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第6話「金色の鬼」

竹内勇太


 太陽が照りつける酒井家の訓練場。俺はまだ十歳で、鉄と汗の匂いが混じった重い空気は、息をするのも苦しいほどだった。小さな手では本物の剣の柄を握りしめるのがやっとで、その重さに腕がぷるぷると震えた。


 目の前に立つランフレッドは、まだ若いはずなのに、もう髪には白いものが混じっていた。その瞳は氷のように冷たく、奴の存在そのものが、この空間の全てを支配していた。彼はまるで体の一部であるかのように、忌々しいほど落ち着き払って剣を構えている。


 キィン!


 打ち合う剣の音が響き渡り、その衝撃が骨の髄まで伝わってくる。もうクタクタだった。額からは汗が流れ落ち、苛立ちが毒のように心に広がっていく。ランフレッドは速すぎた、完璧すぎた。まるで俺の心を読むかのように、全ての攻撃をいとも簡単にいなしていく。


 カッとなって、怒りに任せた。子供じみた怒りに満ちた、不格好な一撃。奴は流れるような動きでそれを受け流し、その腕が霞んだかと思うと…


 ゴッ!


 肘が、俺の顔面を捉えた。


 仰向けに倒れ込む。熱い地面が肌を焼き、鼻から血が流れ、口の中に鉄の味が広がった。痛みよりも、屈辱の方が大きかった。ランフレッドは表情一つ変えず、剣先を地面に向けたまま、俺を見下ろしていた。


「立て、ジャック」と、感情のこもらない声で言った。


 怒りが爆発した。血と汗で滑る柄を握りしめ、奴に向かって叫びながら突進する。涙と挑戦で、目の前が燃えるようだった。奴が剣を掲げ、俺たちの刃がぶつかり合う。その衝撃が全身を揺さぶり、鋼鉄が叫び声を上げた…


 ガキンッ!


 …だが、今度の音は違った。鋼鉄と鋼鉄がぶつかる音じゃない。俺のエクソ・チェインメイルが、デスブローのオレンジ色のエネルギーをまとった双子の刃と激突する音だ。衝突のたびに空気がバチバチと音を立て、イベントホールの床が俺たちの足元で震える中、火花が飛び散った。


 奴が有利だった。奴の一撃は重く、正確で、俺をじりじりと後退させる。こいつは本気だ。アーマーの下で汗が流れ、心臓がドクドクと高鳴る。奴がツインブレードを選んだのは、それが俺にとって一番厄介な白兵戦用の武器だと知っていたからだ。腕のチェインメイルが攻撃を受け止めるたびにビビビと振動するが、一撃一撃がハンマーのように重く、俺をどんどん追い詰めていく。このままじゃ、埒が明かない。


 デスブローが、真っ直ぐな斬り下ろしで襲いかかってきた。オレンジ色のエネルギーが、ギロチンのように空気を切り裂く。訓練された反射で、俺は左へ体を捻った。**ドゴォォン!**一瞬前まで俺がいた場所の床が爆ぜた。


(数日しか持たないが、それで十分だ)


 素早い動きで、俺の左手がワイヤーを放った――シェイドが使うものと同じ、蜘蛛の糸のように細く、鋼鉄のように強靭なワイヤーだ。それがデスブローの両腕に絡みつき、奴の刃を封じ込める。奴が振り返り、オレンジ色のバイザーの下で瞳が憎悪に輝いた。俺はすでに奴の背後に回り込み、チェインメイルがギシリと軋むのも構わず、全力でワイヤーを引いた。雄叫びと共に奴を宙へと放り投げ、その体が空中で回転する中、ホールの柱の一本に叩きつけた。


 ガッシャアアアン!


 雷鳴のような轟音と共にコンクリートが砕け、埃と破片が舞い上がる。俺の左手は輝き、ワイヤーが指の間で踊っていた。右腕はエネルギーを帯びて回転し、黄色い光の渦が生まれる。狙いを定め、撃った。光線が空を裂き、デスブローが落下した地点で炸裂し、破壊された柱を煙が飲み込んだ。


「以前よりは強くなったようだな…」


 奴のかすれた声が、煙の中から聞こえた。その声は固く、どこか楽しんでいるかのようだった。奴のシルエットが浮かび上がり、ひび割れたアーマーに赤い光が点滅している。オレンジ色のバイザーは砕けているが、まだ無事だ。奴は全力で来る。瞬きする間に、奴は俺の目の前に現れ、双子の刃が煌めいた。


「だが、オリジナルの装備よりはるかに劣るわ!」奴は叫び、その一撃は稲妻のように迫った。


 ミリ単位でそれをかわす。床が爆ぜ、磨かれたホールの床が砕け散り、その破片が空気を切り裂いた。


「だが、それで十分すぎる!」俺は叫び返し、奴の顔面に拳を叩き込んだ。


 ズウウウゥン!


 衝撃波が空気を震わせ、イベントホールそのものが呻き声を上げる。デスブローはよろめき、ヘルメットの亀裂がさらに広がった。俺は突進し、両腕を一つの拳に合わせる。前腕のチェインメイルが開き、**フシュウウッ!**と蒸気をジェットのように後方へ噴射した。その衝撃で奴は講堂の二重扉に叩きつけられ、金属が歪み、蝶番が悲鳴を上げた。


 間髪入れず、チェインメイルは閉じ、目が眩むほど強烈な黄色い光を放った。両腕を掲げ、脈打つエネルギーを溜め、巨大な光線を放つ。その光線は講堂を薙ぎ払い、壁を貫通し、背後の野原で炸裂した。その光が、夜を照らした。腕から蒸気が上がり、スーツの下の肌が焼けるように熱い。


「熱すぎる…」俺は呟いた。息が切れ、胸が激しく上下する。


 エクソ・チェインメイルは、普通のエクソとは違う。ユニークなパワーブースト、桁外れのエネルギーの奔流を可能にするが、魂を吸い尽くすかのように使用者を消耗させる。俺は疲れ果て、筋肉という筋肉が痛み、口の端からは血が滴っていた。今のところは、これで十分なはずだ。


 デスブローが立ち上がり、そのアーマーの関節から煙が上がっていた。


「そのスーツ、複数のエクソ装備を模倣しているが、ただの安っぽいコピーに過ぎん」奴は唸った。砕けたバイザーから覗く目が、憎悪に輝いていた。


 俺は笑った。声はかすれ、ポニーテールが揺れる。「そうかもしれんが…なかなか便利だろう?」


「このために全てを仕組んだな、シルバー!」奴は叫んだ。その声は怒りに震えていた。「このくだらない計画、この矮小な復讐!お前が犯した過ちの、お前のせいで死んだエージェントたちのために!」奴は、血に汚れた歯を見せて笑った。「俺はそれを受け入れた。この手でお前を殺したかったからな。お前が椿理香を守ったのも、ただ俺と対峙するためだけだったように!」


「私を貴様と一緒にするな!」俺は怒鳴った。


 だが、奴の乾いた一撃が俺の腹にめり込んだ。息が詰まり、痛みに体が折れ曲がる。奴は俺の頭を掴み、そのアーマーの指が頭蓋骨を軋ませ、そして、俺を投げつけた。とんでもない速さで宙を舞い、広場の噴水を突き破る。水が爆ぜ、コンクリートが砕けた。地面を転がり、体は悲鳴を上げ、骨という骨が衝撃を感じていた。


 ゆっくりと立ち上がる。濡れたポニーテール、顎を伝う血。デスブローがホールから歩み出てくる。ひび割れたアーマーが、月明かりの下で輝いていた。奴の声は、失望に満ちていた。


「本気で戦っていないな、シルバー。これでは、俺の知っているシルバーではない。」


 俺は床に目を落とし、埃に滴る血を見た。「ああ…その通りだ…」


 顔を上げる。笑みが浮かび、その瞳は、ガキの頃に奴と対峙した時と同じ、抑えられた狂気で輝いていた。「本気を出していなくて、悪かったな。」


 チェインメイルが固まり、金属が振動し、エネルギーが脈打つ。瞬きする間に、俺は消え、奴の背後に現れた。デスブローのサイコパスのような笑みが爆発し、砕けたバイザーの下で目が見開かれた。


「それでこそシルバーだ!」


 ズドオオオオォン!


 俺たちの刃が、一撃で交錯した。俺たちの下の床が砕け、衝撃波がイベントホールの窓を粉々に砕け散らせた。


 痛みは耐え難く、筋肉という筋肉が引き裂かれ、心臓が破裂しそうに脈打っていた。戦術を変える。刃を捨て、拳での攻撃に切り替えた。チェインメイルの拳がエネルギーで輝く。デスブローは双子の刃に固執し、そのオレンジ色が空を切った。奴をホールに蹴り飛ばすと、その衝撃で壁がへこんだ。奴は回転し、体勢を立て直そうとしたが、俺は稲妻のように奴の前に現れ、もう一発蹴りを叩き込んだ。奴は腕で防御し、床が再び砕け、埃が舞い上がった。


 デスブローが両腕を広げ、オレンジ色のエネルギーがその手に輝き、俺を後退させた。避けようとしたが、間に合わなかった。奴が撃った。


 ジジジジジッ!


 エネルギーの奔流じゃない。電撃の波だ。俺は倒れた。チェインメイルはショートし、体は麻痺し、床で震えながら、筋肉は痙攣し、視界は霞んでいた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


花宮陽菜


 司令室の空気は息が詰まりそうで、モニターは純粋なカオスの映像をチカチカと映し出していた。ランデブーがサドンデスを発動させ、ワイトがデスブローと対峙した、まさにその瞬間。ワイトが広場の噴水に叩きつけられるのを見て、フラヴちゃんが目を見開いて叫んだ。水が**バシャアンッ!**と爆ぜ、コンクリートが砕け、彼は地面を転がった。


「ゆうくん!」あたしは叫んだ。心臓が喉までせり上がってきて、手がガタガタと震えて、着ている紺色のドレスが1トンもあるみたいに重く感じる。金色のコンタクトレンズが、必死にこらえていた涙で滲んでいく。みんな、もう限界だった。


 あたしの視線はモニターからモニターへと飛び移り、どの画面も地獄への窓のようだった。倉庫では、リヴァイアサンとフォーレンがドローンの大群と戦っていた。友美さんが回転し、空気の刃で機械を**ザシュッ!**と切り裂く。彼女の冷たく計算された声が、的確な命令を通信機で響かせる。でも、一体のドローンが彼女の背後から不意を突いた。斎藤さんが彼女の前に飛び出し、代わりにその一撃を受ける。彼の顔から血が流れ、床に倒れ込んだ。「先輩!」彼女は叫び、彼を破壊された金属の山の後ろへ引きずっていく。その冷静さが崩れ、絶望に満ちた声で黄色いエネルギーの奔流を放った。


 二人のナイトが、別々の廊下で戦っていた。その戦いは、まるで怒りを映し出す鏡のよう。一つのモニターでは、薄ピンクのマントのエージェントが、淡く輝く刀でドローンを切り裂いていたが、敵の数の多さに圧倒され、蹴りが彼を壁に**ドンッ!**と叩きつけた。


 別の画面では、シロイちゃんが稲妻を散らすガントレットでドローンを殴りつけていた。**ガインッ!ガインッ!**と金属が悲鳴を上げる中、彼女は一人で道を切り開く。突然、彼女の足が引っぱられ、何か新しいものと対峙しているようだった。銀髪の女。あの技術博覧会の時の。通信機は、叫び声と命令でカオスだった。


 ホールでは、ワイトが床で震えていた。チェインメイルはショートし、体は痙攣している。デスブローが彼に歩み寄り、ひび割れたアーマーが壊れたシャンデリアの光を浴びて輝く。そして、力強く彼を蹴り上げた。ワイトの体は宙を舞い、壁に激突し、コンクリートが**バキッ!**と音を立てた。「その覚悟はどこへ行った、シルバー?」と、彼は嘲笑った。その声は残酷で、オレンジ色のバイザーが光っていた。


 フラヴィアンは絶望して叫び、両手で顔を覆っていた。「お立ちになって、お兄ちゃん!お願いですわ!」


 理香ちゃんは震えながら、あたしの腕にしがみついていた。彼女の金色の瞳は、涙でいっぱいだった。


 リキマルは大学のシステムをカタカタと必死にいじって、ドローンを隔離するために移動式の部屋を再設定しようとしていた。


 スカーレットは、金色のラインが入ったエルモがモニターを反射する中、微動だにせずにいたが、固く握りしめられた拳が、その緊張を裏切っていた。


 突然、ワイトの両腕から黄色いエネルギーの奔流が**ドッ!**と爆発し、デスブローに命中した。奴は後ろへ吹き飛ばされ、柱に叩きつけられる。ワイトは立っていた。息を切らし、濡れたポニーテール、額から血が流れ、顎を伝っている。デスブローは、ひび割れたヘルメットの奥で笑った。「そんなものでは俺を倒せんぞ、シルバー。本気を出していないな。」


 ワイトは立ち止まった。呼吸は重く、その目は細められ、ホール中の空気を吸い込むかのような、抑えられた怒りで輝いていた。「…その通りだ…許せ、師匠…」


 彼は深く息を吸った。その体は、溜め込まれたエネルギーで震えている。彼の声は、それまでの呟きとは違い、雷鳴のように空気を切り裂いた。


「エクソの共鳴ッ!」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!


 ホールはただ揺れただけじゃない。悲鳴を上げた。金色の光がゆうくんの体からピカァァァッ!と爆発し、衝撃波が辺りを薙ぎ払い、残っていたシャンデリアをガシャアン!と粉々に砕いた。チェインメイルは、まるで生きている機械が崩壊寸前であるかのように、大量の蒸気を噴出していた。あたしは目を見開き、心臓がバクバクと高鳴った。


「エクソの共鳴って…何?」あたしは、か細い声で尋ねた。涙が頬を伝っていく。


 スカーレットがエルモを解除した。彼女の顔は真剣で、その瞳は鋼のように硬かった。「ナイトの最後の切り札じゃ。エクソ装備とエージェントの体を、人間の限界を超えて極限まで引き上げる『パワーアップ』。数分間だけ、その能力は桁外れのレベルまで増強される。じゃが、その代償は壊滅的じゃ。効果が切れれば、アドレナリンは崩壊し、体はショック状態に陥る。もしワイトが今デスブローを倒さねば…システムの崩壊が彼を殺すじゃろう。」


 **シーン…**と、胸を押し潰すような重い沈黙が落ちた。フラヴちゃんは息を呑み、涙が止めどなく流れる。理香ちゃんはあたしの手を強く握り、その顔は真っ青だった。


「ゆうくん…」あたしは呟いた。モニターに目を釘付けにしながら、心の中で、彼が勝つことを叫んでいた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


デスブロ


 ガキの頃のジャックが、俺に向かってきた。小さな手に握られた剣はぷるぷると震えていたが、その瞳は歳に不釣り合いな怒りで燃えていた。奴は怒りに我を忘れ、不格好に攻撃してきた。それを容易く受け流し、肘の一撃で地に伏せた。鼻から血を流しながらも、奴はまた立ち上がり、叫びながら、あの忌々しいほど頑固な覚悟で俺に突進してきた。


(あの目…)


 ワイトの首を掴む。エルモは砕け、その若い顔は血にまみれていた。俺は奴の仲間を殺した。全てを破壊した。だが、奴はあの子供の頃と同じ目で俺を睨みつけていた。決して折れることのない怒りで、燃えるような目で。


(なぜ、まだあのような目で俺を見る?)


 奴の拳が俺のエルモを砕く直前、剥き出しになった奴の左目が見えた。同じだ、挑戦的な眼差し。まるで虫けらのごとき奴が、この俺を倒せると信じているかのような。


(本気で、そう思っているのか?)


 そして今、奴は俺の目の前でエクソの共鳴を発動させ、その体は輝き、その瞳は俺に挑戦している。まるで…この俺を上回るとでも言うのかッ?!シルバーナイト!よくもッ!


「テュートニックのエクソの共鳴の安っぽいコピーに過ぎんが、まあ、味見にはなるだろう!」俺は叫んだ。アーマーがビビビと振動し、オレンジ色が炎のように脈打つ。


 奴のスーツが金色の光と共に爆ぜ、蒸気は純粋なエネルギーの軌跡へと変わった。中世の騎士の兜のような、奇妙なマスクが奴の顔を覆う。その瞳からは、金色の炎が放たれていた。奴は悪魔だった。チェーンメールの機械的な声が、冷たく、非人間的に響いた。「エクソの共鳴、完了。モード『クルセイダー』、起動」


 シルバーが、消えた。


 動きはない。ただ、奴がいた場所に空白が生まれただけだ。純粋な本能で身をかわしたが、かすめただけの拳が俺のヘルメットを砕くだけでなく、**ゴオオオッ!**と空気そのものを爆破させやがった。衝撃波が後方の壁を粉々に砕け散る。あのスーツ、奴の拳を空気砲に変えたというのか?!


 もう一撃、腹に食らう。自身のアーマーの金属がベコッとへこむのを感じ、肺から空気が押し出され、血を吐いた。奴は俺の胸当てを掴み、チェーンメールの指が合金をミシミシと軋ませながら、俺を宙へと投げつけた。奴の動きを追おうとしたが、圧倒的なエネルギーの奔流が**ズドオオオッ!**と床で炸裂した。立ち上がると、アーマーはボロボロで、砕けたバイザーから左目が覗いていた。もう一撃が俺を吹き飛ばし、講堂の残骸を突き破る。建物全体が、瓦礫の雪崩となって崩れ落ちた。


 開けた野原に落下し、その衝撃で地面が砕ける。俺が動く前に、シルバーが背後に現れ、別の一撃が大地を砕き、土を舞い上げた。ワイヤーが俺を捕らえる――またあの忌々しいワイヤーか!――その金属がアーマーに食い込む。ソニックブラストが俺の聴覚を奪い、その音が鼓膜を引き裂き、続く空気砲が俺を朦朧とさせた。奴は蹴りと共に落下し、床が爆ぜ、その衝撃が俺の体を宙へと打ち上げた。


 怒りが、俺の中で爆発した。俺のアーマーが**ゴゴゴゴ…**と振動し、強烈な赤色に脈打つ。奴の拳に、俺の拳を叩きつけた。


 ズガアアアァン!


 衝撃波は絶対的で、俺たちの周りのすべてを粉砕した。拳と刃を交錯させ、打ち合うたびに地面がますます砕けていく。戦いの高揚感が、俺を飲み込んでいく。その時、見えた。奴の腕が振動し、金色の光が弱まっている。


(クルセイダー・モードが切れかかっているな)


 オレンジ色のエネルギーをまとった剣を掲げ、空気がバチバチと音を立てる。最後の一撃の準備はできた。シルバーは突進してきた。その体はまだ輝いているが、弱々しい。最後の瞬間、破壊の煙が立ち上り、全てを飲み込んだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


花宮陽菜


 司令室の空気は、胸を突き刺す刃物のようだった。モニターの中で、ゆうくんは金色の嵐だった。クルセイダー・モードが輝き、彼の体は光に包まれ、一発一発のパンチ、一発一発の光線が、ホールを、講堂を、野原を破壊していく。さっきまで彼は不利で、床を砕くほどの攻撃を受けていたのに。今は、彼が支配していた。どのパンチも雷鳴のよう。どの光線も、地震のようだった。


「勝てる!」あたしは叫んだ。瞳は輝き、ドレスを強く握りしめる。金色のコンタクトレンズが、希望の涙で滲んだ。


 最後の一撃の後、濃い煙が立ち上り、全てを隠した。司令室に、重い沈黙が落ちる。空気が、完全に止まった。


 そして、煙が晴れ始めた。


 あたしの心臓が止まった。


 フラヴちゃんの叫び声が、絶望の始まりだった。


 そこにいた。ゆうくんが。串刺しにされて。一本のオレンジ色のエネルギーの剣が彼の肩を貫き、血が金色のチェーンメールの胸を滝のように流れ落ちていた。デスブローは、ヘルメットが砕け、顔は血まみれで、怒りに震える声で叫んでいた。


「それでもやるか!急所は外したな!だが、それでいい、シルバーナイト!貴様の心臓まで切り裂いてやるだけだ!」


 彼は刃を動かし始めた。チェーンメールの金属にエネルギーが**ジュウウウッ!**と音を立てるのも恐ろしかったが、次に起きたことには比べものにならなかった。モニターの中で、ゆうくんの顔が歪む。エネルギーの刃が彼の肉の中で沸騰し、内側からゆっくりと彼を切り裂いていく。純粋な苦悶の叫びが彼の喉から迸った。その非人間的な音は、司令室のスピーカーから響き渡り、あたしの魂を貫いた。


 フラヴちゃんが再び、途切れ途切れに叫び、ガクンと膝から崩れ落ちた。その体は激しくガタガタと震えている。「いやあああ!お兄ちゃーーーーん!」


 理香ちゃんとあたしは彼女のそばへ駆け寄り、絶望にもがく彼女の肩を支えた。「フラヴちゃん、見ちゃダメ!」あたしは彼女をその光景から守ろうと叫んだけど、あたし自身、目を逸らすことができなかった。


 ゆうくんはまだ叫んでいた。血が今や噴き出し、破壊された床に滴り落ちていく。


「あと少しだ、シルバー!」デスブローは狂ったように笑った。その声はマニアックで、砕けたバイザーから覗く目が狂気に輝いていた。


 フラヴィアンの叫びがまだ響いていた。モニターの中で、デスブローはゆうくんを掴み、エネルギーの刃が彼の肩で沸騰し、最後の一撃を加えようとしていた。悪役の狂った笑い声だけが、聞こえていた。


 でも、彼は止まった。


 ゆうくんの心臓まであと数センチのところで、刃が揺らいだ。オレンジ色のエネルギーがチカチカと点滅し、光の粒子となって消え始めた。驚いたデスブローは、混乱して自分の手を見つめ、それから自分のアーマーを見た。毒のような薄緑色の輝きが、彼の金属の血管を駆け上っていた。彼はゆうくんを見た。その唯一見えている瞳から怒りが消え、衝撃と恐怖に取って代わられた。


 痛みのさなか、かすれた笑い声がゆうくんの唇から漏れた。彼は血まみれの顔を上げ、挑発的な笑みを浮かべた。


「…言ったはずだ…このスーツはなかなか便利だろう、と。このクソ野郎が!」


 彼が話している間、チェーンメールの液体金属が彼の首を這い上がり、顔を覆い、カチッという金属音と共に保護用のエルモを形成した。


 ドッガアアアン!


 デスブローのアーマーが爆発した。暴力的な衝撃波がワイトの体を後ろへ吹き飛ばす。彼はよろめきながら倒れ、その体は震え、チェーンメールが濃い蒸気を噴出する中、血が床を汚した。


 安堵の波が、あたしを襲った。隣で、フラヴィアンがしゃくりあげ、胸に手を当て、絶望が引き始めると同時に体がリラックスしていく。やったんだ。ゆうくんが、勝ったんだ。


 だが、デスブローは怒りに燃えながら、瓦礫の中から立ち上がった。彼のアーマーはひび割れ、関節から煙が上がっていたが、まだ健在だった。砕けたバイザーから覗く唯一の赤い目は血走り、痛みを凌駕する憎悪で輝いていた。


 彼は純粋な怒りで叫んだ。両手を空に掲げると、その手から、彼の体から、赤黒いエネルギーが立ち上り始めた。腕を伝って、手のひらまで。黒と赤の、冒涜的な心臓のように脈打つエネルギー。


 それまで微動だにしなかったスカーレットの顔が、青ざめた。彼女はコミュニケーターに向かって叫んだ。その声は、あたしが今まで聞いたこともないようなパニックに満ちていた。「ワイト、そこから離れろ!避けるのじゃ!」


 だが、ゆうくんは首を横に振った。彼の声はコミュニケーター越しにかすれていたが、固く、揺るぎなかった。「…この攻撃は知っています。神未来タワーでレヴナントが使ったものと同じです。」


 背筋に悪寒が走った。記憶が、パンチのようにあたしを襲う。空が裂け、黒と赤の光があの日、雲を切り裂いた。恐怖。「あれって…あの時の…?」あたしは、糸のような声で呟いた。


「警察が近隣の家を避難させています」ゆうくんの声は、カオスの中、冷静で分析的だった。「デスブローは意図的に都市部に私を留めた。私が民間人を攻撃させないと分かっていたからです。」彼は地面にしっかりと足をつけ、金色のチェーンメールの体が、広がる闇に対する唯一の光となった。「攻撃を上空に逸らします。運が良ければ、ゲートが部隊を送ってくれるでしょう。」


「やめるのじゃ、ワイト!」スカーレットは叫び返した。その声は初めて、揺らいでいた。「自殺行為じゃぞ!」


 彼は彼女を無視した。


 モニターの中で、ゆうくんが体を固め、その腕がチェーンメールが帯びた暗い反射で輝くのが見えた。一人で、傷つき、純粋な破壊の渦を前に、彼はその一撃を受ける準備をしていた。

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