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104 神の樹が過去に見た未来

さて。

森の中で学校に行くことを了承してもらったは良いけれど、目的地までは少し距離があります。

人樹は本来自分の本体を中心にした限られた範囲内でのみ行動し、一生を言える生き物ゆえに、神樹とあがめられる私も例外なく行動できる範囲が決まっています。皆さん私の存在を誤解しがちですが、神と言われようと人樹であることに変わりはないのです。


「そこで、案内役兼同級生としてシェルキャッシュに同行してもらおうと思っています」

「はぁ!?…ちょっと、神樹様、何をおっしゃっていらっしゃるのです?わたくしはエルフ、森の民。人間たちの住処に行くなど…」


あの森から里に戻ってきました。

今は再び族長の家で、今後の説明をしています。ついてきているのを知っていたシェルキャッシュも同席を許可したのは、まぁ帰宅の流れで自然と同じ部屋に来たのですが、話を聞かせるという意味もあったから。

当然ながら拒絶の言葉を口にしているようだけど、本心では魔法の事について学びたいと思っているのを知っています。エルフたちは感覚で魔法を使う人が多いので、魔法が使えるからと言って優秀な教師になれるというわけではありません。時たまに現れるシェルキャッシュのような存在は、適切に指導できる人のところで学ぶべきなのです。


「シェルキャッシュ、彼らは私が待っていた存在です。賢者様から未来を言付かり、導くことを約束したのです。そして今、その約束を果たす時。ですが私には種族ゆえに制限が多く、私自ら案内をすることは出来ない。だから外の世界を知っていて、ある程度の立場を持つ貴方に彼らの道案内を頼みたいのです」

「賢者様の話はわたくしがこの里に受け入れてもらった時からお話を伺っていますので、分かります。待ち人が現れて、約束を果たさねばという使命感も理解できます。ですが、その待ち人は神樹様の約束の人であって、わたくしには何ら関係がない存在です。率いて森を出たとしても、こっそり始末してしまう事だってできるのですよ?」

「でも、しないよね」

「…言葉を飾らず正直に言いますが、私は人間が嫌いです。獣人と同じくらい嫌悪しております。だから人間と接触したくありません。この里が人間たちに対して開かれている場所だという事は分かっています。ですが、私はその中であまり人間たちに関わらないように生活しているのを知っていらっしゃるでしょう?」


頑なに拒むのは彼女の家族が関係しているのだろう。彼女はエルフにも悪い奴がいるように、人間にもいい人が居るという事を忘れてしまって居るようだ。


「この世界にはエルフだけしか存在しないわけでは無いのだよ?外の世界とふれあい、心のリハビリをするいい機会だと思うのだけれど」

「心配ご無用ですわ。私は里から、ひいては森から出ていく気はございませんので」


強情だなぁ。思わず苦笑いを零してしまうのも仕方がないだろう。確かに、今の里なら引きこもっていても生活できるし、問題はない。でも…


「そんなに嫌なら、無理に彼女にお願いする必要はないんじゃないの?それこそシルチェさんとか、トズさんだってかまわないんだし。勿論相手が良いって言えばだけどさ。それにここ冒険者ギルドもあったから、来てる人に依頼って形もとれるじゃん」


ずっと黙って聞いてくれていた冬威が口を開いた。彼らにとっても、嫌々ながら旅の一行に加わるのはいい気はしないだろうし、旅の時間が苦痛に変わるのは私も本意ではない。どうにかしてシェルキャッシュの気持ちを変えられないだろうかと思っていると、冬威の言い方にカチンと来たのか、いつもすましている態度を作っている彼女が怒りに眉を寄せた。


「何ですって?私では役不足と仰いますの?」

「別に道案内くらいなら道が分かれば子供だってできるだろうさ」

「わたくしを侮辱するつもり!?」

「そんなんじゃないよ。ただ、短い間だけどジュンと旅していて分かった。旅路はプライベートな時間がほとんど取れない。お互いに協力して不足を補いながら進んでいくんだ。そんなチームの中に嫌々ついてくる奴がいるだけでストレスが溜まりまくって苦痛になるのが簡単に予想できるんだよ」

「そんな事知ってますわ!わたくしだって前の村からここまで命を懸けて旅をしたんですもの!」

「なら分かれよ!それで嫌なんだろ?旅だって1日2日の話じゃないんだ。あまりツンツンした態度が続くと俺たちだって疲れるし、居ても逆に迷惑なんだよ」


おやおや。彼女に対しては言葉をオブラートに包むことすらしなくなってしまいました。

ギルドでクエストを開始する前までは「触らぬ神に祟りなし」と逃げるような態度が多かったようですが…。そういえば、冬威はこっそりついて行ったシェルキャッシュを偶然木の上で発見してしまったのでしたね。

そこで何か気持ちが変わるようなことがあったのでしょうか?


「迷惑ですって?よくもまぁ、このわたくしに対してそんな口が利けたものね!」

「私に対してとか言われたって、俺あんたの事知らないもん」

「トーイ、落ち着いて。…ですが、僕もシェルキャッシュさんが同行するのは少し思うところがあります。今のままでは仲間うちで衝突する未来が目に見えている」

「うーん。でも、本音を言うと道案内だけではなくシェルキャッシュも入学をして魔法を学んで欲しいのです。ここの里の者では、魔法を息をするように使える分誰かに説明をするという事が苦手で、教師には向かないのです」

「…え、息をするように使える魔法をこいつは学びに…」

「こいつ!?それはわたくしの事を言っているのかしら!それ以上口を開く用なら、壁に縫いとめますわよ!」

「こらこら。シェルキャッシュ、彼らは客だと何度言ったらわかるんだい?」


小競り合いのような言い合いはやがて、激しくぶつかる言い争いに発展してしまった。初めて見るのかシェルキャッシュが声を荒げる姿に彼女に付き従っていた数名は驚いたような顔をしていたが、ジュリアンは落ち着いた表情でお茶を飲んでいる。

シェルキャッシュはエルフでありながら、魔法がちょっとばかし苦手だ。たまにそういう子が生まれるのだけれど、腫れものを扱うような態度で接せられる事がおおいとか。たぶん「嫌い」という感情ではなく、エルフたちが自分と違う存在にどう接していいのか分からず「戸惑い」の結果がそういう態度として表れてしまうのだろう。

ちなみに彼女はどうやら魔力を扱うよりも体を使って戦う方が性に合っているらしい。だからこの細身でありながら近距離の格闘技を得意としていて、細腕で繰り出されるパンチは岩をも砕く威力となる。


ただ、完全に魔法が使えない異端児ではない。彼女は魔力適正がないわけでもないし、スキルを取得していないというわけでもなさそうなのだ。

きっかけさえつかめれば、遠近両方の立ち回りが出来るようになれるはず。


それに…そう。賢者様もおっしゃっていた。


“里に流れてきた者の中に、魔力適正がありながら魔法が使えない、あるいは苦手としている少女が居るはず。その子を勇者と賢者のペアに、共に旅に連れて行ってもらうように頼んでごらん?凍った彼女の心を溶かし、彼女本来の姿を取り戻すきっかけになるだろうから”


だからこそ、私は彼女を森の外へ送り出したい。


「さっきから役不足役不足って、貴方それしか言えませんの!?」

「何だよ、最初に行ったのはお前が先だろう!?自分には役不足って。それで怖気づいて逃げ出したんじゃないか」

「逃げてなどおりません!生理的に受け付けないのです!」


なんだか険悪なムードというよりは、幼馴染のじゃれあいというか、痴話げんかというか、暴力に発展しそうでしないというか、どことなく微笑ましいというか。


それにしてもそろそろ『役不足』がゲシュタルト崩壊しそうです。ツボったんですかね?

といいますか、なんだか悪口の様に使っていますけど…


「ねぇ、2人共。役不足の本当の意味って知ってる?多くの人が「自分の力量を上回る仕事」という意味で使うけれど、本当は「与えられた仕事が簡単すぎる」っていう意味合いで使うものなんだよ。だからそれを踏まえてさっきの言葉の返事をすると、学校までの道案内は、シェルキャッシュさんでは『役不足』かもしれないね」

「え?…つまり…どゆこと?」

「トーイ、これくらい分かってくれ。…つまり、シェルキャッシュさんでは、道案内は簡単すぎるって事」


そうですよね。役不足って、いい意味で使うんですよね。

ジュリアンの言葉には素直に頷く冬威ですが…あぁ、そんな事を言ったらシェルキャッシュが…


「ふふん!貴方は私の実力を正確に把握しているようですわね」

「まぁ、地図が読めれば道案内は必要ないくらいだからね」

「まぁ、それは…えっと、どういうことですの?」


それくらい分かって!ジュリアンは、地図が読めれば道案内なんて誰でも出来る簡単なお仕事って言っているんだよ。


つまりはあれだ。

冬威もシェルキャッシュも、同じくらいアホの子だという事が分かった。

やっぱり学校には行ってもらって、勉強してきてもらいたい。

何となく、息抜き回。

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