009 第2王女、ツフェリアーナ
私はツフェリアーナ。大国ペニキラの第2王女。
『悪意の種』から放たれる魔物を狩るために勇者様の力を借り始めたのは、実はあまり古い話ではありません。私がちょうど生まれる頃から始まった事であると聞いています。私が今15歳なので、長く見てもまだ15年くらいの歴史しかないのですね。
それなのにこの国で勇者の活躍を知らない人はおそらく居ません。それこそ小さな子供から年配の方まで勇者が誰よりも強い力を持っていることを知っていて、『悪意の種』によって魔物が現れたとわかったら「勇者の派遣をお願いします」とすぐに連絡が来るのです。それほどまでに彼らの力は強大で、多くの民が希望としてみているという証拠です。…とは言っておりますが、勇者様ご自身が魔物を倒すというわけではありません。中には格闘技にたけていて、自分で力を制御して戦っていただいた、という方もおりましたが、どういうわけか召喚に応じてくれるのは女性であったり男性でもまだ若く、純粋な戦闘値は低い方が多かったのです。
では、どうやってこの国は危機を脱してきたのか。
そこに、戦闘神/グージシエヌルが関係してきます。
この世界の神でありながら、この世界の人間には降ろすことができない絶対的な力。それをまずは召喚した勇者様に受け取ってもらい、それをこの世界の魔法使いが借り受けて魔物を倒す、ということをしているのです。
いわば力の橋渡しですね。
「おぉ!なんかスッゲー!」
「ちょっと冬威、はしゃぎすぎよ!」
食事を終えて、私は2人を一般市民も自由に入ることができる「勇者像の広場」へと案内しました。ここは歴代の勇者様の像を飾っている円形の広場で、ぐるりと周囲を囲むように108の台座が設置されています。その1つ1つにさまざまな格好をした像が立っているのです。…こうやって見てみると、今回来ていただいた勇者様、ハルカ様とトーイ様に似た服装をしている方もいらっしゃっる様子、同じ世界から来ていただいたのかもしません。
はしゃぎまわるトーイ様を見ていたら、ハルカ様が申し訳なさそうに軽く頭を下げられました。気にしていないという代わりに微笑んで見せれば、ホッとした様子でそばにいらっしゃいます。と、それを追いかけるようにトーイ様も戻っていらっしゃいました。
「それにしてもよくできている銅像ですね」
「そうだな!臨場感っていうか、なんか頑張ってる瞬間がとらえられてる感じする」
「うふふ。これは勇者様が帰還された際に残る像なんです」
「戻るときに残る?」
「…どういうことだ?」
「こちらへの召喚に応じてくださった勇者様は、魔物を1体倒すのに協力してもらうとすぐさま帰還の術が作動するのです。なので、魔物を倒していただいた後、すぐに帰還の魔法陣が作動して、元の世界におかえりいただけるという訳になります。ですが、それですと私どもも含め、呼んだ私たちは何もすることできないでしょう?なので召喚の陣に帰還の際に姿をうつして残す術を組み込んだとされています」
「へぇ。それをここに設置してるんだ」
「はい。そして、その時のポーズは一番神の力の流れがよくなった瞬間のものであるといわれているので、どの勇者様も戦闘中なのでしょうね」
「うわぁ~。なんか大変そうだ。でもそれじゃあ、これで出発したら姫様ともお別れなんだなぁ」
「そうなりますね。…少し残念な気もしますね」
「残念?何が?帰っちゃうのが?」
「はい。…実は私、勇者召喚を行ったのは初めてなので…」
「初めて?姫様が?じゃあ、今までの召喚は誰がやってたの?」
像の話だったのですが、トーイ様は私との別れを惜しんでくださいました。それがなぜかとてもうれしくて、思わず言うつもりではなかったことがこぼれてしまいました。慌ててごまかそうと考えますが、考えがまとまる前にハルカ様が質問を返してきます。仕方ありません、言い方は悪いですが、お2人はすぐにこの世界から去られる方、言ってしまっても問題ないでしょう。
「王家の血筋のものであれば、勇者召喚が可能なのです。いつもはお兄様やお姉さまが受け持たれているのですが…実はこの頃魔物の発生が早く、多くの勇者様にご協力を願っている状態なのです」
「…そうなんだ。これはけなしたりしているわけではなく、本当に大変なんだね。私たちも無事に元の世界に返してもらえるなら、なんだって協力するから遠慮なく言ってね?」
「え?…あ、ありがとうございます」
王女という立場のおかげで、損得勘定で付き合うことが増えてきた私にとって、ハルカ様の言葉は思いもよらなかったこと。一瞬何を言われたのか理解することができなかったのですが、それが乾いた心にしみるように広がっていくと自然とほほが緩んでしまいます。それをごまかすように目を伏せました。
“バキン!!ガシャン!!!”
と、突然少し離れたところに立っていた像が音を立てて派手に壊れました。そしてそこに砂の山のようなものを作った後、まるで風にさらわれるかのように消えていきます。慣れている私ですら驚いたのですから、初めて見る2人はもっと驚いたことでしょう。その証拠にまさしく飛び跳ねるといってもいいほど肩を跳ねさせて音のした方を勢いよく振り返ります。
「…え??」
「ちょっと冬威!?あんた何かしたわけ?さっきあっちの方行ってたよね?」
「確かに走っていったけど、俺何もしてないよ!?触ってないし!眺めただけ…はっ!もしかして、知らないうちに邪眼…」
「それは無いわー」
もしかして自分が壊したんだろうかとオロオロするトーイ様の言葉にかぶせるようにハルカ様が発言されます。きっとフォローして差し上げているのですね。あぁ、仲がいいなと感心している場合ではありません、早いうちに誤解を解いて差し上げなくては。
「大丈夫ですわ。勇者像は一定期間ここに設置されると、ああやって自然に壊れてしまうのです。像の元となる勇者様がお使いになった神の力の分だけ、像は力を保有し、形を留めます。ですが、神の力はお借りしたもの、時間が経つと抜けてしまい、形が保てなくなるとああして崩壊を起こし消えてしまうのです。それと勇者召喚の術にも関係していまして…見てください、ところどころ、像が載っていない台座があるでしょう?」
「…そうだね」
「言われてみれば。…そういえば、なんで隙間埋めないでおいてるんだ?って思ったよ」
「この広大な敷地にぐるりと円を囲むように108の台座が設置されています。王族であれば誰でも、何度でも勇者様をお呼びすることできますが、この台座が埋まってしまっていると新たな勇者様をお呼びすることできないのです」
「仕組みはわからないけどなるほどね~。便利な術だと思っていたけれど、そんな制限があるんだ」
「はい。あくまで勇者様は他の世界の方なのです。頼りすぎるのは私たちのためにもなりません。…本来ならば、私たちが何とかしなければいけない問題なのですから」
そのあとも軽い雑談やこの世界のことをお話ししました。
私には同年代のお友達がいなかったので本当に楽しい時間でした。ですが、お2人は勇者様、明日には選ばれた魔法使いの方々と戦地へとおもむき、そして帰還される。
限られた時間を精一杯楽しみ、お2人には笑顔で去っていただけるよう努力しましょう。
そしてその後は、ずっと無表情でそばについてくれているファギルの胸の内を聞くとしましょうか。