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108 クリエイト、そして変身【どうしてあの時】

どうしてあの時、私は選ばれてしまったのだろうか。


フワフワと浮いている感覚。風が頬を撫でて髪を弄び、目下を白い雲が流れていく様子が見える。ぼんやりとした意識が浮上してくれば、私は今自分が空を漂っているのだと何となく分かった。

どうしてこんな所に居るのか、そんなことは問題ではない。なんて考えられるほど心は落ち着いていて、流れていく雲を綺麗だと見つめる。


何もわからないわけじゃない。

自分は“春香”で冬威と一緒に異世界に召喚されてしまったんだという事も覚えている。でも、どうしてかな?辛いと思った記憶はおぼろげで『今冬威元気にしているかな』なんてぼんやりと思うだけだった。

しかし、つい先ほどまではもっと重要な事…そう、自分の故郷というか、両親というか…そんなことも考えていたと思ったけれど…あれ?どうしてそんなことを考えているのだろう。風を切る感覚はとても心地がいい。

もっとこのまま、ずっとこのまま…


“まだ、自分を保っている”

「え?」


突然聞こえた声はすぐそばで聞こえた。驚きはしたけど俊敏な動きが出来ずにゆっくりと視線を向ければ、自分の横を並走するように緑色の光が飛んでいた。

…なんだろうこれは。これがさっき喋ったのだろうか?まぁ、ここは異世界だし、そんなこともあるか。

と、衝撃も少なくあっという間に納得してしまう。


しかし考えている間にあいだが空いて、光は返事を催促するようにゆらりと近づいた。


“まだ、自分を覚えている”

「…覚えている…」


それは、私に問いかけているのだよね?と言いたくなるような言葉だった。自分自身がそうであると語るように、語尾が下がっていて断言している声色は、独り言を言っているのだろうかとさえ思ってしまう。思わず不安になって問い返してしまった。


「それ、私に聞いているのよね?」

“まだ、自分が人間であったと覚えている”

「覚えているって…ねぇ、それはあなたが人間だったと私に報告しているの?それとも私に聞いてるの?…それだったら見たらわかるでしょう?私は人間で、ほら、手足が…」


そう言って光に見せようと手を振って…みせようとして、当たり前にあったものが存在していないことに気づいた。慌てて自分自身を観察するべく視線を落としてみるが、下を向いて視界に入るはずの部分に身体はなく、当然足すら見ることが出来ない。


「え!?うそ、何コレ!私いったいどうしちゃったって訳!?」


空を飛ぶ感覚に安心すら覚えていた春香だったが、ここで初めて驚き、恐怖を感じた。いったいいつから自分は身体をなくしていたのか…。思い出せる新しい記憶は、冬威と一緒に馬車に居た時で最後だ。オロオロしていれば、傍にいた緑いろの光は一瞬だけ光って何かを取り出した。

風に表面が揺れるそれは水面のようにも見えるけれど、鏡の様に姿を映して春香の姿を見せてくれる。


そこに移っていたのは、ただ単にオレンジ色の光だった。傍にいる緑色の光と同じで、ただの光。

当然手も足もなく、目も口もない。

その姿に呆然として、これは夢だと思おうとして。頬をつねろうと手を上げようとして、その手がない事に気づいて。思わず悲しみが胸の内を覆いつくす。


「なんで、どうして…こんなことに…」

“だから、問いかけている。まだ自分を保っている。汝、まだ自分が人間であったと覚えている”

「覚えてる!覚えてるよ!…そうだよ、冬威と一緒にこの世界に来たんだよ。何か知らないけど、問題に巻きこまれて…はめられたんだわ。あいつら、私たちを道具としか思っていなかった!そう、そうだったわ…」


何もわからに内に消えてしまいそうになっていた記憶は、緑の光の問いかけによって消滅を待逃れた。このまま声をかけられずに漂うだけにとどまっていたら、消えてしまって居たのだろうかと思うと恐怖に身が震えるが、そんな彼女を安心させるように緑の光はくるりと春香の周囲を回った。


“覚えている。なれば、大事ない”

「大丈夫って事?」

“今は眠れ。風の中で。これ以上自身を、失わないために”

「失わない…ために…」


言葉に促されるまでもなく、春香の意識はぼんやりとしていった。瞼があれば目を閉じただろう。

そして。



朝。



日の光が一筋、カーテンの隙間から室内に差し込む。ちょうどその位置に顔があった冬威は、夢で太陽が降って来たタイミングとかぶって慌てて飛び起きた。


「うわぁ!まぶしぃ!!」


パチリと目を開けたその瞳を、まだ弱いとはいえ太陽の光が直撃。寝起きなのにテンション高いな、と思いながら、窓の側に立っていたジュリアンがクスリと笑った。彼は夢の海からすぐに覚醒し、やはり寝れないことを確認した後は暫くゴロゴロしていたのだが、うっすらと明るくなって来たタイミングで窓辺に移動し外を見ていたのだ。カーテンの隙間を作ったのもジュリアンで、まさかちょうどいい場所に冬威の顔があるとは思っておらず誤魔化すようにカーテンを引いて隙間を無くし、日の光を遮った。


いつになく短い!


でも、そろそろ冒険が…始まる…予定。

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