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第8話「シロイ」

竹内勇太


 計画は、理論上は単純だった。分離と捕獲。潜入するが、公然とは攻撃しない。奴らの目的は単なる暗殺ではない。もっと大きな何かだ。


「たとえコンベンションに潜入できたとしても、奴らはそう簡単には攻撃してこないでしょう」と、俺は他の者たちに説明した。公園を出てから数時間後、急遽設けた校長室での作戦会議。その場の空気は、俺たちが共有する緊迫感で張り詰めていた。


「なぜかね?」石田先生が、いつものように懐疑的な声で尋ねた。鼻からずり落ちそうな眼鏡を押し上げる。


(奴らの目的が見た目よりも大きいからですよ、先生。いつだってそうだ)


「奴らの目的は、おそらく大規模な衝撃を与えることです」と、俺は頭の中で描いたシナリオを言葉にした。


「敵は、ファントムそのものではないと僕は思います」石田先生が再び抗議する前に、木村が割って入った。その声は驚くほど冷静だった。


 石田先生はまだ納得していない様子だったが、安藤先生と藤先生は木村に同意するように頷いた。俺もだ。


「もし奴らが本当にファントムなら」俺は声を低く、重くして続けた。「椿理香はとっくに死んでいます。だからこそ、奴らの目的は単なる暗殺以上のもので、何か大規模なことを企んでいると俺は確信しています。そして、おそらく一度きりの、絶好の機会にしか彼女を攻撃しないでしょう」


「そして、あなたはそのために罠を仕掛けるつもりなのね」安藤先生の声は、刃物のように鋭かった。彼女の黄色い瞳が俺を分析する。「危険すぎるんじゃないかしら?」


「ええ」俺は認めた。「ですが、計画は敵を検知し、動く前に捕らえることだけです」


 それまで黙って聞いていた桜井校長が、ついに口を開いた。「勇太くんの言うことには賛成じゃ。じゃが、君はおそらく大規模な作戦を考えておるのじゃろう。そして、ゲートからの直接的な支援はない」


(クソッ…分かっていたが、それでも…)


 藤先生が、見えない煙と共に長いため息をついた。「儂はもうそれを予期しておったわい」


「どうしてです?」木村が、純粋な好奇心で尋ねる。


「神未来が関わっておるからのう」桜井校長は説明した。その一言一言が、俺の希望に打ち込まれる釘のようだった。「日本のゲート部隊だけでなく、国際部隊、特にアメリカとヨーロッパの部隊が、いかなる告発も許さんじゃろう。神未来は、我々のエクソギアの最大の供給元じゃ。勇太くんが望むような作戦を維持するためには、学校と大学にいるクレリックを全員動員する必要がある。問題は、そのほとんどが元インクイジターだということじゃ。そうでない者はエスクワイア。引退したナイトやインクイジターはいるが、簡単に戦場に呼び戻すわけにはいかん。現役のナイトは、儂と君の他に、あの二人しかおらん」


 胸が締め付けられた。冷たいものが背筋を走る。(あの二人…光…俺の生徒たち…)。多くのインクイジターやエスクワイアも、そうだ。俺の世界に、俺が必死で逃れようとしてきた世界に、あいつらを巻き込むなんて。


「作戦が成功すれば、誰も大規模な戦闘に参加する必要はない」桜井校長の言葉は、脆い約束のようだった。


 俺は頷きながら、頭をフル回転させた。「生徒たちを直接戦闘に参加させずに済む最善の方法を考えます」


 _____//_____//_____


 イベントホールの天井の金属構造の上から見下ろすと、群衆は色と動きのぼやけた塊のようだった。俺の薄桃色のポリマー・バリスティック・マントが空調の風に揺れ、フードが頭を覆っていた。見えるのは、俺のエルモだけ。赤い目が光る、武者のような暗い顔を投影する金属製のマスク。全てが見える。


 ターゲットを視認。長い赤毛の女と一緒に女子トイレに入っていく。


「見えますか、ワイトさん?」通信機に囁いた。


 返事は、素っ気なく、即座に来た。「ああ。一体何をしている?」


「介入しますか?」


「いや。ターゲットの安全確保を続けろ、ローニン」


「了解」


 _____//_____//_____


 花宮陽菜


(よし、陽菜、どうする?あたし、どうすればいいの?!)


 だんだん、あのジャケットとサングラスの男たちに囲まれているのが分かってきた。彼らの視線は、あたしたちを無視しているようで、でも、あたしにはそうじゃないって分かってた。理香ちゃんをトイレに連れ込んだけど、ここは緊張から逃れるための、ただの小さなタイル張りの島だった。


 彼女はパニック寸前だった。檻の中の動物みたいに、行ったり来たりしている。その手は、高そうなドレスの生地をぎゅっと握りしめていた。


「わたくしの家族…あたしがいないって気づくわ!きっと激怒する!それに、スピーチは?スピーチをしなきゃ!」彼女はドアに向かって駆け寄ろうとしたが、あたしは体でそれを塞いだ。ダメ、今、彼女を行かせるわけにはいかない。


「どうしてこんなことをするの?」彼女の声は、か細い囁きだった。「わたくし、シルバーハンドさんの悪口を言ったのよ。あなた、わたくしに怒っているべきじゃないの?」


(だって…閉じ込められる気持ちが分かるから。それに、ゆうくんが、あたしを信じてるから!)


 あたしは、自分でも感じていない平静さを装って、微笑んだ。「もう、過去のことだよ」


「あなたの計画って?前に言ってたやつ」


 顔がカッと熱くなるのを感じた。声に出したら、すごく馬鹿げた考えに聞こえそう。「あなた…そのウィッグ、取るべきだと思う」


 彼女の反応は、即座だった。その脆さが、一瞬で怒りに変わる。「なんですって?!」


「もしそれを取ったら、誰もあなただって気づかないよ!群衆に紛れ込める!」


「でも、家族は気づくわ!」彼女は、声を荒げて反論した。


「じゃあ、もし…あたしが、あなたのウィッグを被ったら?」


 その言葉が、二人の間に漂った。彼女の唇から「げっ?!」という驚きの声が漏れる。緑のレンズがなくなった金色の瞳が、あたしを上から下まで見つめた。そして、考え込んでいる。「…うまくいくかもしれないわ」彼女はあたしの髪、身長、体つきを分析した。「髪も似ているし、背も同じくらい…体型も似ている。でも、あなたの顔はもっと丸くて、ふっくらしているし…」彼女の視線が、あたしの胸に落ちた。「…お、大きいですわ!」


 あたしは反射的に腕で胸を覆い、顔が燃えるように熱くなった。「り、理香ちゃんだって小さくないでしょ!あたしのこと言わないでよ!」


 その日初めて、彼女の唇に、本物の、小さな笑みが浮かんだ。「わたくしの家族は、いつもわたくしのことを『偽の椿』と呼んでいたの。この髪のせいで。父が、このウィッグとレンズを使うように強要したのよ」彼女はため息をついた。その声は、急に疲れていた。「自分の見た目が嫌いなわけじゃないわ。でも、あんな家族といると…苦しむ『本物』でいるより、『偽物』でいた方がマシなの…」


 その瞬間、あたしの迷いは消えた。


「やろう、理香ちゃん!」あたしは彼女の手を取った。「イベントが終わるまで、あたしがあなたのフリをする。そうすれば、あなたは普通の女の子として一日を過ごせる。少なくとも、試せるでしょ。そして、夏休みが終わったら、あたしがあなたが『普通』でいられるように手伝うから!」


 彼女は一瞬言葉を失い、その衝撃が、やがて顔全体を照らす感謝の微笑みに変わった。


 _____//_____//_____


 ローニン


「ターゲットが出てきた…か?」


「何をしている?」ワイトさんの声が、緊張感を帯びて通信機から響いた。


「命令を」


「ターゲットを追え、ローニン」


「了解」


 俺は、派手な服を着た金髪で緑目の女を無視した。ターゲットはもう一人の方。今は普段着の、長い赤毛の女だ。


 _____//_____//_____


 花宮陽菜


 椿さんの高価なドレスとブロンドのウィッグを身につけ、あたしはイベント会場を歩いていた。生地は軽かったけど、まるで鉛のように重く感じた。彼女に提案した計画は単純だった。家族を見つけて、頭を下げて、スピーチの時は台本を読むだけ。でも、あたしの計画は、もっとリスキーだった。


(ゆうくんの目的が彼女を守ることなら、一番いい方法は、ターゲットをゲーム盤から外すことじゃない?あのジャケットとサングラスの男たちを、全員彼女から引き離さなきゃ!)


 あたしは会場の隅々まで歩き回り、彼らの視線を背中に針のように感じていた。そろそろ、彼らをまく時間だ。防火扉を見つけ、躊躇なく中へ入る。そこは、サービス用の廊下だった。空気が変わり、ひんやりとして、金属と洗剤の匂いがした。


(完璧。ここで彼らをまいて、ウィッグと服を脱げば、逃げられる!)


 あたしは走り出した。でも、ヒールで走るなんて、悪夢だ。ガクンとバランスを崩し、もう嫌になってヒールを脱ぎ捨てた。裸足で続けようとした、その時。角から、一人の男がぬっと現れ、あたしの目の前に立ちはだかった。


 心臓が凍りついたんじゃない。ただ、ピタッと、止まった。


 男が、ゆっくりとあたしに向かって歩いてくる。ヒタ、ヒタ、と。その足音が、狭い通路に不気味に響いた。


(どうしよう?!どうすればいいの?!股間を蹴って逃げる?叫ぶ?無理、声が出ない!)


 後ろを振り返ろうとしたけど、その必要はなかった。気配でわかる。通路の両側から、他の男たちがジリジリと距離を詰めてきている。全部で六人。完全に囲まれた。


 目の前の男が、ニヤリと汚い笑みを浮かべて、手を伸ばしてくる。恐怖で、世界がスローモーションになった。その手が、あたしの顔に…


 ドカッ!


 視界の端で、何かが閃いた。


 手。ううん、もっと正確に言うと、白い手甲ーーガントレット。その硬そうな拳が、男の顔面を完璧に捉えていた。時間が、ピタッと止まったみたいだった。


 男は人形みたいに吹き飛び、壁に叩きつけられて、ぐにゃりと崩れ落ちた。角から、小柄な人影が現れた。その子が着ているのは、金属のような光沢を持つ白いマント。でも、その形や雰囲気は、どこかレインコートを思わせるものだった。右腕は、パンチを放ったままでまっすぐに伸びている。そして、マントの下の左手には、銃が握られていた。先端にサイレンサーがついた、小型のサブマシンガン。


 プシュッ!プシュッ!


 あたしの背後にいた男たちに向かって、銃が火を噴く。正確な射撃が彼らの足を撃ち抜き、男たちは苦痛の声を上げて床に崩れ落ちた。別の通路から、さらに二人の男が飛び出してくる。白い影ーーその子は、再び右腕を上げた。


 シュンッ!


 ガントレットからフックが射出され、男の一人の肩に突き刺さる。もう一人の男は、相棒が捕らえられたのを見て、サディスティックに笑いながらフックのワイヤーを掴んだ。その子を引き寄せようと、力を込める。


「へぇー…」マスクの下から、甲高い、からかうような声が漏れた。


 バチバチッ!


 ガントレットが小さな火花を散らし、目に見えるほどの電流がワイヤーを走る。ワイヤーを掴んでいた男は激しく感電し、体をガクガクと震わせた後、床に倒れた。その子は乾いた動きでフックを引くと、もう一人の男の肩から血が壁や床に飛び散った。


 フックが手元に戻る前に、その子は銃をマントの下にしまい、同じ動きであたしの胸を軽く叩いた。


「いたっ!」


「行くわよ!」白い鬼の仮面の下から、少女の声がした。白いマントが、その小さな体を覆っている。


 彼女はあたしの手を取り、ぐいっと引っ張った。胸に当てられたものが、首筋を這い上がり、皮膚の中に入っていくような奇妙な感覚。耳元で、デバイスが固定されると、ザーッというノイズが聞こえた。突然、青いオーラがあたしを包み込み、一瞬きらめいたかと思うと、その力場は完全に見えなくなった。でも、守られている感覚だけは、まだ残っている。


「スピリット・ブロッサムを確保した!これから離脱ポイントに向かうんだって!」その子の声は、どこか子供っぽいエネルギーに満ちていた。


(スピリット・ブロッサム…あのバカ…) ゆうくんと技術博覧会の話をした時の記憶が、頭をよぎる。


 耳元のノイズが消える。彼女が話し終えた瞬間、別の声が、直接頭の中に響いた。


「うむ。気をつけるんじゃぞ」


 しゃがれているのに、不思議と落ち着いた声。その声に、あたしはゾクッと鳥肌が立った。


「わかってる!」と、少女は元気に返事をした。


 サービス用の通路を走り抜ける間、あちこちに男たちが倒れているのが見えた。血を流している者、苦痛に身をよじっている者、ただ気絶している者。この小さな女の子が、たった一人でこれだけの数を…


 巨大なドアを抜けると、だだっ広い駐車場に出た。トラックやハイテクそうな機械が、静かに並んでいる。その子が、向こう側にある出口を指差した。あと少しだ。


 しかし、突然、巨大な金属の触手が天井から伸びてきて、その子を激しく打ち付け、トラックの側面に叩きつけた。


「あああああっ!」あたしは、名前も知らないその子のために叫んだ。


 ゆっくりと、一人の女があたしに向かって歩いてくる。完璧に手入れされた銀色の長い髪が、深紅のビジネススーツの上で揺れていた。でも、その顔はサイコパスのような恍惚とした表情で赤く染まり、その紫色の瞳は、血走っていて、狂気的な鋭さであたしを射抜いていた。


(やばい…この人、本気でやばい!)


「ああああああっ!なんて美しいのかしら!」彼女の声は、恐ろしいほどの甘さと狂気が混じっていた。


 あたしは、完全に固まった。


「あなたが欲しいの、理香ちゃん!」


 それまで普通だった彼女の腕が、巨大な金属の触手に変形し、あたしに向かって伸びてくる。でも、それが当たる直前、あたしの周りの見えない力場が青く輝き、金属音と共に攻撃を弾き返した。


「あら?」女は、純粋に驚いたようだった。彼女が後ろに飛び退くと同時に、白いマントの女の子が、もう立ち上がって彼女に発砲していた。


「あらあら…あなたも理香ちゃんと同じくらい、お美しいのね?」女は、狂ったような笑みを浮かべて、上を見上げた。


 その子は天井から落下し、ガントレットで地面を殴りつけた。女がいた場所だ。コンクリートが砕け、砂埃が舞い上がる。女は再びそれを避けたが、その子はもう動いていた。あたしを引っ張る代わりに、あたしの隣の壁にフックを撃ち込み、その勢いを使って、あたしの前に素早く着地した。


 彼女はあたしの前に立ち、戦闘態勢を取ってあたしを守る。そして、ドアのある通路を指差した。


「あっちに走るんだって!」と、彼女はあたしに叫んだ。


 しゃがれて、でも落ち着いた声が、また耳元で響く。「あの廊下は安全じゃ。もう救助が向かっておる」


「行かない!あなたは?!」あたしは、彼女のことが心配で、抗議した。


 彼女は一瞬、あたしの方を振り向いた。仮面越しでも、その苛立ちが伝わってくる。


「しっかりしなさい!あなたの仕事はターゲットを助けることだって!私の仕事は、こいつらみたいなバカを相手にすることなんだから!」彼女は叫んだ。


 心臓を鷲掴みにされたまま、あたしは、暗い廊下へと駆け出した。


 _____//_____//_____


 女はゆっくりとこちらに歩いてくる。そのシルエットが、舞い上がった埃の中で揺れていた。狂気じみた笑みが、その唇に浮かんでいる。


「あなたの理香ちゃんのところに行く前に、まずはあなたを始末しないとね、お嬢ちゃん」と、彼女は毒を含んだ甘い声で言った。


 私はガントレットを打ち合わせた。**バチッ!**暗闇の中で電気の火花が散る。


「彼女はあなたのものじゃないんだって!」と、私はエルモで歪んだ甲高い声で言い返した。


 女は首を傾げ、その紫色の瞳は私の両手に釘付けになった。「そのガントレット…」と彼女は呟き、私は背筋が凍るのを感じた。「ワイト・ガントレットのファン、かしら?」


 マスクの下で、誇らしげな笑みがこぼれた。ガントレットが再び電気で唸る。「彼は私の師匠だって!私はシロイ、ワイト・ガントレットの弟子なんだから!」


「なら、彼からあなたを奪ってあげる、シロイちゃん!」彼女は甲高く笑った。


「ワイトは戦うなと命じたはずじゃ、シロイ」リキマルさんの、しゃがれているが奇妙に落ち着いた声が、通信機から響いた。


 *(わかってる!)*と、私は心の中で叫んだ。「わかってる。でも、今は選択肢がないんだって!この女は強い!他の皆は大通りで、ローニン先輩はターゲットと一緒。残りはエクソギアなしのインクイジター!ここで彼女を止められるのは、私だけなんだって!」私は通信機に向かって叫び、そして囁いた。「ごめんなさい、師匠…戦うなと言われたのは分かってる。でも、今…私にできることは、戦うことだけ!」


 私は前進した。ブーストをかけたジャンプで、腕を後ろに引く。**フシューッ!**前腕から圧縮空気が噴射され、速度が上がる。一回の跳躍で、女との距離を詰めた。今度は、彼女の両腕が変形し、金属の層が彼女の胴体を覆い始める。触手が向かってくる。私のパンチがそれらにぶつかり、衝撃で私は後ろに飛ばされた。その運動エネルギーを利用して、死の舞踏のように攻撃をかわし始める。


 女の真上に着地。一回転し、電気を帯びたガントレットで殴りかかる。彼女は避けようとするが、左のガントレットからフックを放ち、彼女の足を捕らえた。逃げられない。パンチが彼女を捉えようとした瞬間、触手の壁が彼女を守るために現れた。


 私は空中に弾き飛ばされた。フックを引き戻し、彼女のバランスを崩す。空中で回転し、体勢を整え、再び腕を後ろに引き、圧縮空気がミサイルのように私を彼女へと撃ち出した。


 ドオオオオム!


 地面が盛り上がり、瓦礫と稲妻が飛び散る。女は狂ったように笑っていた。


「あなたは本当に素晴らしいわね、シロイちゃん!」


 打撃を交換し合う。彼女の触手はますます攻撃的になる。私はガントレットでそれらを弾き、跳び、避け、打ち返す。(これじゃダメ!消耗戦になったら、負けるのは私の方だって…)


 私は全てを賭けることにした。右手の防御を止める。女は何かがおかしいと気づき、一瞬、その笑みが消えた。私は前進し、避けられるだけの攻撃を避けたが、いくつかの打撃を受けた。マントが守ってくれても、衝撃は痛い!


 女は後ろに跳び、触手を引き戻し、私に向かって投げつけた。私は下に避けた。触手が私の肩を打つ。**ガンッ!**という金属音が響き、鋭い痛みが走る。でも、恐れずに前進した。


 私のガントレットが輝き、電気の火花がより激しく散る。一瞬の隙。


「ウェーブ・フィスト!」


 パンチが女の腹部に命中した。衝撃波、稲妻、電気が駐車場全体に爆発した。その圧力は私にとっても大きすぎた。腕が後ろに弾かれ、私も一緒に飛ばされる。女は壁に激しく叩きつけられ、壁が粉々に砕け散った。


 _____//_____//_____


 フラヴィアン・シルバーハンド


 数時間。はるちゃんが消えてから、もう数時間が経っていましたわ。直美ちゃんが彼女を探しに行きましたが、直美ちゃんも消えてしまいましたの。アレクサンダーは博覧会に夢中で、みちゃん、表には出しませんが、楽しんでいるようでした。この二人を放っておくわけにはいきませんわ。


 もうすぐ椿理香のスピーチの時間ですが、どうやら彼女は来ていないようですわね。彼女の家族が、必死に彼女を探しているのが見えます。でも、その顔には、彼女の身を案じる心配ではなく、スピーチをしないことで自分たちの「名誉」が傷つけられることへの苛立ちが見て取れます。この顔はよく知っていますわ…哀れな人たち。


 ブウウウウン!


 遠くからの爆発音が、会場全体に響き渡りましたわ。わたくしは驚き、アレクサンダーと光希も、観客席で驚いています。公園でのユウタのあの眼差しを思い出しましたの。


(この感じ…お兄様が子供の頃、遅く帰ってきた時と同じ…この感じ、嫌いですわ…) それまで心配そうだったわたくしの表情が、恐怖と真剣さに変わりました。


 _____//_____//_____


 シロイ


 立ち上がろうとしたが、足がもつれ、膝から崩れ落ちた。私のマスクが静電気でバチバチと音を立てている。通信機から聞こえるリキマルさんの声が途切れる。体が重い。


 訓練のことを思い出す。師匠との休憩時間。私は巨大なミルクシェイクのカップを両手で持ち、彼は小さなカップを片手で持っていた。二人で、学校の五階の窓から街を眺めていた。


「常に感情をコントロールしろ」と彼は言った。「エクソギアは『精神』で制御されるから、感情に影響されやすい。怒りのアドレナリンは役に立つこともあるが、制御しなければ、必要以上の力を使ってしまうことになる」


「そ、そういうこと…?」と、私は囁いた。あのウェーブ・フィストに、力を込めすぎたのだ。アドレナリンと、敵を早く倒したいという焦りで、打撃をコントロールできなかった。


 前を見る。埃が電気を帯びている。電気の炎が、空中で踊っていた。「これ…訓練の時より、ずっと強い…」


 エネルギーを使いすぎたせいで、システムが不安定になった。チェインメイルはエクソギアの制御と防御のためだけじゃない。マントとエルモを「起動」させる役目もある。重いマントを軽く感じさせるのも、そのおかげだ。今、その機能が不安定になり、顔を隠す白い鬼のイメージが点滅し、マントの重さが全身にのしかかってくる。でも、驚いたことに、マスクの下の私の顔には、鋭い笑みが浮かんでいた。


 女が私に向かって歩いてくる。「た、足りなかった…?」


「もちろん足りたわ。だって、私のおもちゃが、私を守るために完全に壊れたんですもの」と彼女は答えた。「シロイちゃん、あなたは本当に素晴らしいわ。」


 彼女は汚れ、髪も乱れていたが、その顔にはまだ悪意に満ちた笑みがあった。その紫色の瞳が私を射抜く。立ち上がろうとしたが、できなかった。これが、女がもっと「軽い」エクソギアを使う理由なのだ。身体的な弱さに加えて、私は小柄だ。マントはほとんど私と同じくらいの重さがある。チェインメイルの補助なしでは、戦うことはほぼ不可能だ。


 女は私の顔を掴み、フードを剥いだ。「あなたの紫色の瞳…とても綺麗ね。」彼女は、私の顔も同じくらい綺麗なのかしら、と呟いた。私のエルモの白い鬼が点滅し、そして完全に消えた。女はバイザーを外し、そして、私の顔から暗い金属のマスクを外した。私の口から血が流れていた。私の、細くて繊細な顔。


「なんて完璧なの、シロイちゃあああああん!」女は叫んだ。


 腹部への一撃。女のパンチで私は後ろに飛ばされ、血を吐いた。(どうすればいい?マントとガントレットを外す?チェインメイルだけで戦う?)


 女が再び近づいてくる。彼女の体を、チェインメイルが覆い始めた。私の目が、大きく見開かれた。


「あなたにも予備があるんでしょう?」と彼女は言った。「でも、まあいいわ、シロイちゃん。あなたはとっても可愛い…そのオレンジ色の髪は、とても滑らかで柔らかそうね…そうだ!あなたの大好きな師匠に、プレゼントをあげましょう?彼のかわいい弟子の皮を被ったドローンが彼を攻撃したら、彼はどう思うかしら?」彼女の狂気的な笑い声が響き渡る。「シロイちゃん、あなたが欲しい!!!!ワイト・ガントレットが、私の可愛いプレゼントを見て絶望する顔が見たいの!」


私の過去が、暴力的に蘇ってきた。死んだ両親。人身売買業者。汚い監禁場所で、ただ売られるのを待っていた日々。でも、その時…彼が。薄緑のマントと白いガントレットの男。彼の優しい顔。温かい笑顔。彼は私を救ってくれた。彼は私のヒーロー。私の救い主。私の、大好きな師匠。


あのミルクシェイクの記憶が、稲妻のように私を撃った。私は巨大なカップを両手で持ち、彼は小さなカップを片手に、学校の五階の窓から街を眺めていた。


「師匠、エクソの共鳴って、一体何なんですか?」と、私は好奇心いっぱいに尋ねた。


彼は、疲れたようにため息をついた。「最終手段だ、光。装備と使用者を絶対的な限界まで引き上げる『パワーアップ』だが、その代償は壊滅的だ。」


「コンカッション・ガントレットは?そういうモード、あるんですか?」私の目は期待に輝いていた。


彼は、私が縮こまるほど真剣な眼差しを向けた。「ある。『ハイランダー・モード』だ。エネルギーのリミッターを解除するだけでなく、放出の全密度を体中に拡散させ、最大出力の一撃を数秒で何十発も叩き込むことを可能にする。だが…」


「マジですか!それって無敵じゃないですか!」


「違う」と、彼はガラスのように鋭い声で言った。「最後に使った時、俺は両腕の骨を全部折った。現代医学がなければ、腕の動きを永久に失っていただろう。光、こっちを見ろ。お前はエクソの共鳴を使うことを禁ずる。」


彼の目は真剣だった。でも、そこには純粋な優しさがあった。私を救ってくれた日と、同じ眼差し。「約束しろ、光。」


(オール・オア・ナッシングだ!)


私は目を開けた。痛みは、遠いこだまのようだった。コンクリートの床の向こうに、壊れた私のバイザーと暗い金属のマスクが見えた。


記憶が、閃光のように駆け巡る…母さんの怯えた顔。背後から撃たれる父さん。そして…彼。勇太。私を救ってくれた…あの暗闇から引きずり出してくれた。


バチバチッバチッバチッ!


鋭い電気の痛みが両手首で爆ぜた。でも、それは傷つける痛みじゃない、私に力をくれる痛みだった。


手足にのしかかっていた疲労が煙のように消え去り、冷たく研ぎ澄まされた怒りに取って代わられた。唸り声を上げて、私は立ち上がった。


マントと鎧の圧倒的な重さが、消えていた。まるで羽のようだった。私のガントレットがバチバチと音を立て始め、あまりにも多くの青い火花を散らしたせいで、ガレージの数少ない照明が明滅し、私から放たれる眩い輝きに抗うように唸っていた。


私の全身が、エネルギーのダイナモそのものだった。額から流れる温かい血が、眉を伝って左目をほとんど覆い隠したが、何も感じなかった。


アドレナリンが、血管の中で戦いの賛歌を歌っている。私の腕はもう肉と骨じゃない。純粋なエネルギーだった。そしてそのエネルギーが、私の周りに強く、肌で感じられるほどの烈風を生み出し、私のマントとオレンジ色の髪を激しく揺らし、そしてあの女の銀髪さえもなびかせた。


彼女は私を見ていた。その残忍な笑みがさらに広がり、病的な恍惚の表情を浮かべた。


「なんて完璧なの!そうよ!それが欲しいのよ、シロイちゃああああん!」彼女は叫び、私に向かって走ってきた。


痛みも、疲労も無視して。私は最後にもう一度、戦いへと走った。


彼女の腕に、鋼鉄の繭のようにチェインメイルが形成された。


私たちは走った。互いに向かって。


世界が、沈黙した。


そして、私たちの拳が、激突した。


衝撃点から、青い光の輪が爆ぜた。彼女の笑みが消える。その目は痛みではなく、信じられないという気持ちで見開かれていた。


彼女は、自身の鎧が屈し、ひび割れ、同じ瞬間に塵と化すのを見た。彼女の衝撃なんて、冗談だった。


私の怒り。


それが、現実。


「ウェーブ・フィイイイイイイイイストッ!!!!!!」


電気の衝撃波が私の拳から爆発した。それは単なる打撃ではなく、巨大なエネルギー砲のように前方へ奔流し、信じられないほどの暴力性であの女を駐車場の奥のゲートへと吹き飛ばした。


まだ前に突き出されたままの私の拳が、ゆっくりと落ち始めた。体が床に叩きつけられる。装備が、停止した。そして私は、ついに装備の重みに押し潰されて、倒れた。

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