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「やっほー」
「よう」
「「こんにちは」」
連休になって久しぶりにみんなで集まっていた。
「桜井は寝坊で三十分ぐらいかかるみたいだから店にでも入るか」
「はいっ、コーヒーが飲みたいっ」
「おう、そのためにここで集合したわけだしな」
いちいち聞いたりはしていないけどこの二人の関係がいまどうなっているのかが気になる。
とはいえ、今日はやはりみんなで楽しく遊ぶために出てきているわけだからなにかが変わったりはしないだろうけどね。
よくわからないから注文の方は兄に任せた、というか、明らかに頼ってほしいという顔をしていたから頼るしかなかったみたいな感じだ。
休日でもそこまで混んでいるわけではなかったからすぐに座れたのはよかったかな。
「持ってきたよ」
「ありがとう」
うん、コーヒーを外で頼んで飲むのもたまには悪くない。
あとはここにななが来てくれれば完璧だけどまだ十分も経過していないため我慢だ。
「よう、ちゃんと聞いていなかったけど今日はどうするの?」
「ゲームセンターとかにいって学生らしく遊ぶだけだよ」
「そっか」
数回はいったことがあるものの、絶望的にセンスがないから見ているぐらいがいい。
貯めているけどあっという間に減ってしまうからね、ただ失うぐらいだったら飲食店なんかに入ってなにか食べるか残る物を買う方がよかった。
「はぁ……はぁ……やっと着いたわ」
「お疲れ様」
別にゆっくりでよかったのに相当急いだみたいで結構酷い顔になっていた。
それでも髪がぼさぼさとかそういうこともなくそれ以外は普段通りの彼女だ。
変にお化粧をされていたりしても調子が狂うからこれでいい。
「お金半分払うからそれ飲ませて」
「お金はいいよ、はい」
いい飲みっぷりだ。
元々、ここで長く時間をつぶすつもりはなかったようですぐに動き始めた。
確かに兄が言うように興味を引かれやすいところにばかり寄っていた。
「珍しいね」
「ん……? ああ……昨日は寝られなかったのよ」
「気になる漫画があったとか?」
「別に……ふぁぁ……」
少し嫌な予感がしたから腕を掴んでおくことにする。
自分で頑張って付いていくよりはこの方がマシだろうと考えてのことでもあった。
まあ、逆に引っ張られて三人から距離ができたけど。
「なみを誘ったのはあんた? あ、違うのね、じゃあ我妻……も違うのね、ようか」
「うん、一緒に遊びたかったみたい」
仲間外れにはしないとわかっていても気になったから彼女は僕が誘った形になる。
「で、積極的に邪魔をしているわよね」
「うん、ようらしいけどやめてあげてほしいね」
なんて、自分のことは棚に上げてそんなことを言っているアホな人間がいた。
いやでもやはり距離が近いし気になる。
人間、時間が経過すれば考え方なんかも変わっていくものだ、だから合わないと言っていた菅野さんの中でなにかが変わっていてもおかしくはない。
「ま、それはいいとして、初日ぐらい二人で過ごしたかったんだけど?」
「だけど久しぶりだったからさ」
「そうだけど結局こうして別れているじゃない」
それは引っ張ってきたからだ。
だから彼女を連れてまたあの三人の近くまで戻った。
手は握ってきてはいないけど服を掴んできていることはわかるため安心できる。
「はい交代な」
「はーい」
はは、そこで彼女と~とならないあたりが面白い。
横までやって来た彼は「あんまり約束も守れていないからな」と言う。
「あ、ただ一緒にいるだけなんだ?」
「そうだ、前からなにも変わっていないよ。しかも酷いもんだからさ、なにもしようとしていないのに『君は男の子として見られないかなー』とか言ってくるんだぜ?」
「それは辛いね」
「まあ、前とは違って俺も深く求めていないから傷ついたりはしていないんだけどさ」
ん-嘘でもすごいと思った。
僕がななからそんなことを何度も言われていたら物理的に距離を作る。
「とも達は変わったよな?」
「そう見える?」
「おう、なんかかなり近くなった感じがする」
「まだ関係が変わったわけじゃないけど前よりは、うん」
「ふーん、なんかずるいな」
え、あ……これも仕方がないのかもしれない……?
「冗談だよ、ただ羨ましいのは確かだ」
「どうするの?」
「本人があの調子なんだからそれに関しては諦めるしかないだろ、でも、一緒にいてくれている分、やっぱり違うよ」
「そっか――ぶぇ」
「もう、我妻君から全部聞こうとしないでよ」
今度は露骨に離れていたりはしていなかったから聞こえていただろうし無理もないか。
あと、片方の発した言葉だけで判断するなと不満もあったのかもしれない。
「とも君も我妻君も失格だよ失格、ぶっぶー」
「なんか失格らしいぞ?」
「それなら去らなきゃね」
「だな」
離れようとしたら止めてくるのが彼女達だからそれを予想しての行動だった、だから止めてくれなければ困る件だった。
なのに動いてくれなかったから二人で戻るしかなかったという……。
「止めてくれよ」
「失格だって言ったでしょ」
どこか不機嫌な様子だったから彼も追加で頼むことはできないでいた。
「あ、私になみみたいなことは求めないでね」
「あ、うん、というかななまで同じようにするようになったら困るから」
何故か兄が二人を連れていってしまって二人きりになってしまっている状態だった。
これを利用して上手くやれる人間ならこうはなっていないということでありがたいようなそうではないようなという曖昧な状態だ。
「なーに? 影響力が違うって言いたいの?」
「うん」
「ちょ……そこは慌てるところでしょ」
曖昧な状態に疲れることはあってもいますぐにどうにかしてやろうという気持ちはそこまで強くなかった。
でも、こうして何回も空気を読まれることをすると応えなければななんて考えにもなる。
もちろん、だからってそればかりではない、やはり前とは違うのだ。
みんなのななでよかった、なんなら気になる人でも見つけて彼氏彼女の関係になってくれればなんて盛り上がっていたのに気が付けばこれだから笑うしかない。
「僕らの関係がずるいって」
冗談だと付け足していたけど全てがそうだとは思えない。
「情けないところや恥ずかしいところを見せてもなんだかんだ異性がいてくれるというのはそうなんじゃない?」
「ななは聞いた?」
「我妻からは聞いていないけどなみからね、あの子をなにを考えているのかよくわからないわ。合わないって言ったのにあんなに楽しそうに一緒にいるんだから」
「そういうことにして保険をかけているとか――あ、あれ?」
ひ、引っ張られてもなにか出たりはしない。
「いまなみのことはどうでもいいのよ、私達の話をしましょう」
「うん、これは前にも言ったけど前とは違うんだ、普段通りの距離感でも僕はわかりやすく影響を受けた」
「それで?」
そ、そう急かさないでほしい。
まあ、勢いも大切だということか。
今度こそ笑われて終わりなんてことにならなければいいかな。
「今日、どうにかしようと出てきたわけじゃないけど、空気を読んだわけじゃなくても二人きりになったらやっぱりね」
「回りくどいわね、好きの一言でいいじゃない。私はあんたのこと好きよ?」
「いやほら、いきなり好きだと言われても効果が薄いかなと思ってさ。実際はななの言う通り、効果なんかないんだけどね」
「はは、なによそれ」
「わ、笑わないでよ、あのときの少し傷ついているんだから」
僕の中では手を握ることよりも大胆なことだった。
想像では僕が勢いで見下ろして彼女が「と、とも?」と聞いてくる流れだったのだ。
だというのに笑ったうえに彼女の方から抱きしめてくるというそれで。
抱きしめ返せたのはいいけどずっとずっと勝てないままなのははっきり言って悔しい。
何度も言っているように勝ち負けではないとわかっていても気になってしまうのだから仕方がない。
「だってあんたが行動しておきながらヘタレなところを見せてきたからじゃない」
「い、いや、ななが笑ってきていなかったら僕ももっと勇気を出してキスぐらいは――え? あのー……」
ガン見されるよりはやりやすいけど調子に乗った後にこれだから困る。
「ん? 待っているだけよ?」
「その前に好きだって言わせてほしい……かなー」
「いま言ったじゃない、で、私も言った。つまり関係が変わったってことだし問題ないでしょ」
覚悟を決めろということか。
それならと両肩を掴んで動こうとしたところで普通に外だったことを思い出して駄目だった。
あとは、
「まあ、やらしいわね」
「別行動をしたら意味ないだろ」
二人が戻ってきたことも影響している。
「とも、気にせずにやっちゃえばよかったのに」
「できるわけがないよ」
「「「ヘタレ」」」
三人からの言葉が突き刺さる。
質が悪いのはやったらやったでもっと言葉で突き刺してきていたところだ。
一緒に過ごしているからそれぐらいはわかるのだ。
「ま、普通こんなところでやらないだろ、求めた桜井もどうかしているな」
「はっ? 私が普段通りでいられていないって言いたいわけっ!?」
「なにをそんなに興奮しているんだ? あ、まさか……」
「ち、違うから!」
四人に戻ったらあっという間にそれっぽい雰囲気ではなくなっていく。
正直、邪魔をされたとかそんなことは全くなく、寧ろありがたいぐらいだった。
「うわあ、ななにもこんなに可愛いところがあったなんてねえ」
「なみっ、いますぐにでもやめないと怒るわよ……?」
頼んでもいないのに彼女が僕の代わりをやってくれているのもあって内が乱れることもない。
「だってななちゃんはともから好きだと言ってもらえるのをずっと待っていたからね」
「あれ、よう君も知っていたの?」
「見ればわかるよ、ともはわかっていなかったみたいだけど」
「「鈍感」」「贅沢者だな」
……のはずだったけど結局は二人で慌てる羽目になった。
なんならそのまままたどこかにいってしまったから我妻君の適当さが目立った形となった。
「はぁ……はぁ……今日は朝から疲れることばっかりだわ」
「お疲れ様」
「ふぅ、いいわよ、それよりもう少しぐらいは見て周りましょ?」
「そうだね、せっかく出てきたんだからね」
使わなさすぎるのも違うからせめて千五百円ぐらいは使ってから帰りたかった。
とはいえ、なにか欲しい物とかはないから彼女のために使いたい。
「ん」
「うん」
まだまだ時間はあるから彼女と手を繋ぎつつゆっくり歩いた先で出してくれればそれで十分だった。




