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106 クリエイト、そして変身【もしもあの時】

もしもあの時、自分が助けに入っていたら。

森の中で、神官にいいように扱われて、何もわからないまま戦闘に放り込まれて。

良いように弄ばれていた中で、いざというときに動けるだけの体力と勇気が自分にあったら。


春香は今、ジュリアンと一緒にペニキラを目指す旅に出ていたのだろうか。

俺…冬威を助けようと思ってくれただろうか。


ジュリアンは言葉を交わす前から心配してくれて、俺たちが馬車で連れられて行く後を追いかけてきてくれたのだ。遭遇せずに遭難、なんてことにはならなかったはずだ。たとえ助かったのが俺じゃなくても、ジュリアンは声をかけて、引っ張ってくれたはず。

でも、無理やり力を使われるのはちょっとばかし辛かった。最後の最後で助けられなかったけれど、重なるその痛いおもいを春香じゃなくて自分が多く受けられたのは、良い事だったのかもしれない。

なんたって男だしな。


それにしても、でかいなぁとは思っていたけど、春香って170センチ越えてたんだっけ。

俺が165だから…嘘だ!そんなに身長差はなかったはず。それにベンチに並んで座ると視線は合わずに上目遣いで…って事は、足が長いって事か!

くそう!

気づきたくなかったぞこんな悔しい事!


いつも男っぽくて乱暴…とまではいかないけど、結構男気溢れる女の子だった。その裏表のない性格に惹かれたりしたわけだけど、運動部のおかげで基本的に肩につく位の髪の毛は軽いうち巻きでかわいらしい。

そして細い首とちらりと覗くうなじ、そして続く身体は女性らしい丸みが…


「って待て!!それを思い出すな!しかもその裸体は春香じゃなくて、シロだから!」


思わず叫んで立ち止まった。

そこでふと、自分は考え事をしながら歩いていたことに気づく。

ずっと見ていたはずの前を改めて意識をもって見つめてみれば、夕暮れ時ほどの闇色の強い赤い光の中、何処までも続く草原の中にぽつんと立っていた。

後ろを振り返ってみても、歩いてきた道はない。

おそらく何もなければ進んでいただろう前方を見ても、特出すべき点はなかった。

視界を遮るものは何もない。山も、木も。生物らしい動くものも見当たらない。ただ、ここが草原だと分かった時点で風が吹いていることに気づいて、草原を遠くまで揺らしていくだけだ。


「え?え??何コレ、なんで俺…」


いったいどうしてこんな場所に?慌てて前後の記憶を探ろうとしてポンと手を叩いた。


「あ、そうだ。コレきっと夢の中だ」


そう思い至れば疑問は解消されて、ストンと綺麗に理解できた。そういえば昔から、たまにだけれど「あぁ、自分は夢を見ている」と夢の途中で自覚が出来る時があった。

そしてそんなときは決まって現実世界では出来ないことをしてみるのだ。

例えば高い場所から飛び降りたり、走っている車の前に飛び出してみたり。

結果は当然無傷で、痛みすらなく、想像していた結果とは全く違う結末になったりしたのだけれど、これを本当にやったら重症なんてものじゃすまないという事は理解しているんだ。


「夢の中で欲求不満を爆発させてる?別に自傷癖とか、自殺願望があるとかじゃないんだけれど…こうやったらどうなるのか、そんな純粋な欲求って、生まれてきたりするよね。実行してしまったらどうなってしまうのかって結果は分かっているんだけれど、それを自分で確かめたいっていう欲望っていうのかなぁ…」


よく学校にあった消火栓の赤いボタンとか。

押したら迷惑が掛かると分かっていても、押してみたくなったり。

そんな軽い気持ちの欲求なのだ。


夢の中で苦笑い。

そんな冬威を笑うように、穏やかな声がかけられた。


“無茶と無謀は別物なり”

「ん?」

“其のことは自覚したる様なるかし”

「え?」

“我の声、聞こえはべるや?”

「はれ?」

“ならば応えよ。我声に応えよ”

「…え、意味わかんない。とりあえず答えよって言った?」


日本語で言われているのは分かるのだが、言い回しが古臭い。とりあえず返事をしろって意味なんだろうと適当にあたりをつけて、きょろきょろとあたりを見渡す。声をかける存在が見えればそちらにアクションしてみようとも思ったのだが、地平線まで草原で、視界を遮るものはない。

仕方なく空気を肺いっぱいに吸い込んで返事をした。


「はーい!!」


やまびこの様に帰ってくることもなく、この世界に声が解けて消えていく。そして思った。

「はい」って。返事だから安直に「はい」って思ったけど、聞こえてるよ、とかの方が良かったかもしれない。いったい誰が声をかけて…って、夢の中なんだから、なんでもありだよな。

この言葉だって、授業中に聞いた古文の何かが適当に出てきたのかもしれないし、まったく覚えてないけど脳って優秀だから、変なことを記録してるのかもしれない。


“ふっふふ…”

「お、笑った。いったい誰だ?俺の夢に出てくる奴は」


変なことをしてしまったとは思うけれど、夢の中ではそんなものだ。その時はまじめにやってたことでも、目が覚めて思い返してみると、なんであんなことに一生懸命だったんだろう?ってことをしていたりする。

とりあえず今、この時間を楽しもうと問いかけを口にすれば、その声はもう一度笑いを零した。


“我は貴方。然し、貴方は我にてはなし”

「えーっと、私はあなた。でもあなたは私じゃないって感じ?」

“汝のどちは道選びき”

「どち?って何?どっち?って事?」

“今ここに、勇敢なる者は存す”

「勇敢なる者…ねぇ、何が言いたいのかわかんない…」


とりあえず斜め上を見上げて声を上げていた冬威だったが、側面から眩しい光が近づいているような気がして視線をそちらに向け、ギョッと目を見開いた。


「え、えぇ!??」


辺りを照らしていた太陽。時刻は夕暮れ時で闇色の強い朱色だったが、その太陽が接近してきていたのだ。

慌てて避けようとして、足が動かないことに気づく。夢の中だという事を一瞬忘れてパニックになっている間に、太陽は冬威にぶつかり、夢の中だとは思えない衝撃を受けた気がした。

実際の世界だったら、熱源とか、もっと明かりが強いとか色々あるのだろうけれど、こっそり太陽が隕石の様に落下して自分に当たるとか初めての体験だ。


目が覚めても、このことを覚えているだろうか?

汝のどちは道選びき。

「おまえの仲間は道を選んだ。」


相変わらず古臭い言い回しは翻訳使って調べて…なので、言い方がおかしい所があるかもです。

ごめんなさい。

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