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238  作者: Nora_
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08

 二月十四日、今日はバレンタインデーだ。

 男の子なのに兄がやる気を出してチョコを買い集めていたからいつものメンバーに渡すのはいいとしても他のどこの誰に渡すのかが気になっていた。

 でも、積極的にあのクラスにいって見ていたのに突っ伏して休んでいただけだからなにも起こらなかった、邪魔だけど朝にもいたからこそこそ動けるような時間もなかったはずだ。


「あんたやけにようを気にしているわね」

「うん、いっぱいチョコを買っていたからさ」

「私は貰ったわよ」

「うん」


 あれか、彼女、我妻君、菅野さんにあげただけであとは自分の分か。

 やはりこの勝手に盛り上がろうとする癖をなんとかしなければならないことがわかった。


「それよりちょっと付いてきなさい」

「うん」


 彼女は近くの空き教室に入ってから「これをあげるわ」とチョコをくれた。

 実はこれまで朝にくれていたから今年はないようだと片付けていたけどこれは嬉しい。


「恥ずかしくなったとかじゃないのよ? でもね、あんたがようにばかり意識を向けていたから本当はやめようとしていたのよ」

「はは、そうなんだ?」

「でも、チョコばっかり食べたくないから渡すことにしたってわけ、感謝しなさい」

「うん、ありがとう」


 ん-ただいまとなってはチョコを期待して待っていたかのように見えるからその点は微妙だと言えた。

 答えが出て放課後になってからも既にニ十分が経過していたのになにをしていたのか。


「ついでにソフトクリームが食べたくなったから付き合いなさい」

「はは、わかった」

「あんたその顔はやめなさい」


 スーパーやコンビニにいけばアイスは売っているけどソフトクリームはないから商業施設にいくことになる。

 しかし……何故か今日はカップルがよく来ているみたいで手を繋いで歩いていた。

 ちらりと隣を見てみても真顔でなにを考えているのかわからない彼女がいるだけ、だけど僕以外のときならこれが変わるかもしれないのだから面白い。

 なんだかんだで付き合ってしまう子だし頼まれたら受け入れてしまうのではないだろうかと結局は一人で盛り上がっていた。

 ソフトクリームの方は無難にバニラ味にした、彼女はチョコ味にしていたからチョコばっかり食べたくないと言っていたのはなんだったのかとツッコミたくなる件だったけどね。


「食べさせない」

「え」


 いやそれなら最初に言ってくれればいいのに。

 食べてからも真顔で「普通に美味しいわね」と言っただけだった。


「さてと、せっかく来たならもう少しぐらいは見ていきましょ」

「うん、どこにいきたい?」

「ん-……そう聞かれても特にないからとにかく歩きましょ」


 滅多に来ないから新鮮さはあっても寄りたい気持ちはそこまで出てこない。

 というのも、いく先々で先程も言ったようにカップルばかりが存在しているからだ。

 いや、異性と仲良くお出かけできているというのはいいことだけど……彼女と来ているのもあって気になってしまうのだ。

 兄と来ている状態だったのなら寧ろ盛り上がれたぐらいなのに失敗をした。

 雰囲気に流れたというか、直前にチョコを僕に渡していたのもあってそのお返しを求めてくることはわかっていたものの、あそこで仕掛けられたのもね……。


「なにそわそわしているのよ」

「いやほら、日付的にもカップル的にもね」

「なによ、カップルが羨ましいの? それなら私達だって形的には同じじゃない」

「い、いや、僕らはただお友達とお出かけしているだけで違うよ」

「だから形的にはって言ったでしょ、別にあんたが無理とかそんなのはないけどね」


 うん、切り替えよう。

 普段は意地悪をしてこないけどたまに畳みかけてくるときがあるからこれ以上は駄目だ。

 せっかく一緒にいられているのにただただ疲労するだけの時間になってほしくはない。

 いや、それどころか過去に自由にやられたことを思い出して自分から仕掛けてやろうかなんて意地悪な自分が出てきた。

 かといって抱きしめるなんてことはできないから自由な手を握ってしまうことにする、痛いと言われないように最大限に気を付けながらだ。


「はぁ、今日はおかしいわね、だけどそれで安心できるならそのままでいいわ」


 と、大人な対応をされて意味はなかったけど。

 でも、先程よりは確かに気にならなくなったからこのままでいさせてもらうことにした。

 お店の方は雑貨屋さんなんかに寄ったり服屋さんを見たり、まあ普通だった。


「あ、やられたわ……」

「ん? あ……」


 ただ柱の近くに人が立っているだけならよかった、だけど残念ながらその立っていた人間が菅野さんだったから微妙だ。


「まったくもーこの前はあんな反応をしていたくせに裏ではこれなんだからさー」

「か、菅野さん」

「ん? ああ、別にこの前のことで怒っているとかじゃないからね? それどころか結局は二人でいちゃいちゃしていて嬉しいぐらいだよー」


 まだ兄が来てくれていた方がマシだった。

 今度からは菅野さんを見ておいてもらおうと決めて帰ることにしたのだった。




「絶対に当日に返しなさいよ?」


 言われ続けて、そう、それこそバレンタインデー付近のときから言われていたのに当日に弱ってひっくり返っているアホがいた。


「返さなきゃいけないのに……」


 こんなことになるぐらいなら前日にでも渡しておけばよかった。

 ただななちゃんには悪いけど返さないわけにもいかないから桜井家を目指して歩き始めた。

 普段とは全く違う、すぐに足を止めたくなるぐらいには状態がよくない。

 しかもこういうときに限ってすぐに帰ってこないものだから人のお家の前で一人弱っていた。


「なにをやっているのよ」

「……この通りだよ、はい、お返し……」

「悪いけど受け取れないわ、これを見れば理由もわかるわよね?」

「僕を持ち上げてどうするの……?」

「そんなの連れ帰るに決まっているじゃない、大人しくしておきなさい」


 これだったらひっくり返ったままの方が……とまで考えて必ず来てくれるわけではないからこうしてよかったと片付けた。

 上まで運んでもらうのは違うからソファに置いてもらう。


「明日までここで過ごすわ、着替えを持ってくるから待っていなさい」

「え、ごめん、それなら先に言っておけばよかったね」

「無駄なことを好むのよ、部屋にいって待っていなさい」


 大人しくしていよう。

 きちんとお布団も掛けて休んでいると「ただいま」とすぐに戻ってきてくれた。


「開けっぱなしは危なかったから鍵、借りたわよ」

「うん」

「あとようは我妻の家に泊まるみたいだから今日はいないわよ」

「そっか……じゃあベッドを借りればいいよ」


 聞いてみればすぐに「いいよ」と返事をくれると思う。

 もうこうして寝転んでしまえば一階にいきたくはないからお布団は敷いてあげられない、だからここで寝てもらうしかないのだ。


「嫌よ、本人がいないのにそんなことをしていたらやらしいことをしているみたいじゃない、借りるとしてもあんたのベッドよ」

「だけど風邪が……」

「ここにいる時点で同じよ。いい? 寝るときは一緒に寝るから」


 三月とは言っても小さい毛布一枚ではそれこそ風邪を引いてしまうから仕方がないか。

 こうして彼女がいてくれているのはいいけど動いたことを後悔していた。

 だけどその分、寝るまでは速攻で次に目を開けたときには真っ暗闇だった。

 隣を見てみても発言通り、彼女がいるわけではないからまだ真夜中とかでは……いや、スマホで確認してみたら既に一時だったからやめたのだとわかる。

 頑張って体を起こして兄のベッドを見てみても誰も寝転んでいないからそうだ。


「トイレ……ぎゃ!?」

「待ちなさい、心配だから付いていくわ」

「こ、こんなところにいたのっ? 風邪を引いちゃうよ!」

「静かに、漏らしたらあれだからいくわよ」


 普段よりは遅い動作だったけど済ませて出てきた。


「ななちゃんもトイレにいきたいの?」

「違うわよ、早く寝ましょ」


 でも、やはりベッドに寝転んだのは僕だけで彼女はまた床に寝転んでいた。

 って、今更だけどお布団セットを持ってきているみたいだ、それならまあいいか。

 あれだけ寝たのになんでそんなに寝れるのかと自分でツッコミたくなるぐらいには朝まで寝られたから朝にはスッキリしていた。


「ふっかーつ!」

「うるさいわよ……ふぁぁ……眠たいわ」

「見ていてくれてありがとう、大丈夫?」

「全くもって問題ないわ、今日も学校だからご飯でも食べていきましょ」


 一応毎時間いって見ておかないといけない。

 それが落ち着いたら今度は兄に聞かなければならない。

 これまではお泊まりなんてしていなかったのに急にどうしたのか、男の子同士で話し合いたいことでもあったのか、なんてね。


「ちょっと触れるね、うん、大丈夫だ」

「あんた一時間前にも同じことをしていたじゃない」

「唐突にくるからね」


 しつこく確認をしにいっても変わらず、放課後になっても元気でいてくれたからよかった。

 となれば次は兄だ。


「あれ? もういないや」


 ふふ、我妻君的にもやはり僕より兄だよなあ。

 寧ろ安心した、僕のところにばかり来るようになっていたら心配になっていた。

 知ることができたわけでもないのに満足度が高かったから大人しく椅子に座る。


「あんたのせいで今日恥をかいたんだけど? 隣の席の子にからかわれたんだから」

「ようはもう我妻君と出ていっちゃったみたいだね」

「あんたと違って大人しくすぐに帰るいい子達なのよ……って、話を逸らすな」


 隣の椅子に座って睨んでくる彼女がいる。

 エキサイトされても困るから帰ればいいのはそうだけどなんとなく残っていきたいからどうするべきなのか考えた。

 まあ、それでいい答えが出るならこうはなっていないということだ。


「つかもう二年生になってしまうじゃない」

「そうだね、だけど後輩とは関われないままで終わるだろうなあ」

「あんたの場合は特にその方がいいわよ、距離感を見誤って手とか握ってしまいそうだし」

「ななちゃんにしかできないよ」


 証拠はこれだけ菅野さんと一緒にいてもなにもなかったことを思い出せばすぐにわかるだろう。

 親友なだけに僕になにかをされたら隠さずに言うだろうし安心できると思う。


「そのちゃんはやめなさいよ、ななでいいわよ」

「じゃあ……なな……ちゃ――うわっ!?」

「駄目よ」

「わ、わかったから、危ないから離れて」


 結局、一緒にいれば必ずこういうことが起こるから相性がいいのか悪いのかがわからなくなってくる。

 兄と被ることを気にしているのも兄からだけちゃん付けで呼ばれたいからではないのも困る。


「自由にやられたくないから先に言っておくけど四月から友達の可愛い後輩が入ってくるの、だからって手を出したりしないようにね」

「しないよ」


 というか、会話をする機会もないはずだ、ずっと一緒にいてもお友達のお友達は別だからだ。

 そもそもの話として、頑張るなら彼女相手に頑張るに決まっているだろう。

 なにをしても冷静に対応をされてしまういまの状態では望み薄ではあるものの、一回ぐらいはドキドキしてほしい。

 正直、悔しさからきているそれが大きいけどせめて一回ぐらいはね。

 そうでもないと学生時代が終わったと同時に終わってしまう気がする。

 で、終わった僕とは違って魅力的な異性とお付き合いをしてどこかにいってしまうのだ。

 忘れられるとしてもすぐには嫌だ、せめて卒業してからも三年ぐらいは覚えていてもらいたいのだ。


「ふぁぁ……眠たくなってきたわ」

「お家まで運んであげるよ」

「それならお願い」


 だからいまは少しでも一緒にいられる時間を増やしたい。

 かといって欲張るのも危険だ、彼女も最近はまたよく来てくれるようになったから学校のときだけで我慢をしておくべきだ。

 上がらせてもらうなんてこともしな、


「私は寝るけどあんたもいなさいよ、この前の私みたいにね」

「うん」


 うん、頼まれなければ上がったりもしない。

 彼女の方は客間にお布団を出して速攻で寝息を立て始めた。

 夜にちゃんと寝ようとするよりもお昼寝の方が気持ちがいいから仕方がないと片付けてあまり見えない位置に移動、前と同じで朝読書用の本があるからそれでも読んでおくことにする。


「……あんたなんでなみと一緒にいないようにしているの?」

「菅野さんが来ないだけだよ?」


 顔を見たらこれを聞きたくて誘ったのだとわかった。

 学校では聞けない、聞きづらいことでもないから時間を置いたのが彼女らしくない。

 あれからは約束も守っているから彼女に言っていない菅野さんとのこともなかった。


「嘘つき、前までなら自分から挨拶をしにいっていたじゃない」

「あー……だけどほら、なんかまた我妻君と一緒に過ごすことが多くなったから邪魔をしたくないんだよ」


 前もこんな話をしたけどそこはずっと変わらない、僕でも空気を読むことぐらいはできるというだけだ。


「というかなんでそんなに距離を作っているのよ、もっと近づきなさいよ、離れていたら残ってもらった意味がないじゃない」

「うん」


 いまは冷えているから逆効果にしかならないとしても言うことは聞いておく。

 近づいたら逆に僕の右腕の方が暖かくなった、隙間風が入ってくる扉前より断然いい。


「あとね、あれからまたなにかあったんならちゃんと言いなさい」

「なにもないよ、ただ求められていないだけで」

「ふーん」


 仲良くできていたら「なんで私よりなみとあんたが……」となるから難しい。

 そのため、この件に関しては求められていないとか空気を読んでいるだけとか口にしておけばいいのだ。

 適当ではないから伝わる、きっかけが一緒にいないことからの質問だったわけだから彼女としても広げようがないのだ。

 ただ頑張ってしまおうとしてしまうときがあるから起こすから寝なよと言って本を読み始めた。

 ちなみにこの本は結構当たりで、シリーズ物だからまた買ってもいいかもしれないぐらいのレベルだった。

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