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109 クリエイト、そして変身【早朝ののんびりとした】

早朝ののんびりとした空気の中で不思議な夢の話をしようとしていた2人の耳に、トタトタと軽快な音が近づいてくるのが聞こえた。ごく自然な動作で扉の方を向けば、タイミングよく“バタン”と勢いよく扉が開き、シロが飛び込んでくる。

服装は昨日と同じワンピース姿。ただ、模様が若干違う気がするので、着替えを与えられたのだろう。しかし、ノースリーブで袖なしだ。室内は寒いわけでは無いが、それでもジュリアンと冬威は長袖を着ている。寒くないんだろうか?と思ったが、そうだ。シロは精霊で、しかも風をつかさどるフェンリル。気候なんて関係ないのかもしれない。


「朝になったぞ!おはようだぞ!」


ドアのところで仁王立ちし、両手を腰に当てて元気よく挨拶をする。その様子に微笑んだジュリアンが、軽い会釈とともに返事を返した。


「おはよう、シロ。朝から元気だね」

「元気ってか…テンション高いなぁ。それに何時寝た?早起きだな。俺だって普通だったらもうちょっと寝てるのに」

「トーイ、確かサッカー部じゃなかった?朝練とか無かったの?」

「あったよ。でも、まだ日が出たばかりくらいじゃね?さすがに明るくなる前に布団からは出られないよ」

「そうなの?イメージだとまだ夜も明けないうちからランニングとかしてる感じだけど」

「あぁ、そういう奴もいるよ。でも、俺ってば夜遅くまで練習してるタイプだったから、朝は5時…遅くて6時くらいにしか起きられなくて」

「でもそれってちょうど日が出るくらいの時間じゃないの?」

「あれぇ?」

「じゃあ、変な夢見て飛び起きたみたいだったけど、この起床は普段通りなんだね」

「うーん…そうなるのかな?」


眠っていたわけでは無かったので、ごく自然に受け入れて和やかな空気に混ざっていく。シロは『まるで子供だな』と言いたくなるほど元気いっぱいで、挨拶をしながらジュリアンに抱き着いた後は冬威にタックルして、ゴソゴソと布団の中の暖かい場所に潜ろうとしだした。姿が春香に似ている…というか、瓜二つのために、面白いほど慌てて追い出そうとする冬威。

と、後からついてきたらしい別の人影がドアの前に立ち、呆れた様に息を吐き出す。騒がしくなっていた室内ではまったくその存在に気づかずに、声をかけられて初めて気づいてそちらを見た。


「まったく、それほどまでにジュリアンが好きか。ほんの僅かな睡眠の後、この部屋に突撃しようとしだすから、せめて日が出るまではと引き留めるのに苦労したぞ」


腰に手を当ててあきれ顔の少女がいた。

…そう、少女。

黒い髪はサラサラのストレートで、お尻を覆い隠すくらいの長さがあり、鋭いまなざしを向ける瞳は金色で視線が突き刺さるかのような力強さを感じる。だが、少女。

身長は130cmほどだろうか?1桁…ギリギリ2桁くらいの女の子だ。


「え、だれだ?ちょっと君、部屋間違えてんじゃ…」

「ちょっとまって!」


思わず素でそう言ってしまった冬威の口を慌てて抑えるジュリアン。彼にはその配色に心当たりがあった。失礼とは思いながらもマジマジと観察して声をかける。


「…まさか、クロ?」

「ほう。ジュリアンは分かったか。あまり期待はしていなかったが、おぬしやるな」

「え!?クロって、あの竜だよね?あのニャンコだよね!!??…女の子だったのか」

「む。これでも1500歳を超えておるのだぞ!もう子供ではないわ!」

「1500!…って、凄すぎてどれだけすごいのか良く分からないんだけれども?」

「確か、龍で長寿だと5000年は生きるって話をしていなかったっけ?」

「うむ。そうだな。だから私は、人間でいうと…。えーっと、いくつくらいかの?」

「仮に龍の平均寿命を5000年とすると、今…クロの正確な年齢は?」

「分らぬ。1500は越えているが、それ以降は数えておらん」

「…じゃあ1500歳って事にしておくね。で人間の寿命を…この世界だと平均寿命いくつくらいだろう?」

「知らね。…案外若いんじゃね?魔物とか居て戦いも多そうだし」

「うーん、じゃあ60くらいにしておく?」

「それくらい?が妥当?良く分かんねぇ」


これくらい、とおおよその検討をつけて計算してみると、龍の1500歳は人間の20歳くらいに当たるのでは?という結論に至った。


「なんだよ、ちょうど脂がのってて良い頃合いじゃん」

「トーイ、なにその言い方。でも確かに、一番力があるときだよね、人間の20歳って」

「バカやって取り返しがつかなくなるのもそれくらいだよね」

「…まだ17歳の君が何をいうのだろうか」

「わ!それは言わない約束だぜ、ジュン」


このままでは収集がつかなくなりそうなので、ジュリアンが強引に話の路線を変えることにする。ずっと様子を見ていたシロは、ジュリアンと冬威がじゃれているとでも勘違いしたようでジュリアンに向かってかなり勢いよく飛びついた。…が、それをサッと彼は避けて、代わりに冬威が強烈なタックルをくらいベッドに撃沈。

キャッキャとはしゃぐ2人…いや、シロだけだけど…は放置して、ジュリアンはクロに入室を促しながら少し歩み寄った。


「で、どうしてクロも人型に?」

「うむ。今まではフェンリル…いや、シロの側にいるためにあの姿をとっていた。魔物なら魔物の姿でいたほうが、傍に居やすいのでな。だが、シロは昨日人間の姿を覚えた。これからあの姿で活動するなら、我も同じ姿の方が何かとフォローしやすいだろう」

「確かに。魔物と人間だと生活やルールがまったく違うからね。しかも女の子ってなると…僕たちだとついていけない場所もきっと出てくる。もしかして、それを見越して女の子になってくれたの?」

「…我は雌だから当然だろうが」

「え!」

「ん?」


雌…ごめん、分からなかった。と心の中で謝りながら、誤魔化す様に微笑みを浮かべる。


「変化って言ってクロは猫系の魔物になってくれてたけれど、その姿だと人間の場合まだ子供だよ?できればシロと同じくらいの年齢が良いと思うんだけど」

「……。…のだ」

「え、ごめん、聞こえなかった」


聞き逃してしまった事に謝罪をして少し身を乗り出し、耳を近づける仕草をすると、ギンッと音が聞こえそうなほどの鋭い視線でクロはジュリアンを見上げた。


「に、人間で変われる姿はこれだけなのだ!」

「え、な、なんで?20歳って言ったら、僕より年上…」

「知らぬ!わからぬ!えぇい!子ども扱いするでない!」


性別が分からなかったことを誤魔化した話題だったのだが、こちらも地雷だったようだ。

ただ、怒るというよりは恥ずかしい思いをしている様子。よかった、怒らせていないようで。

クロが本気で怒ったら、虫をつぶすかのように簡単に殺られてしまうだろうからね。



*小話*


ジュリアン(以後J)「今更なんだけど、シロ、クロ」

シロ「何?何??」

クロ「なんだ」

J「名前なんだけどさ、勝手に僕が決めちゃってるでしょ?シロは…まぁ、名前なかったのかな?とは思うけど、クロは自分の名前って持ってないの?」

クロ「無い。というか、必要がない。龍は個体数も少ない故な」

J「でも、誰か人間とか別種族に呼ばれたりとか、通りなが付いたりとかした事ないの?」

クロ「…通り名?」

冬威「あれだな。黒き風を纏いしうんたらかんたら…みたいな」

シロ「破壊の黒嵐とか!」

冬威「黒い死神とか!」

シロ「破滅の黒い彗星とか!」

冬威「ぶっはっつ!!!wwwおぉ!わかるくちだな、シロ!」

シロ「そうだな!トーイ!」


クロ「無い。…というか、要らぬ!」

J「だよね…じゃなくてね…」



名前を自分で決めたら?って聞きたかった様子。

けど、2人(匹)は別にどうでも良いらしい。

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