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第五話 「トリオ漫才」


「なるほどね?つまり何となく出かけたと?」

「ああ」


 知座さんと蓋雫さんに会った日、彼らは勤務としての巡回ではなく二人揃って胸騒ぎがした為あの周辺を歩いていたらしい。そしたら案の定、閃時になった…と。

確かにあの日を思い出してみると、蓋雫さんはしきりに当たりを見回していたし、先を急ごうともしていた。

 僕らの相手をするのではなく街灯が点くまでにその嫌な予感の正体を突き止めたかったのかもしれない、と今ならわかる。      

 最終的にどうなったかまでは今までの会話ではわからなかったが。


「名乗ったのも聞かれたからって?」

「ああ」

「名乗らなかったらこの子達今ここにいないのわかってたでしょ?」

「名を聞かれて答えたのはちーざーだ」


 確かに先に答えたのは知座さんだったが、蓋雫さんも別に拒否する様子は見受けられなかった気がするが……。


「でもあんたも答えてるんでしょ」

「流れだ。仕方ない」

「仕方なくないでしょ!?偽名使いなさいよ!!」

「俺は苗字しか答えてないが、こいつが勝手に俺の名前を言ったからな」


 彼に顎で指された知座さんは、僕らの横で床に正座したまま頭の後ろを掻きニコッと笑う。僕達から見ても反省していないのが容易にわかる顔だ。

 それを見た濡羽さんは案の定頭を抱えている。

 蓋雫さんは話に区切りが付いたとでも言う様にゴクゴクと手元のドリンクを飲み始めた。


「なぁ。もしかしてこいつら名前を知られちゃまずかったのか?」


 隣に立っていた蓮牙がそっと耳打ちをしてくる。


「話の内容的にその可能性は高そうだけど濡羽さんも僕達に名乗ってるよね?」

「そうだよなぁ……なら、名前を使って政府の警備隊(フォスタシス)本部に訪ねて来られるのが不味かったとか?」

「そっちかもな」


 コソコソと会話する僕達に目もくれず、彼女は眉間に皺を寄せ蓋雫さんへ質問を続ける。


 ここまで見て感じた彼女の立ち位置は、差し詰め苦労人といったところだろうか。


「それに、今回対応したのが岩瀬だから良かったものの他の隊員だったらどうすんのよ」

「それは知らん」

「あんた達タダでさえ目立ってるんだから勝手に行動してこれ以上悪目立ちするのやめてくれない?」

「目立っている自覚はないな」


 あの改造制服とランタンの色で目立っている自覚がない事に驚き、慌てて足元に座っている知座さんを見ると、

 ん?っと眉をあげ目をぱちくりとさせている。

……間違いなく自覚はなさそうだ。


「制服戻すだけでだいぶ違うと思うんだけど?」

「俺はこの服が気に入っている。だから、それは無理だ」


 岩瀬さん以外の隊員に二人への訪問を対応されたら不味かった件や制服で悪目立ちしている事などを(かんが)みるに、やはり二人は素行の悪い隊員なのかもしれない。

しかし、研究部(エピス)のメンバーと会えているのならそれなりの立場の人間である可能性はまだ捨てきれない。後は、彼らがここに所属する前からの古い友人の恐れも………

 僕は、目の前にいる三人の情報を整理しようと想定できるパターンを考える。隣に立つ蓮牙も顎に指を置いて何やら思考している様子だ。


「あんた、あの馬鹿と一緒にいすぎて甘やかし癖ついてんじゃないでしょうね?」


 濡羽さんは、先程までの大きな声とは打って変わって怒りを抑える様な抑揚のない声を出すと、蓋雫さんの胸ぐらを掴みぐっと顔を寄せる。


「俺があいつを甘やかす?それはないな。これは俺の意思だ」


 そんな彼女の様子にものともせず、眉ひとつ動かさずに淡々と答える黒。

そういった彼の態度に圧をかけるのは無理だと判断したのか、もう一つの黒は手をフッと離すとそのまま相手の胸に人差し指をめり込ませる様にして指さす。


「甘やかす気ないんなら、好き勝手する馬鹿をちゃんと止めなさいよ!!何のために二人一組で動いてると思ってんの?」

「こいつの馬鹿は今に始まった事じゃない。それに俺に文句があるなら、バディを怜士(れいじ)に変えればいい」

「それはそれで問題でしょ!?」

「じゃあ、お前が変わるか?」

「それは無理!!」

「なら、文句を言うな」


 噛み付くように言う濡羽さんと至って冷静に返す蓋雫さん。

真反対の二人にこれこそ良いコンビではないかと知座さんの方を伺うと、渦中の人物である筈の彼は足が痺れたのか姿勢を崩し、胡座をかいて暇そうに成り行きを見守っていた。

……悪い意味で自分の事を話されているとは思えない態度だ。


「俺のバディはまこっちゃんのままって事でOK?」

「何がOK?よ!!この問題児!!」

「別に俺は一人でもいいんだけど」

「同感だな」

「あんた達は一纏めにしてた方が管理しやすいからそのままで!!!」


 僕達は、息つく暇もない漫才の様な賑やかなやり取りをぼーっと眺める。


「あいつら、めっちゃ仲良くね?」

「うん。それにあの感じ、あれは旧知の仲でほぼ確定かもな」

「だな。素行が悪いのは事実っぽいけど、ありゃ意外とあの二人もお偉いさんかもしれねぇな」


 再びコソコソと会話を始める僕達の肩に、立ち上がった知座さんがぬっと腕を回してくる。


「まぁまぁ、この話はここ迄にしといて。これ以上お客さん放置しっぱなしってのも…な」


 怒られていたとは思えない、いい笑顔だ。


「それに、結果として率先してこの子達を助けたのはまこっちゃんだし…?」

「えっ!あんたが率先して人助けしたってどう言う風の吹き回しなの?」


 悪戯が成功した様なニヤニヤとした顔で蓋雫さんを見る知座さんと、心底驚いたという顔で見る濡羽さん。その反応に対して彼は苦虫を噛み潰したような顔で手元のドリンクに口をつける。

 周囲や本人の反応的によほど珍しい事象だった様だ。

 一般市民からすれば、政府の警備隊(フォスタシス)の隊員が人助けをして驚かれている事に驚いているのだけれど…。


「……そいつが無くしていたものがランタンだったからだ」


 二人から向けられる視線が気まずかったのか、全然飲み進められないドリンクを口から離すと、渋々と言った様に話し始める。


「…確かに、この年の子が持ってるのは珍しいね」

「俺もそれ思った〜。なんなら、不思議な事も起こってるんだよな?」

「不思議なこと?」


 濡羽さんは蓋雫さんの側から僕の方までやって来ると、腰に吊られたランタンを一瞥し、怪訝な視線を此方に寄越す。


「あっ、えっと……不思議な事というか…ランタンが勝手にベルトから外れてて…」

「金具がとれたとかじゃなくて?」

「外した記憶なくって…」

「じゃあ、ランタンが自分で動いたってこと?」

「いや、でも、僕の思い違いかもしれないですし…当たって落ちたのかも知れないですし…」

「他にもあるんだよな?」

「他にも?」


 自身の思い違いの可能性がある為、あまり人に話す気は無かったのだけれど、知座さんが話を進めようとするのでとりあえず違和感があった点についてだけ話をした。


「つまり、外した記憶のないランタンが何故か祠の横に置いてあった。そのうえ、暗くなった事がない場所が暗くなったってこと?」

「まあ、そんな感じです……でも…偶然が重なっただけかも知れませんし…」

「閃時に気づかない程明るい場所、ね……。しかも、今まで一度も無かったことがこいつらが来たタイミングで二つも起こる……確かに気になるかも知れないわね」


 濡羽さんは顎に手を置きながら、何か考え込む様にして自身の足元に視線を落としている。


「でしょでしょ?彼らに辿り着くぼくの嗅覚すごくない!?!」

「馬鹿は黙ってて。で、君のランタンに何か変わったことはあった?」

「変わったこと…?」

「そうね、見た目、重さなんでも…あー、色とかもかな」


 彼女が発した"見た目と色"のワードが引っかかる。

 つまり、彼らが持っているランタンは何かしら変化があって、今の形や緑色に光るようになったってことなのか…?


「いや、特に変化は無かったです」

「あら、そう」


 変化がない事には興味がないのか、スッと僕の元を離れると一人掛けのソファにドサッと腰を掛ける。


「まぁ、ランタンに何もないならその場所の方が気になるわね」

「一緒に中に入ったけど、気になったのは祠ぐらいかな」

「祠ねぇ…」


 何やらアイコンタクトをとる二人にこれ以上聞いても何も答えてくれないだろうと諦め、これからどう話を広げていくべきかと、蓮牙を見る。

 すると彼は、


「二人のランタンが緑に光ってるのは、何か変化があったからって事ですか?」


僕と同じ疑問を口にした。


いつも読んでいただきありがとうございます。

七話からフォスタシスのルビ表記をやめ、組織の名前としてそのまま書くようにします。

連日出しゃばっててすみません。引き続き「僕らん」をよろしくお願いします!

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