一人目:お金持ちのお嬢様
僕は“本当に”望まれるとその人の所へ行く。
でも二度目はない。
さて、今回はとある金持ちのお嬢さんの話。
僕は豪邸のとある一室の前にいました。
(金持ちなのに何が不満なんだ?)
『愛はお金で買えない』っていう言葉がありますが、本当は『お金がないと愛も買えない』じゃないですか?
だって、裕福な家庭の方が幸せに決まってるじゃないか。
まぁこんな僕の戯言は置いといて。
僕を呼んだ張本人の部屋に入るとしますか。
起こさないように、ゆっくりゆっくりドアを開ける。
(さすが金持ち。内装も綺麗です)
内装も綺麗だが、なにより小物が繊細で美しい。金持ちは何でも持ってますねぇ。
そしてゆっくりと僕を呼び出した人間のベッド近づく。
別に変なことなんてしませんよ?
(それにしても……大きいベッドですね)
このお嬢さんのベッドは、人が3人寝てもまだ余裕があるくらいだ。
僕は顔を覗こうと掛け布団を少しだけずらす。
(……あぁ、この人の願い事分かっちゃいました)
別に僕は願い事を言われなくても分かる、という訳ではない。
なんというか、直感だ。
(ま、分かりやすくて結構ですよ)
「…お嬢さん、お嬢さん。起きて下さい」
僕が声をかけると、うっすらと目を開ける。
『……? だ、誰……』
お嬢さんの瞳には、恐怖の色が見てとれた。いきなり起こされて部屋に知らない人がいたらそれは怖いですよね。
「こんばんは。お嬢さん。僕は貴女の願いを叶えるために来ました」
正確には呼ばれた、だけど。
僕は営業スマイルで言う。もう慣れっこですよこんなの。
゛貴女の願いを叶えるために゛という言葉を聞いて、一気に目を輝かせるお嬢さん。
『……なんでも、よね?』
「えぇ。なんでも1つだけ、叶えられます」
『じゃあ……私の顔を、可愛くして!』
僕の直感はどうやら当たったようです。
実はこのお嬢さんのお顔は、失礼ですがお世辞でも可愛いとは言えない、下の下の下の顔なのです。
ましてや女性。女性なら可愛くなりたいと思うでしょう?だから分かりやすいと思ったので
「……分かりました。それでは今から叶えましょう」
「少し、目を瞑っていて下さい。これは企業秘密なので」
そう言って、僕の人差し指をお嬢さんの唇にあてる。だんだん頬が紅潮していくお嬢さん。
「あ、そうでした。御名前を教えてはくれませんか?教えてくれないと叶えられないので」
『……舞音。桜庭 舞音よ。』
さて、始めますか。
僕は懐から、鏡を取り出した。
窓際に鏡を置くと、鏡に月光が舞音の顔を照らす。
鏡の前に、透明な液体が入ったガラス瓶を置く。そしてナイフを取りだし、僕の指の皮膚を少し切る。
指から滴る血を、ガラス瓶の中に入れる。
「 」
呪文を唱え終えると、ガラス瓶が耀き出す。
中の液体は、透き通った瑠璃色に変化していた。
「さぁ、舞音さん、これを飲んで下さい」
『まぁ、綺麗な色……。これを飲めば、願いが叶うのね!』
ゆっくりと液体は舞音の口に吸い込まれていく。
舞音の顔はさっきとは激変し、可愛くなっていた。
「これからの生活を楽しく送って下さいね」
鏡を探している舞音に微笑しながら問い掛ける。
『もちろんよ!』
……おっと、そろそろ代償をもらう時だ。
僕はこの時間が…大好きだ
「じゃあ、願いを叶えたので貰っていきますね」
『え……?』
「そうですねー、今回は゛目゛を貰いましょうか」
戸惑っている舞音に近付き、持っていたバタフライナイフで舞音の目をくり貫く。
舞音の悲鳴が部屋中に反響する。
『いっ…ぐぎぁいぁぁぁぁぁぁ!!! やめでぇぇ!!!』
「やめませんよ。願いを叶えた代償ですから」
『ぎぃでな、ぃぃぃぃ!!!』
「言ってませんからね。…それとも、代償無しで叶えるとでも思っていたんですか?とんだ馬鹿ですね」
「ってもう聞こえてませんか」
僕が話終える前に、舞音は痛みに耐えられなかったようで気絶していた。
(さて、そろそろ帰りますか)
道具を片付け、窓から飛びだす。
外は月の光が舞音の綺麗に手入れされている庭に降り注ぎ、神秘的な雰囲気を漂わせていた。
(願いを叶えた時の歓喜に満ちた顔)
(それを崩すのがとても面白いんですよ)
自然と、頬が緩む。
今の僕の顔は、きっと悪人のようだろう。
―――お嬢さんは大切なモノをなくしました。
―――それは、理想の自分を見る゛目゛です。