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星が造り出した少年  作者: 咲原
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六人目:幸せを願う男性

太陽が陰る午後。僕はまた、病室の前に立っていた。



(いつかの子供とも、ここではないですが病院で会いましたね)



無邪気な、子供。思い出すだけで胸が締め付けられる。

この感情は、なんというのか。


感情を貰った時もあったが、どうしてもこの感情だけ分からなかった。


疑問に蓋をして、病室の扉を開ける。


そこは個室で、ベッドの近くの椅子には男性が座っていた。


ゆっくりと顔をあげる男性。



『誰…ですか?』



そのサラリーマン風の男性の目の下には、くっきりとしたクマが出来ていた。

その側のベッドには、帽子を被った痩せ細った女性がすやすやと眠っていた。


長く、ない。

僕はそれを悟った。



「……こんにちは。僕は貴方の願いを叶えるために来ました」


『それは本当ですか…?』


「はい、何でも1つだけ叶えられ――」


『なら!! 由美の、由美の病気を治して下さい!! お金も払います、だからどうか…!!!』



僕が言い終わらないうちに男性は僕の服にすがりつきながらそう言い放った。


由美というのは、きっとベッドで寝ている女性の事だろう。


『……由美は、末期ガンなんです。余命ももうありません。本当は、本当は僕たちは結婚をする予定だったんです!! でも、でももう由美は…! お願いします、これじゃ由美を幸せに出来ないんです!!! ……お願い、します……!』



土下座をし、頭を地面に擦り付けながら言い放った男性の瞳からは、大量の涙が溢れていた。



「……僕は1つだけなら、何でも叶えられます。お金は必要ありません。貴方の名前と、願い事さえあれば何もいらないんです」



男性は涙で濡れた顔を上げ、希望に満ちた顔をする。


それから有難うございます、と何回も何回も頭を下げた。


「で、貴方の御名前は?」


『えと、篠原 瑛司です。』


「分かりました。……さて、ここからは企業秘密なので目を瞑ってくれますか?」



そう言うと、素直に茶色の瞳を閉じる。


僕は懐から、カプセルを取り出した。


呪文を唱え、血をカプセルに垂らす。



「 」



するとカプセルは透明から撫子色に変化する。

よし、これで準備万端です。



「目、開けていいですよ」


『は、はい。……それはカプセル、ですか?』


「ええ、そうです。これをそこに眠っている……名前は?」


『あ、由美です』


「ありがとうございます。その方に飲ませたら貴方の願い事が叶います。」


瑛司はコップに水を注いで由美さんにカプセルを飲ませようとする。


由美は虚な目で瑛司を見ると、優しく微笑んだ。


何かを言いたそうに、口を開く。


が、言葉は出ない。



「……由美、無理はしなくていいんだ。それより、このカプセルを飲んでくれないか?」


由美は力なく頷くと、瑛司が用意していた水と共にカプセルを飲んだ。


すると、由美の体を光が優しく包む。


『?!まぶしっ……』


光が収まったころ、由美の顔色は良くなっていた。



『由美の顔色が……!』


『もしかしたら本当に治っているかもしれない! 有難うございます!本当に、なんてお礼したらいいか……』


瑛司は医者を呼び、治っているかもしれないと言った。


医者は最初、怪訝な顔をしていたが、精密検査の結果、由美さんの末期ガンは治っていたという事実に驚いていた。



瑛司は由美さんとやっと結婚できると笑い合い、幸せそうだった。



『由美のドレス姿を早く見たいよ』


『瑛司さん、それはまだ先よ。もう少し、私の体調がよくなってからね』


『はは、そうだね。早く良くなるんだぞ!』



それじゃあ俺は帰るよ、と瑛司が椅子を立つ。


しかし瑛司が向かった先は、病室の扉ではなく床だった。


バタンと勢いよく床に倒れこむ瑛司。



『!!瑛司さん?!』



幸せも束の間、代償を貰ったのです。


僕もお二人には、幸せになって欲しかった。


だが僕じゃなく、彼女がそれを許さない。



……おっと、この話はまたいつか。




『瑛司さん! 今、医者を…』



パタパタと病み上がりの体で駆けていく由美。その目には涙と不安があった。


そして、すぐに医者はやって来た。瑛司の体を精密に検査し、原因を探る。



『なんだこれは……?』


『先生、瑛司さんは?! 病気なんですか?』


『……いや、違う。しかしこれは、まるで……』



そこまで言って言葉を詰まらせる医者。由美は原因は?と追求してくる。



『ストレスによる、……』


『どうしたんですか?』



すると医者は決心したように由美を見据え、口を開いた。



『由美さん、言いにくいのだけど。…彼、記憶を失なっているんだ。それも、由美さんとの記憶だけ』


『え……?』


『しかも原因はよく分からない。こちらで推測はしてみたのだけど…。ストレスによる、記憶喪失。……由美さん、けして貴女のせいではないよ』



由美はその場で泣き出し、医者はそれを慰める。


瑛司はまだ、ベッドの上にいる。



『………ん…』



その時、瑛司が目を覚ました。由美はそれに気付き、瑛司に駆け寄る。



『瑛司さん!体調は?具合は大丈――』


『……あなた、誰…ですか?』



由美は悲しく微笑みながら、そうだったと呟いた。


瑛司は由美のことを、忘れているのだ。



『…私は、橋本 由美。よろしく。』


『…ど、どうも』



瑛司は他人行儀にそう言うと、またうとうと微睡んできた。


由美はそっと、その場から離れる。その目にまたもや涙が浮かんでいた。



「さーて、そろそろ帰りますか」



僕は病院から出ると、少し背伸びをする。


人間も忙しいものだ。忘れたり忘れられたり、本当。


まぁ僕たちはそんなことないのだけど。



だから、ずっと覚えてる。



100年前の代償だって、僕が貰った代償の数だって。

それに、僕の生まれた理由だって――


(……あれ?)


(僕、なんで、どうやって生まれたんでしょうか?)



何か、大事なことを忘れてる気がします。


否、もしかしたら――



――彼は大事なものを無くしました。


――それは、愛する恋人との記憶。2度と戻らない、記憶です



同時に、僕は気付いた。


僕のこの、思い出せない記憶は彼女に消されている。


なぜ?なぜ彼女はこんなことを?



「――気付いちゃいけないよ。もう、戻りたくないでしょう?」



どこからかそんな懐かしい声がした。


それは、警告。最後の警告。



(……これは、また後程に。)


僕はまた誰かの願いを叶えなければいけないのだ。





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