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第六話 「真実への一歩」


「なんでそう思うの?」

「あんた、さっきから俺の質問に対してそればっかっすね」


 蓮牙の声に呆れた様な色が混ざる。


「気に障ったのならごめんなさい。私、研究者だから過程も気になるの。考察からでも新しい発見ができるかもしれないでしょ?」

「別に気に障った訳じゃなくて、ただ、答えを知られたくないからミスリードを誘ってるのかと思っただけっす」

「ふーん。で?何でそう思ったの?」


 彼女のていを崩さない質問に今度は僕が答える。


「『何か変化があったか』と聞かれた際の候補に、色をあげてましたよね?僕達が知る限りランタンの色が皆さんと違って緑なのは知座さん達だけです」


 その言葉に、濡羽さんは彼らを蛇の様に鋭い瞳で睨みつける。


「あんた達、見廻りの際は緑やめるって言ったよね?」

「めんご☆」

「あれは、勤務の見廻りではないからな」

「蓋雫っ!屁理屈っ!」


 此方の問い詰めるような物言いにも関わらず、彼らは至って普通通りだった。


「まあ、今はいいわ。後でしっかり話しましょう。

で、緑だっけ?別にLEDでカラーを変えることもできるけど?」

「LEDの可能性も確かに疑ってました……でも態々、変化の候補に色をあげんのかなって。実例があったから言ってるとしか思えないっすけど」

「言葉の綾の可能性は?」


 向こうの腹の中を探ろうと仕掛けたはずなのに、寧ろじわじわとこちら側が攻められている感覚に陥る。


「わかりました。なら、それは仮に言葉の綾だとするとして…。

じゃあ、御三方のランタンの形が他の隊員と違うのは何でなんすか?」

「んー、趣味?試験管可愛いし」

「形の変化。これもさっき言ってました。それに、形が変わったら重さも変わりますよね?」


 僕達二人からの質問に彼女は顔色一つ変えない。正直、決定打に欠けている事はわかっているが今の自分達が推測できる範囲でなんとか返していく。


「制服の改造とランタンの色、規律を重んじる政府の組織がその二つを違反しているのを見逃すとは思えません。だから、緑に光るランタンを持つお二人はなにか特別なんじゃないんですか?」


 不安いっぱいな胸の内を悟られない様に落ち着いて僕らの考えを述べる。


 カチカチとなる時計の音以外、物音ひとつ立たない数秒の沈黙。

 その静けさの中、彼女は徐に口元へと手をやると秒針のリズムを壊すかの様にお腹を抱え笑い出した。


「あっははははは!なるほど…そうきたか…!面白いね君達。此方の核心を何にも突けてない推測だけど……

六十二点ギリギリかな」


 目元に浮かぶ涙を人差し指で拭いながら、僕らの推理へ点数をつける。


「赤点回避〜」

「馬鹿、高校生の赤点は六十点じゃないでしょ」

「えっ、そうだっけ」


 いつの間にか背後に佇んでいた知座さんが、会話しながらわしゃわしゃと掻き回すように僕らの頭を撫で散らかす。二人揃って髪の毛はぐしゃぐしゃだ。

 蓋雫さんは知らぬ間にいなくなっていた。大方、飲み終わった入れ物を隣の部屋に持って行ったのだろう。


「"そういうもの"って片付けずに考察したことに六十点。推理は二点かな」

「「ひっく!?」」


 あまりにも偏りがありすぎる点数配分に敬語を忘れて二人してツッコむ。


「まあ、今出てる情報だけじゃ足掛かりにするものが少なかったからね。二点ぐらいがちょうどいいわ」

「そんなに的を得て無かったっすか俺らの推理…」


 手足を投げ出し、ソファに全てを委ねる様に座った彼は残念そうに呟く。僕もソファに両手を付きながらその言葉に同意する様に首を縦に振った。


「まあ、的を得て無いというか…そもそもの土台が違うというか…取り敢えずそれは気にしなくていいの。それに…」


 そこで言葉を一旦区切ると、彼女はランタンが繋がっている紐を摘み左右にユラユラと揺らしながら光を灯す。その色は…


「私も緑だから」


 悪戯が成功したからか無邪気な笑みで色付きグラスのつるを一度クイっとあげてみせた。

 驚きで目を見開く僕とガタッと飛び上がり前のめりになる蓮牙。

 視界の端に映る知座さんは苦笑いを浮かべているので、彼女が自身の緑色を披露したことは想定の内でもあまり良い展開ではなかったのだろう。


「って事は、濡羽さんも改造ランタン使ってるなら問題児って事じゃ無いっすか!?」

「ちょっ、問題児って失礼ね!そもそも私たちのランタンは改造ランタンじゃなくて、元から緑色に光るの」


 角を挟んで座る蓮牙にぶーぶー文句を言いながら、ランタンの透明な部分を4本の指で包み込む様に握り、親指を壁面に這わせて本来物体を注ぐ場所に嵌められた金属に触れる。そこがスイッチなのだろう、筒の中の輝きは消えた。


「俺ら、普段は見廻りの時は他の隊員と同じ色のランタンを使ってるんだけど……まあ、面倒くさいから自分の使いたんだよね〜。でも、色々うるさく言われててさ〜」

「…あんた達がしょっちゅうそれ使ってんの知ってるんだからね」

「うっ……ごめんなさい」


 黄色い彼は、制服の右腕上腕にしっかりと嵌め込まれている自身のランタンを庇う様に体を逸らす。他の二人に比べて薄く平べったく、上下を金色の装飾に挟まれた長方形のランタン。


……前回会った時も思ってたけど、正直ランタンと言うよりかは、大きめのスマホの様な見た目と言った方がわかりやすい。


「なら、隊員全員で緑使えばいいんじゃないっすか?」

「一般的な白と赤を差し置いて数人の為に緑にするわけにはいかないでしょ」

「それに、暗闇の中で突然緑の光が迫ってきたらびっくりしちゃうくない?」

「確かに…」

「あんた、そこまでわかってるならいい加減っ、使うのっ、やめなさいよ!!」

「あっ、ちょっ、ぼくの!ぼくのもちもちほっぺを虐めないでっ!」


 健康的な頬を両方向からにーっと引っ張る濡羽さん。やはり、普段からこの人には苦労させられている様だ。遠慮がない。


 そんな彼らを横目に僕は一人、内側から迫り来る興奮を押し留めるのに必死だった。


ーーこの人達は今までの大人とは違う。

この町の当たり前な日常に隠れた何かを確実に知っているんだっ!!


 研究部(エピス)に所属しているという一つの手掛かりだけでなく、その他の言動から確信を持った今、腹の底から湧き上がる悦びが声にならない様に必死に喉を締める。

この瞬間、間違いなく人生で一番喜びという感情を味わっているだろう。僕は口がにやけない様に、柔らかい頬の裏を血が滲む程噛み締める。


「ところで、あんたすっごく嬉しそうな顔してるけど?」


 そんな努力とは裏腹に恍惚とした表情は隠せていなかったらしい。

 足を組み替え、挑発的な笑みを浮かべながら此方に視線を寄越す濡羽さんに、僕は出会い頭の震えるほどの緊張感など忘れ、許される限り質問をしようと決心した。


「長年知りたかった疑問が今晴らせそうなんです」

「それは良かったわね。でも、本当にその疑問晴らせるかしら?」

「目の前で、形の違うランタンが全部緑色だって教えてくれてるのは、自分達は普通の隊員じゃ無いって言ってる様なものじゃないですか?つまり、何か知ってますよね…?」

「…貴方の言う普通の隊員って?」


 今日一番の試す様な問い掛けに、返答を間違えればやっと見えた真実への道にすらニ度と近づけないだらうと悟る。


「子供の質問に対して、"そういうもの"って片付ける大人」


 僕の答えに、タイミング良く戻って来た蓋雫さん含め大人達の視線が一斉に集まる。そして、今度は秒針の音すら聞こえない静寂が部屋に訪れた。

 六つの目からじっと見つめられ続け居心地が悪くなってきた頃、静寂に飲まれ気配すら消えかけていた濡羽さんが体ごと腕を後ろにグッと逸らすと、聞いてくれと言わんばかりに大声で呟く。


「よし気に入った。

ランタンも持ってる、合格点も取った。

知りたいこと教えてあげてもいいかも」


 目を細めて投げた視線は緑を持つ他の二人に向けられている。


 そんな中、彼女の呟きに僕は少し違和感を持っていた。


ーーランタンを持っていることも情報を知る為の権利として必要ってこと?

確かに、光源としてランタンが必要なのは理解できるけど、そこまで重要視しなければならないのか…?

 まあ、其れについても後で詳しく聞けばいい。今は、ただ知りたい事を優先的に聞いていくだけ。

 

 僕は一息ついて口を開く。


「…何でも聞いていいんですよね?

なら、(カルヴノ)と閃時について教えて下さい」

「おいっ、燈下っ!」


 あまりにストレートな物言いに蓮牙が口を挟む。

 相手の陣地のど真ん中、ましてや地下など情報漏洩を防ぐ為に何かされても逃げるのはほぼ不可能だろう。

だけど、今までの三人の態度からして此方に危害を与えるつもりは無いとみえる。

 だからこそ、一か八かの質問を。

 一番知りたい情報を。


「もちろん。知りたいなら教えてあげる。その代わり、その祠の場所に案内して」

「…場所なんて、知座さん達に聞けば良いんじゃないんですか」


 ふっかけた自分が言うのもなんだが、フェアとは思えない条件についつい口を出してしまう。


「私は、その場所と貴方に興味があるの。だから、一緒に来てもらうから」


 まるで彼方(あちら)に不利益はないと言わんばかりの顔で彼女は僕をソファに座るように顎で促す。


「さぁ、何から聞きたい?」


 会話から置いてけぼりにされた仲間二人も、こんな展開になるとは思っていなかったのか驚いた様に顔を見合わせていた。



------------------------


 彼女の言った話を途中まで纏めると、こうだ。


 閃時は(カルヴノ)が葵出町に出現する際に起きており、奴らの意思によって生じる現象だということ。

 住人が気づいていないだけで夜でも(カルヴノ)が此方に来る事を望めば閃時は発生しているということ。



 幼い僕が抱いた疑問は一人の人間により、いとも容易く解決してしまった。そのうえ、あの時の回答が誤っていたことさえ知れた。


ーーほらみろ。"そういうもの"じゃないんだ。やっぱり理由はあったんだ!


 今まで溜まっていた思いが解放されると同時に、僕を形成していた何かが崩れ落ちて行く感覚にも襲われる。


「ならっ、なら!夜でも出てくるなら明るい時間が短い夜の方が危ないんじゃないですか!?」


 自身の中で崩れ落ちる何かから、新たな疑問を必死に掬い上げ、目の前に現れた教師に思いっきり投げ渡す。


「さっきも言った通り、(カルヴノ)が出てくる為には閃時と呼ばれる、専用の闇が必要なの。影とも夜の闇とも別の闇。出現に明るさは関係ないの。理解した?」

「暗いなら照らせばいい。そういう意味では朝も夜も関係ないって事すか?」

「そうそう。そんな感じ」


 蓮牙は分かっているようだが、僕はイマイチピンと来ておらず頭を捻らせる。


「わかりにくいなら視覚的に考えてみよう。例えばこのペンの色とか」


 知座さんがホワイトボードに近づくと四角い枠を描きその中を塗り潰す。


「朝を赤、夜を青とした時にどちっも上から黒を塗られたらその部分の色は黒になるよな?

つまり、元の色の明度は関係なくてその黒自体をどうにかしなきゃいけないって話」

「その為のランタン…?」

「そういうこと。いいね!教え甲斐がある」

「わかりやすい解説は有難いけどその汚れたペンどうにかしといてね。

じゃあ、次は(カルヴノ)についてね」


 知座さんが「えー」っと抗議しているにも関わらず濡羽さんの話はどんどん進んで行く。



 奴らはユラユラと揺れる真っ黒な煙の様な存在で、ごくごく稀に動物や人の形態をしている奴もいる。

 閃時の闇の中だけしか存在することができない為、光を照射されると実態が消えてしまう。



「あいつらうっすーいモヤモヤだから、あかり点けとけば直ぐに消えるの。ま、たぶんそのせいで気付かない人の方が多いんだけど」


 危ないと言われる割にその存在を認識したことがなかった理由を初めて知る。知らないだけで危険は近くに潜んでいるのだ。


「人型はぱっと見じゃ見分け付かないのよねー。

ただ、こいつらだけは光源に反射して身体が光って見えるらしいから、今の所それで判断するしか方法はないかな。

ま、私が経験したわけじゃなくて仲間から聞いた話だけどね」


 ……待てよ?でも、それじゃあ人型は光を当てても消えないって事じゃないのか…?

 彼女は此方の疑問に気付いている様だが、視線だけで僕を黙らすと引き続き話し始める。


「その人は戦闘になる前に閃時が終わったから、そいつと接触らしい接触はしなかったみたいだけど、次もそう上手く行くかはわからないよね。例えば……」


 濡羽さんはそこで一息つくと、自身の首元に右手を添え、

「驚いてフリーズしてる間に先制もらう……とか?」

素早く掻っ切る動作をした。



 その生々しい動きに無意識に体を引く。隣の蓮牙は嫌そうに眉を顰めている。

 

ーーなら、人型は光が効かないのであればどう対応すべきなんだ?いやその前にこの話を知らない人達からすると……


「『暗い中会う人、全員照らしてたら変なやつじゃん』とか、思ってるんでしょ?

そんな甘っちょろい考えしてたら死ぬよ」


 考えていた言葉をそのまま発せられ、ドキッとした体が一瞬硬直し、思わず視線を泳がす。


「何でわかったって?ぜーんぶ顔に出てるよ。

別にそう思うのは勝手だけど死んでから後悔することになるんじゃない?」

「まあまあ、そんな言い方しなくてもいいんじゃない?」

「大事なことだからちゃちゃいれないで」

「失礼しましたぁ…」


 濡羽さんには強く出れないのか何か言われるとすぐ引っ込むんだよな知座さん…

と、自分の中の気まずさをなくそうと場違いなことを考える。

 相変わらず蓋雫さんは腕を組んだまま壁にもたれかかり、目を瞑ったまま無言で話を聞いているようだ。


「聞いてもいいですか」

「なに?」

「仮に人型だってわかったとしても光で拡散しないのなら、どうすることもできないんじゃないですか…」


 空気感を変えたくて、先程感じた僕の疑問を投げかけると、彼女は知座さんに近づき肩をバシッと叩き誇らしげにこう言った。


「そのための政府の警備隊(フォスタシス)……でしょ?」


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