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第9話「計画された失敗」

花宮陽菜


 サービス用の通路は、煌びやかなコンベンションの内部に隠された、コンクリートの傷跡のような暗く空っぽなトンネルだった。肺が焼けつくようで、あたしの裸足の音だけが、狂ったようなドラムのように響き渡る。理香ちゃんの高そうなドレスが、汗で体に張り付いていた。奥のほうで、唯一の色を発しているのは、金属製のドアの上にある「出口」の赤い、しつこい光。それがあたしの唯一の希望だった。


(もう少し!ここから出なきゃ!)


 残された力を振り絞ってドアを押し開け、外に飛び出した瞬間、眩しい光にあたしは目をくらませた。目が慣れたその時、誰かにドンッと鈍い音を立ててぶつかった。転んで、またパニックがこみ上げてくる。必死に立ち上がって、また走ろうとしたけど、あたしは凍りついた。


 目の前にいたのは、椿理香だった。あたしの服を着て、ブロンドのウィッグは彼女そっくりの長い赤髪に代わっている。あたしが着けていた緑のコンタクトレンズが、今は彼女の目に。彼女は、あたしに変装していたのだ。


「理香ちゃん?!」あたしの声は、ショックで囁きのようだった。


 でも、彼女の表情に安堵の色はなかった。そこにあったのは、純粋な怒り。彼女は前に進み出て、あたしの肩を掴んだ。その手は震えていた。


「どこにいたのよ?!なんでそんなに汚れてるの?!」彼女は、シューッと音を立てるような声で攻撃してきた。「どこにほっつき歩いてたのよ?!あんたがスピーチに現れなかったせいで、あたしがどれだけお説教されたと思ってるの!家に帰ったら、今度はあたしが怒られるんだから!」


「あたしは…」


 **ゴホンッ!**と、空気を切り裂くように大きくてわざとらしい咳払いがした。振り返ると、そこに直美ちゃんが立っていた。腕を組み、オレンジ色の瞳が、あたしが滅多に見ないような、深くて恐ろしい怒りで燃えている。


「ねえ、はるちゃん…」彼女の声は低く、ほとんど唸り声だった。「…一体、何やってんのよ?」


 恐怖であたしは麻痺した。迷子になったとか、転んだとか、嘘を言おうとしたけど、彼女の視線の重圧で、言葉が喉の奥で死んでしまった。


「嘘つき!」直美ちゃんの叫びが、がらんとした廊下に響き渡った。「あんたのこと、そこら中探し回ったんだからね、このバカ!で、やっと見つけたと思ったら、こんな…こんなのと一緒にいるし!」彼女は理香ちゃんに殺意のこもった視線を送った。理香ちゃんは縮こまり、恥ずかしさと恐怖で顔を手で覆った。


「ごめん…」あたしは呟いた。それが、あたしに言えた唯一の真実だった。


 直美ちゃんは、長くて、疲れ果てたようなため息をついた。その肩ががっくりと落ちる。「あんた、あちしにデカい借り、作ったからね、はるちゃん」彼女は近づいてきて、理香ちゃんとあたしを驚くほどの力で立たせた。「ほら、行くよ。あんたたちのそのバカみたいな入れ替わりごっこ、終わらせるためにトイレに連れてってあげる」


 直美ちゃんについていくと、しゃがれているのに、奇妙に落ち着いた優しい声が、まるで頭の中に直接響くように、あたしの耳元で囁いた。


「心配するな、スピリット・ブロッサム。もう敵はおらん。何人かのエージェントが、すでにお主の警護についておる」


 全身にゾクッと鳥肌が立った。あたしは必死に周りを見回した。遠くで、緑がかったアシンメトリーな髪型の女性が、他の人たちとスタンドの近くで話しているのが見えた。一瞬、あたしたちの視線が交差する。彼女の鋭い黄色の瞳が、あたしにスッとウインクした。素早く、さりげない仕草。そして、彼女は会話に戻った。


「は、はい…」あたしは謎の声に囁き返し、心臓はまだ胸の中で激しく脈打っていた。


 _____//_____//_____


竹内勇太


 目の前の光景が溶け、俺は再びあの部屋にいた。会議室。空気中の緊張感は同じで、これから起こることへの重苦しい予感に満ちていた。


「増援だと?」安藤先生の声は正確で、鋭利だった。


「はい」俺は、部屋にいる他の者たちの顔を見渡しながら断言した。「奴らが、学校側が脅威に気づいていることを知っているのは明らかです。大規模な戦闘に備えた対抗策を持っている可能性が高い。しかし、イベントの警備では、奴らも自由にエキゾ・ウェポンを使用することはできない。だからこそ、紛争の際には、敵は外部から支援部隊を送ってくるでしょう」


「ドローンか?」藤先生が、存在しない煙草の煙でしゃがれた声で尋ねた。


「可能性はあります」俺は同意した。「しかし、それだけではない。支援部隊は、奴らの逃走経路の確保も担当するでしょう」


 部屋の空気がさらに重くなる。「奴らの目的が、絶好の機会に椿理香を暗殺することなら、攻撃の瞬間にイベント会場は封鎖される。警備と警察の到着を考えれば、それは自殺行為です」


「だが、それは狙撃手ならやることではないか?」石田先生が、いつもの懐疑的な口調で反論した。


 俺は首を振った。「いえ。奴らがやるとすれば、おそらくイベント会場を封鎖し、全員を閉じ込め、その中で椿理香の死に繋がる紛争を引き起こす。それも、世界中の報道陣が見守る中で」


「騒ぎを起こし、全ての目を椿理香に向けさせ、そして…」桜井さんの声は低く、俺の考えを代弁していた。


「はい」俺は彼女の言葉を引き継いだ。


「その『支援部隊』がどこから来るか、見当はついているのかね、勇太くん?」


「会場の周辺は調査済みです。一つ考えがありますが、まだ賭けの段階です」と俺は認めた。「そのために、会場に繋がる大通りを封鎖する必要があります」


 桜井さんは片眉を上げた。「どうやってそんなことをするつもりかね?ゲートは協力しないし、我々に大通りを封鎖するほどの『権力』はない」


 俺の唇の端に、小さな笑みが浮かんだ。「ですが、桜井さん、あなたにはあります」


 彼女はため息をついたが、その顔には諦めたような笑みが浮かんでいた。「これは、私が君の過去を調べたことへの復讐かね、勇太くん?」


「いえ。この手は、竹内さんにこの学校へ来いと言われた日に、もう打ってありました」


 _____//_____//_____


 風が、俺たちが立つパサレラを吹き抜ける。下には、金属と光の川のように交通が流れていた。隣で、髪が黒と白のまだらになった男が、顔にずり落ちてくるメガネを、ゴムで頭にしっかりと固定した。窮屈そうなタクティカルスーツを着ている。ロックオンだ。


「あれだな?」奴は尋ねた。声は落ち着いていたが、スナイパーライフルを握る指の関節は白くなっていた。


「ああ」


 一台のトラックが、数台の車に挟まれて近づいてくる。合図だ。


 チェインメイルが、金属的な囁きと共に体を覆っていく。改良版だ。単純なエクソギアの機能を模倣できる。黒い金属が口と鼻を覆い、俺の黄色い目だけが剥き出しになった。


 トラックが真下を通過した瞬間、金属音が鳴り響いた。俺は静かに運転台に着地する。一息に、いとも簡単に屋根を引き剥がし、運転手を外へ放り投げた。助手席の男が銃を抜こうとするが、パサレラからの正確な一発が、その手を弾き飛ばす。俺の一蹴りで、奴は意識を失った。俺はハンドルを握り、トラックを急ブレーキさせ、大通りを塞いだ。


  _____//_____//_____


 私の目は、複数のモニターを駆け巡り、作戦のあらゆる詳細を吸収していた。全ての動き、全ての銃声、遠くで上がる爆発の炎。それは私が指揮する、危険な交響曲の音符の一つ一つだった。モニターの一つで、チェインメイルに覆われたワイトの姿が、致死的な精度で動いている。私の唇に、微かな笑みが浮かんだ。あの子は…決して期待を裏切らない。


 隣で、重く、疲れたため息が聞こえた。


「これをやめたと思っていたが…私が奴らを説得して、君のこの作戦を許可させるのに、どれだけ骨が折れたか分かっているのか、礼子?」


 私は彼の方を向き、笑みを広げた。彼の肩はこわばっていたが、その瞳には、いつも私に向けられる、私の胸を温かくする優しさと心配の色があった。


「その見返りは、素晴らしいものになるって、分かっているでしょう?」私は囁き、含み笑いを浮かべた。彼がいつものように少し後ずさるのを見る。「ちょっと、手に負えない新しい先生がいてね、あなた…」


 彼は再びため息をつき、すでに白髪の混じった髪を手でかきあげた。「これが問題にならないことを願うよ、愛しい人…」


 今度は私の笑い声が少し大きくなった。電子機器の低い唸り声だけが満たす静かな部屋に、柔らかく響き渡る。問題?混沌は、勇太くんにとって自然な環境よ。そして、それこそが、私が彼をそこへ置いた理由。


 私はモニターに視線を戻した。そこでは、アクションが激しさを増していた。「心配しないで」私は、彼にというより、自分自身に言い聞かせるように言った。「私の先生が、全部片付けてくれるわ」


  _____//_____//_____


竹内勇太


 トラックが大通りを塞ぐと、後続車がアスファルトにタイヤを鳴らして停止した。サイレンが空気を切り裂き、数秒で、通りは警察の赤と青の回転灯に染まり、バリケードが築かれた。


「車両から手を上げて出てこい!お前たちは包囲されている!」警官の一人がメガホンで叫んだ。その声は、緊迫感で歪んでいた。


 返答は、降伏ではなかった。


 車のドアが開き、陰気な顔つきの男たちが現れる。チンピラじゃない。金属のプレートが腕を覆い、肩からは小型のキャノンが展開し、手にはエネルギーがバチバチと音を立てる。エキゾ・ウェポン。ただ一つの目的のために設計された、迅速な破壊兵器だ。


「撃て!」


 大通りは地獄と化した。警官たちがパトカーの後ろに身を隠す中、男たちは前進し、エネルギー弾が空気を裂き、金属を貫いた。俺と、パサレラに陣取ったロックオンは、戦いに加わった。


 俺の主目的であるトラックの荷台へ走る。だが、俺がたどり着く前に、内部からの爆発が荷台をこじ開け、金属パネルを四方へ吹き飛ばした。滑らかで、殺傷能力の高い戦闘ドローンが高速で飛び出し、コンベンションセンターの方へ向かった。


「ロックオン、止めろ!」俺は叫んだ。


 上から、ロックオンのライフルが轟いたが、高出力の弾丸はドローンの装甲にキン!と音を立てて弾かれた。苛立ちが胸で燃え上がる。俺は走り、飛び上がって、不可能に挑もうとした。だが、完全なエグゾアーマーに身を包んだ巨大な影が荷台から飛び出し、俺に襲いかかった。


 細いワイヤーにグイッと強く引かれ、俺は間一髪でその一撃をかわした。


「この猪突猛進のバカが!」シェードの声が、警官たちの中から響いた。彼の深い緑色の髪が、彼が怒りを込めてワイヤーを操るたびに揺れていた。


「助かった!」俺は叫び返し、すでにアーマーの巨像と激しい打撃を交換していた。


 ドローンがロックオンの横をヒュンと通り過ぎる。「ドローンがイベント会場に向かっている!」奴が、緊迫した声で通信機に報告した。


「アヤメ、迎撃準備!」リキマルの落ち着いた、指揮官の声が応えた。


「了解!」アヤメの返事が来た。


「ロニン、ターゲットの状況は?」彼が尋ねた。


「無事だ」とロニンが答えた。


「シロイ、状況は?」…「シロイ?」


 通信機に、死のように重い沈黙が流れた。


 その瞬間、俺の世界が止まった。シロイ?頑固で、ひたむきな、俺の弟子の姿が脳裏に浮かぶ。俺の集中が、粉々に砕け散った。冷たく、鋭い心配が、俺の戦術的な理性を食い破った。


 それだけで、十分だった。アーマーの男は俺の躊躇いを見逃さず、俺をブリキの人形のように殴りつけ、敵の集団の中に放り込んだ。


「ワイト!猪突猛進はやめろ!」シェードの叫びは、純粋な怒りだった。エネルギーを帯びたワイヤーが奴の手からほとばしり、近くの二台の車を掴んだ。**ウオオオッ!**と咆哮し、彼は車を地面から引き剥がし、アーマーの男に投げつけた。爆発は耳をつんざくようで、俺たちの敵を炎と煙の中に飲み込んだ。だが、奴は無傷で炎の中から歩み出た。


 シェードはチッと舌打ちをした。「このアーマー、俺たちには荷が重すぎる!」俺は立ち上がりながら言った。肋骨に走る鋭い痛みを感じる。


「一発で仕留められる!」ロックオンがパサレラから叫んだ。


「同感だ」


 俺は再びアーマーに向かって突進した。奴は発砲し、俺がジグザグに避けるたびに、弾丸がアスファルトを抉る。突如、奴の肩が開き、ミサイルポッドが現れた。二つの弾頭が、シューッという鋭い音と共に発射された。一つは俺に、もう一つは空高く、パサレラに向かって。


「ロックオン!」


 ミサイルがパサレラに激突し、破壊的な火の玉となった。だが、インパクトの直前、俺は奴が跳ぶのを見た。グラップリング・ピストルが奴の手から発射され、鋼鉄のケーブルがトラックの側面に突き刺さる。奴は空中を舞い、死を間一髪でかわすと、猫のような俊敏さでトラックの運転台に着地し、すでにライフルを構えていた。


 もう一つのミサイルが、まだ俺に向かってきていた。シェードが再び動き、別の車を即席の盾として投げつけた。爆発が俺を横に吹き飛ばしたが、直撃からは守ってくれた。


 煙の中から、俺は跳んだ。拳が黄色いエネルギーでバチバチと輝き、アーマーの胸部に激突した。衝撃で、巨人は一歩後退した。奴の腕が、脅威的な深緑色に輝き、音速で空気を切り裂く横薙ぎの一撃を放った。俺は身をかがめてそれをかわし、胴体にもう一撃を叩き込む。さらに一歩、後退。シェードのワイヤーが奴の足に絡みつき、巨人はバランスを崩した。


 チャンスだ。両手をエネルギーで満たし、最後の打撃を放った。狙いは胸じゃない。ヘルメットだ。**ガギン!**という金属が引き裂かれる音と共に、俺はそれを引き剥がした。


 トラックの上から、ロックオンが息を呑んだ。「なっ?!」


 俺も驚いていた。アーマーは…空っぽだった。遠隔操作のドローンか?


 思考が完結する前に、アーマーの腕が俺を掴んだ。その内部が、不安定で、強烈な緑色の光で輝き始めた。


「ワイトォォォ!!」シェードの叫びは、純粋なパニックだった。


 そして、光が全てを飲み込んだ。


 俺は暴力的に投げ飛ばされた。体がトラックの近くのアスファルトに叩きつけられ、痛みが全ての神経で爆発した。爆発で吹き飛ばされたアーマーの腕が、まだ俺に絡みついている。息を切らしながら見上げると、俺の横に誰かが跪いていた。彼は黒いチェインメイルに身を包み、マスクが顔を覆っている。彼の少し癖のある薄茶色の髪が、炎の光を浴びて金髪のように見え、その強すぎるほどの茶色い瞳が、赤みがかって俺を見下ろしていた。


「あの日、心配になったから、校長に電話したんだ」彼は言った。その声は疲れていて、苛立っていたが、紛れもなく聞き慣れた声だった。「そしたら、どういうわけか、このスーツを渡されて、ここに来いってさ…」


 彼は俺の隣に跪いた。


「お前、こういうのはやめたと思ってたぜ、勇太。いや、ワイト…」


 俺は彼を、俺の親友を見上げ、彼をこの地獄に引きずり込んだ罪悪感が、俺の肩にのしかかった。


「フォーレン…」


  _____//_____//_____


シロイ


 コンクリートの冷たい床に、私は押し潰されていた。私のマントが、まるで鉛の錨のように重くのしかかる。視界が闇に覆われ、意識が煙のように薄れていく。熱に浮かされた頭の中で、疑問が渦巻いていた。(スピリット・ブロッサム…逃げられた?あの女は…倒された?ターゲットは…無事?師匠…ごめんなさい…)私の目は閉じた。


 ピッ。


 微かな光が視界で点滅し、私を現実に引き戻した。バイザーのシステムが静かな音を立てて再起動し、私はハッと息をのんで目覚めた。エルモが再び顔に装着されている。さっきまで耐えられない重さだったマントが、羽のように軽い。混乱しながら見上げると、彼がいた。


 私の隣にしゃがみ込み、その手は私の手を握っていた。彼自身のチェインメイルが私のコンチュージョングローブに接続され、暖かく、生命力に満ちたエネルギーが流れ込んでくるのが分かった。彼の薄桃色のポリマーマントが、ガレージの破壊されたゲートから吹き込む風に優しく揺れている。彼のエルモは、武者のような暗い顔を投影し、その赤い瞳は薄暗がりの中で穏やかに輝いていた。


「先輩…」私は、弱々しく、震える声で呟いた。


 彼に助けられ、私は立ち上がった。体中がまだ痛む。「なんでここに?ワイトさんに怒られませんか?」


「ああ、とんでもないお説教を食らうだろうな、俺の持ち場を離れたことで」彼は、エルモでくぐもった、落ち着いた声で答えた。「だが、任務を知った仲間たちが助けに来てくれた。ターゲットとスピリット・ブロッサムの警護は彼らがやっている。それに、持ち場を離れたことでワイトさんに怒られることなんて、シロイ、君を見捨てることで怒られることに比べたら、何でもないさ」


 顔がカッと熱くなり、唇が震えた。私は素早く自分のエルモを起動させ、白い鬼のイメージで顔を覆い、恥ずかしさを隠した。ローニンは、低く、穏やかな笑い声を漏らした。


「バイザー、シロイのステータスは?」彼は虚空に向かって尋ねた。


 私は混乱した。すると、ロボットのような声が、私たちの通信機に響いた。


 <対象:シロイ。ステータス:左肩に軽度の骨折。複数の打撲と表皮裂傷。総合ステータス:100%機能可能。>


「よかったぁ!」ローニンは、心からの、優しい安堵の声を漏らした。


「エルモがそんなことできるなんて、知らなかった…」と、私は混乱したまま言った。


「君がエスクワイアだった頃、もっと授業に集中すべきだったな」彼は、優しく私を諭した。


「だ、だって私は…」私は何かを言い訳しようとしたが、彼はもう、破壊されたガレージのゲートの方を見ていた。


「あの女、まだ意識があるかな」


「だって、生きてるかどうかが問題じゃないんですか?!」私は言い返した。


「俺のバイザーでは、彼女の体が呼吸しているのが分かる。だから、生きてはいるはずだ。意識があるかどうかは分からないがな」彼は瓦礫の中に倒れている、赤いスーツの女の方へ歩いていき、その傷を確認するために身をかがめた。


 _____//_____//_____


ローニン


 俺は女の隣にしゃがみ込んだ。生きてはいる。だが、内部の状態までは分からない。シロイのコンチュージョングローブの衝撃は、壊滅的だったはずだ。あのガントレットは、分厚い金属塊をガラスのように粉砕する。人間の体ならどうなる?今すぐ手当てをしないと。こいつを死なせるわけにはいかない。


「先輩、危ない!」


 シロイの叫びが俺を覚醒させた。高速で、何かが俺に向かってくる。ガキン!火花が四方八方に飛び散った。俺はエクソギア――黒い刃を持つが、背の部分が俺のマントと同じ薄桃色に輝く刀――で、その一撃を弾き返した。敵は俺の横を通り過ぎ、俺の前に立ちはだかるように止まった。


 ドローン。だが、その体は人型に変形し始めていた。(アヤメさんを通り抜けたのか?)


「へっ、へっ、へっ…そのツラ…」男の声だった。侮蔑に満ちた声が、ドローンのスピーカーから響いた。(俺の顔?エルモ越しに見えるのか?)


 俺は立ち上がり、刀を奴に向けた。刃の桃色の部分が、より強く輝き始める。ドローンの腕を見た。傷がついている。深く。俺は攻撃を弾いただけなのに、それでもダメージを与えた。だが、俺がシロイに分け与えたエネルギーは、彼女を立たせるのがやっとの量だ。彼女に、もう一つの戦闘をこなす力はない。


「お前、女にモテるだろ?」と、ドローンが嘲笑った。


「残念ながら、そうでもない!」俺は冗談めかして返し、左手で刀を握り直した。(今、ここで終わらせる!)


 だが、その時、上から緑がかった髪と金色の瞳を持つ女が、ドローンの上に舞い降りた。アヤメさん!奴は最後の瞬間にそれをかわす。俺も奴を攻撃するために跳んだが、奴の体中の様々な部分から小さなコンパートメントが開き、濃い黒いガスのカーテンが放出された。その煙に触れた瞬間、俺のバイザーが故障し始めた。


(このガス、俺のシステムに影響を…?)


「ガスから出ろ、ローニン!」アヤメさんが通信機で命令した。


 俺は後ろへ跳んだ。彼女は再びドローンに襲いかかるが、奴はすでに意識のない女を肩に担ぎ上げていた。アクロバティックな跳躍でアヤメさんをかわすと、奴の姿は空中で見えなくなり、消えた。


 俺はチッと舌打ちし、苛立ちながら奴を追いかけようとした。だが、アヤメさんが俺の前に着地し、俺を止めた。「私たちの優先事項は、対象の安全確保のはずかしら、ローニン。任務は終了よ」


 _____//_____//_____


 ったく、最悪だぜ。俺は金属の梁の上から全てを見てたんだ。イライラしながら、自分に悪態をついた。あの女と、あのイカれたゲートのエージェント。ちくしょう、あいつ、ハッキング用のグローブを持っていやがった。ヤベェ!もし触られてたら、俺はマジで終わってたぜ!ふぅ、ギリギリで避けられてよかった…


 あの役立たずの女が、まだ俺の肩に担がれている。下を見ると、三人のガキがいた。サーモンピンクの髪の女、長い赤髪の女、そして金髪の女。赤髪…椿理香。ターゲットだ。俺はドローンの右腕を上げ、照準を彼女に合わせた。


「待て」


 通信機からの声。俺は椅子に座り直し、薄暗い自室で、俺様の素晴らしいセットアップの前で、ファストフードのソーダをズズッと啜った。


「はぁ?なんでだよ?」俺はイライラして尋ねた。


「クライアントの望みは、大騒ぎの中でのターゲットの暗殺だった。彼女がスピーチをしなかった時点で、我々のチャンスは失われた」あの、ちょっとしゃがれた野太い声が、冷たく答えた。


「でもよぉ、あいつをここで殺したって、十分大騒ぎになるじゃねえか!なんでやっちゃいけねえんだよ?」俺は文句を言った。


「お前の言う通りだ。だが、もし彼女が国際的なメディアの前で、何十億もの人々の前でスピーチ中に殺されていたら、世間の反応がどうだったか、想像してみろ」


 チッ。「わーったよ、わーったよ、あんたの言う通りだ」俺はドローンの腕を下げた。「で、この女はどうすんだよ?なんで俺がこいつを助けなきゃならねえんだ?」


「彼女は、貴重な駒だ」


「へいへいへーい…」俺は呟いた。女はドローンの中に吸収され、ドローンは透明になって誰もいない廊下に入り、身なりのいい男の姿になってから、悠々と去っていった。


 自室に戻って、俺はまた文句を言った。空になったカップのストローを噛みながら。「二流の傭兵なんか雇うからこうなるんだよ。ゲートのエージェントに勝てるわけねえだろ…」


「おい…」俺は通信機に向かって話しかけた。声はくぐもり、面白がっているような響きになった。「今日の失敗…あんたの計画通りだったんだろ?デスブロー…」


 向こう側で、声が笑った。「お前は、なかなかに鋭いな、ランデブー」


「どうでもいいぜ。あんたが金を払ってくれるなら、俺は気にしねえよ」


「敵側にも…私を魅了する者がいるのでな」


  _____//_____//_____


斎藤廉士


 戦いは終わっていた。敵は全て無力化され、制圧されていた。ワイトは、トラックの荷台を調べていた。俺は奴を見て、顔が険しくなった。先日、公園で勇太が見せたあの眼差し…あれは、俺たちがゲートにいた頃の奴と同じ目だ。任務を何よりも優先させていた頃の。そして、その眼差しは…今、奴がしているものと、全く同じだ…


 _____//_____//_____


竹内勇太


 俺はトラックの荷台を調べていた。手がかりが必要だった。この黒幕が誰なのか、それを示す何か。空のアーマー、ドローン…これは、ただの襲撃にしては、あまりにも手の込みすぎた芝居だ。誰かが、駒を動かしている。


 箱と瓦礫の混沌の中で、爆発を生き延びたものがあった。補強されたアタッシュケース。ほとんど無傷で、隅に転がっていた。そこには、一つのシンボルがあった。俺が何年も見ていなかった、一つのシンボル。俺の胃が、キリリと痛んだ。ケースを開ける。中には、一つのデータパッド。


 電源を入れる。スクリーンが明滅し、偽の積荷目録が表示された。無意味なデータ。だが、そのファイルのフッターに、デジタル署名として、一つの名前があった。招待状だ。


 その名前を読んだ瞬間、俺の周りの世界が静かになった。背筋を、冷たいものが駆け上がった。俺があの世界を後にして以来、感じたことのない、冷たさが。


 あの名前。あの、忌々しい名前。


 俺の拳が固く握りしめられ、遠い昔に葬り去ったはずの怒りで、震えていた。


 マルセル・ランフレッド…


 いや…それよりも、最悪な…


 デスブロー…

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