第7話「白銀の子供達」
花宮陽菜
あたしの目は、彼に釘付けだった。そこに、スッと立っているゆうくん。刻一刻と膨れ上がる、あの黒くて病的なエネルギーを、彼はジッと睨みつけていた。ひび割れた地面にグッと足を踏みしめると、彼の両腕を覆うチェインメイルがキラリと輝き始め、その金属の上に黒い鏡のようなものが浮かび上がっていく。背筋がゾクッとした。ダメ…やめて、ゆうくん!お願い!
「やめるのじゃ、ワイト!自殺行為じゃぞ!」
スカーレットの悲痛な声が通信機から響き渡った。でも、彼はそれを完全に無視していた。
あたしの隣で、フラヴちゃんがガクンと膝から崩れ落ちた。彼女の顔はショックで凍りつき、輝く金色の瞳は虚ろだった。コンソールでは、リキマルがピタッと止まり、指はキーボードの上で固まり、咥えていたタバコがポトリと落ちた。理香ちゃんは自分の腕を抱きしめ、ガタガタと震えている。
「彼が死んでしまうわ!わたくしのせいで!」
あたしの体は、考えるより先に動いていた。恐怖に突き動かされて、リキマルのコンソールまで駆け寄る。涙で視界がジワリと滲み、胸がギュッと締め付けられて、張り裂けそうだった。エージェント全員に繋がるボタンが、目に入った。
ドンッ!
全身を震わせながら、あたしはそのボタンを力いっぱい叩きつけた。
「スピリット・ブロッサム?!」リキマルが叫んだ。
でも、あたしはもう止められなかった。喉を突き破るように声が迸り、熱い涙が頬を伝って流れ落ちる。
「誰か、お願い!ゆうくんが危ないの!」
モニターの向こう側で、カオスがあたしの叫びに呼応した。
血まみれの顔で、壊れたドローンに寄りかかっていたフォーレンが、ハッとして目を見開いた。「何だと?」
空気の刃が舞う中で、リヴァイアサンが一瞬だけ動きを止め、その声がかすれた。「先輩?」
シェイドがワイヤーでドローンをザシュッと切り裂きながら、通信機に向かって唸った。「くそっ、今ここで倒れるなど許しませんよ、この野郎!」
ロックオンが精密な狙いの最中に悪態をついた。「ワイト、この野郎!」
アヤメが敵のドローンをハッキングしながら、震える声で囁いた。「ワイト…」
大学の廊下の一つで、シロイちゃんが**バリンッ!**と窓を拳一つで砕き、跳躍した。彼女のガントレットから放たれる青い稲妻が、道を照らす。
「シロイ、待て!」シェイドが叫んだが、彼女はもう行ってしまった。ガントレットからシュンッとフックが射出され、遠くのビルに突き刺さる。彼女は空を切り裂き、学校へと飛んでいった。
「ごめんなさい、でも、わたしは…わたしは!」彼女は、悲痛な叫びを返した。
みんなが戦っていた。あらゆる場所で、カオスが爆発していた。そして勇太…ゆうくんは、たった一人で、彼を飲み込もうと膨れ上がるあの闇の嵐に、立ち向かっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
竹内勇太
空気は重く、焼け付いた金属と埃の匂いがした。目の前で、デスブローが闇のエネルギーを溜めている。そのひび割れた鎧の腕を、黒と赤の血管がドクドクと脈打ちながら這い上がっていく。砕けたバイザーから覗く月光が、その剥き出しの瞳に純粋な憎悪をギラつかせていた。体が悲鳴を上げる。エクソ・チェインメイルがシューッと蒸気を噴き出し、貫かれた肩はまだ血を流している。ズキズキとした痛みが、まるでナイフで全身の繊維を切り裂かれるようだった。
だが、そのカオスの真っ只中で、一つの声が全てを断ち切った。
「誰か、お願い!ゆうくんが危ないの!」
陽菜…あいつの、絶望に満ちて震える声が通信機から響き、死んだと思っていた俺の中の何かに、ポッと火を灯した。すぐに、他の声が混じり合う。シェイドの唸り声、リヴァイアサンの困惑、ロックオンの悪態、アヤメの囁き…
お前たち、みんな…
俺はデスブローを睨みつけた。奴の上に、闇のエネルギーがグルグルと渦を巻きながら圧縮され、一つの球体へと姿を変えていく。それは回転しながら収縮し、この学校の半分を地図から消し去れるほどの力を凝縮していた。ここに至るまでの全てが、頭をよぎった。
石田先生、安藤先生、藤先生…不意に、感謝の念が込み上げてきた。あんたたちには感謝してる。ただのエージェントとしてじゃなく、一人の教師として支えてくれた。道に迷っていた俺を、導いてくれた。
闇の球体がドクンと脈打ち、空気が震えた。
竹内さん…俺は本当に、どうしようもねえガキだったな。口答えと迷惑ばっかりかけて。それでも、あんたは一度も見捨てなかった。恩知らずな弟子で、悪かったな。
桜井さん…俺の無謀さを、許してくれ。いつだって、こうやって無茶してばかりだった。木村…お前のワイヤー、勝手に使って悪かったな。お前はクソ野郎だが、いい奴だよ。
俺はひび割れた地面にグッと足を踏みしめた。体勢を整え、避けられぬ運命に備える。
田中くん…お前はまだ未熟だが、いつか偉大なナイトになると、俺は信じてる。
デスブローの頭上で雲が凝縮し、球体はさらに小さく、密度を増していく。
藤堂さん…お前が俺を尊敬し、目標にしてくれていること…感謝してる。
闇の球体は今や極小になり、夜を飲み込むような赤い光を放っていた。
宮崎くん…お前がバレーをする姿を見届けられなくて、すまない。全国で優勝するところ、見たかったぜ。準決勝の、体育館が揺れるほどの歓声の中、ボールを見つめ、サーブに備えるお前の姿を思い出した。俺は地面にさらに強く足を踏みしめ、腕に力を込めた。チェインメイルがゴゴゴと唸る。
光希ちゃん、お前は冷静で、賢い。きっと素晴らしい女性になるだろう。高橋さん、アレックスとフラヴィアンの、いい友達でいてくれてありがとう。
球体はデスブローの両手に吸い込まれた。奴が俺に腕を向けると、空気がバチバチと音を立てた。
椿さん、君に嘘をついて、すまなかった。フラヴィアンと、いい友達になってくれると嬉しい。
球体が再び現れ、奴の前で巨大な渦となって回転を始めた。地面が**ゴゴゴゴゴ…**と揺れる。
友美…お前はうざい後輩で、本当に面倒な奴だった。でも、いつだって俺のそばにいてくれた。ありがとう。
チェインメイルが新しい装備の同化を終える。両腕の黒い刃が、大規模な攻撃を逸らすために設計された盾が、シュインと音を立てた。
姉上…水斗ちゃんが生まれた時、会いに行けなくて悪かった。ちょっと、忙しかったんだ。
兄上…あんたはいつも俺をゲートから引き離そうとしてくれたのに、俺はいつだって頑固な弟だった。すまない。
渦がさらに速く回転し、空気と、埃と、瓦礫を吸い込んでいく。
アレックス…あの日、お前のカタツムリのために温室を建てたこと…お前の笑顔一つ一つが、俺の心を温めてくれた。
チェインメイルの同化が完了し、金属が、俺自身でさえ制御しきれないほどのエネルギーで輝いた。
陽菜…お前はうるさくて、しつこくて、意地っ張りで…でも、俺がこの気持ちを否定したとしても…俺は、お前に恋をしていた。
渦が止まった。球体は完成し、その闇のエネルギーが、冒涜的な心臓のようにドクン、ドクンと脈打っていた。
フラヴィアン…お前とアレックスは、俺にとって世界で一番大切なものだ。お兄ちゃんが、こんな馬鹿でごめんな。
そして、最後に…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
斎藤廉士
「廉士…」
奴の、かすれて疲れ切った声が通信機から聞こえた。その音に、俺の心臓がドクンと跳ねた。胃がキュッと冷たくなる。勇太だった。ガキの頃みたいな、あの懐かしい声色で話していた。夜遅くまでテレビゲームをして、腹が痛くなるまで笑って、世界一のヒーローになるんだって、二人で計画を立てていた、あの頃みたいに。
「…俺は、先に行くぜ」
「ゆうたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
花宮陽菜
絶望が、あたしの胸にグサリと突き刺さったナイフみたいだった。モニターにはデスブローの黒い奔流が映し出されている。ワイトがいたホールを、全てを飲み込みながら薙ぎ払っていく闇のエネルギーの波。
「勇太!」
あたしは叫んだ。涙がポロポロと溢れ、手は紺色のドレスをギュッと握りしめてくちゃくちゃにした。金色のコンタクトレンズが涙で滲む。
ザーッ…
彼に一番近かったモニターが、一つ、また一つとブラックアウトしていく。遠くから学校を映しているカメラだけが、彼が言った通りに、攻撃が上空へと逸らされていくのを捉えていた。黒と赤の光線が空を切り裂き、夜を照らし、ゴゴゴゴゴッと音を立てて司令室を揺らがせながら雲を突き破る。濃い煙が全てを覆い隠し、破壊されたホールはもう見えなかった。
横を見ると、フラヴちゃんがガクンと膝から崩れ落ちていた。その顔は虚ろで、床をジッと見つめ、完全に心が壊れてしまったみたい。彼女の手はぷるぷると震え、黒髪が力なく目の上に垂れていた。スカーレットは目を閉じ、敗北を認めるように顔をそむけた。リキマルはキーボードを**ドンッ!**と殴りつけた。「クソがっ!」と、声にならない声で叫び、拳を固く握りしめている。
あたしはただカチンと固まったまま、モニターに釘付けだった。胸がキュッと締め付けられながら、彼が無事であることを祈り、待ち続けた。カメラは少しずつ復旧していくけど、煙はまだ晴れない。
フラヴちゃんの隣でしくしくと泣いていた理香ちゃんが、ハッとして顔を上げた。彼女の金色の瞳が大きく見開かれている。「あれは、何ですの?」彼女は震える声で、モニターの一点を指差した。
我に返って、あたしもそっちを見た。ロックオンがいた廊下で、青い閃光が空気を切り裂き、ドローンを紙切れみたいにバッサバッサと薙ぎ払っていく。その中心に、一つの影がスッと立った。力強い青いマントが揺れ、フードが顔を覆っている。エルモには、赤く輝く目を持つ黒い狼の姿が、獰猛に映し出されていた。
彼は振り返る。その背中には、白い縁取りの赤い十字架がクッキリと浮かび上がっていた。一体のドローンが背後から襲いかかろうとしたが、男はただ腕を上げただけ。その手には、ソードオフ・ショットガンが握られていた。ズドン!という轟音と共に、ドローンはバラバラの鉄屑になる。彼はクルリと銃を回し、回転の途中で赤い薬莢を排出してみせた。
「クルセイダー…か?」ロックオンが、安堵したように呟いた。
別のモニター。ピンク色のマントのナイトが、オリンピックプールのそばで倒れている。その前に、一体の影がフワリと舞い降り、あの女の金属の触手から彼を守っていた。エルモには、銀色の蛇の姿が映し出され、その瞳がキラリと光る。背中には、同じ赤い十字架。
「姉ちゃん…」ピンク色のマントのナイトが、困惑して呟いた。
「戦場では、コードネームで呼びなさい」彼女はそう返した。その声は真剣だったが、どこか優しさが滲んでいた。
「は、はい、ローグ!」彼はピシッと姿勢を正した。
別のモニターから叫び声が響いた。リヴァイアサンとフォーレンだった。「マジかよっ?!」リヴァイアサンが叫ぶ。彼女はフォーレンを肩に担ぎ、彼の顔からはダラダラと血が流れている。一体の影が、瓦礫の中をズン、ズンと歩いていた。彼の周りを、剣の形をした金色の小型ドローンがヒュンヒュンと飛び回っている。
黄金色のマントが炎を反射し、背中の赤い十字架がギラリと輝いた。彼が振り返ると、エルモが黄金の竜の顔を、無音の咆哮と共に映し出した。「おや、廉士くんじゃないか!久しぶりだね!」彼の声は軽く、ほとんどふざけているかのようだった。
フォーレンが目を見開いた。その声は弱々しい。「兄さん?!」
リヴァイアサンは困惑して、グルリとフォーレンに顔を向けた。「兄さん?」
気づけば、あの金色のドローンは大学中に展開し、刃の嵐のように敵をバタバタと破壊していた。
その時、司令室の通信機から、しっかりとして、でもどこかユーモアのある声が響いた。「やれやれ、スカーレット様。最高司令部からは誰も参加するなとのお達しでしたが、一本電話がありましてね…ええ、敵が誰かを知ってしまったら、どうにも尻が椅子にくっついていてくれなくて。」
スカーレットは、その輝く瞳で、安堵したように微笑んだ。「テュートニック…」
まだ床に崩れていたフラヴちゃんが、ガバッと頭を上げた。その目は大きく見開かれ、絶望の中に一本の希望の光が差したかのようだった。「この声…」涙が再び溢れ出す。「お兄ちゃん…」
あたしはカチンと凍りつき、モニターに、黄金のマントと竜のエルモの男に、釘付けになった。テュートニック…彼が、もしかして…?心臓がバクバクと高鳴る。ワイトがいたホールの煙はまだ晴れず、ゆうくんがどうなったのかは、まだ分からなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
竹内勇太
黒と赤の奔流が空を切り裂き、その轟音は雷鳴のように響き渡り、闇のエネルギーが雲を突き破って夜を照らした。だが…それを逸らしたのは、俺じゃなかった。
俺の体はガクガクと震え、肩からは血が流れ、エクソ・チェインメイルはバチバチと火花を散らし、ほとんどエネルギーが残っていなかった。ハァ、ハァと息を切らしながら目を上げると、煙の中に揺れる紫色のマントが見えた。その背中で、白い縁取りの赤い十字架がキラリと輝いている。
奴は、紫に脈打つ闇の刃を手にしていた。こちらを振り返ると、そのエルモは未来的な中世の騎士の兜を投影している。ホログラムがスッと消え、現れたのは褐色の肌。深く、どこか物憂げな紺碧の瞳が、俺を横目で見つめている。フードの下で、短い黒髪が揺れた。「引退したにしちゃ、随分と働いとるやないか、ワイト?」奴は、どこかからかうように言った。
俺が生きているからか、それとも何年も会っていなかった誰かに再会したからか、分からない。でも、胸を切り裂く痛みにもかかわらず、耳まで裂けそうな笑みが、俺の顔に浮かんだ。
「シン!」俺は、かすれた声で叫んだ。
奴は構え、その紫の刃が輝いた。だが、デスブローが俺たちの頭上から現れた。奴が攻撃する前に、ピンク色の鋼鉄のワイヤーが**ビュン!**と空を切り、奴の両腕に絡みついて後退させた。頭上から、一体の影がワイヤーを操っている。ネオンのように輝くピンク色のマント、背中には白い縁取りの赤い十字架、そして猫の特徴を持つエルモ。「ワイトちゃん!」彼女が叫んだ。
「ライラック!」俺は答え、笑みがさらに大きくなった。
シンとライラックがデスブローと斬り結ぶ。奴は傷つき、疲れ果て、二人のクルセイダーを相手に持ちこたえられなかった。シンの隙を突いてデスブローが前進し、オレンジ色の刃が奴の胸を狙う。**ズドン!**と銃声が空気を切り裂き、奴の手が撃ち抜かれ、鎧が砕け散りそうになった。弾丸はシンの数センチ横を通り過ぎ、奴はイラついて叫んだ。「危ないやろ、このアホ!」
通信機から響いた声は、聞き覚えがあり、胸に拳を叩き込まれたように重かった。「お前がそんなに焦ってへんかったら、撃つ必要もなかったんやで、ボケ!」
俺はハッとして顔を向けた。心臓が止まった。そこに、学校の本館の屋上で、一体の影が月を背に立っていた。オレンジ色のマントがはためき、黒いエルモの右目からは、スナイパーの赤い照準がギラリと光っている。最後にいつ泣いたかなんて覚えていない。でも、熱い涙が頬を伝い、血と混じり合った。「ハンター…」俺は呟いた。声が、震えていた。
「よう、先輩」奴は、そう答えて、空いた手でひらひらと手を振った。
俺の体はもうボロボロで、チェインメイルにはほとんどエネルギーが残っていなかった。今、戦いに加わるのは馬鹿げている。だが、女性の声が空気を切り裂いた。「ワイトさん!」
見ると、シロイが走ってくる。白いマントが、埃の中で揺れていた。彼女は、自分の白いガントレットを空中へ放り投げた。
集中。シェイドのワイヤーを使い、左手でキラリと光らせる。ガントレットを引き寄せると、それは**ガシン!**と完璧に俺の拳に装着された。金属が、ずっとそこにあったかのように振動する。小さなバイザーが上がり、コードの列が点滅した。(同化完了。コンカッション・ガントレット、マニュアルモードで使用可能。残エネルギー、10%。)
「これで十分だ」俺は呟いた。
シンがデスブローと打ち合っていた。不意に、彼は身を屈め、デスブローが躊躇する。それが、俺の好機だった。俺は走り、腕のチェインメイルが悲鳴を上げる中、稲妻のように現れ、奴の顔面に一撃を叩き込んだ。その衝撃で、奴は近くの柱に吹き飛ばされた。
ゴッシャアアアン!
奴は立ち上がった。バイザーはひび割れているが、その目はまだ憎悪に燃えていた。
「戦う気ぃか?もうボロボロやないか!」シンは挑発し、肩をすくめた。
「ワイトちゃん!下がってないと!」ライラックの声には、心配の色が滲んでいた。
だが、俺はランフレッドを睨み返した。奴らの言う通りだ。俺はもう戦うべきじゃない。ここまで全てを計画し、この死闘を繰り広げるためだけに来たとしても…これは、俺の戦いだ…あるいは…そう言いたかった。
「実は…私は、ただの我儘です…」と、俺は言った。
「お前はいつだってそうやったやろ…」シンが、からかうように言った。
「違いますよ、馬鹿者」俺は奴を軽蔑したように見た。「あそこにいる、私にガントレットを渡してくれた彼女は…」二人が俺を見る。エルモで覆われていても、奴らが驚いているのは分かった。「…私の弟子です」
「へぇぇ…」シンは言った。また、からかうように…
「マジで?ちょー可愛いじゃん!エルモの鬼の絵まで真似しちゃって!!」ライラックは、シロイを見ながら言った。
俺は奴らの前に歩み出て、デスブローを睨みつけた。「師匠…私の弟子が見ていますので…」青白い電気の火花が、固く握られた俺の拳でバチバチと音を立てる。拳を掲げ、奴を戦闘へと誘う。「少し、いいところをお見せしますよ」
「本気か?!漫画の台詞を言う気か、今?!」シンが叫んだ。
「ちょーカッコいい、ワイトちゃん!!」ライラックは、目が星になったかのように言った。
デスブローはただ、笑った。双子の刃を掲げ、俺たちに向ける。「決着をつけようやないか、シルバー!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
田中魁斗
触手の先端が、俺の顔の数センチ手前で止まった。俺と、世界の終わりの間にあった唯一のものは、彼女のシルエットだった。姉ちゃんの、ローグの。戦闘態勢で、俺を守ってくれていた。
オリンピックプールから、イリスが姿を現した。水が、ほとんど人間とは呼べない体からダラダラと流れ落ちる。腕はもうなく、胴体の一部も消えていたが、四本の金属の触手はすでに再生し、怒れる蛇のようにヒュンヒュンと空を切っていた。奴は…自分の体を使って、武器を再構築しているのか?
「これがキメラ・プロジェクトの責任者かしら。その肩書に偽りはないようね。結局、もう人間ではない…」ローグの声は、冷たく、分析的だった。
イリスは頭を後ろに反らし、破壊された体育館に響き渡る笑い声を上げた。「あら、あら、あら…そこにいたのね?ローグちゃん?」
「そのような言葉遣いは、わたくしに慎んでいただきたいものですわ。」
「彼は『姉ちゃん』と言ったかしら?」イリスは言った。その声色は、甘く、サイコパスじみたものに変わっていた。「もしかして、ローグちゃんも、弟くんと同じ髪と目の色をしているのかしら?」
姉ちゃんが、俺の前に立った。二本の金属の警棒が、彼女のマントの下から、まるで体の一部のように前腕の上にシュルリと滑り出た。それらは、淡い青色の光でキラリと輝いた。彼女は身を屈め、膝を曲げ、そして…
シュン!
彼女は消えた。瞬きする間に。
(これ…これが、クルセイダーの力…?)
イリスが触手を放ったが、姉ちゃんはそれをスッ、スッと、ありえないほどの容易さでかわし、いくつかを金属の警棒で弾き返した。そして、頭上から刺突攻撃が来た。空気を切り裂き、一秒前に彼女がいた場所の床に穴を開けた。ローグはそれをかわし、警棒の一つの先端が形を変え、鋭い杭になった。精密な動きで、彼女は攻撃してきた二本の触手を**ザシュッ!**と貫き、コンクリートに縫い付けた。
イリスは怯え、引き戻そうとしたが、動かない。彼女が気づいた時には、ローグはもう目の前にいた。左手には、地面に縫い付けられた警棒に繋がる金属のワイヤー。そして右手には、もう一方の警棒から伸びるワイヤーが形を変え、青みがかった刃となっていた。水平の斬撃が、稲妻のように速く来たが、イリスは残った二本の触手の一本を支えに、体を後ろへ倒してそれをかわした。もう一本の触手がローグの自由な警棒に絡みつき、支えにしていた触手が、姉ちゃんの胸を乾いた音と共に狙った。
だが、姉ちゃんは縫い付けていた警棒を放した。ただ一度の、まるで踊るようなクルリとした回転で、彼女は攻撃を回避した。優雅に、両腕を上げる。その手には、彼女のエクソウェポン、二丁の銀色のリボルバーが現れていた。
バン!!
乾いた銃声が、イリスの顔面を捉えた。銃のシリンダーから、青みがかった輝きが放たれる。
「奴は再生する!!」俺は、絶望して叫んだ。
だが、姉ちゃんは…もうそれを予測していた。彼女が地面に縫い付けていた警棒が床から離れ、金属のワイヤーに引かれて戻ってくるのが見えた。
彼女は空中で警棒を掴み、もう一方の警棒に絡みついていた触手を切り裂いた。そして、イリスが完全に再生して立ち上がった時、彼女が見たのはただ、強烈な青い輝きだけだった。二本の警棒が彼女の顔に向けられ、その先端から現れた青みがかったエネルギーが、脈打つ二つの球体を形成していた。
「消えなさい…」
エネルギーの奔流が床を飲み込み、体育館の壁まで、必要以上の破壊をすることなく、光と音の爆発の中、全てを薙ぎ払った。
残ったのは、イリスの両足だけ。腰のあたりで切断されたワイヤーからバチバチと火花を散らしながら、クレーターの真ん中で立っていた。
ローグは武器を下ろし、そのマントが背後ではためいた。
「あなたが人間性を捨てた瞬間に、あなたは負けたのよ…」




