第1話「金色の鳥籠」
フラヴィアン・シルバーハンド
頭上のクリスタル・シャンデリアが金色の光の滝をホールに降り注いでいます。まるで、香水のように漂うこの偽善に満ちた空気を、必死に誤魔化そうとしているかのようですわ。酒井家の屋敷は人でごった返していますです。シルバーハンド家と酒井家の親戚、そして胡散臭い外国人のお偉方たち…誰もがシャンパングラスを片手に、練習した完璧な笑みを浮かべて、ガヤガヤと中身のない会話を続けておりましたですわ。
わたくしはネイビーブルーのドレスの裾を直し、高価な生地が肌を擦るのを感じながら、ちらりとアレクサンダーに視線を送りました。彼は完璧な黒のタキシードを着こなし、まるで父のミニチュアのようでしたのに、その表情は死刑を待つ囚人のそれでした。彼は人混みを、まるで耐久テストのように見つめておりましたわ。(なんて可哀想な方なのでしょう…)
わたくしたちの隣では、廉士兄…いえ、斎藤さんが、まるで全てを見通しているかのように、その茶色の瞳でこの茶番劇を観察しておりました。彼のグレーのスーツは上品でしたけれど、そのシンプルさが「わたくしはここにいますが、あなた方の仲間ではありません」と叫んでいるかのよう。この見せかけだけの砂漠に、彼だけが唯一のオアシスのように見えましたの。
「まさかこの屋敷に戻ってくることになるとはな」
斎藤さんが低い、どこか懐かしむような声で呟きましたです。
アレクサンダーはフンと鼻を鳴らし、固い仕草で腕を組みます。「僕もだ」
「お二人とも、集中なさいですわ」
わたくしの声は冷たく、二人の会話を断ち切りました。幼い頃から身につけた完璧な微笑みを顔に貼り付けます。これもまた、わたくしの武器の一つなのです。「叔父様たちの前ですわ。格好のゴシップの的になるのはごめんですもの」
今日は、わたくしたちの誕生日なのです。わたくしが十七歳で、アレクサンダーが十六歳。ですが、このパーティーはわたくしたちのためではありませんの。ただの舞台。見世物ですわ。周りを見渡せば、暗い隅で囁き合うスーツ姿の男たち、その悪意よりもキラキラと輝く宝石を身につけた女たち。ビジネス、同盟、権力。それこそが今宵の主役。わたくしたちは、その中央に飾られた、ただの傀儡に過ぎませんのです。
(それにしても、この馬鹿げたパーティーのおかげで、はるちゃんを一人で兄上のパソコンにハッキングさせることになってしまいましたの。本当にごめんなさいね、はるちゃん。でも、あなたと兄上が二人きりになれるよう、お膳立てはしておきましたから。彼はあなたのような人が必要なのですわ。あの無気力な殻から彼を引っ張り出すために。感謝はいりませんことよ?)
ニヤリと意地の悪い笑みが漏れそうになるのを必死に抑え、「一族の姫」という役に戻りました。義務がわたくしを呼んでおりましたので。
数歩も歩かないうちに、酒井家の大叔母様の一人に捕まってしまいましたの。彼女のフローラルな香水は、話す前に相手を窒息させるつもりのようでしたわ。宝石の数が多すぎて、目が眩みそうですわ。
「まあ、フラヴィアンちゃん、アレクサンダーくん!なんて素敵なんでしょう!」彼女は、砂糖が苦く感じるほどの甘ったるい声で叫びました。そして、その視線は斎藤さんに。「あら、隣のハンサムな若者はどなたですの?」
「キョウコ叔母様、こんばんはです」わたくしは完璧な演技で小さくお辞儀をしました。「こちらは斎藤廉士さん、家族ぐるみでお付き合いのある方ですわ」
斎藤さんは礼儀正しく微笑みましたが、その目は笑っていませんでした。「お久しぶりです、キョウコ様」
「まあ、斎藤くん!」彼女は一瞬怯んだようでしたが、すぐに一番簡単な標的に攻撃を向けました。「それで、アレクサンダーくん、あなた天才なんですってね!将来は神未来のトップかしら?それともシルバーハンド・コーポレーションですの?」
アレクサンダーは彼女の直接的な質問に驚き、一歩後ずさりました。「わ、わたくしは…まだ…」
(本当に馬鹿な方ですわ。ただのハイエナですのよ。将来、死体のどの部分を漁れるか探っているだけですわ。)
アレクサンダーの躊躇がショーになる前に、わたくしは蜘蛛が巣を張るように、滑らかに割って入りました。「アレクサンダーは今のところ学業に専念しておりますの、叔母様。彼にはたくさんの情熱がございますから、そのような重大な決断をする前に、全ての選択肢を探求させたいのです。圧力をかけるのはフェアではございませんでしょう?」
「あら、もちろんよ!なんて献身的なお姉様なんでしょう!」彼女はそう言うと、ようやく香水と好奇心の重力圏からわたくしたちを解放してくれましたです。
彼女が去るとすぐに、斎藤さんがわたくしたちにしか聞こえない声で囁きました。「あんたの叔母さん…強烈だな」
「ありがとう、姉上」アレクサンダーはほっとしたように溜息をつきました。
わたくしは微笑んだまま、しかしその目は氷のように冷たいままでした。さらに数分、ホールをさまよい、空虚な挨拶を交わしました。アレクサンダーがプレゼントの山を指さします。「少なくとも、贈り物は良さそうだな」
「ガラクタですわ」わたくしは言いました。「ただの鎖が増えるだけですの。受け取る気はありません」
彼はためらいました。「だよな…でも、もしレアな漫画があったら…」
わたくしは呆れて目を細めました。(集中なさいです、アレクサンダー。集中…) 彼を叱責する前に、あの重々しい声が響き、パーティーが凍りつきました。
「フラヴィアン。アレクサンダー」
胃がズキッと冷えました。空気が重くなったようですわ。わたくしはゆっくりと、顔に貼り付けた微笑みを崩さずに振り返ります。そこに、彼が立っていました。父上です。背が高く、威圧的で、白髪交じりの髪は正確に撫でつけられています。短い顎髭と、彼だけが魅力的だと思っているであろう、馬鹿でかい口髭。アレクサンダーと同じ青い瞳は、一瞬で相手の魂の欠陥まで見抜くかのように鋭い。弟は隣でカチンと固まり、あの斎藤さんでさえ、すっと背筋を伸ばしました。
「父上」
わたくしたちの声は完璧に揃っていました。練習通りの敬意の裏に、氷のような感情を隠して。
父上はわたくしたちを上から下まで値踏みし、その視線はアレクサンダーに突き刺さりました。「お前の成績のことだが、アレクサンダー。…失望したぞ」
一つ一つの言葉が、鞭のようでした。アレクサンダーはゴクリと唾を飲み込み、顔は蝋のように青白く、床の一点を見つめています。「わ、わたくしは…その、ご説明できま—」
「そしてお前、フラヴィアン」父上は弟を無視し、わたくしを射抜くように見つめました。「一位でないのは、お前の選択です。やればできることは既に証明している。だがアレクサンダーは?彼にこのような失態は期待していなかったのです。これほど公の場でな」
アレクサンダーの声が震え、その瞳に浮かぶ恐怖を見て、わたくしは決意しました。(皆の前で…それだけは駄目ですわ!)
すっと一歩前に出て、父上と弟の間に割って入ります。「その責任はわたくしにございますです」わたくしはきっぱりと言い、彼の凍てつくような視線を真っ直ぐに受け止めました。「わたくしが生徒会に立候補するなどという気まぐれを起こしたせいで、アレクサンダーの時間を奪ってしまったのです。わたくしのせいで、彼は十分に勉強ができませんでした」そして深く、頭を下げました。顔にかかる髪で、瞳に燃える怒りを隠して。「罰するのであれば、どうぞわたくしをですわ」
「姉上…」アレクサンダーが、か細い声で呟きました。
父上の目が細められ、わたくしの覚悟を試すかのようでした。ですが、彼はふっと肩の力を抜き、まるでこの茶番に飽き飽きしたかのように言いました。「今日は貴様らの誕生日だ。それに、もうわたくしと住んでいるわけでもない。罰を与えるべき者がいるとすれば、それはジャックだろう」彼は一瞬言葉を切り、その声は鋼のように硬くなりました。「パーティーを楽しむがいいです」
安堵の息を吐く前に、甘く、毒を含んだ女の声が隣から聞こえました。「まあ、あなた。あの子たちに甘すぎやしませんこと?」
彼女…!
血が沸騰し、そして凍りつきました。母、宏美がスルスルと蛇のようにわたくしたちのそばへ滑り込んできます。彼女の黒いドレスは、蛇の鱗のようにキラキラと光っていました。長い黒髪、そして他人の不幸を嘲笑うかのような黄色の瞳。彼女はわたくしたちを無理やり抱きしめ、その冷たい指が肩に食い込みました。「おめでとう、愛しい子たち!」
「母上…」アレクサンダーは感情のない声で呟きました。
わたくしはカチンと固まったまま、怒りの胆汁を飲み込みました。(どうせ、心にもないくせにですわ。すべて、招待客に見せつけるための芝居ですの…!) 彼女を突き飛ばし、叫んでやりたい。ですが、それこそが彼女の望み。わたくしを感情的にさせ、未熟だと証明したいのですわ。だから、ドレスの襞の中で、手のひらに爪が食い込むほど強く、拳を握りしめましたです。
彼女は離れ、その笑みはさらに鋭くなりました。「それにしてもジャックは…本当に期待外れ。エドワードとそっくり。失敗作ですわね」彼女はアレクサンダーに視線を移し、その声は甘ったるい囁きに変わりました。「あなたは兄たちのようにはならないでね、愛しい子。ディアナだけが、わたくしたちの誇りですもの。今日来られなかったのが残念ですわ」
わたくしの怒りが、ついに限界を超えました。口を開き、彼女を黙らせようとした、その瞬間。穏やかで、しかし刃のように鋭い声が、空気を切り裂きました。
「宏美叔母様。ウィリアム叔父様」
斎藤さんです。彼はいつの間にかわたくしたちの隣に立ち、礼儀正しい笑みを浮かべていましたが、その茶色の瞳の奥は危険な光を宿していました。宏美は芝居がかったように口を尖らせます。
「廉士ちゃん、もう子供じゃないのだから、もっと礼儀正しくなさいな」
彼はハハッと笑い、わざとらしい仕草で首の後ろを掻きました。「申し訳ありません、宏美様」
「まあ、もう!様付けなんて他人行儀よ、廉士ちゃん!」と彼女はふざけたように言いました。
父上が彼に向き直り、その声は平坦でしたが、隠された圧力を感じました。「廉士君、ジャックの様子はどうだ?」
斎藤さんの笑顔は崩れませんでしたが、その瞳はさらに鋭くなりました。「ご存知でしょう、ウィリアム様。彼は相変わらず、彼らしいですよ」彼はまた首の後ろを掻きました。その仕草は、あまりにも自然すぎて、逆に不自然でしたの。
ウィリアム様は頷き、まるで目に見えないチェスの試合を終えたかのように言いました。「そうか」そして宏美に向き直り、腕を差し出します。「行こうか」
「ええ、あなた」彼女は待ってましたとばかりに彼の腕を取り、二人は優雅にホールを滑るように去っていきました。
アレクサンダーが俯きます。「廉士兄、ごめん…」
わたくしが何か言う前に、斎藤さんははぁーっと大げさなため息をついて、一瞬で場の空気を変えました。「いやー、君らの両親はいつ会っても怖いな!」彼はカラカラと笑いました。「どっか抜け出して、もっとマシなもんでも食いに行かないか?」
「うん!」アレクサンダーがぱっと顔を輝かせました。
「ええ、ぜひですわ」わたくしも、無理に微笑んで同意しました。
ですが、出口に向かいながら、わたくしの頭はグルグルと回転していました。(斎藤さん…どうしてあんなに見事に立ち回れるのですの?) 会話を逸らす手腕、あの気軽さを装った鋭い眼差し…彼は、わたくしの知らない何かを知っているのです。彼と兄上に、わたくしの知らない過去があることは知っていましたが、今は…もしかして彼は、兄上のことを、わたくし以上に…?
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夜は冷たく、強い雨がザーザーと街を打っていました。斎藤さんの車のワイパーが、催眠術のように単調なリズムを刻んでいます。アレクサンダーは後部座席で眠りに落ち、ようやく安堵の表情を浮かべていました。わたくしは、窓ガラスを流れる雨粒の向こうで、滲んでいく街の光をぼーっと眺めていました。
静寂を破ったのは、斎藤さんでした。「フラヴィアン、ユウタの家に送ろうか?今、あいつと一緒に住んでるんだろ?」
「いいえ」わたくしは素早く答え、思わず笑みがこぼれました。「彼らのお邪魔はできませんもの」
「彼ら?」バックミラー越しに、彼の訝しげな視線を感じます。隣で、アレクサンダーが片目を開けました。
「秘密ですわ」わたくしは腕を組み、その笑みはさらに深まりました。(はるちゃん、わたくしの計画、楽しんでくれているといいのですけれど。後で殺されたりはしないでしょうね…ですわね)
車は竹内おじさんの家の前に止まりました。酒井家の冷たい屋敷とは違う、質素ですが温かみのある家。斎藤さんが眠そうなアレクサンダーを助けている間、わたくしの心はまだパーティーにありましたのです。
(斎藤さん…あなたは一体、何をどこまでご存知なのですの?)




