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111 手紙、そしてお使い【木々が生い茂る】

木々が生い茂る深い緑の中の道を、冬威たちはまっすぐ歩いていた。目指すのはこの森の外、神樹様が指定した人物がいる学園だ。

その都市の名前は『ドルァルエクス』。通称は学園都市ドル。

話を聞く限りだと、目的地の都市が丸々1つ学園に通う生徒たちの為に整備されているらしく、学園都市として知られ、魔法が盛んなデンタティタル国屈指の有名な都市のようだ。

その中でも魔法を中心に学ぶ学校が『ドルチェス』、魔法を使う騎士を育てる『ブラトーアース』この2つの学校が主に高校に位置し、そこまでの人材を育てる小中学校に当たるのが『ハルトブリーチ』。

学園都市といわれるだけあって、希望するなら3歳児から学園という教育機関に放り込むことが出来る。そんなデンタティタル国の識字率は90%を超えていて、これはこの時代、この文化の世界では高い方だと言えるだろう。


今、勇者一行プラス2名、総勢6名で森の中の一本道を歩いていた。

ジュリアンの隣に冬威がいるのは当然で、ずっとついてきているシロ、シロのお守りとしてついてきているクロ。この2匹…今は人型になっているので、2人か…も今までヒラヒラふわふわしていた服装を変えて、よりしっかりとした旅の装いをしている。種族柄防御力がなさそうなそれまでの服装でも問題はないのだけれど、人とまぎれて活動してくと決めたなら見た目だけでもどうにかまぎれてもらわなくてはならない。なのにシロは最後まで靴を履くことを嫌がっていた。だが、さすがに大丈夫とはいえ素足で行かせるのはよろしくない。素足で歩くことを変に勘繰られて奴隷と思われてもおかしくない。人間の姿でいるなら我慢してくれとジュリアンがお願いしても、犬(正確にはどちらかというと狼らしいのだが、良く分からない)の姿だと突進して抱き着く事が出来ないとか、足を覆い隠す構造が嫌だと言って聞き入れなかった。

結局仕方なく、ジュリアンが手先が器用なことを生かして、森の細い蔦を選んで編み込み、なんちゃってグラディエーターブーツのようなものを作ってあげた。ヒールがあると動きにくかろうと、少しだけかかとに厚みがあるペタンコタイプで、ちゃんと中敷きもどきには柔らかい布を敷き詰めてクッションを用意。意外と高性能で履き心地もよかったらしく、これならばとシロは身に着けてくれた。

まったく我儘なんだから。


依頼達成の後、では旅に出る用意をしようか。また鞄を用意するところからだな…とのんびり考えていた冬威だったが、神樹様がいつのまにやら旅の支度を整えていて、以前の町で丸っとなくした旅に必要な物資と、貴重だという空間魔法のかかった魔法の鞄を用意して渡してくれた。

これにはさすがに貰いすぎだと慌てた冬威とジュリアンだったが、神樹様の「必要経費だから」という言葉に最終的には押し切られた。

さらにジュリアンには、手紙とは別に今の彼の右腕にはまっている腕輪と同じようなシンプルな木製の腕輪を渡されていて、手紙と一緒に対象の人物に渡してくれと追加の荷物も渡された。


まぁ、色々準備してもらってしまって居るし、それくらいなら手紙のついでとして問題無いのだけれど。と二つ返事で快諾し、今に至る。


「今日は霧も出ていないようで、絶好の旅の出発日和、みたいですね」


目的地に思いをはせながら、新たに用意した鞄を肩にかけなおしつつジュリアンが誰に言うでもなくそう呟いた。


「この道は大体こんなもんだ。むしろ、道以外から侵入したお前たちが異例だったと言える」


ジュリアンの言葉には道案内としてついてきてくれているシルチェが答える。彼の恰好は出会った時と同じで、黒い装いに斧を一本担いでいた。今回は見送りという事で、それ以外の罠だったり、大きな荷物は持っていないが、それでも森を通過するという事で彼もそれなりに大荷物だ。


「そうさ。神樹様の守りの力が森には充満しているんだ、あの霧は守りの力が働いている証、エルフの里では当たり前のことなのさ」


シルチェのぶっきらぼうにも聞こえる言葉に付け足す様に、トズが補足を足す。


「そうなんだ。霧ってあれだろ?細かい水滴だろ?だからずっと霧がかかってる場所って、じめっとしてるっていうか、太陽が恋しくなるっていうか…」

「でも里の中は日差しが入っていたでしょう?」

「え?そうだった?ジュンはよく見てんだな」

「いや、今朝はトーイだって朝日に目をやられて騒いでいたじゃないか」

「あ!そういわれてみればそうだったな!」


こんな感じで和やかに進んでいく一行。ジュリアンに「しっかりしてよ」なんて言われながらも、それが本心ではなく、多少のからかいが含まれていることもわかる。あぁ、平和だな。そんなことを考えていた冬威だったが、視界に入った物体に思わず2度見してからばれないように視線をそらした。


“ブラブラ”


風に揺れるでもないそれは、明らかに誰かの足。木の上に誰かが座っていて、その足を投げ出しているようだ。幸いにしてその木は道から少しばかり離れた場所、木々の密集している森に食い込んだ場所に立っているため、とりあえず視線を向ける仲間は居ないようだ。

ただ、これがふつうに普通の足だったなら、誰かが迷子か?と心配して声をかけようと思っただろう。しかし、そうできない、そうしたくない理由がその足にあった。

なぜか?それはその足が履いている履物、靴が見覚えのあるものだったからだ。

森の中で生活するには適さない、ピンヒールのそれを身に着けていた存在は1人しか知らない。

これは触らぬ神に祟りなし、スルーするに限る。


「(ってか、え?あれ何してんの?…そういえば、神樹様はあの子も一緒にって言ってたんだよな。でも約束の時間に来なかったから、もういいんじゃね?ってことで出発して…え?ええ?もしかしてついてきた?追いかけてきた?それとも神樹様に怒られて仕方なく?…うわぁ何にせよ声かけるにかけらんねぇじゃん)」


そちらを向かないように視線を伏せる姿は、逆に少しだけおかしかった。しかし、何事もなくそのあたりを通過。ホッと胸をなでおろしたところで“カサカサ”と葉が揺れる音。

なんだろう?と首を傾げかけた冬威だったが、その視線はまたしても先ほどの足を見つけた。

しかも、進行方向に先回りして、先ほどよりは道よりの樹を選んでいるらしい。


「…」


思わず絶句した冬威をみて、ジュリアンはクスリと笑った。その声に反応して視線を向ければ、ごくごく小さな声で彼は言葉を紡ぐ。


「どうやらずっと、付いて来ていたみたいだよ?」

「え、マジで?俺全然わからなかった」

「腐ってもエルフ。森の中では彼女の隠密はそう簡単に見破れない」

「ふふっ、でもジュリアンにはばれていたみたいだけどな。そこんとこどうなんだい?シルチェ。森の狩人として」

「勘が鋭いのか、それとも別のスキル持ちか…。なんにせよ、うらやましい事だな」


コソコソと話しながらも揺れる足に接近は続く。

隠密行動が得意なのに、あえて足を出しているという事は、見つけてほしいんだろうか。


だが、だれも何も言う前に心は一つになっていたようだ。


揺れる足に誰も視線を向けることなく、一行は再びスルーした。


…いや、シロだけはガン見していたみたいだったけど。

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