神獣学院の試練と黒雷竜の影
帝都〈ルミナ・グラディア〉の中心にそびえる神獣学院は、
神聖アルヴェリオン帝国の契約者たちが集う聖域だった。
その門をくぐった瞬間、カイル=アスカリオンは空気の重さを感じた。
ここでは、神獣との絆だけでなく、契約者としての思想と資質が試される。
「試練は三日間。神獣との連携、魔法詠唱、そして模擬戦だ」
案内役の騎士が告げる。
カイルは、白炎竜ヴァルセリウスとの精神リンクを深めながら、試練に臨んだ。
リュミエールもまた、風鼠ゼフィリスと共に、軽やかな魔法詠唱を披露していた。
初日:神語詠唱と共鳴力
初日の試練は、神獣との共鳴力を測る「神語詠唱」。
カイルは、古代神語を口にしながら、ヴァルセリウスの炎を操る。
「神語詠唱・白炎の審判!」
白銀の炎が空を裂き、試練場の標的を焼き尽くす。
その威力に、周囲の契約者たちは息を呑んだ。
「……あれが、双竜の契約者か」
誰かが呟いた。
だが、カイルの心は静かだった。
炎の力の奥に、問いの気配を感じていた。
二日目:模擬戦と黒雷の気配
二日目の試練は、契約者同士の模擬戦。
カイルの対戦相手は、帝国貴族の青年、レオニス=ヴァルグレイ。
「俺の神獣は、雷狼〈ルクスヴォルフ〉。貴様の炎など、雷で掻き消してやる!」
戦闘が始まると、雷狼が咆哮し、雷撃を放つ。
だが、カイルは冷静だった。
「ヴァルセリウス、白炎障壁!」
炎の壁が雷を弾き、逆に雷狼の足元を焼く。
カイルは、神獣との連携を駆使し、見事に勝利を収めた。
その夜、学院の塔で、カイルは奇妙な気配を感じる。
——黒雷の気配。
「……ノクトゼルム?」
彼が名を口にした瞬間、空が一瞬、黒く染まった。
塔の頂に、黒き竜の幻影が現れ、彼を見下ろしていた。
「理想を選ぶ者よ。汝は、真理の契約者にして、理想の器でもある」
その声は、神語のように響いた。
「俺は……真理を選んだ。だが、理想を否定するつもりはない」
黒雷竜ノクトゼルムは、静かに頷き、姿を消した。
その瞬間、カイルの聖印が再び輝き、双竜の印が完全な形を成した。
三日目:選定の儀と思想の芽生え
最終日の試練は、神官による「選定の儀」。
契約者としての資質を認められた者だけが、聖印騎士団への推薦を受ける。
「カイル=アスカリオン。双竜の契約者として、神々の御名において、聖印騎士団への推薦を授ける」
その言葉に、学院は静まり返った。
「双竜の契約者が、ついに現れた……」
だが、カイルの心は、静かだった。
彼はまだ、妹を奪った異端教団〈リベラ・ノミナ〉の真意を知らない。
そして、神選者ネオ=ノアとの再会が、近づいていた。
「真理と理想——どちらかを選ぶだけでは、足りないのかもしれない」
その夜、彼は夢を見る。
夢の中で、双竜が交錯し、彼に問いかける。
「汝は、世界を裂く者か。
それとも、世界を繋ぐ者か」
カイルはまだ答えを持っていなかった。
だが、彼の旅は、神々の黙示録の核心へと近づいていた。