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迷えるアリス  作者: 柏 紫清
第一章 アリスと白ウサギ
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力が入らなくて、空気を根こそぎ奪われた俺はなんの抵抗もできなかった。

「ん…ふぅっ…んんっ…」

ちょっ…え、なんで……なんで俺はキスされてんの?

「やめっ…ん………」

苦しい。ってか舌いきなり入れてくんなよ!ナニコレ何が起こってんだよ。

うっすらと見える視界には白く長い髪に赤い瞳の男。逃げるために入った教室で、俺はそいつに口内を犯されていた。


***


何故こんな事態になっているのか。それは遡ること10分前―――

「まちやがれ!アリス!!」

筋肉隆々と言った風のいかにも体育会系なのが叫ぶ。

「あーもう!!嫌だっつってんでしょ!!しつこいなぁ!」

先輩にその口の聞き方はなんだ!!と叫んでいるが俺は耳を傾けない。

第一、待てって言われてこんな状況で待つやつが居るのか。少なくとも俺は待つ気なんか更々ないね。

「そんなつれない態度も可愛いよ、アリスちゃん」

集団の内の金髪のナルシストっぽい奴の不愉快な発言。

「アリスちゃんとか呼ぶな!!それと気色悪い!!」

「わぁっ!アリスちゃんが罵倒してくるよっ!!」

見た目爽やか風のドM野郎が叫んだ途端にウオォォォォォォー!!と雄叫びが上がる。

……どうやら敵に火を付けてしまったらしい。くっそ…あの燃え具合はきっとガソリンだな!!

泣きたい。キモい。殴りたい。まぁ今殴りかかっても多勢に無勢で勝ち目薄だけどさ。


有栖川 咲 の苗字からとってアリス。単純すぎるが覚えやすいことこの上ないが俺からすればいい迷惑だ。

中学の時このニックネームで定着して『あれ、下の名前なんだっけ?』って言われたりもしたからこの呼び方はめちゃくちゃ嫌い。超不愉快。

…勿論ちゃん付けされんのも嫌だし、何より益々女っぽくなるからヤダってのもあるけど。

ちなみに今は昼休みで俺はまだ昼飯前。そろそろ行かないと売り切れて『また』食いっぱぐれてしまう。

そう思った俺はさっさと撒いてしまおうとキュッと角を曲がって不用意にも目に入った教室に飛び込んで思いっきり扉を閉める。

入った先は科学準備室だったみたいで、ずらりと並んだビーカーとホコリっぽさに似た香り。なんとなくこの匂いは嫌いじゃなくて少し落ち着く。

とりあえずほっと一息ついてから、……一瞬で身を固まらせた。

静かだから誰もいないのかと思っていたらそこにはちゃんと人の気配があった。

見渡せば一人ヘッドフォンを付けながらビーカーをいじってる白衣姿。

強く扉を閉めた所為かこちらを振り向いてヘッドフォンを外すとメガネ越しに宝石みたいな目をぱちくりとさせていた。


白くて長い髪に赤い瞳…聞いたことある。色素欠乏症ってやつかな……。すっごい綺麗で浮き世離れした感じの、触れたら壊れそうな線の細い儚ささえもあるのにそこには確かな存在感があって…不思議な人だった。

何かの本から間違って出てきてしまったかってくらい、そこだけ切り取られたような空間だった。

(男…だよな…?…ウサギみたいだ…)

頭の寝癖なのかなんなのか、跳ねた毛がぴょこぴょこ揺れるのも相まって『ウサギ』の表現がぴったりと当てはまる。

そのウサギの人はあんまりにも綺麗で、女性にも見えてしまいそうなくらい中性的なその人に、俺はこの状況にも関わらず見蕩れてしまっていた。

そして、その人は誰もが引き付けられてしまうであろう透き通るような赤色の目でじぃっと俺を見つめてから、ふと扉の外に目をやる。

バタバタバタ と大勢の足音が曲がり角を曲がって俺が直線上に居ないのに当たり前のように気付いたんだろう。それにバカでかい声もする。

『居ないぞ!』『扉の閉まる音が聞こえたしきっとどっか教室に入ったんだね〜』『科学準備室か、科学室辺りが怪しいかな…』


「やっば…」

(なんでそんなに無駄に頭が回るんだよ!!バカばっかの不良校じゃなかったのか!!)

焦りから思わず声を漏らすと、ウサギの人が扉を指差してからにその先を俺に向ける。

―――あれはキミが…?

そう聞かれているような気がして大きく縦に首を振った。

ウサギの人は軽く顎に手を当て考える仕草をしてから、パタパタと手招きをするから恐る恐る俺は近付いた。この際助けてくれるならどうにでもなれ、なんて一か八か賭けてみようと思ったんだ。

その賭けは一瞬で後悔に変わることになったけど…。


その人はおもむろに自分のメガネを外すと椅子に腰掛ける。

「あの……」

何をするのかと尋ねようと思った俺が目の前に来ると、俺よりも頭の位置が低くなったウサギの人が無言のまま俺の手を引いてく。

急な出来事に俺は一歩踏み出すと、椅子に片膝ついて肩の向こうの机に手をつく形になる。

「え、うわ!?…っんん…」

その途端、後ろから頭を押さえられて…キスされた。



***


……んで 現在に至る。


何がなんだかわからない。 思考も走った分とキスされてる分で酸素が奪われていてうまく働いてくれそうにない上にクチュ…チュッ…と卑猥な音がするものだから、俺の頭の中は羞恥と驚愕で埋め尽くされ大混乱だった。


ガラララッ

▼扉が開いて追っ手が現れた!!

「アリスちゃ……!あ…」

「見付け…っえ…あ……」

「え、いたの?……あぁ…」

追っかけてきた奴らは入って来る度に全員が凍り付いて静かになる。そんな中でエロい音がするもんだからめちゃくちゃ恥ずかしい。お願いだから今だけは黙らないで欲しかった。

あぁ…、穴があったら入りたいってこうゆうことなんだな…。

もう意識が飛びそうなくらい俺の酸素を貪ってからやっと口を離されて、俺はそのままウサギの人に抱き付く形でくてりともたれ掛かった。

「ん…まったく、そんなに欲しがらなくてもちゃんとゆっくりしてあげるのに…」

耳元で甘い声が囁くから思わずビクリと肩が震える。なんだか蕩けてしまいそうな程ゾクゾクする声だ。

その上さり気なくあいつらにわざと見える方の耳を舐めてから漸く扉の方をたった今気付いたみたいな顔で見るとこう言った。

「……俺のモノに、なんか用?」

さっきの甘い声とは吃驚するほどの温度差のある冷たい声に、ヒッと言う短い悲鳴と息をのむ音が静寂に呑み込まれる。


そして、永遠にも感じられる程の沈黙ののち金髪ナルシストと爽やかドMが口を開いた。

「いや、なんでもないです」

「す、…すいませんデシタ…」

ピシャリ

科学準備室の扉が閉められて大勢が一目散に逃げ出していく。

『なんでニボシがいんだよ!!』『知らないよ!あのうさぎ男、神出鬼没なんだもん!!』『アイツにだけは目つけられたくないよな!』『あぁっ…!!アリスちゃんが腹黒うさぎの毒牙に……!』

(ニボシ…?うさぎ男……?)

バタバタと荒々しい足音と、本人に丸聞こえなのにも気付いていない叫び声を聞いてそんなことを荒い息の中で考えていた。

(5、6、7…9人て、はは…どんだけの数追いかけてきてんだよ…)

でもいつもよりは少なかったかも。

そんなことを考えていると、ウサギの人がホッと息をついてまだ頬を上気させて力が入らない俺をきちんと座らせてくれる。

「大丈夫?ちょっとやり過ぎちゃったかな…ごめんね?」

正直、全然大丈夫じゃないと思っていたけど先程の甘い声とも、冷たい声とも違う優しくて温かい声色でイメージしていた女性的な線の細いのとは違った男性らしくてでもそこまで低くない綺麗なアルトが降ってきたのには少しホッとしたかもしれない。


ってか声色の分析とかそんなことは今はどうでもよくて!!

呼吸も大分落ち着いてきたから ニボシとかうさぎ男とか呼ばれてたその人をキッと睨み付ける。

「わぁ、怖い顔しないでよ。」

困ったように眉を下げて苦笑するけど、飽くまでもマイペースに喋るウサギの人。

そんなことをそんな風に言われても、俺はキスされて黙ってるほど寛大でも淫乱でもないっつの!!

し、しかもファーストキス……っ!謝るだけじゃ絶対済まさない!!

ファーストキスって事実は高1にもなって、とか考えて言うと恥ずかしいし女々しい感じがして絶対言う気はないんだけどとにかくムカツク!

とりあえず怒った俺は文句を言おうとしたら言葉を被せられてグッと堪える。

「……とりあえずお話は食堂に行ってからにしないかな?」

は?俺は鳩が豆鉄砲喰らったような間抜け顔をしてたと思う。なに言ってんのこの人って。

「行く途中だったんじゃないかなって。お腹空いてない?」

くぎゅう~……タイミングよくなる腹の虫。ほらね?とまるで知っていたかのように言って白いウサギは微笑んだ。




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