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星が造り出した少年  作者: 咲原
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三人目:無邪気な子ども

今日は珍しく子どもから呼び出されました。


実は子どもからというのは珍しく、100回中10回あるかどうかなんです。


さて、何を願われるのだろうか。



僕は病室の前に立っていた。もしかして病人なのだろうか。



静かに病室のドアを開ける。…どうやら個室のようだ。



足音を立てずにベッドに近付くと、そこにはベッドに横になっている母親らしき人物とその子どもがいた。子どもはベッドに突っ伏し、すやすやと寝息を立てている。



「…お嬢さん、お嬢さん」



なるべく小さな声で子どもを起こそうとするが、なかなか起きない。仕方ない、子どもが起きたら出直すか…。なんて考えていた矢先に、子どもが起きた。



『ん~…?ぱぱ…?』



どうやら寝ぼけているようで、僕をお父さんと間違えているらしい。まぁ、起きてくれたのは好都合だ。



「違いますよ、僕はお父さんじゃありません。」


『…おにーさんママのおみまいしにきたの?』


「いえ、それも違いますよ。」


『…じゃあ、知らないひと?』


「そうですね。」



子どもの顔がだんだん怪しむ顔に変わってくる。それもそうだろう、知らない人が自分の所にいるのだから。


子どもが病室から逃げる前に、口を開く。


「僕は1つだけ願い事を叶えられます」



「お星さまに願うより簡単に、です。」



すると怪しげだった子どもの顔がきらきらと輝きだす。


『ほんとうに?叶えられるの?』


「えぇ。1つだけですが」


『じゃあおにーさんにお願いする!あのね、あのね…』



そこまで言うと、子どもの顔が一気に暗くなる。



『……ママのびょうきを、なおしてほしいの』


『ママはね、すごく有名な歌手でね。歌もすごくじょうずなの。』


『…でも、びょうきのせいで歌えなくなっちゃった。』



『わたし、ママをげんきにしてあげたい。ぱぱが言ってたの。ママは歌をうたってると元気がでるんだぞって』



『だから……お願い、かなえてほしいな』



声が出なくなる…゛失声性゛か。ストレスなどからくる病気。



というか、やはり子どもは無邪気ですね。大人とは違い、私利私欲を満たすために僕を呼び出さない。



いや、少しはあるのかもしれませんが。



「分かりました。貴方の願い事、叶えてあげましょう。…ところでお嬢さん、お名前は?」


『篠原 彩音だよ。』


「綺麗なお名前ですね。あと今から少し目を瞑ってください。」


『?うん!』



僕は懐から透明な飴玉を取り出した。この飴玉は、透明なので景色も鮮明に映し出す。


飴玉に血を垂らし、呪文を唱える。



「 」



呪文を唱え終えると、飴玉は透明感のある藤色に変化していた。


飴玉を可愛い包み紙に入れて完成。



「もう開けて大丈夫ですよ。」


『うん。…おにーさんそれなに?』


「飴玉です。これを君のお母さんに食べさせると願い事が叶います。」


『ほんと?!ありがとうおにーさん!』


彩音は僕が渡した飴玉を食べさせようとし、母親を起こそうとする。


ゆさゆさと、けれども優しく起こす。子どもながら常識をわきまえているようだ。


僕は彩音の隣で二人を見守る。…見られるんじゃないかって?大丈夫、僕のことは呼び出した人以外は見えないのだ。


つまり、他の人は見向きもしない。そこにいるのに、いない。まるで幽霊みたいだ。


(少しだけ…寂しいですね)


仲よく話している親子を横目に見ながらそう思った。母親は、見向きもしない。


『ねーねーおかーさん!』


(なぁに、彩音。なんか嬉しそうね?)


そう紙に書いて微笑む母親。なんて暖かい光景なのだろうか。


『あのね、これ!』


(…飴玉?)


『これ食べたら、おかーさんの病気治るんだよ!』


(まぁ、ありがとう。綺麗な色ね…いただきます。)


子どもの気遣いが嬉しいようで、目は少し潤んでいた。


そして飴玉を口に運ぶ。


(彩音、ありがとう。これ美味しいわ。お母さんの病気治ったかもしれないわ。)


『じゃあおかーさん。歌って?』


『わたしね、一回だけでいいからおかーさんの歌声聴きたいの…』


(……彩音、でもお母さんは声が…)


『大丈夫だよ。おかーさんが食べた飴玉は、声がでるようになる飴玉なんだから!』


彩音の表情は、切なげでどこか期待に満ちていた。


『だからおかーさん。歌って…?』


(…分かったわ。)


すうっと息を吸い込む母親。吸い込んだ時、なにか異変を感じたようだ。…声が、出るかもしれない。


『~~♪』


綺麗な透き通った歌声が、病室に響く。母親は驚いた表情をしている。


『彩音!お母さんっ、お母さん声が出たわ!!』


喜んで声を上げているいる母親と笑顔でいる彩音だが、どこかぎこちない笑顔だ。


…そう、母親の声が出た瞬間、代償を自動的に貰ってしまったのだ。



聴覚という、代償を。



(ごめんなさい)


この子どもからは、奪いたくなかったのに。


代償は、返すことが出来ない。


(……ごめんなさい)


ずっと夢だった母親の歌声を聴くことを出来ないようにしてしまって、すいません。


僕はそっと母親が持っていた紙とペンをもって、彩音に伝える。



゛彩音さん、願い事を叶えたかわりにだいしょうをもらいました。ちょうかくをもらいました。゛


難しい漢字はきちんと平仮名にした。きっと、伝わった。


彩音は文を見て、悲しそうに笑った。まるで仕方のないことだとでも言うように。



゛うらむのなら、僕をうらんでください゛


そう書いて、まだ太陽が輝いている外に出た。


…この胸のモヤモヤは、何なんだろうか。



――――子どもは、大切なモノを奪われました。


――――それは、夢だった母親の歌声を聴く聴覚です。

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