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010 旅立ち、そして違和感【夜。】

夜。

春香と冬威は2人で1つの部屋に案内された。本来ならば男女で別の部屋にわかれるのが普通なのだが、この世界に来てまだ数時間で知人と離れるのは不安だということもあり同じ部屋を希望したのだ。そして現在密室に2人。シチュエーションを見れば若い男女が密室で2人なのだが、そこにピンク色の空気はない。


「言っておくけど、夜中に変な事しないでよね?」

「しないよ!しようと思ったこともないって」

「ふん。…なら良いけど」


誰もいない2人だけの部屋、もしかしたら…いやでも…なんて考えている冬威。そんなタイミングでまるで心を読んだかのような春香の言葉を受けてしまえば思わず反射で思ってもいないことが口から飛び出してしまう。内心後悔の嵐が吹き荒れるが、それを表面には出さずに苦笑いで留めつつ、それに気づかないままで春香は視線を窓の外の星空に向けるのに合わせて彼も視線を外した。


「あれから地球も、ここと同じだけの時間が流れているのかな?」

「どうだろ?そこらへんキチンと聞いてなかったな」

「今だからわかるけど、第2王女という高い地位の人が居てくれたのはある程度不安を払拭するためだったんだよね?」

「…うん?よくわからないけど、俺より頭のいい春香がそう思うならそうだったんじゃない?」

「…はぁ…」

「なんだよ?ため息なんかついて」

「チャンスだったなって思ったの。いろいろ聞くチャンス」

「チャンス?でもちゃんと色々聞いたじゃん」

「確かに、分からないことは聞いたと思うよ。ここはペニキラって名前の国で、私たちの地球とは違うってことも、魔物を倒すために私たちを呼んで、終わったら帰れるって事も聞いた」

「…なら、何が問題?俺だって大分混乱してたんだ。冷静に見えたけど春香だってパニクってたんじゃないの?それなのにそれだけ聞けばいい方だと思うけど」

「かもしれないけど…さっきも言ったけど時間の流れの違いとか、送り返すって言われたけどそれは本当に安全なのか?とか。冷静になった今、もっと知りたいことが出てきたわけよ」

「あぁ、なるほどねぇ」


言われてみれば。時間の流れは確かに気になるところではある。男の子である冬威は1日くらい無断外泊してもまぁ親に怒られる程度で問題ないかもしれないが、女の子である春香はそうもいかないだろう。見目もいいし、最悪誘拐なんて話になって警察沙汰になっていたら困るかもしれない。


「携帯はもちろん圏外だったし、それに…夏輝の事も」

「夏輝?…そうか。俺たち、あいつの目の前で消えちゃったことになってるんだよな」


思い返してみると、落下していく時に魔法陣の外で驚いた顔をしてこちらを見ている夏輝の姿が地球で見た彼の最後の姿だ。あの後光が消えて普通の地面が戻ってきていたとしたら、夏輝は2人の失踪をどんな思いで受け止めているのだろうか。


「心配…してるよね」

「たぶん。俺だったら発狂してもおかしくないレベル」

「それは言い過ぎ…でもないか。私もパニックになってると思う」


でも、起きたことを包み隠さず他者に言ったとしても、信じてもらえるはずがない。夏輝は大丈夫だろうかと不安げに眉を寄せる春香に気付いて冬威は空元気を発動させつつ大きく伸びをした。


「まぁ、今グダグダ考えたって仕方ないじゃん。明日その魔物のところに出発して、運が良ければその日のうちに帰れるんだろ?」

「そう言ってたわね」

「ならとりあえずぐっすり寝て、すぐ行動できるようにした方が良いって」

「確かに。…あれ?でも移動って…馬だよね?」

「うん?確か…馬車を用意するって言ってたな!俺、馬車とか初めてなんだけど!」

「はいはい、テンション上げるのは良いけどちょっと待って。聞いた話だと、この国の辺境に位置する村での魔物退治に行くって言ってたよね?」

「うん。言ってた。姫様も実は行ったことが無いから、よくわからないのゴメンね、って言ってた」

「それはあの護衛の人…ファギルさんも同じだったよね?」

「うんそう。人が多いと端の方まで見ることが出来ない。私がその場に居れば姫様に手数をかけずに済んだものを…って言ってた」

「いちいち真似しなくて良いわよ。…でもそれだと、やっぱりちょっと…」

「何さ?」


少しでも春香を元気付けようと笑いを狙って物まねをしてみる。少し怒ったような言い方だったが、彼女の顔にも笑みが浮かんでいることから失敗ではなかったようだ。しかし彼女の疑問を感じているようなセリフと腕を組む様子に冬威はすぐさま思考を切り替えて聞く姿勢を作る。


「馬で1日って、それほど遠くないんじゃない?」

「…そう…なの?」

「車で1日かけるってなると、それこそ東京から大阪くらいまで行けるよね?」

「1日を24時間って考えると、そんなにかからず着くと思うけど…」

「詳しいことは置いておいて。馬を走らせるとしてもずっと全力で走ってるわけじゃないでしょうし、車ほど早いスピードを維持できるとも思えない。それでも1日で辺境まで着くってことは、案外この国、小さいんじゃない?」

「…ほら、あれだ!馬が俺たちの想像する奴とは違って、めっちゃ俊足とかさ!」


ああでもない、こうでもないと言い合ううちにどれくらい時間が経っただろうか。本当の事が分からない2人が言い合ったって真実には届かない。それに自分たちの星ではないのだから、この話し合いも途中から無意味なものになっていることに気付いて春香は軽く手を挙げた。


「やめやめ。私たちが頭をひねったってわかる事柄じゃなかったわ」

「たしかに。正解が分からないクイズをしている気分だったな」

「小さかろうが大きかろうが、ここが地球ではない別の星の1つの国で、魔物退治を手伝ったら帰れるってことが分かってれば、細かい事は別にどうでも良い事よね」

「そうだな。どうせ上手く行けば明日には地球に帰れるんだしな」


うむ。

程よく頭脳を使って眠気も一気に感じ始めた。とりあえず先の事は明日考えようという結論に至り、2人は就寝するのだった。



**********



「おはようございます。よく眠れましたか?」


翌朝。朝食の席で再び再開したツフェリアーナに挨拶を受け、こちらもよく眠れた旨を伝えておく。そうすると安心したように微笑むので、2人もお互いに笑いあった。朝食にはサラダとパンといった軽めの物が出てきて、日本でもこんな朝食珍しくないな、と春香と冬威はツフェリアーナも混ぜて会話が弾む。王族がいるからもっと豪華になるかと思ったけれど、過去に何度も人を読んでいるのなら無難な料理も研究で来たと考えられる。

そんな食事の時間を終えて、最初にこの世界に来た時と同じようにツフェリアーナが先導し、2人はながい廊下を歩いていた。


「では、出発前に神を降ろすための儀式を受けていただきます」

「儀式?」

「はい。戦闘神グージシエヌルのお力を、お二人の身に宿していただくのです」

「…なぁ、それって俺たち2人がそれぞれ受けないとダメなの?」

「冬威?」


ふと沸いた疑問に冬威が質問を口にすると、ファギルが鋭い視線を冬威に向ける。しかしいつだって彼はそうなので、過保護であると勝手に考えて無視を決め込み、逆側にいた春香が自分を呼ぶ声にこたえるように彼女を見る。


「だってさ、力を受けても使うのは別の人なんだろ?だったら俺だけでもいいかな?って思って…」

「突然どうしたのよ。別に2人で受け取って力倍増ならそれに越したことないんじゃない?」

「俺が力を受けたとしたら、戦闘のときに安全圏に春香をおいておけるだろ?」

「そんなのダメよ!冬威だけ戦うって事でしょ?危ないかもしれないじゃない!」

「だからだよ。それに俺はいわば倒すためのエネルギー、電池みたいな感じだろ?もともとサッカー部で足も速いし、春香には…危ない目に合わせたくない」


いつもはチャラチャラしているのに、こういう時は真剣な顔で春香を見る。本音だろうセリフをごまかすことなく口にする彼に思わず春香は口を閉ざした。微妙な空気が流れ始めたとき、それを壊すようにツフェリアーナが口を開く。


「申し訳ありませんが、お二人に受けていただく必要があります」

「なんで!?」

「帰還のためです」

「…帰還?」

「はい。トーイ様の仰る通り、お二人に力を下ろしても、どちらか片方に下ろしても、おそらく結果は変わらないでしょう。ですが、召喚の儀式のときに、帰還の際は神のお力によって道を開くと記されているのです」

「じゃあ、戦いに出る出ないにかかわらず、力を下ろす儀式をしないといけないって事なのね」

「そうなります。…すみません」

「良いのよ!大丈夫、私は最初から受けるつもりだったしね」


変わらないなら何とか止めることができるかもと思ったが、それが最終的に帰還につながるなら止めることはできない。冬威はグッと言葉を飲み込んで視線を落とした。

旅立ちとか言っておきながら、旅立たなかった…


1つ1つが短めなのは、たとえちょっとでも同じペースで書き続けようという思いがあるから。

でもやっぱり自分で設定した時数ぎりぎりなのは、他作家様の作品が面白すぎて、執筆に時間を割けないせい。

自分の書くより読書してる時間が長いせい。

とりあえず丸っと自分のせい。

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