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110 手紙、そしてお使い【「さて、まずは昨日の】

「さて、まずは昨日の依頼の報酬からだね」


朝、朝食を終えて少しだけのんびりしてから、エルフの里の冒険者ギルドにまで来た冬威たち勇者一行(一応勇者が居るからね)を出迎え、カウンターで対応してくれているのは一緒に食事をとったはずの神樹様だった。自分の事を話したこともあって、無理に固形物を取る風に装う必要は無くなり、ジュリアンと人樹である神樹様は水分とスープのようなものだけだったのだが、それで十分だった。

それよりも。

出かけるのを見送ってくれた気がするのだが、何故あなたが此処に居るの?と思わず聞けば、君たちについてきたんだよ。と返される。

何でカウンターで仕事してるの?と聞けば、やりたかったから、と返された。

大丈夫なの?と心配すれば、ここの里で自分に意見が出来る人は長くらいなものさと笑いだし、そういう意味じゃなくて…と言葉を濁せば、受付嬢も休憩出来ていいんじゃない?と返された。

うん。もういいや。この里の事だもんね、何も言うまい。

ちなみにシロとクロは2人して依頼が張り出されている掲示板の前に立っている。どんなものがあるのか見ている様子だが、シロは文字が読めていないので良く分からないけど楽しいのだろう。あるよね、そういう時。


「簡単な採取依頼だから、500Gゴールドだよ。お使い感覚で簡単な仕事だったから、報酬も安めだね」

「そうですね。でも大丈夫ですよ神樹様。それを承知で受けたんですから」

「ってか神樹様のおすすめって強引に決定されたから他を選ぶ余地はなかったけどな」

「トーイ、そういう事は思っても黙ってるものなの」

「…ちょっと2人…いや、失礼とか思わない事にするよ。私も半ば嵌める形で称号を取得させたからね」


冬威は誤魔化さないでストレートに言葉にしてくるし、ジュリアンはそれを窘めはするけれど否定はしない。2人して同じような事思っているんだな、と苦笑いしながら右手の掌を上にして神樹様は2人の前に差し出した。


「報酬を振り込むから、確認してくれる?…って、リーダーはどっち?」


そうだ。そういえばこの世界のお金は電子マネーのような物だった。この里でやっと硬貨を使っている人を見かけたけれど、それでも主流なのはこのデータのやり取りのようなのだ。ジュリアンと冬威はお互い顔を見合わせてから同じタイミングで口を開いた。


「ジュン」

「トーイで…あれ?」


しかし、口にした言葉はお互いに違った。冬威はいつも自分を引っ張ってくれるジュリアンを。ジュリアンはいつか必ず自分はいなくなるのだから、今からリーダーシップをとってもらいたいという思いがあったが、思わず再び顔を見合わせてしまう。


「ジュンだろ?ペ…あの国に居た時からリーダーだったじゃん」

「でも、旅の目的は君のためなんだよ?いざというときの決断は君に掛かっているじゃないか、トーイ」

「いや、俺は『こうしたい!』って要望をいう事しかしてないと思う。それをうまく取り仕切って、かなえてくれたのはジュンだろう?」

「そんな事ないと思うけど。第一このたびの目的は…えっと…彼女、のためだろう?僕はその手伝いをしているにすぎないよ」

「え?何々?トーイ、君には思い人が居るのかい?」


旅の目的と終着点を口にしても良いものか迷って何となく濁せば、ニコッと反応して神樹様は楽しそうにそこを突っついた。と、その言葉に反応してシロが近づいてきて背後から飛びついた。


「思い人!好きな人!彼女!彼女だ!」

「うっさい!なんでそれに反応してくるんだよ。だから離れろって!」


仲良く騒ぎはじめた2人はとりあえずそのまま放置して、ジュリアンはさりげなく人差し指を冬威の首筋に触れるか触れないかの絶妙な位置をなぞった。その指は的確に冒険者のギルドカードを下げている鎖をひっかけて服の中から引き出す。そのまま流れるような手つきでカードを外して、神樹様が差し出していた手に乗せた。


「これで、お願いします」

「おぉ…もしかしてジュリアン、君はシーフ系のジョブを持っているのかい?」

「ジョブ…って、このカードの職業のところですよね?僕は賢者しか…あ、あと蘇りし者か。それだけですよ」


やりなれている様子の手つきに感心したような声を出しながら、神樹様はそう問いかけつつ入金作業を始めた。冬威が「あぁ!俺リーダーじゃないのにぃ!」と叫んでいるが、そんなことは些細な事。躊躇わないあたり、神樹様はジュリアンの言葉に素直に従うようだ。


そういえば「称号」って言ってるけど、賢者の称号って「職業」欄に出てるんだよな。

でも「リンクアシスト」は出現条件が賢者の称号取得で、ちゃんと取得出来てるから…賢者の称号…なんだよな?っていうか、賢者の仕事ってなんだ?勇者をサポートしてればいいんだろうか?


唐突にそんなことを考え始めたジュリアンが黙ってしまえば、ふと手を止めて神樹様が顔を上げる。しかしその動作に気づいて笑みを向ければ、彼もまた微笑んで作業に戻った。


「さぁ、終わりましたよ。これで依頼は完了です。では、次に指名依頼をさせていただきたいと思います」

「指名依頼?そんな話聞いてないぞ?」

「フフフ、今朝思いつきましたからね」


そう言って神樹様はデスクの下から封筒を1つ取り出して、カウンターの上に置いた。しっかりした紙で作られた便箋は、赤い封蝋で閉じられている。その印も植物をモチーフにした豪華なもので、この手紙が普通の手紙ではないだろうという事がうかがえた。


「これを届けてほしいのです。私の知り合いであり、魔術学校の事務員をしていた人物に」

「していた?今は学校にはいらっしゃらないのですか?」


ジュリアンの質問はもっともだ。学校にまで行かせて、そこに目的の人物がいないとなると依頼達成にはならない。しかも学校とは全然関係ない場所に居たりしたら、それこそ無駄足になってしまう。そんなことを心配している顔だ。しかし、心配は無用だ。


「いいえ、学校に居るはずです」

「でも、なんだか過去形っぽい言い方だったじゃん」

「えぇ、彼は事務員をしていた。過去形です」

「では、今は?」


興味津々…とまではいかない気もするが、不思議そうに首を傾げる様子を見ていると何となく楽しい。小さく笑ってから神樹様は口を開いた。


「彼は出世したんです。今では理事長を務めているそうですよ」


困惑した顔は、すぐに驚きに変わった。

ジュリアンはそのあとすぐに苦笑いを浮かべ、きっと「すごい頑張ったんだな」なんて思っているのかもしれない。冬威はいぜんとして驚きのまま「事務員が理事長なんかになれるの?特別な資格とか、必要じゃないの?」なんて言っていた。

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