二人目:彼女が欲しい少年
また今回も変な理由で呼び出されましたねぇ。
そもそも彼女が欲しいだけなのになんで僕が呼ばれるんでしょうか。
まぁ、いいでしょう。
呼び出された僕は、呼び出した奴の部屋にいた。
『?! だ、誰だ!!!』
「こんにちは。僕は貴方の願い事を叶えるために来た者です」
というか呼び出しておいて『誰だ』とは失礼ですね。まぁ、本人は呼び出したことは分からないようですので仕方ないですが。
『は? 願い事……? なんだそれ。詐欺か? ……言っとくけど金は払わないからな』
「詐欺ではありませんよ。それに、お金も必要ありません。必要なのは……」
「貴方の名前と、願い事です」
訝しげだった顔が、だんだん“ちょっとは信じてやろうか”みたいな顔に変わる。
『へぇ? じゃあ叶えられるなら叶えろよ』
『俺の名前は、黒崎 翔。願い事は……彼女が欲しい。俺と相性いいやつ。あと、顔が可愛いやつ』
「その願い事で良いんですね?」
『あぁ』
目を見つめてみるが、成程これが本当に願っている事のようだ。……正直、アホらしい。
黒崎は怪しみながらも目を瞑る。
僕は懐から、ガラス瓶と糸と人形を二つ用意する。片方の人形は、どことなく黒崎に似ている。
二つの人形の腕に糸を巻き付け、僕の指を切り、血を人形に垂らす。
勿論、ガラス瓶にも血を入れる。
「 」
お決まりの呪文を唱えると、白かった糸が赤く変色していき、ガラス瓶の中の液体は透明感のある薔薇色に変わる。
「もう目を開けていいですよ」
僕がそう言うと、黒崎は目をぱちっと開ける。
人形にびっくりして少し目を見開いていたが、すぐにもとの表情に戻る。
『……で、俺は何をすれば良いんだ?』
「この液体を飲んで下さい」
僕が差し出した液体の色に少し顔をしかめる。
『なんだ、この色。綺麗だけど……飲めんのか?』
「安心して下さい。飲めます。飲めるから差し出しているんです」
僕がそう言うと、黒崎はこちらの様子を伺いながら液体を口に近付ける。
液体を一口飲むと、目を見開いて液体を見る。
『なんだこれ。……うまいけど、言い表せない味だ』
「それはそうでしょう。まぁ言ってしまうと、゛恋の味゛です」
黒崎は感心したように頷くと、また飲むのを再開する。
ゴクッと喉が音を立て、最後の一口を飲み干した。
『……で?俺の願いは叶ったの――』
すると突然、黒崎の携帯のバイブが鳴り響く。着信のようだ。
『もしもし。……あぁ、翔だよ。え、言いたいこと?』
『っえ? はっ…? ま、マジで…?』
『……俺も好きだ。付き合おう。おう、……うん。じゃ、また明日な!』
内容は大体分かる。告白をされ、付き合おうと言われたんだろう。
「どうですか?僕、ホンモノだったでしょう?」
黒崎が通信終了のボタンを押すのを見て、僕は笑顔で話し掛ける。勿論、営業スマイルですけどね。
『あぁ。……偶然、じゃなさそうだな。』
黒崎は心底嬉しそうな顔をする。でも、残念ですねぇ。
それはもうすぐ崩れてしまいます。
『っ……あれ……?』
唐突に黒崎の目から涙がこぼれ始める。
さて、代償を貰う時間です。
『なんでだ……止まん、ねぇっ……!』
「大丈夫ですよ。もうすぐ止まります。今は代償を貰っているので 我慢して下さい」
『は……? 代、償……?』
「はい代償です。貴方の……そうですね、今回は感情を貰いましょうか」
『きっ…聞いてねぇぞ…ッ!』
「ハァ……貴方もあのお嬢さんと同じ事言うんですね。言ってませんから当たり前です」
「願いは代償無しで叶えたられないんですよ。それを承知で僕を呼び出してくれないと」
『……呼び、出した覚えはね、えぞ…! てか、なん……で俺は泣いてるんだ……?』
「貴方の感情を貰っているんですよ」
僕はその涙を、小さな透明な小瓶に入れていた。
涙は小瓶に入れると、様々な色に変わっていく。
その色はまるで、本当に感情を表しているかのようだった。色んな色が混ざりあって、けれど汚くはない――そんな色。
極彩色。この瓶に入った色は、そう言っても過言ではないだろう。
僕は黒崎が泣きつかれて寝たのを確認してから道具の片付けをした。
(……そろそろ帰りますか。疲れましたし)
窓の外は、月光が溢れかえっていた。
(月が綺麗です。今日は満月ですね)
―――青年は大切なモノを無くしました。
―――それは、感情です。
……彼はやっと手に入った彼女への愛情も、分からなくなってしまったのでした。