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102 召喚勇者×転生賢者

「「わーー!!」」


天まで垂直に立ち昇った突然の…というか、ジュリアンが意識してはなった攻撃ではあったのだけれど…炎を『綺麗だな』なんて眺めて一瞬。


バチバチと、生木にもかかわらず炎が森に燃え移った。しかし、一気に酸素が減ったらしく勢いはそれほどではないが、熱風のおかげで息が吸いづらく息苦しさとめまいを感じふらついてしまう。しかし意識が飛ぶかと危ぶんだ時、不自然な風が吹いて来て空気が巡り、呼吸を取り戻す。しかし焦りすぎていてその不自然さに気づくことが出来なかった。


冬威は突然吹いた風は感じることが出来たが発動者が分からずに、新たな敵か?と警戒して、さらに近くにジュリアンが居たことを思い出して、慌てる。

ジュリアンはすぐ側に冬威が居たことを思い出したが、まずは山火事…森火事?になったら大変だと、鎮火させなければと慌てた。


「また敵!?どっから来た!?気づかなかったぞ!…ジュン!大丈夫か!?」

「ケホッ…ぼ、僕は大丈夫だ!それよりまずい、このままじゃ…えっと、み、水は…」


魔法を発動させようとしたわけでは無い。鎮火させるために水はどこだ!?と声に出して探しただけだったのだが、ジュリアンの言葉に反応して視界をつぶすほど強い雨が降ってきた。


「うわぁあ!今度は何だよ!痛い痛い、雨が痛い!」

「トーイ!」


お互いパニックになりつつも、ジュリアンは頭を腕でカバーさせながら冬威に近づき、腕を引っ張って近くの樹の下に入った。豪雨はしばらく続いたが、おかげで火の勢いは完全になくなったようだ。雨と蒸発された水による湯気でさらに視界は悪くなる。

あの始祖鳥のような緑の魔物がどうなったか目視で確認できないために警戒は続けながらも、冬威はちらりと空を見上げた。


「何?何!?突然なんなわけ?」

「ごめん、たぶん僕のせいだ」

「は?」


ジュリアンは簡単に賢者の称号を得たこと、リンクアシストで冬威のスキルを使えるようになったらしいことを説明した。視線は豪雨に遮られた先を見ていて、魔物の存在を警戒しているのが分かるが、雨は一向に止む気配を見せない。


「じゃあ、俺が物理特化で、ジュリアンが魔法特化って事か。なんだ、バランス良いパーティーじゃん。それでこの現象が起きたって?それにしても森の中で火を使うとか」

「焦ってしまってついうっかり…ごめん。それに、まさか本当に発動するとは思ってなくて。…少しだけ期待はしてたけど」

「それでまた焦ってこの雨ってわけか。…あれ?だったらジュンがこの雨止められるんじゃないの?」

「え?」

「だって、魔法で発動させてる雨なんだろう?

「…あ」


魔法を使用したら減るMP的なもの…あるのかもしれないが、自覚症状がない…が分からず、きっかけは自分かもしれないと思っていながら、この雨が人為的で自分が発動させたものだという自覚がポロリと抜け落ちてしまっていたジュリアンは、冬威の言葉にハッとした顔をしてから視線を空に向けた。


「…ど、どうやって止めるのかな?」

「魔法の発動をやめればいいんじゃないの?」

「それが、発動しているという自覚が無くて…」

「ラノベとかだとMPが減るから、体調不良を感じ始めるとか…無いの?」

「まったく。この雨が僕が引き起こしたことだってこともすっかり忘れてしまって居たくらい、特に違和感も感じないし」

「マジ!?うーん、俺は魔法使えないから何とも…あ!ってか、ジュンは生活魔法使ってるじゃん。あれと同じ感じでしょ?」

「僕が使ってた生活魔法は使い切りっていうか、一度の呪文で出来ることが明確化されていたから。発動時に魔力が必要なタイプで、発動時間も短いのが特徴なんだよ」

「…なんか、何が言いたいのか良く分かんないけど、まとめるとどういう事?」

「生活魔法は参考にならない」

「なるほどな!」


敵がすぐそこにいるかもしれないというのに、雨宿りの樹の下で穏やかな時間が流れ始めてしまえば、それに我慢が出来ないとでもいうかのように控えめな笑い声が響いた。


“くすくす”

「おぅ!なんだ?」

「誰?…さっきから、僕たちの事見ているみたいだけれど」

“ごめん、敵対するつもりはないよ。今姿を現すから、ちょっとだけ待ってもらえる?”


そんな言葉を投げかけたあと、2人が反応するより先に雨宿りしていた木の根元付近が光りだした。驚いて数歩離れるが、身構えるより先にその光が人の形をとった。

ウェーブがかかった青みが強い緑の髪に、緑色の瞳。中性的な整った顔を持つこの人は、ふわりと地面に足をつけるとにっこりと笑った。


「賢者の称号の取得、おめでとうございます」

「神樹様…もしかして、謀ったのですか?」


まさかという気持ちを込めてジュリアンがそう問いかければ、警戒を隠すこともなく冬威は抜いたままだった剣を構えた。それを見て両手を上げた神樹様は、1歩だけ下がる。


「称号が得られるようにと、画策はさせていただきました」

「では…」

「ですが、害を与えるつもりはありませんよ」

「でも変な奴襲って来たぞ!?鳥みたいな、トカゲみたいな…なんていうかでっかい魔物!」


噛み付く冬威に苦笑いを向けてから、神樹様は上げていた手を胸元まで下げて掌を上にしてから拳を握る。そしてゆっくりと手を開けば、掌の上にはシンプルな丸い輪っかが1つ出現していた。


「え、何?手品かよ?ってか、それ神樹様の掌より大きくね?」

「手品?…これは収納バックの応用で、アイテムを取り出しただけですよ」

「アイテムボックス!うわ、チート能力の1つじゃん!…それ、俺にも…あ、無理だ。俺魔力適正ないわ」

「トーイ、とりあえずその話は置いておいて。…そのアイテムに何かあるのですか?」


サクッと仲直り(喧嘩をしていたかは微妙だが)仕掛けた冬威を窘め、神樹様と、その手にあるアイテムを見つめるジュリアンに、神樹様はそっとそれを差し出した。


「?」

「どうぞ。貴方が持つべきものです、ジュリアン」

「なぜ?」

「あなたが賢者だから」

「…意味が良く分からない」

「これは、初代賢者が装備していた物。だから次代の貴方が持つ資格がある」

「初代?貴方は、いったい…」

「詳しくは後で。まずはこれを使って、自分の力を制御して見せてください」


それでも躊躇う様子を見せたジュリアンに、神樹様は半ば強引にその右手に装着した。どうやら腕輪だったようだ。厚みは1センチほどで、腕に通した瞬間に“シュッ”と小さな音を立てて密着した。マジックアイテムだったようだ。

もしかして、また謀られた?と不安になるが、神樹様の言葉に従って腕輪を付けた右腕を天に向かって伸ばし、一言。


「解除」


轟音を立てていた雨はピタリと止んで、先ほどまでの風景が戻ってきた。

襲われかけた魔物はまだその場に居たが、雨の威力に押しつぶされて地面に伏せている。そしてガサガサと身を震わせて、立ち上がろうとしていた。


「あいつ、まだ生きてんのか」

「雨だけで敵を倒せたら恐怖だよ。それよりも、行動を制限できる雨ってすごいかもしれない」


そう言いながら冬威は剣を構え、ジュリアンは雨を止めた時の様に右手を伸ばしたが、それを神樹様が止めた。


「大丈夫です。よく見てください」

「え?」


ジッと目を凝らしてみれば、くちばしから頭部にかけての部分は先ほどよりも皺が目立っていた。パキパキと音を鳴らしながら変形をはじめ、だんだんと濃い茶色に変色していく。

そして緑色だったその体毛は、ガサガサと揺れてその1つ1つが羽毛ではなく、葉っぱであることが今になって分かった。そいつは太い足を地面に突き刺し、鳥のような体をまっすぐに伸ばしてだんだんとその姿を大樹に変えていく。


「な、何だこいつ!木だったのか!」

「はい。私の力で生み出した魔物…の姿をした植物です。名をアーケオと言います」

「名前?」

「個体名ではありません。種族名です。有名どころで言えば、ゴブリンのような。…まぁ、植物ですから、自分で判別する為だけに名を付けたって感じですね」

「植物…言われてみれば、獣特有の臭いは感じなかったかも」

「でもさ、やっぱり俺ら神樹様に襲われたって事だよな!?」

「先ほども言いましたが、害そうと思ったわけではありませんよ。賢者と勇者は対等な立場である。それなのに、先ほどまでのあなた方の関係は歪だった。早いうちに正さなければ、どちらかが、もしくは両方ともに倒れる結果となったでしょう」


冬威はジュリアンに一方的なリンクという力をつなげることが出来ていた。

神樹様が言うには、今は良くても次第に力を奪われるリンクによって必ずどこかに不具合が生じたはず。奪われるなら、こちらもそれに見合った力が使えなければおかしい、と。


確かに、リンクは冬威優位でリンクされた方は戦闘中も動けなくなって大変だな、とは思っていたが、まさかそれが命に関わってくるとは考えていなかった。

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