはいまだ手にしている靴を一瞥した。
…ってか、いつまで持ってればいいの?邪魔だな。差し出せば今度は素直に受け取るかな。それとも放置したほうが良いのかな?置いて行って良いだろうか?と思った時。
-シュン-
「え?」
ジュリアンが握っていた手のひらから、靴が消えた。目をパチパチと瞬いてから手を開いたり閉じたりしてみる。ジュリアンの視線を追うようにして、自然な動きで靴を見ていた冬威も、思わず身を乗り出した。
「ん?は?あれ?え、ジュリアンさっき…」
「ちょっとまって。僕も今、混乱してる」
「…手品?」
「ちょっと待って。今、僕は混乱してる」
持っていた物が消えた。誰かが奪った?しかし周囲に自分たち以外の人影はない。
では何故…と考えてハッとした。
「そういえば、夢…のような何かを見た」
「夢?」
「そこで…なんか新しい力的なサムシングを…」
「something…なんで部分的英語?」
首の細い鎖を引っ張ってギルドカードを引き出し、ステータスを表示してみる。
しかし、特に変わった点は見られない気がする。確か『異空間倉庫』とか言われた気がするけど…
「うわぁ!」
悩み、考え込んでいたジュリアンの耳に冬威の声が届いた。若干悲鳴に近い驚きの声だ。パッと顔を上げて姿を確認してみれば、彼もまたギルドカードを握っていた。
「どうした?」
「俺も、夢見たんだ。変な夢。太陽が降ってきて、ぶち当たる変な夢!」
「太陽…」
「いや、それはどうでもよくて。それより見てよこれ!」
そう言って差し出すギルドカード。表示画面はステータスだが、言われるままに視線を落としたジュリアンは眉を寄せた。
「え…」
▲▽▲▽
名前:トーイ・サザメ
種族:人間
レベル:6
ギルドランク:1
状態:主「ジュリアン・グロウ」従属「ジュリアン・グロウ」
物理適正:○×5
魔力適正:-
状態:従属
称号:異世界からの訪問者、勇者
威力:○×5
耐久:○×4
パワー:○×5
スピード:○×5
スキル:
▲▽▲▽
「スキルが消えた!なくなっちゃったよ!?」
やっと!やっっと!!冒険に入るんだぜ!
次回はお待ちかね、みんなのステータスを公開する予定なんだぜ。
…待ってないって?
スイマセン!