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迷えるアリス  作者: 柏 紫清
第一章 アリスと白ウサギ
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「はーなーせぇぇぇ!!」

「やだなぁー、兄弟のスキンシップじゃないかー」

「どこがさ!!ちょ、頬擦りするな!」

呼ばれて側に来てみたはいいものの、この状況にどう首を突っ込めばいいんだろう。いや、決して突っ込みたい訳ではないのだけど。

そんな感じで俺がどうしようかと側で傍観してると、察してか察さずかニボシが声を掛けてきた。

「あ、やっと来たね~咲くん。これ俺の弟のケント」

健気な人って書いて、健人だよー とまたまた字の説明までする。

「細か~い紹介ありがと。いい加減離してよ暑苦しい、ウザい、鬱陶しい。」

ニボシに抱きつかれている人が迷惑そうに言った。この茶色の猫っ毛の彼が弟さんのらしいが、その瞳はニボシと違って仄かに赤みを差しているようだが茶色だった。


制服の彼は俺と同じ色のバッチを付けてるから一年生らしい。

「ケントってば可愛いなー照れちゃっでっ」

言い切る前にニボシがノックアウトされた。殴ったのは弟のケント。

「まったくそんなことばっかり言って……」

「あの、ニボシ起きないけど。」

そういうと倒れたニボシをじっと見つめはじめて…。

「よしっ」

十秒経ってからニボシのノックアウトを認めたらしくこう言った。

「あー…しまった。兄さん弱いの忘れてた。」

「……いやいや、よしって言ってたじゃん。」

ちょっとわざとらしかった。ノックアウトしといてそれはないだろとか思ってると、ケントがクルリと俺の方に向き直った。

「改めて!僕、赤間健人って言うんだ!!よろしくね、有栖川くん!」

元気に挨拶された。笑顔で、握手まで求められている。

「あ、うん…よろしく。」

「うん!因みに1年で同じ学年だよ。」

握手を返すと更に嬉しそうに笑いかけてくれるので、思わず俺も微笑み返す。なんだか不思議な気分だった。

そして、自分も名乗ろうとしてに気付く。

「あの、赤間はなんで俺の名前知ってんの?」

教えていないのに。と思ってるとケントで良いよの言葉の後に返事が返ってきた。

「だって有栖川くん朝会でも学年集会でも紹介されてたしこの時期の転校生って珍しいからねー。……ござるくんが宇宙人異世界人超能力者とか騒ぎだす程度には」

「え?最後の小さくて聞こえな……」

「大丈夫、問題ないよ」

食い気味に否定されてしまって聞けなかった。

まぁ、普通はこうやって朝会とか知り合いの内で名前くらいわかるんだよなぁと、さっきのニボシの違和感を思い返していたが徒労だろうと思うことにした。

「ん、そういえば。俺も呼び名さ、咲でいいよ。あんま苗字好きじゃないし」

「そうなの?咲くん…でいいかな?」

「うん。えっと…ケント」

名前呼びしてやるとケントが嬉しそうにキラキラした笑顔なのが、なんだか照れくさくてぶっきら棒に言った後に目を逸らしてしまう。それから放っておく訳にも行かないしニボシを俺が背負って食堂に向かった。


「ごめんね。兄さん重いでしょ。」

申し訳なさそうにケントが言った。

「いや、何故かそんなに重くない。むしろこの人成人にしちゃ軽すぎる。」

それならよかった、と安心そうに言うケント。ある意味安心できないと思うけどな。

「ほんとは僕がするべきなんだろうけど、起きたとき僕が背負ってるってわかると兄さん絶対調子乗って降りてくれないだろうし…それだと待ち合わせに遅れちゃうだろうから」

ブラコンな兄を持つと大変だなぁと苦笑しつつ聞いてみた。

「待ち合わせにって、何処に行くつもりだったんだ?」

「あー、それはね」

ぐきゅうぅぅぅー……とケントの腹の虫が鳴った。

「……えへへっ」

まだご飯食べてないんだー、と照れ笑いした。

「えーと、……俺は学食なんだけどケントも?」

見るからに手ぶらだし行き先告げても付いてきてるからそうなのかなとも思ったんだけど。

「ううん、弁当。一緒に食べる人と約束してて、探してたんだけど。」

「へー、同級生?」

「前まではそうしてたんだけど最近は違う人と食べてて…」

「け、ケント!」

その時、向こうの廊下の角からパーマ気味の黒髪でスラリとした長身人が少しどもりながらケントを呼ぶ。

「あ、それじゃあ咲くん。相手が見付かったから僕行くね」

じゃあねと手を振って先輩らしき人物に向かって駆けて行こうとしたが、何か思い出したように俺に耳打ちした。

「コンタクトは?て僕から伝言って兄さんに」

お願いねと言うとケントは今度こそ走り去って二人で楽しそうにしながら廊下の角へ消えていった。

(コンタクトって…?)

今は俺がなんとなく危ないと思ってメガネを預かっているが、それに加えコンタクトとは相当目が悪いんだろうか。

そんなことを考えつつも、俺はこうぼやかずには居られなかった。

「……背…高いなぁ、みんな」

コンプレックスその2、低身長である。同い年でパッと見たくらいでは同じくらいだろうとあたりを付けていたケントにも数センチだけど越されてた。悔しい。

はぁ…とため息吐きながらぼんやりと二人が消えた角を見ているとぱちりとニボシが目覚めた。

「んー…?あ、咲くーん、頭がちょっとクラッとするよー…」

「……タイミングが良いんだか悪いんだかで起きますね…。」

ケント的には良いんだろうけど胸の内で付け足す。

おはよう。とニボシが微笑み、おはようございます。と俺が不愛想に言いながらメガネを押し付ける。

「歩ける?」

「うん、大丈夫っぽいよー。んじゃ食堂行こっかー。」

ケントの登場でこの人に敬語を使うのがアホらしくってタメ口にしてみたら、一瞬遅れて気付いたニボシが嬉しそうにへにゃりと笑った。

なんだこのでっかい子供は。


ケントに逃げられるのはいつもの事らしくて随分あっさりした態度だったけれど、黒髪天パの人と行ったと伝えた途端になんかぶつくさと嘆き始めた。

なんでだろうと不思議に思いながらもニボシと再び学食に向かう俺たちだったが何か引っかかっていた。

「あ、そうだ」

すっかり忘れていたが、頼まれごとをしてたんだった。

「ん?なにかなー?」

「伝言、ケントからで「えっなんて!!なんて!」」

セリフがかき消された。子供みたいに飛びつくブラコンっぷりにこれじゃケントも反射で殴りたくもなるなと呆れる。

「言うから落ち着け。えっと」

ケントはなんていったんだっけ。あぁ、そうだ。

「ケントが『コンタクトは?』って兄さんに伝えて…って……」

言いながら、最後が狼狽うろたえるようになってしまった。そして、実際に俺は狼狽えていた。

だがこの場で最も狼狽え動揺していたのはニボシだろう。


何故なら、ニボシはその言葉を聞いた途端飛ぶように後退すると目を手で覆うように隠し、その隙間から俺の方を見ていた。

そして、いかにも恐る恐ると言った声で細々とした声で尋ねてきた。

「君は、」

言葉を詰まらせるが、俺はその声を逃さないようにじっと耳を傾ける。

「平気…なのかい…?」


ニボシは何故かそんな変なことを、恐怖の感情を浮かべて聞いてきた。

不思議そうな顔の俺を見て、ニボシが「あれ?」とでも言いたげな顔をする。

「あ、あれ?あのさ、俺の目、変じゃない…?」

変?特に変わった様子はないけど…ゴミでも入ったんだろうか。

「いや、別に?」

そう答えた途端、あからさまにホッとしたようだ。

「なんだ。そっかー、よかった」

「うん。ちゃんときれいな赤色だぞ」

一瞬にして凍りついた。誰って赤間丹星その人がである。


「え…あ、あか、い…?」

「え?あぁ、赤いけど」

ただでさえ白い顔が透明になるかのようにサッと青ざめる。

「大丈夫か…?真っ青だけど」

「え、目が!?た、大変だ「いや、真っ青は顔だから落ち着けって」」

さらに混乱を招いたようだ。一体どうしたんだろう。

頭を抱えるニボシが慌ててポケットを漁って何かを見つけると、すぐそばの教室に入っていってしまうので、俺も慌ててそれを追った。





***


「あのさ、ニボシ」

「なんだい?咲くん」

「その目はなんなの」

さっきまでの綺麗な赤色ではなく、黒色に染まっている。慌てて空き教室に入ったのはカラコンを入れるためだったらしい。

「いやー、たまにうっかりしちゃうんだよね。」

「そうじゃなくて、なんで隠す必要があるのか聞きたいんだけど」

そう聞くとやはり言いにくそうに曖昧に笑って誤魔化そうとする。気になったけどそれ以上はその場で追及するのはやめにした。


「でも、勿体ない」

思わずそう呟くと不思議そうにニボシが首を傾げた。

「せっかく綺麗なのにって、思っただけ」

なんとなく不機嫌そうになってしまい、気を悪くしてないかと見上げると、ニボシは絶句していた。

「ねぇ、やっぱり君さ、変わってるって言われない?」

今度はさっきのように笑わずに驚き、それでいて真剣な眼差しで俺を見つめていた。

「いや、だからそんなことはないと思うけど…」

今度は何故か、俺の方が自信がなくなって口籠ってしまう。なんだこの謎の沈黙。

どうしようか悩んでいたら真面目な顔のニボシの口角が徐々に上がっていき、堪え切れずといった風に、ぷっと噴き出した。

「ちょ、なに突然笑って…」

「あぁ、ごめんごめん。でも、やっぱり君は変わり者に違いないよ」

失礼なことを言うやつだなぁと軽くむっとするが、さっきの変なニボシよりはいいかなと起こる気になれずに俺も釣られるようにして笑った。

「突然笑いだすニボシも相当変わり者だって」

「うん、よく言われるねー」

ケラケラと笑いあって楽しいなって言い合う単純な一時が。

大人のくせに子供みたいにはしゃいで一喜一憂するニボシが。

馬鹿みてーと言いながら、馬鹿みたいに笑っている俺が。

訳も分からなくおかしくて堪らなかった。


流石に人通りの増えた食堂の近い廊下に差し掛かってからは笑うのはやめたけど。

「…ねえニボシ先生・・…?」

「あー、言いたいことは分かる。すごーく分かるよー」

いやー噂話ってすごいねー、と思い切り他人事である。

食堂近くの廊下で数人の生徒がチラチラと俺たちの方を見ている。中にはあからさまにニボシを睨みつけたり、(俺に対する)思いの丈を叫んだりと様々な『目』がある。

窓の外の中庭や渡り廊下には『号外!』と叫びながら走り回り、教師に走るなと咎められている新聞部までいる。

注意するポイントが違うだろうが教師!!てか『今回もいい出来の新聞ですね』とか褒めてるお前は俺の担任じゃねーか!新聞部の顧問だったのか!

「…大変だね、美少女転校生って」

「できることならアンタに代わってやりたいくらいイベント満載だぜ」

「生まれ変わったらまた誘ってよ」

お互い苦笑いしつつ食堂の扉をくぐった。


***


そうして食事を終えて周りを見る。周りのテーブル一つ分くらいは使われいない変な避けられ方に加えて食堂の中の大多数がニボシを思いっきし睨んでいる。

「ニボシ先生って生徒に相当嫌われてるんですね」

「やだなぁ、咲くんが人気過ぎて俺の人気が圧されてるんだよ」

そんな調子のいいことがあるわけないと思う。

「俺が転校して来て五日程度なのにそんなことあるわけ…」

「さっきの校内新聞騒ぎを見てそんなこと言って居られる君が不思議だよ」

半ば呆れ気味に溜め息をかれた。

確かにとは思う。この学校の噂のまわり方は尋常じゃない。恐るべし晴嵐新聞部。


「ま、食べ終わったみたいだし行こうかー。良ければ教室まで一緒に行くよ?」

「ちょ、ちょっと待った!!」

俺は慌てた。思わず「おう」と返事をしかけたが何の為に学食まで来たんだ。

いや、昼飯食べる以外にだ。

「うん?なにかあったかなー?」

「話をするってここに来たんだろ!」

すっかり忘れていたらしいく『あ、そういえば~』と呑気な態度のままだ。

なんなんだこの人。いや、確かに俺すらも忘れてたけど。


「でもさー咲くん。こんなとこで話したい?」

「…まぁ、確かにそうだけど」

確かにここは人目が多い。一定以上離れているからとはいえ、ほとんどが聞き耳を立てている状態だ。

「放課後、案内人を付けるから俺の教室においでよ。そこなら邪魔は入らないし」

ね?とニコニコしながら小首を傾げる。

「まぁ、邪魔が入んないって言うならそれに越したことはないけど…」

「じゃあ決まりだね」

そう勝手に決めたかと思えば、もう食堂の出口に向かって歩いている。こんなマイペースな奴についてってほんとに大丈夫なんだろうか。

って言うかさ。

「送ってくって言ったのはうそかよ!」

「あ、ごめーん。忘れてたよ~」

ほんとに大丈夫なのか…。一抹の不安と共に、俺の不思議体験は放課後まで続くことになった。





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