神様、返品させてください。
「てへ、ごめんね、間違っちゃった」
「はい?」
いきなりトラックにつっこんだかと思ったら次の瞬間、何故か変な空間に居ました。私の名前は田中花子といいます。平凡な名前で気にいってたりするんですけどね。
ところでこの真っ白な空間って確実に平凡からかけ離れてますよね? 私は平凡がいいんですけど。寧ろ平凡以外いらないんですけど。
「そ、そのごめんね。私神なんだけど、間違ってあなたの事殺しちゃった。死ぬ予定なかったのに…」
「へぇー…」
「って、反応薄!?」
正直に言うと、間違って殺しただとかそういうのはぶっちゃけ私にとってどうでもいい。
こうやって自称神様が出てきてる時点で、取り返しがつかなくて『田中花子』は死んでいるという事であるだろうし、死んだものを嘆いたってどうしようもない。それよりも目の前の白い服着たお姉さんが神って、人間にしか見えない。というか、美人だ。それに何て軽いんだろうと思いながらただ見据える。
「間違って殺しちゃったから、転生させてあげるね。ファンタジー世界だけど、チート能力も上げるから安心してね!」
「チートなんていりません」
「え?」
ばっさりと言い放った私の言葉に目の前の自称神様は驚いたような表情を浮かべている。
何処に驚く要素があったのか、正直私にはさっぱりわからない。
「え、ああ、遠慮してるのもしかして」
「いえ、いりません。私が欲しいのは平凡な人生です」
私の人生―――死んだらしいから前世というべき人生は名前の通りまさに平凡だった。だけどその人生が嫌だと思った事は一度もないし、寧ろ平凡な人生が私は好きだった。
それを異世界召喚なんていうテンプレで、チートだなんて平凡から変え外れた人生になるに決まってる。そんなの死んでもいやだった。
それなのに――…、
「何て、欲がないいい子なの! 決めた凄いチートあげる! 考えてた以上のチート!!」
神様はそんな事をほざいた。
「だから、いら――…」
「あ、時間切れだ。じゃあ、次の人生楽しんで来てね」
「って、聞い――…」
私の言葉は最後まで言わされないままに、突如白い空間の私の足元に穴が開いた。そして、私は吸い込まれるようにその穴の中に落ちていき、第二の人生が幕を開けるのだった。
そして、転生した早12年。
「マリア様はどうして可愛い顔を隠していらっしゃるの?」
「目立ちたくないからに決まってるでしょう」
私は異世界のある王国で、公爵家の娘として転生していた。名前はマリア。前世の田中花子とは比べ物にならない立派な名前である。まぁ、名前は別にいいのだ。
使用人のアリサは私を見て不服そうな顔をしているが、私は目立ちたくない。
生まれてしばらくして見た私の顔は、自分で言うのもなんだが美少女になっていた。前世の平凡な顔立ちとは比べ物にならない美少女になっていた…。銀髪の美少女…なんていう、目立つ外見だろうか。
私は生後すぐに魔法という存在について知った。
それでひらめいたのは、魔法使って外見を変えちゃえばいいという事だった。あのチート能力なんてくれた神様は、チート能力をくれたはずだから魔法が使えるのではと思った。
そして…、私は幼いにも関わらず少しずつ魔法を使ったのだ。異和感がないように、少しずつ自分の顔が平凡に見えるようにした。本当は髪の色も変えたかったが、それは流石に無理だろうと断念したのだ。
とはいっても、アリサや両親には結局後に気付かれて白状したが…。神様に会ったことも話したが、この世界割と前世の記憶がある人間もいるらしく受け入れられてほっとした。顔を隠すのもったいないと言われたけれど。
「…顔をさらけ出して、魔法使える事もさらして、天才な事ばらせばきっとバカにされないんですよ? 悔しくないんですか」
「全然、寧ろ平凡は素晴らしいわよ」
アリサの言葉に、カップに手をつけながら答える。あ、ちなみにいるのは庭だ。家の庭でのんびりとしていたのだ。
私の家の庭園は、整備されていて花が彩っていて見ている分には凄くいい。私はこの庭の風景が大好きだ。
それにしても…、と自分を思う。
魔法はバリバリ使える。寧ろやろうとすれば大抵の事はできる。運動神経も抜群で、剣での戦いも、影でやっているがかなり出来る方だと思う。今回は記憶力もよく、読んだ書物の内容もほとんど頭に入る。
加えて公爵家の娘で、お父様は政界に影響力をかなり持っている。あと、精霊にやたらと好かれて話しかけられる…。
全部平均的にまで抑えてる。顔も平凡にしてる。だからバカにされたりするけど、私にとってこの生活は割と快適だ。目立たないように、平凡に生きたいのだ。というか、寧ろ平民になりたい。将来は平民と結婚して平民になりたいとさえ思う。
なんて思ってた。
それなのに――、
「マリア、王太子殿下の正妃候補にお前は入ってる」
お父様がある時、そんな事を言いました。
ああ、そうですね。私って公爵家の娘ですもんね。この国でかなり力持ってますもんね、お父様は!
「ええ、と、辞退はできないでしょうか…?」
お父様の書斎の中で、にこにこと笑っているお父様と違って私は表情を固まらせていることだろう。
「ああ。お前の事はきっちり陛下に伝えてあるから」
「ええ、と、きっちりとは?」
「正確な外見と能力」
「って、お父様! 何で、そんな事をしてるんですか!」
内心えええええええええぇえええええ、である。私の見た目も能力も陛下にただ漏れなんですか。それはなんていう…、王妃フラグが立ってるんだ。嫌だ。ああ、そうか、王太子殿下に嫌われるようにやっちゃえば――…、
「そうそう、王太子殿下もお前の性格は知ってる」
「って、お父様ぁあああああああ!!」
確か王太子殿下は今年16歳。私とちょうど四歳差。年齢的にはロリコンとも言われないし、別に問題ない。とはいっても王太子殿下が私の性格を知ってる…、能力も知ってる。嫌われるように仕向けたらバレちゃう…?
王妃フラグ…。嫌だ、絶対に嫌だ。今まで隠してたのに。家族とか親しい人以外知らないのに。それなのに王妃フラグ…。平民への道が…。
「まぁ、諦めろマリア。お前は埋まったままではもったいない。諦めて王妃になるんだ」
「………はい」
イエスしか言えないような重圧感に、思わず頷いてしまった。正直お父様に逆らえる気しない。今まで好き勝手させてもらっていたのも理由だし…。そうか、厳しいお父様が私に割と甘いと喜んでたが、これを実行させるために甘かったのかもと今更思った。ああ、言質をとられてしまった。
トボトボと、結局こうなるのかよチクショーとか思いながらも私は心の中で叫ぶ。
神様、返品をさせてください、と。
(平民になりたかったのに、ああ、王妃フラグが立った)
平凡求めても結局、なんだかんだで王妃フラグ。
前世 田中花子。平凡庶民。全てにおいて平凡。
現世 マリア。公爵家の娘。全てにおいて非凡。
そして結局押し切られてしまうのであった。
途中で展開変わってしまった、書いてて。